新たな出会い
「不思議だよなぁ」
「本当にね」
「これどうなってんの?」
「それ私が聞きたいんだけどって、あーあ」
鈍い音を立てて後ろに倒れた男に美琴は手で目を覆う。力強く引っ張り過ぎだとため息をつきながら男を引っ張り起こした。
「あー!腹立つー!」
「だからそんな力強く引っ張ったら……、遅かった」
再び倒れた男に仕方ないなぁと、倒れたままの状態で原因の物を取り除く。
「何で、足に巻こうとした包帯が体に巻き付く事態に陥るの?」
「仕方ねぇじゃん!俺、魔法苦手なんだから!」
ミイラ男まではいかないが、足やら手やら体やらいたるところに包帯を巻きつけている男、いや十五歳くらいの人物はまだ若い。どうやら右足を挫いたらしく痛々しそうに腫れている。そこを処置しようと魔法をかけたらミイラ男もどきになったらしい。包帯の端を発見した美琴はそこからくるくる包帯を巻いて短くしていく。相当長いそれは少し時間がかかりそうだ。
「魔法で治療しないの?」
「癒術なんてできねぇーよ。あんな高等魔法使えるの一握りって知らねーの?」
初めて知りました。よくよく話を聞くと癒術師になれる人は極一握りらしい。軽い傷を治せる人も中にはいるらしいが完治まで行く人は中々いないという話だ。以前ジェラルドに傷を治してもらう際、苦手なんだけどと呟いていた言葉を思い出す。
城にもお抱えの癒術師はいるらしいが、一介の兵士は戦いでの負傷の時にしか診てもらえないらしい。普段は癒術師見習いが治してくれるらしいが、ここ数日は研修で不在なため自力でどうにかしなければいけないらしい。何とも不便なことだ。
「とりあえず応急処置しかできないけど……」
これを塗ったら良くなるという薬を渡され、患部に塗る。素手はどうかと思ったが塗るものがないので仕方がない。触ったときに冷たかったから湿布のような作用があるのかもしれない。そこまでひどくないことを確認し、その上にガーゼを乗せ包帯で固定をしていく。本当はテーピングもしたい所だが物がないので仕方がない。
「へぇ、これは中々……」
「へっ!?」
完成と包帯を解けないように止めた瞬間、影が差し、上から声が聞こえた。反射的に上を向くとそこには何か面白そうな物でも見つけたかのような顔をしたルーファスがいた。
「げっ!?」
「なーにが、げっ!? だ! いねぇと思ったらこんな所でコソコソしやがって!」
「やめろよっ!!」
ガシガシと頭を触るルーファスに全力で抵抗する姿を美琴はポカンとしながら見守る。どうやら怪我をしたことをバレたくなかったらしいが、いつまでも戻ってこないその姿を探しに来たルーファスに先に見つけられたということらしい。
「それにしても嬢ちゃん、手際が良いじゃねぇの?」
嬢ちゃんと言うのは美琴のことだろう。元は大人ということを知りながらの嬢ちゃん呼びに口を引きつらせる。そんな美琴をよそに興奮気味に目の前の人物が口を開く。
「そうなんだぜ! 魔法も使わずスルスルって包帯を巻いていってさぁ!」
「お前に聞いてないってーの! それに嬢ちゃんは魔法が使えねーんだから「まじで!?」っておい!」
魔法使えねぇの!?とキラキラした目で見てくる。またしても新しい反応に目を白黒していると二カッとした満面の笑みを向けてきた。
「俺と一緒じゃん! 俺リュカってんだ! よろしくな!」
「あっ、うん! 美琴です。よろしく」
どうやら仲間だと思われたらしい。美琴の場合、魔力自体がないのだが、まぁ、そこまで説明しなくても別に良いかと出された手を握り返す。何やらルーファスは頭を抱えているが一介のメイドがよろしくするのはまずかっただろうか。だが、もう見て貰ったらわかるように手遅れだ。
「リュカもだが、嬢ちゃんは仕事いいわけ? それともサボり?」
「違います! 今日の仕事はもう少し先にあるだけです。魔法が使えないから出来ること少なくて……」
そう、出来る仕事がある時は忙しいが、魔法が使えない美琴が出来る仕事は他のメイドに比べると格段に少ない。せめて出来ることはしようとイレーネに頼むがそれでも少ないのである。仕方ないことだが、やるせない。
美琴の心情を知ってか知らずか、ルーファスは美琴の言葉に思案顔をする。
「って、嬢ちゃんそこどうした?」
「あぁ、どこかで切ったみたいで」
腕に出来た傷を指摘され、美琴はとっさに嘘をつく。大した傷ではないのでそれでも通るはずだ。美琴の思惑通り、ルーファスはそれ以上突っ込まず腕を取ってくる。
「これくらいなら」
そう言いながら手をかざしてくるルーファスだったが、しばらくすると首を傾げる。
「治んねーじゃん」
リュカの言葉にどうやら治療してくれようとしたらしいということに気づく。だが、以前ジェラルドにしてもらった時と違い傷が癒えることはなく、かざされた手がなくなってもそこには依然として傷が残っていた。
「おかしいな、鈍っちまったか? 悪いな、嬢ちゃん。お詫びにこっちをやるよ」
不思議そうに自分の手を見た後、指を鳴らし代わりと小さな容器を手渡してきた。中身は傷薬らしい。大した傷ではないと美琴は遠慮するもののルーファスはこいつのお礼だとリュカを指さして言うものだから、ならばとお礼を言い受け取った。
「ジルヴェスターのやつにどやされるのも嫌だしな」
「え?」
ルーファスの呟きが聞こえず聞き返すが、何でもないと首を振られる。その隣では、呟きが聞こえていたが意味が解らず首を傾げるリュカがいた。
そんな三人の頭上では改良された小型の魔法具が静かに飛んでいたとは露知らず、三人はそれぞれの場所へ移動するのであった。




