ラインティア到着
今回短めですが、よろしくお願いします。週1~週1.5ペースで頑張ろうと思います。
「あの……シャルさん?」
「何?」
「これは一体どういうわけですか?」
「何が?」
「いや、ほら、旅に出たはずですよね?」
「だから、出たでしょ?」
「一瞬で終わっちゃうのは旅とは言いません!」
目の前にそびえ立つ西洋風の城を指さしながら美琴は言い放つ。ラインティアに行こうとシャルに手を差し出され、その手を掴んだ次の瞬間、それは目の前にあった。旅というから、いろんな街とか回って数日かけてラインティアに行くものだと思っていた美琴にとってそれは予想外の何物でもない。
「だって、面倒でしょ? あっちこっち歩くの。前、移動したとき消さずに残してた転移魔法のポイント使わなくてどうするのさ?」
いや、まったくもってシャルの言う通りなのだろうが、初めての異世界の旅にドキドキワクワクしていた気持ちを返してもらいたい。
「まぁ、ここはまだ入り口だからね。この森に囲まれた道を進んで城に着くまでがちょっと厄介だったり」
「どういうこと?」
木々に囲まれた道は舗装されていないだけで、美琴の目からは普通の道にしか見えない。罠でも仕掛けてあるのだろうかと美琴はシャルを見る。
「これから先の道は、選別の道って呼ばれてる。正式に通れるのは城に招かれた人だけ。それ以外の人は選別の道がダメだと思ったら城までたどり着けないって仕組み」
「もしかして、私もこの選別の道にダメだって思われたからこうなったんじゃ……」
もしそういうことなら先に進むどころの話ではない。しかし、シャルは首を横に振る。
「選別の道にそんな能力はないから、別な話だと思うよ。まぁ、ここでグダグダ言っててもしょうがないから行ってみようか」
スタスタと歩き始めるシャルに美琴は鞄の紐を両手で握りしめながらそれについていく。一歩その道に足を踏み入れた瞬間、見えない膜をすり抜けたような感覚がし美琴は足を止める。
「変な感覚がしたでしょ?大丈夫、それが選別の道に入ったっていう証拠だから」
別に不思議なことじゃないというように、シャルは美琴においでと手を振る。美琴は慌ててシャルの隣まで駆け寄る。もしここでシャルとはぐれようものならば美琴は身動きが取れなくなる。
「そういえば、私お城に着いたら何て説明したら良いの?」
ふと、先にたどり着いた時のことを考える。まさかお邪魔しますと勝手に入れるわけではないだろう。シャルは少し悩ましそうにする。
「まぁ、とりあえずジルヴェスターの知り合いで会いたい旨を伝えたらいいんじゃない?」
「それで会えるかな?」
「まぁ、下手に嘘つくよりは良いと思うよ」
ダメだった時はその時ってことでとシャルは笑う。本当に大丈夫なのだろうかと思っているとシャルが突然足を止めた。もう着いたのかと前を見ても、まだ城門は見えない。
「どうしたの?」
「ん? なんでもないよ。多分もう少しだろうから頑張ろっか」
へらっとした顔で何事もないようにまた歩き始めるシャルに首を傾げながらも、美琴はシャルについていく。そこから歩き始めて数分、目の前に城門が見えてきた。やっと着いたと美琴が思った瞬間、目の前にがたいの良い男二人が立ちふさがる。
「来客は聞いていない。何用か?」
腰に着けている剣に手をかけながら問ってくる男に美琴は怖くなり足を一歩引く。それに気づいたシャルが美琴を守るように腕を回す。
「とりあえず子供が怖がるマネやめてもらえる?」
シャルの言葉に男二人は美琴を見ると、一瞬逡巡したのち剣から手を外す。それに美琴はホッと息をつく。美琴は自分が言わなければと門番らしき男たちを見た。
「あの、ジル……、ジルヴェスターに会いに来たんです」
「ジルヴェスター様にだと? どういう関係だ?」
まるで結びつきが付かないというように門番は美琴を見る。その答えに美琴は困った。異世界で知り合いましたなんて口が裂けても言えない。ましてや、この姿で恋人と言っても信じてもらえるわけがない。どうしたものかと悩んでいるとシャルが一歩前へ進み出る。
「この子はジルヴェスターがこの国から消えた数日間、怪我をしたジルヴェスターを看病していた子だよ。会いたいっていうから連れてきたんだけど、会わせてやってくれない?」
シャルの言葉に門番二人は思い当たる節があったのか目配せをし、コソコソと何か相談する。声は全く聞こえない。しかし、上手くいけばこのまま会えるのではないかと思っていると、しばらくして、一人の門番が紙を出してきた。
「これに必要事項を記載し、また持ってきてもらおう。ジルヴェスター様が目を通し面会すると言われればここを通ることができる」
だから、今日は帰れというように美琴に紙を押し付ける。その紙に書かれた文字は美琴には理解できなかった。直ぐに会えると思っていた美琴は落胆する。しかし、これが現実だろう。この世界ではジルヴェスターは官職で、美琴はただの庶民ということなのだ。元の世界にはなかったその身分差にジルヴェスターが遠い存在に感じられる。しかし、これ以上は仕方ないと美琴はシャルに書類を書いてもらおうと心に決め引き下がろうとした。
「一目会うくらいいいんじゃない? 俺たちここまで長旅だったんだけど?」
まるで、今すぐ会わせろというように喰らいつくシャルを美琴は弾かれたように見上げる。
「だから、会わせないとは言っていないだろう? 手順を踏めと言っているんだ」
「手順も何も、幼い子が長旅してまで会いに来たんだよ? 別にいいじゃない、一瞬呼ぶだけでしょ?」
まるで何日もかけて長旅をしたように語るシャルに美琴はツッコミそうになる。誰だ、長旅はしたくなといったやつは。噛みついてくるシャルにさすがの門番も睨みをきかせてくる。
「これ以上手を焼かせてくれるな? 子供と一緒と言えど、これ以上は俺たちにも考えがある」
一触即発のただならぬ雰囲気に美琴はシャルを止めようと口を開いた。
「何事ですか? 騒がしい」
美琴が声を発する前に門が内側から開かれる。そこから現れたのはメイド服姿の若い女性だった。後ろに綺麗に束ねられた黒髪、キリッとした緑の瞳に見つめられると自然と姿勢が正される。
「イレーネ様」
次話もよろしくお願いいたします。