憂鬱な日
今日は中々ついてない。色々仕事を任せて貰えるようになり、仕事に慣れてきたなと少し調子に乗ったのがいけなかったのか。朝から皿は割るし、洗濯物を干そうとしたら籠ごとこけて水たまりに落ちてやり直し。ジェラルドにいつものようにお菓子を渡した帰りに泥に足をとられまたもや転んで泥まみれ。シャワーで泥を落として、頑張るぞと意気込んだ途端今度はこれだ。
「ミコト、本日の仕事終了後からしばらく仕事はお休みとなります。明日からはなるべく部屋で過ごすようお願いしますね」
「えっ!?」
なんで?そう聞こうと口を開こうとした瞬間、イレーネは慌ただしそうに去って行った。
空に伸ばした手を力なく落とし、ふらふらと外に続く階段を降り階段横の茂みの奥へと入る。そこは少し空間があり、以前リュカが隠れていた場所でもある。
「はぁー」
蹲り足の間に顔を埋める。未だ少し濡れている髪の不愉快さなど気にならない。それ程美琴は落ちていた。何がいけなかったのだろうか。いや、今日はボロボロだ。きっとそれをみかねてのことだろう。元々できる仕事も少ないのに、更にボロボロとなればこうなってもおかしくない。
「ジルに会いたいなぁ」
いや、忙しい中ほんの少し会うことはできている。一言、二言交わす程度だが。ジルヴェスターにも仕事があるから仕方がない。仕事と私どっちが大切なの!?という常套句を言えるはずもないし、言うつもりもない。
「ただ、少しだけでいいから」
抱きしめて欲しい。公に口に出せないその言葉。元の世界にいた時には口に出せていたその言葉。異世界の垣根は随分高いところにあるらしい。
「お待ちください!」
遠くの方で聞こえた女性の切羽詰まった声。何かあったのかと周囲を見渡すが、残念ながら庭木達で隠れて見えるはずもない。そんな時、美琴のいる真上から音がして、慌てて身を縮こませ息を潜める。
「あれ、ドルシュ様の所の第一夫人じゃない?」
「あら本当、何かあったのかしら?」
「ほら、第五夫人が先に妊娠されたじゃない? 第一の座が危ぶまれているのよ」
貴族の方は大変ねと声と共に足跡が遠ざかる。どうやら、メイド達が通り過ぎたらしい。声が離れていくのと同時に、潜めていた息を吐き出す。
「めっずらしい! 何々? ミコトもサボり?」
ガサガサという音と共に太陽のような笑顔で話しかけてきたリュカにミコトは一瞬息を飲んだ後、苦笑した。




