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やってきました!異世界へ!  作者: 如月 玲
26/28

閑話〜迷子の魔獣〜

少しだけ前の時間軸に戻ります

「あっ、猫」


 荷物を運び終え、仕事も終わり城内に戻ろうとしたら塀の近くに子猫がいるのを見つけた。真白な毛並みに金色のつぶらな瞳。人間だったらさぞ美形だろう。異世界にも猫っているんだなぁと思っていると子猫が美琴の足元に弱々しい足取りですり寄ってくる。


「えっ、めっちゃ可愛い」


 試しにそっと手を子猫の頭に持っていくと撫でる前に手に頭を擦り付けて来た。その行動に美琴の胸はトキメクばかりだ。慣れない仕事にこの癒しはたまらないと、そっと抱き上げる。


「誰かの飼い猫かな?」


 首輪があるか確認しようと顔を首元に近づけると、ペロリと美琴の頬を舐め上げる。それにくすぐったさを感じ笑いが出る。


(飼い主いないなら飼いたい! 可愛すぎて癒される!)


 可愛いと叫びたくなる気持ちをどうにか抑え、まずは行動あるのみ!と目的の人物を探しに向かう。


「あっ、イレーネさんに見つかったら怒られるかな」


 子猫と言えど城内に入れたら厳しいイレーネのことだ、お小言があるかもしれないと、エプロンを脱ぎ子猫を包む。これなら、ぱっと見はバレないだろう。まるで母親に秘密にする子供みたいな行動だ。

 あとは、目的の人物がどこにいるかだ。やっぱり執務室だろうかと執務室がある方向を向く。


「ガードが固いけどいけるかなぁ」


 仕事で行く分は問題ない。ただ、それ以外だと警備が厳しいのだ。例え美琴だろうとそれは変わらないだろう。それなら、夜まで部屋で待ってた方が良いかなと方向転換をする。子猫の弱々しかった足取りを思い出し、ご飯を食べていないのかもと思い立つ。なら厨房かなと足を向ける。


「失礼しまーす」


 お昼も終わり厨房は落ち着き夕食の仕込みをしている調理人が数人しかいない。毎回思うが、料理器具も使わず魔法で作っているこの光景は今だに慣れない。


「どうした? 陛下のお菓子か?」


 どうしようかなと思っていると目の前に大男が現れた。体格も良く少し無愛想な人物だが基本丁寧で優しいことを美琴は知っていた。


「今日は違うんです。料理長、白身魚か鶏のささみありますか? あと、ミルクあったら分けて頂けますか?」


 今まで見たことのないお菓子に興味がある料理長は、お菓子作りではないことが分かると少し残念そうにしながらも美琴が欲していた白身魚の余りとミルクを出してくれる。それをバスケットに入れてミコトに渡す。


「足りなくなったらまた来い」


 まるで何で必要かを見透かしているかのような言葉に美琴はドキドキしながらお礼を言い厨房を出る。これで、目的は達成できた。


(後は餌をあげて、一緒にゴロゴロしよう)


「ミコト?」


「はいっっ!」


 唐突に後ろからかかった声に肩を跳ね上げる。そして、まるでロボットのように振り返るとそこには今は会いたくないイレーネがいた。


「驚かしてすみません。明日、お客様が来られますので私と一緒に陛下の後ろに控えるようになりました。なので、明日はそれではないメイド服になります。既に部屋に送ってますのでそれを着て来るようにしてください」


「わ……わかりました!」


 では!とさっさと立ち去ろうとすると、お待ちなさいとまたしても声がかかる。美琴は内心ダラダラと汗をかきながら次の言葉を待つ。


「それは何です?」


 それと指さされたエプロンの塊に美琴は心臓をバクバクさせながら何と答えようと頭をフル回転させる。その時目に入ったバスケットを見て、閃いたとイレーネに軽く叫ぶように言った。


「ジェ……、ジェラルド様の()です!」


「……は?」


 イレーネの反応に自分が言った大きな言い間違いに気づき美琴は慌てたように言い換える。


「あっ、間違えました! おやつです!」


 つい餌に引きずられてしまった。気づかれただろうかとイレーネを見ると、イレーネは予想に反し小さくため息をついていた。


「陛下が喜ばれているのを知っておりますので黙認しておりますが、()()()は程々にしておきなさい」


(あっ、餌付けに認定されてた)


 確かに調理中に、料理長の好奇心と言う名の目が後ろにあるにしても毒味を通さずお菓子を食べてもらっていたことは良いのかなとは思っていた。だが、黙認されてた上まさか餌付けだと思われているとは思わなかった。いや、お陰でジェラルドから代わりのお菓子を貰ったり、小さいお願いを聞いてもらったりはしていたが。


「程々にします」


 少し控えようと心に決める。イレーネが本日はお疲れ様でしたという言葉と共に去っていったのを確認して、一息つく。エプロンの隙間から子猫の様子を見るとどうやら眠っているようだった。


「寝顔も可愛い」


 是非お許しを貰わなければとワクワクしながら誰にも見つかることなく部屋に戻れた。



「元の場所に戻してこい」


「えー!」


 夜仕事から戻ってきたジルヴェスターが開口一番放った言葉に美琴は不安を表す。


「大体、それはどうした?」


 目尻を引きつらせたジルヴェスターに美琴は塀の近くにいたから拾ったと答える。それに、更に頭を抱えたジルヴェスターに首をかしげる。


「子猫がいたら問題?」


「あぁ、そうだな。ミコトの世界では猫だったな。先に確認しておくが、襲われたりしてないだろうな?」


「引っ掻かれたり、噛まれたりしてないけど」


 結構大人しいしけどっと言うと、ジルヴェスターが安心したような顔をする。だが、美琴はミコトの世界では猫だったという言葉に、こっちの世界では違うのか?と子猫を見る。


「それは魔獣だ」


「魔獣!?」


 どこが!?と美琴はマジマジと魔獣と言われた子猫を見る。どこをどう見ても猫だ。鳴き声を聞いてないから鳴き声が違うのか?とか見当違いなことを考える。魔獣は不思議そうな顔をしながら美琴に擦り寄る。その様子に異様なものを見るかのようにジルヴェスターは上着を脱ぎベッドに座る。


「本来ならその魔獣は人を襲うもんだ。何したらそんなに懐かれたんだ?」


「何もしてないけど。初めからこうだったよ? ジル飼っていい?」


「何で今までの話を聞いて許しが出ると思ったんだ?」


 ダメに決まってるだろと呆れた目で見られる。大人しいから大丈夫かと思ったがそういう問題ではないらしい。


「ちなみに塀のそばっていったが、城内か?」


「そうそう」


 そういえばどこから入ってきたんだろうと思っていると、ジルヴェスターが光の玉を出し何かを吹き込むと消えていった。


「何を」


 したの?と聞こうとした瞬間、部屋の外から扉が壊れるくらいのノックがした。ジルヴェスターが指をスライドさせる動作をすると扉が開きルーファスが雪崩れ込む形で入ってきた。いつもの軍服ではなく私服なのが新鮮だ。


「おいおいおいおい、まじでいやがる」


 それは美琴の事ではなく魔獣の方だ。魔獣はルーファスに驚いたのか美琴の腕の中に飛び乗る。


「嬢ちゃん、ミュアが城内にいたなんで冗談だよな?」


 お願いだから冗談と言ってくれという勢いだ。ミュアとはこの魔獣の名前だろう。しかし、本当に城内にいたため美琴は首を振る。その仕草にルーファスは両手を顔に当て天を仰ぐ。


「愉快だな」


「てめぇ、人ごとだと思いやがって!」


 大袈裟すぎるリアクションに美琴が困惑していると、ジルヴェスターは少し眠たそうに口を開いた。


「本来ならこの城には結界が張られていてな。魔獣なんてもの入る余地がないはずなんだが」


「入っちゃってんだよなー!」


 勘弁してくれと項垂れるルーファスの話をよくよく聞くと、どうやらルーファスは城の警備にも関わっているらしい。今回のこの件で結界の穴があるか、原因が何かなど調査し報告の必要が出たのだ。要するに仕事が増えたわけである。


「何かごめんなさい」


 別に悪いことをした訳ではないと思うが、知らなかったとはいえ申し訳ないことをしてしまった。


「いや、ミュアが人を襲ってないだけマシだからなぁ。これが城内の人を襲ってたら目も当てられねーし。にしても、大人し過ぎんじゃね?」


 まじでミュアか?と疑いをかけ始め、近づいたルーファスにミュアがカッと目を見開き唸って威嚇をし始める。


「あぁ、嬢ちゃん限定ってわけね」


 二、三歩後退するルーファスに美琴は慌てたようににミュアの背を撫でる。すると威嚇をやめ美琴の腕の中で丸くなった。


「取り敢えず俺が明日住処の森に帰すとして、嬢ちゃん明日まで預かってくんない?」


「私は良いけど……」


 良いの?というように既に瞼が半分下がっているジルヴェスターを見る。却下されると思ったが、ジルヴェスターは好きにしろというように手を振る。あれは、もう面倒くさがってる状態だ。


「まぁ、この状態だから襲われねーとは思うけどよ。何かあったらジルヴェスターを盾にしとけ」


「あはは……、凄い言われよう」


 既に落ちかかってるジルヴェスターを良いことにルーファスは言いたい放題だ。じゃあ、明日なと言葉を残してルーファスは部屋を出て行った。


「一応結界を張っておくから大丈夫だと思うが、この部屋から出すなよ?」


「はーい! ジルもシャワー浴びて寝てください」


 軽い音と共に結界が張られ、それを確認したジルヴェスターはシャワーを浴びに移動する。美琴は癒しを限界まで堪能するために布団の中でミュアを抱きすくめる。だがそのうち睡魔が襲い、夢の中に旅立つまで数十秒。その後、シャワーから出てきたジルヴェスターに後ろから抱き枕にされるまで数十分。二人とも深い深い夢の中。


「居ないと思ったらこんな所にいたわけ? これ以上騒ぎになったら困るから戻ってきてよ」


 だから気がつかなかった。ジルヴェスターが張った結界を気付かれることなくすり抜け、ミュアを迎えに来た者がいたことを。

 ミュアが居なくなり城内が騒然とするまで後数時間。

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