王との謁見
あけましておめでとうございます。今年もこの作品共々よろしくお願いいたします。
「いるかなぁ」
移動魔法という便利なものを使えない美琴は自力で階段を下りながらある場所を目指す。本来なら午後に謁見を控えているので、ジルヴェスターやイレーネといるべきなのだろうが、ジルヴェスターは朝のあれから姿を見ていない。イレーネにいたっては、朝から同情の眼差しで見られてしまった。その上、何かありましたらメイド長ではなく、一人の女としてご相談に乗りますとまで真剣な顔で言われる始末だ。イレーネの所に居づらいことこの上ない。
深いため息をつくと、気を取り直して目的の人物を探す。キョロキョロ辺りを見渡すと、普通ではありえない高さの場所にその人物はいた。
「ジェラルドさーん!」
高い木の上で何か作業をしているジェラルドに対し、大声で名を呼ぶ。ジェラルドは高い位置にいたにも関わらず美琴の姿を捉えると、そこから飛び降りた。その行動に美琴はギョッとするものの、ゆっくり浮遊して降りてきていることを確認するとホッと胸をなで下ろす。
「ミコトちゃん?」
「飛べるんですね」
魔法とわかっていても見慣れない光景には驚かされる。地に足をつけたジェラルドは美琴の言葉に一瞬ポカンとしたもののクスクス笑い始める。
「やっぱり君は面白いね! 今日はどうしたの?」
何が面白かったのかわからない美琴は首を傾げながらもバスケットをジェラルドの前に突き出す。
「ご飯食べました?」
「あー。もうそんな時間なんだ?」
むしろまた忘れていたんですね、という言葉を美琴は飲み込む。ジェラルドは仕事に集中したら、倒れるまで働く人なのだろうかと美琴は少し呆れる。しかし、だからまた倒れてないか心配になって持ってきたのも確かだ。
「良かったら一緒に食べませんか?」
苦笑しながら訪ねると、ジェラルドは一瞬にして目を輝かせる。
「喜んで!」
バスケットを渡した瞬間、昨日同様物凄いスピードで食べるジェラルドに苦笑する。それをわかっていた美琴は準備していた自分用の小さいバスケットを取り出すと中を開け食べ始めた。
「今日のこれも美味しいね」
しばらくして、デザートが入っているカップを見せてくる。この世界の材料で美琴が作れる料理は数が少ない。その中でも作れるデザートの一つだ。
「プリンって言います。甘いもの好きなんですか?」
「うん! 甘いものとか手作りの料理は大好きだね! 魔法で作るのも美味しいけど味が同じだから飽きちゃうんだよね」
無邪気な笑顔で語るジェラルドはまるで子供のようだと美琴はクスクス笑う。美琴はそうだと、あることを閃き、ジェラルドの方を見る。
「ジェラルドさんって、大体ここで仕事してるんですか?」
「んー、そういうわけじゃないけどね。他にもやることは一応あるし。どうして?」
「毎日は無理ですけど、たまにはで良ければお菓子の差し入れをしようかと。あっ、もちろん、こういうので良ければですよ? いらないって言われたら別に構いませんし」
そう美琴が閃いたのはこれだった。これだけ美味しそうに食べてもらったら悪い気はしない。むしろジェラルドの生存確認にもなる。断られても良いと思っていたがジェラルドはそんな様子もなく嬉しそうに声を上げる。
「そんなことないよ! 君のお菓子は食べたことないものばかりだから楽しみだ!」
「なら良かったです」
ジルヴェスターとシャルの分も作って差し入れをしようと考えていると、プリンを食べ終わったジェラルドは立ち上がる。
「さてと、僕もそろそろ仕事に戻ろうかな。これから大切な仕事があるみたいなんだよね」
「大切な仕事なら頑張ってください」
「君もメイド見習い頑張ってね」
「はい!」
美琴の返事を聞くと、ジェラルドは使っていた道具を魔法で消し、手を振りながら自分も消えっていった。本当に便利だなと思いながら、美琴はバスケットを二個抱えると、自力で城に戻っていく。バスケットを所定に位置に返し終え、廊下に出ると目の前にイレーネが立っていた。
「ミコトさん、仕事は終わりましたか?」
「もっ、もちろんです!」
今日は比較的軽めの仕事だったため、早々に終わった。朝のことを思い出し一瞬どもってしまったが、仕事が終わったという言葉にイレーネは満足そうな顔をする。
「では、こちらへ。ドレス合わせをしなければなりませんので」
「ドレス?」
何でドレスと首を傾げると、イレーネは美琴のメイド服を見る。
「メイド服で謁見はできませんからね」
その言葉にそれもそうだと納得する。どういう立場で紹介されるかはわからないが、さすがにメイド服がまずいことは美琴にもわかる。イレーネについて行き、案内された部屋に通され目を見張る。目の前に広がるのは沢山の色とりどりの衣装。それこそ男性用から女性用、子供用まで様々だ。きっとこの城の衣裳部屋なのだろう。どこまで広いのか興味を持った美琴は衣裳部屋の奥まで進む。
「あれ? ジル?」
一番奥の机で本を読んでいたジルヴェスターに気づき近づくと、ジルヴェスターは本を閉じ、顔を上げる。
「来たか」
「ジル、お仕事は?」
忙しいだろうジルヴェスターは美琴の心配をよそに本を消すとその場で伸びをする。
「片付けてきた。それより先に衣装合わせろ」
ほらとジルヴェスターがイレーネの方を指し示す。イレーネの方を向くと衣装が掛けてある中から一着取り出した。
「ミコト様。ドレスはこちらになります」
イレーネが差し出してきたのは、オレンジ色のフリルのついた丈の長いドレス。パーティドレスというか、どちらかというと結婚式で花嫁が着そうなカラードレスに近い。
「可愛い」
子供サイズだが、子供っぽくない綺麗目のデザインに美琴は目を魅かれる。ドレスに見とれている美琴の耳元でイレーネが小声で話しかけてきた。
「ジルヴェスター様が選ばれたのですよ。本来なら、白いドレスが仕来りなのですが、白は駄目だと断固として譲られず、困りました」
「それって、まずいんじゃ……」
仕来りというくらいだ、本来ならそれを守るべきなのではとイレーネを見るとイレーネは少し呆れた顔をしてジルヴェスターを一瞬見る。
「私には説明されていませんので、わかりかねますが、ミコト様の世界で白いドレスは特別な時に着るものだとお聞きしました。だから、着させたくないとも。まぁ、今回は公式なものではないですので構いませんが」
困ったものですと、ため息をつくイレーネには悪いが美琴の頭の中はそれ所ではなかった。白いドレスを特別の日に着る日何て美琴の世界では結婚式の日しかない。ジルヴェスターがどういう理由で着させたくないと言ったのかはわからないが、何か嬉しく感じた。
「イレーネ……。余計な話をしているんじゃないだろうな?」
「あら? なんのことでしょう?」
美琴の耳元から離れ、イレーネはジルヴェスターに笑顔を見せる。ジルヴェスターは訝しそうな顔をしていたが変わらないイレーネの笑みに諦めた表情をする。
「ったく。ミコトそこに立ってみろ」
「ここ?」
イレーネからドレスを受け取ったジルヴェスターは丸い台座の上に立つように美琴を促す。大人しくその上に立った美琴を確認するとジルヴェスターは指を鳴らした。
「わぉ」
一瞬にしてメイド服姿からドレス姿に変わった自分の姿に驚いていると今度はイレーネがそっと髪を触ってくる。
「髪は私が失礼しますね」
「あれ? 魔法ではしないんですか?」
てっきり魔法でセットしてくれるものだと思っていた美琴は丁寧に手でセットし始めるイレーネに首を傾げる。
「魔法でも出来るのですが、私は自分の手でするのが好きですので」
ミコトなら魔法が使えるなら魔法でするだろうなとイレーネの手の動きを鏡越しに見る。自分でするのが好きというだけあって手際が良い。あっという間にアップにされ、ドレスと同じ色の花飾りをつけられる。そして、ついでとばかりに簡単なメイクまで施された。完成した姿にまじまじと美琴は鏡を見る。自分にもこの技術があればなと美琴が思っていると、鏡越しにジルヴェスターと目があう。
「まぁまぁだな」
余計な一言をと美琴が頬を膨らませるとイレーネの控えめな笑い声が聞こえてきた。恥ずかしくなってきた美琴は話題を変えようとジルヴェスターの方を振り返った。
「そういえば、謁見ってどうやってするの?」
「適当だな」
それこそ適当なジルヴェスターの答えに、当てにならないと思った美琴はイレーネの方を向き、助けを求める。
「そうですね。今回は厳粛なものではございませんから、そうお気になさらなくても良いとは思いますが、一応説明させていただきますね。まず、手は前で組みます。扉は私が開きますので、開いたら中にゆっくり歩いてください。顔は少し俯き加減で、陛下とまだ顔は合わせません。陛下の前まで行きましたらそこで初めて顔を上げ、ドレスの裾を軽く持ち上げ、片膝を折り一礼します」
正された姿勢、そして流れるような綺麗なイレーネの動きに難易度高いなと美琴は冷や汗を流す。美琴がするときっとぎこちない動きになるのは間違いない。
「本来は、ここで挨拶の言葉を言うのですが、陛下の場合、挨拶は必要ないかと」
挨拶という言葉に一瞬ドキッとしたものの必要ないというイレーネに少しほっとする。
「本当に挨拶はいらないの? 何か言った方がいいんじゃ」
「気にするな。あいつは挨拶より先に、ミコトに食いつくはずだからな」
それはどういう意味なのかと気になるが、美琴が疑問を口にする前にジルヴェスターは立ち上がった。
「さて、準備も出来たし、行くか」
「待って、まだ心の準備ができてないんだけど!?」
早々に移動を始めようとするジルヴェスターを美琴は慌てたように止める。しかし、美琴の制止もむなしく早々に却下される。
「それを待ったら暗くなるだろ?」
さすがに暗くなる前までには心の準備はできると思うと訴えたかったが、自信もないのが確かだ。
「俺は先に行ってる。イレーネ、後は任せたぞ」
「はい」
「って、ジルは一緒に来ないの?」
てっきり一緒に行くものだと思っていた美琴はジルヴェスターの発言に目を見張る。
「俺は一応立場上、王の後ろにいなきゃいけねぇからな。何かあったら助けるから安心して入ってこい」
頑張れよと言葉を残すと、ジルヴェスターは姿を消す。ジルヴェスターが中にいてくれることで安心はできるが、そこまでがドキドキしてしまう。
「では私たちも行きましょうか?」
イレーネが差し出してきた手にそっと手を乗せると、イレーネは魔法を発動させる。反射的に瞑った目をゆっくり開けると、そこには他より大きく、豪華な扉が目の前にあった。きっとこの中に王様がいるのだろうと、イレーネに教えられた謁見の仕方を頭の中で繰り返す。
「では、開けますね」
イレーネの言葉を合図に静かに扉が開いていく。上げていた顔を慌てて少し俯かせて、重たい足を無理やり動かす。ゆっくりゆっくり足を進めていくごとに、心臓の音が徐々に大きくなる。静寂に包まれているこの広間に美琴の心臓が響くのではないかと思うくらいだ。美琴は自分を落ち着かせるために小さく息を吸いゆっくり吐く。王様がいる前まで来た所で、顔を上げ両手でドレスの裾を持とうとした。しかし、その手は止まってしまう。
「あれ?」
「えっ?」
王冠をかぶり、マント羽織った髭を生やした王様を想像しながら顔を上げたのに、そこにいた人物は美琴の予想を覆すほど意外な人物だった。
「ジェラルドさん!?」




