新たな悩み
へたらないように頑張ります!
「あら、お口に合わないかしら?」
美琴の手が進んでいないことに気がついたレーアが首を傾げて問いかける。それに美琴は慌てて首を横に振る。口に合わない云々の話ではない。
「あ……あの、何で私とお茶会をされたいと思われたんですか?」
気になっていたことを口に出すと、レーアはあぁ、と目を細め笑う。
「そうでしたわ。あなたにお礼をしたくてお呼びしましたの」
「お……お礼って、何もしてないですよ!?」
会ったのさえ今日が初めてなのだ、お礼をされることなんてした覚えがない。すると、レーアのことではなくジルヴェスターのことだと言う。
「ジルヴェスター様を助けて頂き感謝いたします。あの方が行方不明と告げられた時は胸が潰れそうでしたの。お戻りになられた時はどれ程嬉しかったことか」
「いえ……、私は大したことしてませんから」
お礼を言われることは何もしていない。それにと、テーブルクロスで隠れている位置のドレスを握りしめる。
(あなたにお礼を言われると、こっちの胸が潰れそうになる)
婚約者という単語が頭を過ぎる。婚約者の立場からならお礼をされてもおかしくはない。
「ジルヴェスター様は婚約者ですもんね。心配でしたよね」
「えっ?」
小声で言ったためか、レーアには届かなかったらしい。誤魔化すように美琴が笑うと、レーアは不思議そうな顔をしながら何かを呟いた。
「ジルヴェスター様からは何も聞かされてないのね」
その言葉は今度は美琴に届くことはない。だが、レーアは気にした風もなく、思い出したようにそうだわと口を開く。
「明日の夜、この城でダンスパーティーがあるの。私が来訪した歓迎パーティーみたいなものだけど、是非参加して頂きたいわ」
是非!と両手を合わせ笑顔を向けてくるレーアに美琴は首を横に振りそうになるのを堪える。ダンスなんて出来ないし、ジルヴェスターの横に立つレーアを見たくない。断る理由を絞り出そうとするが、出てこない。
「あ……あの、子供は場違いなのでは? それに私はメイドの身ですし」
「あら、関係ありませんわ。同じくらいの子供も来ますし、メイドも今はお休みとお聞きしてますわ。あっ、もしかして遠慮してるのかしら? 子供が遠慮するものではないわ」
閃いた子供とメイドを断り理由に出してみたが、どうやらダメらしい。しかも子供の遠慮と捉えられてしまった。そうじゃないのにと、心の中で頭を抱えていると一人のメイドがレーアに近づく。
「姫様、そろそろ次のご予定が」
「あら、もう? もう少しお話ししていたかったのだけど……。ごめんなさい、もう行かないと。明日のパーティーの参加楽しみにしてますわ」
「えっ!? あの!」
まだ参加するとは言ってないと、立ち上がり止めようとする前にメイドと共に消えていった。こんなに魔法が憎いと思ったことはない。
「パーティーって!? 勘弁してよ!」
出たくない!と今度は本当に頭を抱える。そんな時強めに吹く風が美琴のドレスを揺らした。
「このまま外に居たら、風邪ひかないかな…」
新たに出来た悩みに、現実逃避をする美琴であった。




