お茶会のお誘い
雲ひとつない晴れ晴れとした天気。庭の木々は自身を彩るように色とりどりの花を身に纏う。そこにさわやかな風が吹き花を揺らす。そんな緑に囲まれた庭の中心にはテーブルや椅子が設置されており、一息できる場所になっていた。
(帰りたい……)
一息できそうな場所なのに今の美琴は一刻も早くこの場を去りたいという気持ちしかない。それは目の前の人物が原因だった。
(何でこうなったんだっけ?)
フワフワの金色の髪はハーフアップにされ、エメラルドグリーンの瞳に合わせた同じ色のドレスを纏い、優雅に紅茶を嗜んでいるレーア姫。紅茶を飲んでいるだけなのにその姿は絵になる。それに比べ、華やかなドレスまではいかずとも結婚式に参加するようなワンピースに着替えさせられ、髪をセットされ、まるで何かの発表会に出るような格好の美琴。いや、問題はそこではないと頭を抱えそうになる所を我慢しながらつい先程のことを思い出す。
「何しようかなぁ」
仕事は休みと言われ、やる事がなくなった美琴は室内でゴロゴロしていた。部屋で過ごすように言われてしまったので出るわけにはいかない。そうなれば、尚更やる事がないのだ。昨日はシャルの所で起きてそのままシャルと一日遊んでいた。だが、今日はシャルは仕事のため不在だ。
食べて寝るだけの生活は性に合わない。文字の勉強でもしようかと、机に向かう。ジルヴェスターに作ってもらった、異世界版あいうえお表に目を通す。基本文字をあいうえおに当てはめて貰ったが記号にしか見えない。しかし、世界でも難しい部類の日本語を使えるのだ、どうにかなるはず!と訳も分からない理由づけをして自分を奮い立たせる。紙とペンを持ちさてやるかと意気込んだ時に、扉がノックされる。いったい誰だろう?と首を傾げながら扉を開くと、そこにはこの城のではないメイド服を着た女の人がいた。
「お休みのところ大変恐縮ですが、レーア様からお茶会のお誘いです」
「えっ? 私にですか?」
何故?という疑問しかわかない。一昨日少し見ただけの人物だ。会ったことさえない。向こうからしたら全く知らないはずなのに目の前のメイドはお茶会のお誘いと言った。
「レーア様はミコト様にお会いしたいと言うことですので、是非に」
その圧がかかった笑みに、断ることはできないのだろうなと美琴は悟る。まぁ、お姫様の命令を断ったらイレーネに叱られるのは目に見えているので受け入れるしかない。
「お会いするのは、メイド服で良いんですか?」
あいにく美琴の手持ちは今着ている部屋着かメイド服かここに着てきたワンピース一枚。流石にあのワンピースでお姫様の所にはいけないだろう。
「こちらをご用意致しましたので。お手伝い致します」
「えっ!? ちょっ!」
美琴の返事を聞く前にスタスタ部屋の中に入り持ってきた服を目の前にかざす。何をするのかと思えば軽い音を立て指を鳴らす。すると今まで着ていた部屋着からメイドが持ってきた服に変わり、再度指を鳴らすことで髪型が変わったのが感覚でわかった。これを元の世界でされたのならシンデレラみたいと大騒ぎだが、あいにくこちらの世界ではこれが日常だったりする。
「問題は無さそうですね」
美琴の頭から足先までをザッと見たメイドは満足気だ。近くにあった鏡を見ると頭は編み込みでアップにされ横にはシルバーの髪飾りがつけられている。服装はと言うと、ふんわりした水色のシフォンドレス。肩口に一輪ドレスより濃いめの色のコサージュがあしらわれていた。前回ジルヴェスターに選んでもらったドレスより服に着られている感が半端ない。
「では参りましょう」
差し伸べられた手を顔を引きつらせたまま取り、強制連行されるのだった。




