美琴の記憶
なるべく週一ペースで頑張っていきたいと思います!拙い文章で申し訳ありませんが、頑張りますのでよろしくお願いいたします。
シャルが発した言葉に美琴はサッと顔色を変える。きっと、今のは聞き間違いだと、早鐘を打つ心臓を落ち着かせるように胸を抑える。そんな美琴にシャルは怪訝な顔をする。
「確認するけど、君はハスミ ミコトで間違いないよね?」
「どう……して?」
聞き間違えではなかったことに、美琴は驚きで目を見張る。蓮見美琴は美琴の本名で間違いない。だが、目の前のシャルが知っているわけがない。美琴はこの世界に来て今まで一度も名前を口にしていないのだ。そんな美琴の反応にシャルは小さくため息をつく。
「やっぱり……。どうしてはこっちのセリフなんだけどね。まったく何があったのさ?」
頭から足先までじっと見るシャルに美琴は首を傾げる。まるで元の姿のことさえも、知っているかのようなその反応に困惑する。
「なんだい?シャルはこの子のことを知ってるのかい?」
びっくりした表情で二人を見比べるおばさんにシャルは顔をしかめる。
「まぁね。まさかの再会だけど。ちょっとこの子預かるけど、良いよね?」
良いよねと言いながらもさっさとシャルは美琴の体を抱き上げる。急に持ち上げられ体制が崩れた美琴は慌てて落ちないようにシャルの服に掴まった。
「別に構いやしないよ。お嬢ちゃんも知り合いにあえて良かったじゃないかい。シャルなら私も安心できるってもんだい」
安心したと微笑むおばさんは、抱えられた美琴の頭を優しく撫でる。しかし、勝手に進む話についていけてない美琴の頭の中はそれどころではなかった。
「そんな不安な顔されるのは心外なんだけど。悪いようにはしないからさ。行くよ」
行くよと言われても困るんですけど、と口を開こうとする美琴におばさんが笑顔で手を振ってくる。
「今度は迷子になるんじゃないよ。元気でやりな!」
「っ!?」
美琴の意思に構わず、おばさんの言葉を合図にシャルはその場で軽く飛び上がった。その瞬間起きる、胃が浮くような嫌な浮遊感に目をぎゅっと瞑る。だが、その浮遊感も一瞬で終わり美琴はほっと息をついた。一体何が起きたのかとゆっくり目を開けると、そこは騒がしかった街中ではなく、どこかの家の一室だった。
ほんの一瞬の出来事にいったい何が起こったのかと美琴は呆然とする。そんな美琴の反応にシャルは苦笑しながら近くにあったソファに美琴を座らせた。
「さすがに外で話せる内容じゃないからね。狭くて悪いけど我慢して」
ソファにテーブル、本棚という最低限の物しかない生活感のない部屋。いったい何処に連れてこられたのかとキョロキョロとしていると、テーブルの上に飲み物が出される。
「これ好きでしょ?これでも飲みながら話そうか」
ジュースなのか、グラスからは甘い匂いが漂ってくる。だが、美琴はこれが何かもわからない。なのにだ、なぜか隣で同じものを飲んでいるシャルはこれが美琴の好物と言ってくる。騙されているとはなぜか思わないし、おばさんの反応から悪い人とも思えない。美琴は意を決してシャルを見上げる。
「どうして私のこと知ってるの?」
それは美琴の中で謎の一つだった。この世界で美琴を知るものはきっと一人しかいない。だが、それはシャルではないのだ。
「ブハッ! えっ!? ちょっと待って!? さっきから、すっごい不思議そうに俺のこと見てたけど、もしかして俺のこと覚えてないの!?」
ジュースを吹き出しながら噓でしょ!?と驚くシャルに美琴は頷く。この場合「噓でしょ」の所ではなく「覚えてない」の所にだが。
「俺はてっきりあの後、失敗してその姿にされて飛ばされたものかと……」
あの後とか、失敗とかさっぱりわからない。一体何を言っているのやらと首を傾げていると、シャルは口を拭きながらどこか気まずそうにこっちを見てきた。
「もしかして、今の俺ってミコっちゃんにとって不審者だったりする?」
「とても」
「だよねー」
美琴の即答に、笑顔で返したシャルは、ガクッと項垂れると、深いため息をつきながらずるずるとソファに沈みこむ。
「いやー、ミコっちゃんの反応が何かおかしいとは思ったんだけどさぁ。まさか俺のこと覚えてないとはね。俺のあの頑張りって……」
遠い目で疲れたように壁を見つめるシャルになぜか罪悪感が沸く。何を頑張ってくれたのかわからないが、あいにく記憶の片隅にも残っていないのが残念で仕方ない。
「ミコっちゃん。聞くけど、この世界に来てからの記憶、どこまである?」
少しは覚えてるよね?という目で見てくるシャルに美琴は自然と視線を逸らす。わかっているのだ、この答えを言った後のシャルの反応が。だが、言わなければと美琴は言いづらそうに小声で答える。
「シャルさん?に会う少し前にこの世界に来た記憶しか……」
「噓……だよね?」
信じられないとでも言いたげなその声音に、やっぱりと美琴はポリポリと頬を掻く。その表情は見なくてもわかる。きっと落胆しているに違いない。シャルには悪いけど、どう思い返してもそれだけの記憶しかないのだ。
しばらくの沈黙の後、後ろから深いため息が聞こえてきたと思った瞬間、脇に手を入れられ軽々持ち上げられる。
「はい、ミコッちゃん。こっち向いて」
いつの間にか視線どころか体まで横を向いていた美琴の体はクルッと回されシャルと向き合わせにされる。さっきから持ち上げられてばかりだと思っていると、シャルは美琴と目線を合わせ、言い聞かせるように話し始める。
「これを伝えないと話しが進まないからよく聞いて。実は、ミコっちゃんがこの世界に来たのは約五日前。そして、俺とはラインティアで二日前に別れてる」
「まさか……」
唐突に始まった話に、そんなはずはないと目で訴える。異世界での五日分の記憶なんて美琴はあいにく持ち合わせていない。だが、シャルの目は真剣そのもので嘘をついているようには思えない。信じられないでいる美琴にシャルは悔しそうに呟いた。
「ミコっちゃん。君、記憶消されたね?」
やってきました異世界人番外編を掲載しました。やってきました異世界人を読まれた方。興味のある方はどうぞ。ジルの後日談。瑠依視点の話を掻く予定です。読まなくても、この話に支障はありません。URL:http://ncode.syosetu.com/n4649dp/