人間と異人
「異人」
これは、人間の姿をした動物をさす言葉だ。
黒板には先生が重要な部分を黄色のチョークで書きながら説明する。
実に簡単な事を何故、高校で再び説明されなくてはならないのか。そんな事を思いながらノートに書き写していく。書き終えて視線をあげると目の前には猫耳が君臨している。それを見てくだらない授業で擦り減っていた俺、椎谷政則の精神力を回復させていく。
この世界は、人間と異人は協力し合う世界だ。世界から部落差別、男女差別が無くなって全ての人間は助け合って、お互いの意見を尊重しあう素晴らしい世界だ。
ただし、能力だけは違っていた。
異人、人間一人ひとりに必ず能力を持っている。生まれたときから能力が使える者、学生になってからの者、など個人差はあるが必ず持っていた。そのせいか髪の色は人それぞれだった。髪が赤色、青色、黄色など様々だった。例外を除いて・・・
黒髪はとても珍しかった。能力のレベルは最低で一年前までいじめの的だった。
どれほど憎んだだろう、どれほど泣き喚いただろう、どれほど自分の存在を憎んだだろう。『黒髪の俺を』
授業の終わりを告げる先生の挨拶と共に生徒達は鞄を持って帰り始める。
その中で俺は一人だけスマホを取りだして二次元画像を見始める。彼らは俺に笑顔を向けてくる。その笑顔を見て俺は少しだけ余韻の時間に浸る。
俺は自分で言うのは馬鹿げているが、今では珍しい二次のファンである。
今は二次と言うのはこの世界に君臨していて仮想世界より、直に見れ感じる方がいいと言った人がたくさんいた。俺はその中で何にも動じず違う世界にいる彼らを愛し続ける事を誓い人生の半分を捧げる事を誓った、それが俺だ。
二十分ほどすれば教室内は俺だけとなる。そうすると唯一の友人である石丸駿介が声を掛けてくる。
「おい、一緒に帰ろうぜ」
「まて、もう少しで初音ミ○の単独ライブが始まるんだ。もう六時間待て」
「そんなに待てるか!!」
拳骨をくらって少しケータイを渋々鞄にしまう。
この野郎!世界に衝撃を与えた初○ミク様だぞ!?もっと敬え!!
そんな事を思いながらいつもの帰り道を歩く。
「お前今日は何の画像を見てたんだ?」
「単独ライブがあったろ。気分を少しでもあげようと、初音○クの画像を見てたらしい」
胸を張って堂々といって見せる。
「二十分もか?」
「当たり前だろ?噂ではテンションをあげる為に、部屋中にポスターを張って気分をあげていた人もいたらしいぜ?」
「す、凄いな・・・」
ま、俺の事だがな。
そんな話をしながら歩いて行く。今日あったくだらない出来事を話したりして。
翌日
最近異人と人間の行方不明者が増えてきたらしく、全校朝会でそんな話が出てきた。
警察やらが捜査をしているらしいが疑われる人物が全くいないらしく、警戒してほしいらしい
その話をお互いサンドパンを片手に教室で喋っていた。
「本当に捜査でもしてんのか?」
「さあ、でも少なくとも事が大きくなってるからやってるんじゃないか?」
教室にいる皆は、かなりソワソワしてる感じがしていた。どこか雰囲気が違っているように見え朝の話をコソコソ喋っている奴らもいた。
「おい、聞いてるのか?」
「あぁ、ゴメン聞いてなかった」
駿介はため息を一つしてパンを食べ始めた。俺も駿介の行動に合わせるようにパンを食べ始めた。
今日は珍しく俺達は商店街を通る事にした。いつもの通路の周りは警察が巡回していて通る気にならなかったからだ。
今日の商店街は開いている店が少なかった。開いていたのは床屋とマッサージ屋位しか開いてなかった。たぶん警察の捜査があるから事情聴取されたくないのだろう。しばらく歩いて廃工場の前に来た。
二人でいつもどうり話していた時だ。
「おい・・・・・・」
駿介が急に立ち止まる。
「ん?なんだ」
「アイツ誰だ?」
夕日で少し薄暗くなっていた廃工場前の道に人が立っていた。影のように黒い人が立っていた。
運命は動き始めた。ゆっくりと確実に。