異世界の泉
「なるほどな……、まぁ、それなら納得だがよ。こんな話、俺なんかにしちゃっていいわけ? これ外部にバレたら大事じゃね?」
「だから、口外禁止って言ってるでしょ? それに、君だから話すんだよ。君は、話さないって確信してるからね」
そうでしょ? と、これまでの経過と、美琴のことについて話終えたジェラルドは笑った。席を増やして再開されたお茶会には似合わあないディープな話にルーファスは口を引きつらせた。
「そんなに信用されてもな……、まぁ、間違っちゃいねーけどよ」
別に誰かに話そうとなんか思っていない。それに、もし誰かに話したのがバレた瞬間、ためらいなく目の前でシレっとお茶を飲んでいる二人に消されるだろう。それがわかっているルーファスは聞くんじゃなかったと苦虫を嚙み潰したような顔をした。この二人がわざわざルーファスにこんな話をした理由は一つだ。
(護衛……、いや、直接命令されていないから警護しろってことだろ?)
そうじゃなければ、目に見えて美琴を大切にしているジルヴェスターが、危険を犯してまでこんな話を聞かせることはしないだろう。ジルヴェスターの横でイレーネと笑いながらお菓子を食べている美琴を見ながらルーファスは首を傾げた。
(それにしても、ジルヴェスターの好みってこんな女だったっけか?)
もっとこう、大人しめでありながら綺麗目な女を好んでいた気がする。まぁ、近い理想像はイレーネあたりだろう。だが、目の前の少女を大人にしてみても、どう考えても色が違う。まぁ、人の好みなんかコロコロ変わるものだし、異世界で色々あったんだろうと適当に納得させながら、そう言えばと、視線を美琴からジルヴェスターに移動する。
「グレースの泉が枯渇したぞ?」
「何だと?」
ジルヴェスターのその一言とともに室温が下がる。それに気が付いた美琴はおろおろとジルヴェスターとルーファスを見る。だが、生憎美琴からはジルヴェスターの殺気に満ちた目は見られない。逆にそれを真っ向から受けているルーファスはたまったものじゃない。
「いや、ほら、報告が逆になっただけだろうが!? そんな目で見るんじゃねーって!」
「なら、さっさと報告しろ」
「わかったってーの! って言っても、お前がさっさと帰った直後のことだからそんな報告することはねーけどよ」
そう言いながら、ルーファスはつい先日のことを思い出した。
『くそっ、これ以上奥にはいけねぇじゃねーか』
王の勅命でグレースの泉を調べるため潜ったのは良いが、奥が深すぎてこれ以上は潜ることが出来ない。この先に何か光るものが見えるが、これ以上は自分のスペック的に厳しい。戻るのは簡単だが、早々に戻ると上にいる鬼上司が黙っちゃいないのはわかっている。だが、これ以上は自分を自ら保護している魔法が持たないのも確かだ。現に、円形に保たれている予定の魔法はグニャグニャとその形を維持できていない。結構深くまで潜ってしまったため、ここで魔法が解けると自力で浮上しなければいけない。だが、それまで息がもつか。いや、もたない。
『くそっ! どやされるな』
まぁ、あそこまで行けたんだ、逆に褒めてほしい所だ。暗い水の底から上昇する途中、案の定自分を保護していた魔法が解け、服に水が一気に染み込み負荷がかかる。重くなる体に舌打ちをしながら光が差す方に懸命に手足を動かした。
『ブハッ!!』
息も絶え絶えにどうにか顔を出すことが出来た水面に安堵する。肺に息を取り込むように酸素を取り込む。それと同時に見える、上司とその上司に何かを報告する部下。何かあったのかと、水面から岸へと泳ぐ。ジルヴェスターのいる岸までたどり着くと、ジルヴェスターがルーファスの方を見てきた。珍しく、手でもかしてくれるのかと期待していると、その淡い希望はすぐに打ち消された。
『急用ができた。城に帰るからあと任せた』
『はぁ!? ちょっ! あぁ、くそっ!』
理由はなんだと聞こうとする前に、早々に消えたジルヴェスターに水面を叩く。岸へと上がり、ジルヴェスターに何か報告していたやつを見つけると、ルーファスは胸倉を掴んだ。
『何報告しやがった!?』
『イ……イレーネ様からっ! ミコト様という少女が現れた、保護しているから確認をとの伝達をっ!』
『はぁ!? 女に会いに行くのが急用ってか!? ふざけんな!』
『ちょっ! ルーファス様ぁ!?』
怒りに任せて泉に放り込んだ部下から悲鳴が聞こえるが、他の部下が助けに行っているから大丈夫だろう。だが、女に会いに行ったジルヴェスターへの怒りは収まらない。
『ルーファス様!! 泉が!!』
『あぁ!?』
投げ込んだ部下を助けていた他の部下の叫び声に、そっちに目を向ける。しかし、そこには思いもよらぬ出来事が起きていた。
『嘘だろ?』
まるで、泉の栓を一気に抜いた勢いで泉の中心から渦を巻くように水が抜けていく。泉に落とした部下はその渦の勢いに飲まれそうになっていたため慌てて助ける。
『おいおいおい、お前何かしちゃったわけ?』
『できないですよ!』
できていたらそれは相当な魔力を使ったことになる。しかし、この部下にそんな魔力がないことは知っていた。ということは、自然現象か、はたまた何かの力が作用したか。
『待てよ。このままいけば、泉の底の光の正体がわかるんじゃね?』
そうだと、もう半分くらい減った泉の中心を眺める。あの光の正体が何かわかれば、この任務の成果にもなり得るかもしれない。そうと決まればと浮遊魔法で泉の中心まで飛んでいく。
『あの辺りだったよな……ってぇ!?』
あともう少し、そう思った時だった。急に泉が光始め、その光が泉全体を包んだ。次の瞬間、泉は枯渇した状態でその姿を現したのだ。物凄く深い泉の底はいったいどこから水が抜けたのか不思議になるくらい穴がない。それと同時に、泉の中で見た光もまるで初めからなかったかのように消え失せていた。
『成果なしってか?』
勘弁してくれや、とため息をつきながら、この原因は何かと首を傾げる。魔力はまるで感じられなかった。ということは自然現象か。
『そういえば、この泉に似た場所があと2か所ラインティアにあったよな?』
『あぁ、ありますね。それが、どうかしましたか?』
『ちょっと、どうなってるか見てきてくんねぇ?』
『別に良いですけど』
何があるんだ?と不思議そうにする部下に良いからと促すと、律儀に向かってくれた。
『じゃあ、俺はくそ上司を追うとするか』
そのまま、今に至るわけだ。未だに部下からの報告はきていないが、これから何らかの報告はくるだろう。まぁ、これはルーファスの勘なのだが。
「ねぇ、グレースの泉って何かあるの?」
グレースの泉を探索していたのは今のルーファスの話でわかったが、何で泉を探索していたのか美琴にはわからなかった。
「グレースの泉にはたまに不思議な物が浮かんでいることがあるんだよ。ただ、それが何に使うものかわからなかったから捨ててたんだけど。ジルヴェスターが異世界から戻って来てその認識が僕らの中で大幅に変わったんだ」
「それって……」
その流れからして、その浮かんでいた物が何かが大体想像できた。しかし、確認のためジルヴェスターを見る。
「あぁ、俺が帰って浮かんだものを確認したが、あれはミコトの世界の物だった」




