婚約者とは
「婚約者って何だっけ?」
美味しいんだっけ?と美琴はボーッと天井を見つめる。リュカのあの言葉を聞いてからの記憶が乏しい。いつ部屋に戻ってきたんだろうと思いながら、まぁ何でもいっかと横向きに転がる。
それよりも思い出されるのは先程のお姫様だ。ジルヴェスターの婚約者と言われたお姫様。年頃は美琴より少し上くらいだろうか?ジルヴェスターの隣に並ぶと美男美女でお似合いだ。ベッドから降り姿見の前で上から下まで自分を眺める。
「無理ゲーでしょ」
勝てる要素がどこにも見当たらない。と言うか、婚約者という時点で既に敗退している。美琴のことは遊びだったのだろうか?と思う反面、先程リュカ達から聞いた一夫多妻制を思い出す。ジルヴェスターは異世界人だ。美琴の世界の常識は通用しない。
「聞いてみようかな……」
そんな勇気もないくせにと美琴は自嘲する。フラフラとした足取りでいつも通りテーブルに置いてある手紙を開く。今日は朝から寝坊してまだ読めていなかったのだ。
「読むんじゃなかった」
そこには、あともう少しで仕事が落ち着くこと、ただ、5日くらいは忙しくて部屋にも戻ってこれそうにないこと、その後話があることなどが書かれていた。
「レーア姫と一緒にいるってことなんだろうなぁ」
そして、話とはレーア姫とのことかも知れないとため息をつく。美琴はシャワーでも浴びようと未だ着ていたメイド服を脱ぐ。脱ぐ際に何箇所か切り傷が出来た所と服がくっついていたが、気にせず一気に剥ぎ取る。痛みは走るがボーッとした頭には良い刺激かも知れない。
「今日どこで寝よう?」
シャワーで簡単に汚れを落とし着替えた美琴はベッドを見る。寝る所はある。ただ、何となくこの部屋で過ごしたくないのだ。自分の部屋に戻ってもベッドはない。床で寝るか?と思った時ふとある人物が過った。
スマホが示す時刻は午後十時。まだ起きてるだろうと美琴は行動を起こした。




