門前での困難
ごめんなさい。本当にスローペースな話になってます。ですが、頑張りますのでよろしくお願いいたします。
門番二人はイレーネの姿を確認するとシャルから一歩、また一歩離れていく。その顔は緊張で強張っているかのように見える。
「聞こえませんでしたか?再度、聞きます。何事ですか?」
門番二人はシャルの方を一瞥すると、イレーネにこれまでの成り行きを話始める。まるで学校の先生に怒られているかのような緊張感だと美琴はちゃっかりシャルの後ろに隠れる。
「ねぇ、シャルさん」
「さんなんて、今更いらないから。どうしたの?」
というか、いつの間に後ろに隠れたの?という言葉は聞かないふりして美琴は疑問に思っていたことを告げる。
「別に書類書いてからでも、私は我慢できるよ?」
会えるなら少しくらいの我慢はできると美琴は告げる。シャルは美琴の言葉に少し驚いた表情をする。
「約束の日が近いんじゃかなったの? なんか、すれ違いになるかもって焦ってたよね?」
疑問を疑問で返してくるシャルの言葉にサッと血の気が引く。美琴はその言葉で肝心なことを思い出す。確かジルヴェスターが迎えに来てくれる約束の日まで一週間くらいだったはず。慌てて美琴はポケットからスマホを取り出し日にちを確認する。
「あと二日」
リミットまでまだ日にちがあることがわかると美琴はホッと息をつく。記憶がないころの美琴の方が現状を把握できていたのかもしれない。安心したと笑みをこぼす美琴にシャルは苦笑する。
「まだ、大丈夫でしょ? それ見られたら説明面倒だから、収めててね」
目の前の三人からスマホを隠すように美琴ごと隠したシャルに、美琴はそれもそうだとポケットに慌ててスマホを収める。
「あなた達」
ポケットに収めると同時にイレーネが美琴たちに声をかけてくる。まさか、スマホを見られてしまったのかとドキッとする。
「お話は聞きました。ジルヴェスター様にお会いしたいとか。ですが、ジルヴェスター様はただいま不在です。お戻りになられるまであと四、五日はかかるかと」
スマホを見られていなかったことに一安心した瞬間、告げられたその言葉にショックを受ける。直ぐに会えるとは思っていなかったが四、五日かかることは予想外だった。約束の日も違ったのかと美琴は項垂れる。最悪、五日間はそわそわしないといけないのかと美琴は遠い目をした。
「それ、本当? 体のいい門前払いじゃないよね?」
「私が、嘘をついていると?」
何故か先ほどから聞き分けの悪いシャルはイレーネにまで喰ってかかる。だが、イレーネも怯むことなく、その目を細める。一瞬流れる冷たい空気に美琴と門番は二人から本能的に一歩後退する。
「だって、おかしいよね? こんなわけのわからない奴らにそんな情報流す? 重役が不在って情報、結構大事だと思うけど?」
「ジルヴェスター様に恩義を尽くしてくださったのでしょう? 何も問題ではございませんが?」
腹の探り合いとはまさにこのことだろう。先程の門番とのやり取りの方がまだわかりやすい。シャルは美琴に見せたことがない黒い笑みを浮かべる。
「じゃあ、それが本当の情報だとして、俺たちが再度ここへたどり着ける保証はしてくれるんだよね?」
「えっ?」
まるで、最悪ここにはもう来れないかもしれないと思わせる発言に美琴はシャルを見る。その目線に気が付いたシャルは美琴を見た後、またイレーネを見る。イレーネは表情を変えなかったが、後ろの門番が少し表情を変えたのをシャルは見逃さなかった。
「やっぱりね……。選別の道に俺たちの進入を拒ませれば、俺たちはもう二度とここに来ることはできない。まぁ、その選択もこのご時世間違いじゃないけどね。けど、これでも、選別の道を通って来られて来たんだし、もうちょっと容認してくれても良いと思うんだけど?」
当たり前のようにもう一度ここに来れると思っていた美琴は愕然とする。シャルがいなければ美琴は素直に帰り、もうここに戻ることができなかったに違いない。イレーネは今にも反論しそうに前に出ようとしている門番二人を目で諭すと小さくため息をつく。
「確かに、選別の道を通ってこられたことに対しては認めましょう。では、お聞きしますが、ジルヴェスター様に会いたいとおっしゃっていましたが、会ってどうされるおつもりです? 何かご用件でも?」
「会うだけでいいんです! もう一度……、もう一度会って、話して、彼の声を聞ければ!」
まるで用件がなければ通さないと聞こえ、美琴は叫ぶように声に出した。もう一度会いたい、それはこの一年美琴が切に願った思いだった。そんな美琴にシャルも口を開く。
「この子を疑うのは良いけど、もし、この子がジルヴェスターのお気に入りだったりしたら、今ここで帰すのまずいんじゃない?」
イレーネの采配次第でこの先が決まると踏んだシャルはダメ押しとばかりにイレーネ達を見る。イレーネは美琴をしばらく見つめた後、目を瞑り、口元に手を当て思案する。その間、流れる沈黙に誰もが固唾を飲む。
「そうですね。あなたの言うことが本当だとすると、今ここであなた方を帰すことはジルヴェスター様の怒りを買うことに相違ありません」
「イレーネ様!!」
シャルの言葉を鵜呑みにしようとするイレーネに門番は制止の声をかける。イレーネはそんな門番の叫びなど気にも止めず、美琴の前まで足を運び、目線を合わせるように屈む。そんなイレーネにシャルは警戒を示す。しかし、当の美琴はやっぱり綺麗な人だなとイレーネを見つめていた。
「私は、この城のメイド長をしている、イレーネと申します。あなたのお名前を聞かせて頂いても?」
シャルに見せた時と違う優しい笑みに一瞬息を飲む。見つめられるその綺麗な緑の瞳に吸い込まれそうになりながらも、名前を問われたことを思い出す。
「あっ、えっと、私の名前は、は「ミコっちゃんにあんまり近づかないでくれる?」
ミコトが名前を告げようとすると、シャルは何故か美琴の目を手で隠し少しイレーネから遠ざける。
「あら、私はただお名前を伺おうとしただけですが?」
「別にただ聞くのは構わないけど、ついでに心を覗き込もうとしたよね?」
まさか心を覗かれそうになっているとは思っていなかった美琴は心臓を跳ね上げる。別にイレーネと目を合わせていたくらいの美琴としてはどこで心を覗かれそうになっていたのか見当がつかない。
「よくお分かりになりましたね」
「その眼は見たことがあるからね」
悪気もなくサラッと認めるイレーネにシャルは頬を引きつらせる。油断も隙もないということはこのことだ。美琴はシャルの手をどけイレーネの目を見る。確かに先ほどより瞳の緑が濃くなったように見えるが、それだけだ。わからないことだらけの美琴にシャルは小さく早口で耳打ちをする。
「あの緑の眼が濃くなったら注意してね。心を読まれるから。後、名前を名乗る時にハスミはいらない。上の名を持つのは貴族だけだから」
わかった?というシャルに美琴は頷く。異世界の常識で行くと墓穴を掘るという事実に動揺しながらも、それをなるべく隠すように小さく深呼吸をする。イレーネの瞳の色が薄くなったことを確認すると、美琴はイレーネの方に一歩踏み込んだ。そんな、美琴にイレーネは姿勢を正す。
「私の名前はミコトと申します。隣にいるのはシャルです。お願いです。ジルヴェスターに会わせてください」
お願いしますと頭を下げる。もしかしたら、この世界にそんな作法はないかもしれないが、これが美琴のできるお願いの方法だった。そんな美琴にイレーネは今一度二人をじっと見る。
「ミコト様とシャル様ですね。ジルヴェスター様への面会は許可します」
「本当ですか!?」
告げられた言葉に美琴は弾かれたように頭を上げる。シャルも笑顔でこっちを見てきた。
「ですが」
歓びもつかの間、イレーネは待ったをかけてくる。まだ何かあるのかとシャルが口を開こうとした瞬間イレーネはシャルに手を向けた。
「本当に現在、ジルヴェスター様はご不在です。お帰りは約三日後になっております」
三日、初めに言っていた日にちの違いに美琴はやっぱり騙されそうになっていたのかと驚く。
「それまであなた方の城の滞在を許可したい所ですが、条件があります」
「条件?」
「そうです。あなたを信じたい気持ちもあります。しかし、ジルヴェスター様があなたを本当に知り合いとお認めになられるまで、私はあなたを疑わなければなりません。ですから、条件を出します」
イレーネの言葉は仕方ないことだろうと美琴は納得する。戦いがあるという世界、そして、ここは王城だ。今の美琴はジルヴェスターの知り合いという言葉だけで証拠を見せられないこの現状ではそれも仕方ない。
「条件って何ですか?」
もし、その条件が美琴のできないことだったらと、緊張で声が震える。イレーネはもったいつけるかのように一度城を振り返り、美琴を見た。
「あなたには、メイド見習いとして、私の管理下で働いていただきます。それが、条件です」
まだ門前かい!と私も思います。次は話進みますのでどうかご容赦を。ここまで読んでいただき誠にありがとうございます。