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やってきました!異世界へ!  作者: 如月 玲
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美琴のメイド姿

ここまで読んでいただきありがとうございます。美琴の影が薄くなってるなと思いながら目立たせようと頑張っております。

「メイド?」

 

 いらっしゃいませ、ご主人様の、あのメイドが出てきた美琴は、それは絶対違うと首を振る。イレーネのきっちりした姿からしてそれはない。ならば、本物のメイドの仕事とは、どんなのだろうかとない頭をフル回転させる。そんな美琴の横でシャルは声を上げる。


「待った! この子、ちょっと訳ありで生まれた頃から魔力の絶対量が少くて、魔法使えないから。あと、そのこともあって、街から外れた所に住んでたから常識もあんまりない。悪いんだけどそれを前提に条件出して貰っていい?」


 よくもまた、次から次へと嘘が出てくると感心していたら、世間知らず、常識知らずにされてしまった。間違いではないので仕方ないが、イレーネの後ろから憐みの眼で見てくる門番の顔がいただけない。


「それは、珍しいですね。というか、そういう方に初めてお会いしました。そうですか、魔法が……」


 さも珍しいものでも見るかのように美琴を見るイレーネに少したじろいでしまう。イレーネの目が濃くなっていないので、心を見られているわけではないのだろうが、どこか落ち着かない。この世界で魔法が使えない人はいないのだろうかと不思議になってくる。


「まぁ、魔法が使えずともできる仕事はございます。常識も後々覚えていけば良いでしょう。問題なければご案内しますので、こちらへ」


 しばらく見つめられた後、どこか満足したようなイレーネは美琴を門の方へ誘う。美琴もそれについて行こうと一歩足を進めた瞬間、横から申し訳なさそうにシャルが手をあげる。


「ミコっちゃんのことを受け入れてくれたのはありがたいんだけど、俺はどうしたら良い? さすがにメイドはちょっと……」


 メイド姿のシャルを思い浮かべた美琴はプッと吹き出す。それに気づいたシャルが何か言いたそうな目を向けてくるが、美琴はあえて知らないふりをする。イレーネも口元に浮かぶ笑みを誤魔化すように小さく咳き込みシャルを見る。


「そうですね……」


「そやつは、わしが預かろう」


 イレーネの言葉を遮るように、タンッと軽い音を立て頭上から降って来たのは医師みたいな白衣を羽織ったおじいさんだった。いったいどこから降って来たのかと美琴は空を仰ぎ見る。けれど頭上には何もないことがわかると魔法かと納得する。不思議なことはすべて魔法ということにすればいいと自分に言い聞かせていると、驚いた声が聞こえた。


「ラディス様!?」


「あなた、ジルヴェスター様に同行するよう命を受けていませんでしたか?」


 突然現れたその人物に門番は驚き、イレーネは呆れたようにラディスと呼ばれた人物を見る。注目を浴びたラディスはとぼけた顔をする。


「それがの、出発の日取りを間違えたみたいで置いていかれてしまったんじゃ。なーに! あやつはわしがおらんでも十分強いから大丈夫じゃ! それより、シャルと言ったかの? わしが面倒見よう」


 絶対嘘だと美琴でもわかった。しかし、ラディスはお構いなしに、顔を引きつらせているシャルを連れて行こうとその手を掴もうとする。


「お待ちなさい!」


「なんじゃ! か弱い老人に何をするんじゃ!」


 掴もうとした手をイレーネにより叩かれたラディスは赤くもなっていない手をかばう様に擦る。


「何が、か弱いですか。寝言は寝てから言ってください。シャル様を連れていく前に質問があります。あなた、いったいどこから聞いていたんです?」


 だんだんと瞳の色を濃くしていくイレーネに気づかず、ラディスはそんなことかと口を開く。


「最初からじゃ。なーに、あんな大声で話しておったんじゃ。筒抜けも良い所よの」


「そうですか、あれですか」


 笑顔でラディスが言い切ったと同時に、イレーネは頭上に手を上げパチンと指を鳴らす。それと同時に、蝶のような形をした物が小さく爆発した。シャルは美琴を守るように庇うがそれ以上は何も起こらない。代わりにラディスの絶叫が響き渡る。


「わしの最高傑作が! おぬし何てことをしてくれるんじゃ! あれは、五日間寝ずに作り上げたわしの魔法具じゃぞ! あれがあれば、遠い所も、人が入れぬ所も見ることができるんじゃぞ!」


 要するに移動する監視カメラというところかと美琴は納得する。地面に落ちた魔法具の欠片を悲痛な目で見ているラディスが少し可哀そうだ。しかし、イレーネは反対に嫌な物でも見るかのような目でその欠片を見る。


「気のせいでしょうか? それは、昨日メイドの更衣室の中を飛び回っていたように思いましたが?」


 イレーネの言葉にラディスの肩がビクッと震える。その反応にまさかとその場の全員がラディスを見る。ラディスは冷や汗をダラダラ流しながらイレーネを見た。


「ちと、手違いがぁっ!!!」


 最後まで言いきらないうちにイレーネの魔法が炸裂し、悲鳴が上がる。その瞬間を見ようとていた美琴の目はシャルによって塞がれた。


「見ちゃいけません」


 何が起こったのかとても気になるが、シャルはことが終わるまでその手をどけてはくれなかった。



「では、行きましょうか」


「ほら、行くぞい」


 しばらくして、さっぱりしたような爽やかな笑みを浮かべるイレーネとボロボロになり決まりの悪い顔をしたラディスが、美琴とシャルを誘う。シャルは行きたくないとブツブツ言っていたが、ラディスによって強制転移されてしまった。


「あなたは私について来てください。案内いたします」


 シャルがいないことを不安に感じながら、イレーネの後ろについて歩く。門を通り抜けると城の全貌が見えてくる。門から城までの距離もさながら、その広さに迷子になりそうだと道を必死で頭に入れる。しばらく歩いてようやく城に入るとその煌びやかさに目を奪われた。


「綺麗」


 城の中の光景なんてテレビでしか見たことがない美琴にとって、そこはまるで物語の中のようだった。階段に魅かれた赤い絨毯を見るだけで想像が勝手に膨らんでしまう。


「どうかされました?」


「あっ、すみません」


 歩みが止まっていることに気づいた美琴は慌ててイレーネについていく。イレーネは途中、途中、城の中の案内をしてくれるが、美琴は半分くらい覚えきれなかった。これでやっていけるのだろうかと不安になっていると一つの部屋の前に着く。


「どうぞ」


 扉を開けられ中に入ると、ベッドとドレッサー、窓際に小さめの机が置いてあるのが目に入る。最低限の物しかないが、それに反し、部屋はそれなりの広さだった。ここで何をしたら良いのだろうと首を傾げているとイレーネは扉を閉める。


「ここはあなたが過ごす部屋になります。隣がシャル様のお部屋ですのでご安心を。今日はお疲れでしょうから、仕事は明日からにしましょう。メイド服を準備しておきますが、好みはございますか?」


「いえ、任せます」


 メイド服の種類何てわからない。とりあえず、イレーネみたいな物だろうと思った美琴は任せることにする。イレーネはわかりましたと頷くと部屋を見渡す。


「今日はこちらでお休みください。食事は特別に今日だけ運ばせましょう。では、失礼します」


 そう言って出て行ったイレーネを見送ると、美琴は部屋の中を確認する。様式は違うが、トイレやシャワーみたいなものを発見する。この部屋を出ずとも過ごせることを確認した美琴はふかふかのベッドにダイブした。


「疲れたー!」


 特に精神的に疲れたと心の底から叫ぶ。よく、こういう小説とかの主人公はすぐに異世界に対応できているが、美琴は無理難題もいい所だった。そんなメンタル美琴は持ち合わせていない。


「メイドかぁ」


 メイドの仕事とはいったいなんだろうかとため息をつく。今まで看護師という仕事しかしたことがないのだ。動けるかわからない。だが、メイドをしないとジルヴェスターに会えないのも事実だった。ゴロンと転がり天井を眺める。どうして、この世界に来られたのかも謎だし、考えることは沢山ある。きっと、答えが出せないものだらけなのだろう。


「はぁー」


 一人で考えても考えがグルグル回るだけだ。またシャルに相談しようと美琴は疲れた目をそっと閉じた。



「おーい! ミコっちゃん?」


「んっ? シャル?」


 呼ばれる声とともに体が揺さぶられる。ボーっとしながら重たい目を開けるとそこにはシャルの顔があった。あのまま寝てしまったのかと体を起こす。同時に目の前に食事が出された。


「ミコっちゃんよく寝てたね。朝ごはん食べれる? それとも先に体洗う?」


「ありがとう……。って、朝っ!?」


 バッと窓を見れば日が暮れそうだった景色は一転、明るくなろうとしていた。いったい何時間寝ていたのかと美琴は驚く。下を見るとその姿は昨日のままだった。


「死んだように寝てたから心配だったけど大丈夫そうだね」


「ご心配おかけしました……」


 苦笑しながら言うシャルに少し顔を赤らめ美琴はお辞儀する。

とりあえず、シャワーを浴びようとシャルにやり方を教わり簡単に済ませ、身だしなみを整える。シャワーを浴びたことでさっぱりした頭を回転させながらシャルが持ってきてくれた食事を食べる。すると、シャルはごそごそと何か取り出してきた。


「そうだ。昨日あのメイド長にこれ預かって来たよ。今日の場所も聞いたからこれ着たら行こうか」


「……ちょっと待って」


 シャルが広げている物をガシッと掴む。白と黒のベースのこれはメイド服で間違いないだろう。だが、服の形がいただけない。


「任せるって言ったけど!」


 良く見えるように立ち上がり、美琴は震える手でそれを広げ、まじまじと見る。それは、今の年齢には良いかもしれないが、元の年齢では結構きつい代物だった。


「いいんじゃない? 可愛いと思うよ? ほら」


「ちょっ!」


 止める間もなくシャルは魔法を発動する。美琴の手からそれが無くなった次の瞬間、肩が開いた膝丈の黒のワンピースに白いエプロン。フリルのついた白いハイソにとどめは小ぶりの赤いリボンが両サイドに付いた白いカチューシャ姿にチェンジさせられる。

 恐る恐るドレッサーの鏡を見ると顔を引きつらせた自分が映っていた。きっと、この姿の年齢の美琴なら喜ぶだろう。だが、本来の姿はいい大人だ。それを思うといたたまれなくなってくる。


「てっきりイレーネさんと同じものだと思ったのに……」


 きっちりしたひざ下の黒いワンピース。肩もでていない大人しめのメイド服を思い出す。


「あっ、これ選んだの俺。どれが良いかって言われたから」


「犯人お前か!」


 近場にあったクッションを投げつけるがさっと躱される。何で勝手に選ぶのかと美琴が問えば寝てたからと言われ、結局自分のせいかと愕然とする。


「可愛いよ。似合ってるし。あっ、でも」


 ちょっと待ってねとジッとシャルは美琴を見つめる。やっぱり似合わないと思い直したのかと思いきや、シャルはまたしても指を鳴らした。


「うん! これでよし!」


 満足そうに頷くシャルに何をしたのかと鏡を見る。


「よくないわ!!」


「ガフッ!」


 今度こそ当たったクッションにガッツポーズしながら、美琴はシャルによって付属されたツインテールと首元の赤いリボンを外しにかかる。しかし、早々に復活したシャルが美琴の手を掴むといたずらっ子のような笑みを浮かべた。


「そろそろ、時間だから行こうか」


「噓でしょー!?」


 間髪入れず、移動させられた美琴は成すすべもなくその姿でイレーネの前へ行く羽目になったのだった。



ありがとうございました。次話もよろしくお願いいたします。

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