表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
やってきました!異世界へ!  作者: 如月 玲
10/28

今後の行く末

楽しんでいただけてますでしょうか?今回話が長くなってしまいましたが、お付き合いいただければと思います。最近仕事が忙しいため更新が遅れるかもしれませんが、なるべく頑張りますのでよろしくお願いいたします。

 聞き間違いだと思った。きっと、最期に聞きたいと思ったから聞こえたのだとそう思った。けれど、横目に見える金色の髪に藍色の瞳、整ったその顔に呆れた表情を浮かべる彼は幻ではない。その事実に美琴は瞳に涙を浮かべる。


「なんで……」


「イレーネから連絡が来たからな」


 優しく微笑むその表情に、美琴の瞳から涙がこぼれる。美琴は魔法で飛んでいるであろう彼に向って叫んだ。


「そうじゃなくて! 助けなさいよー!」


 未だ落下中だった美琴は間近に迫る地面にぶつかると意味もなく手足をばたつかせる。


「落ち着け。大丈夫だから」


 ギリギリの所で抱えあげられた美琴は、助けられた安心感とともに脱力する。地面に降ろされたが、ガクガク震える足は立つこともままならず、その場に座りこむ羽目になる。上を見上げ、城のあまりの高さによくあそこから助かったなとゾッとする。


「で? お前はなんで」


「ミコっちゃん! 大丈夫!? 何で空から落ちてくるのさ!?」


 彼の言葉を遮り、シャルが美琴向けて駆け寄ってくる。座り込んでいる美琴を無理やり立たせ怪我がないか全身見てくるシャルはまるで母親だ。


「いや、風に飛ばされたシーツを取ろうとして」


「はぁ!? シーツごときに命掛けちゃダメでしょ!?」


 何を考えてるのかと怒られ、美琴も素直に謝る。だが、貧乏性の美琴にとって質の良い高級シーツの方が優先だった。まだ言い足りないと、シャルが口を開こうとした瞬間、美琴は浮遊感に襲われる。


「うわっ」


「ちょっと、ミコっちゃんに何するのさ?」


 メイド服の埃を払っていたシャルを無視して、美琴を抱き上げる彼にシャルは睨みを効かせる。そんな、門前の時と同じ雰囲気になりそうな空気に美琴は慌てて口を開く。


「待って! シャル! この人がジルヴェスターなの!」


 美琴の言葉にシャルは一瞬固まり、美琴とジルヴェスターを見比べる。そして、再度ジルヴェスターを見る。自分の予想と違ったのか、シャルは何とも言えない顔をした。いったいどんな人物を想像していたのだろうか。そんなシャルにジルヴェスターも眉根を寄せるが、それも一瞬で、周囲に目を配らせ群衆の中からある人物を見つける。


「とりあえず、聞きたいことが山ほどあるから移動するぞ。イレーネ、俺の執務室にそいつを連れてこい」


 騒ぎに集まった人の中からイレーネが姿を現し、頷く。それを確認したジルヴェスターは我先に美琴共々、魔法で移動した。


 美琴が執務室に着いた次の瞬間には二人が部屋に現れる。このあり得ない光景にも慣れたなと思いながら、二人掛けのソファを見つけそこに腰掛ける。ジルヴェスターはというと社長机と言わんばかりの自分の席に着いた。シャルが、美琴の隣に座ったことでジルヴェスターが何か言いたそうな顔をしたが、イレーネが魔法で出した紅茶を配ったことで押し黙る。代わりに、説明を求められた。


「要するに、ミコトは俺に会うためにこいつにここまで案内してもらい、イレーネはミコトが俺の恩人かわからないからメイド見習いとして城に滞在させてたってことか?」


 これまでの話を説明し終えると、ジルヴェスターは深いため息を吐く。イレーネがいるため、異世界のことやこの姿の話はできないので、上手く説明ができなかったが、そこはジルヴェスターがどうにか理解してくれた。


「どこからツッコめばいいかわからないが、とりあえずミコト。お前はどうやってこの世界に来たんだ?」


「あんた、少しは空気読みなさいよ!」


 美琴の苦労など何のその、ジルヴェスターはあっさり隠していた秘密を暴露する。そんなジルヴェスターに美琴は食って掛かるが、ジルヴェスターはそんな美琴を気にもせず、さらに爆弾発言を落下させる。


「言いたいことはわかるが、イレーネはお前が異世界人ということも知ってるし、顔も見たことがある」


「「はぁ!?」」


 その言葉に成り行きを見守っていたシャルも驚きイレーネを見る。しかし、当の本人は自分で入れた紅茶を美味しそうに飲んで知らぬ顔を決め込んでいた。


「ちょっと待って!? じゃあ、門でのやり取りは何だったわけ!?」


 結構大変だったと思うんだけどと訴えるシャルに、イレーネは飲み切ったカップを魔法で消しシャルを見た。


「私が知っているミコト様は大人の姿でしたので、あの時は本人かどうか判別ができませんでした。まぁ、魔法がお使いになれないという言葉で、もしやとは思ったのですが」


 あぁ、だからあの時満足そうな顔をしていたのかと納得する。だが、それならそれと言ってほしい所でもあった。納得がいった二人の顔に、ジルヴェスターは再度疑問を投げかける。


「で? 謎が解けた所で、どうやってこの世界に来て、その姿はどうしたんだ?」


 その質問にどう説明しようかと悩みながら、口を開く。ジルヴェスターから貰った魔石で魔法を発動させる真似をした後眩暈がして、気づいたら知らない街に居て、この姿になっていたこと。シャルに始めて会った時の記憶がないことなど、大体のことを説明する。説明が進むにつけ頭を抱え始めたジルヴェスターに美琴は苦笑する。気持ちはわからないでもない。当の本人は未だに混乱中なのだ。


「問題だらけだな。まぁ、起こってしまったことはどうしようもできないが」


 遠い目をするジルヴェスターに、美琴も気になっていたことをぶつける。


「気になってたんだけど、ジル帰ってくるの早くない?」


「それは、私も気になっておりました。お帰りはまだ先だとお聞きしておりましたが?」


 イレーネに聞いていた話ではまだ先のはずだ。落下中何か言われた気もするが、美琴は覚えていなかった。


「あぁ、そんなことか。イレーネからミコトらしき子供の姿をした人物が城に来ているという便りを受けたから、後は任せて帰って来た」


 なんの問題もないというような口調のジルヴェスターに、イレーネはため息をつき、シャルはひゅーと口笛を鳴らす。目の前の男は美琴のために国の仕事を放り出し、早々に帰ってきたと言ったのだ。それを理解した美琴もカッと頬を赤らめる。


「まぁ、ジルヴェスター様のことですから、上手くやって来たのでしょうから心配は致しませんが。他の方々は予定通りのお戻りでよろしいのでしょうか?」


「そういうことだな。そうだ、イレーネ。もうこいつの身元は証明されたんだ。メイド見習いは中止でいいな?」


 イレーネが今後のスケジュールを確認していると、文句はないな?と言わんばかりにジルヴェスターが言い切る。

中止も何も、メイド見習いと言っても半日しかしていないのだ。イレーネの性格上、最後まで仕事を遂行するよう言われると美琴は思った。


「お言葉ですが、本当にそれでよろしいのですか?」


「何?」


 どういうことだとジルヴェスターは眉根を寄せる。美琴も予想と少し違ったイレーネの発言に首を傾げた。


「仕事を放棄してまでミコト様のためにお帰りになられたジルヴェスター様のことです。シャル様はわかりませんが、ミコト様はこの城に滞在させるおつもりでしょう? その理由をどうされるおつもりですか? ただの恩人としては長期の滞在など無理なお話ですよ?」


「あー……」


「やはり、考えられておりませんでしたね」


 呆れたような目で見られたジルヴェスターはイレーネから目をそらす。まさかイレーネがそこまで考えていたなど思いもよらなかった。だが、イレーネに言われ美琴も確かにと納得する。ここがただの一般家庭なら何も問題はないだろう。しかし、美琴が今いるここは一国の城なのだ。ただ、ジルヴェスターの世話をしたというだけではここにいるという免罪符にはならない。ならば、このままメイド見習いでいるべきかと思案する。そんな、美琴の表情にイレーネは誰にも分らないように小さく笑ったあと、ジルヴェスターを見た。


「ミコト様のことは私に一任していただきましょう。悪いようには致しませんので。ミコト様?」


「はい!?」


 考え事に夢中になっていた美琴は、突然の呼びかけに反射的に返事を返す。イレーネはミコトと向き合うと微笑んだ。


「今日の仕事はもう結構です。明日からまたよろしくお願いしますね」


「あっ、はい。よろしくお願いします」


 有無を言わさないその微笑みに美琴は礼をする。そんな、美琴の姿を満足気に見つめると、もう用はないとばかりにジルヴェスターに一礼し自分の仕事に戻っていった。


「あいつ、勝手に決めやがった」


 ジルヴェスターが口出す前に、言いたいことだけ言い切ったイレーネに見事と美琴は思う。ジルヴェスターは気に食わないという表情をしていたが、イレーネが去った今どうすることもできない。イレーネとはまた後で話すかと呟いたジルヴェスターは、今度は標的を美琴の隣にいる人物に定める。


「で? お前はどうするんだ?」


「えっ、俺?」


 まさか自分に振られると思っていなかったシャルはキョトンとした顔でジルヴェスターを見た。


「ミコトを連れてきてくれたことには礼を言うが、お前にも生活があるだろう?」


 暗にもうここに用はないだろうと言うジルヴェスターにシャルはカップを取り紅茶を一口飲む。


「んー。別に生活はいいんだけどね。ミコっちゃんのこと気になるし」


 気がかりがまだあるしねと続け、隣にいる美琴の頭を撫でるシャルにジルヴェスターは目を細める。


「お前……。そう言えば、戦場でミコトと会ったと言ったな? どこの戦場だ?」


 まるで、シャルを見定めるかのような目で見るジルヴェスターにシャルは飲んでいたカップを机に置く。


「それ、あんたに言う必要ある?」


「それは、疑ってくれと言っているのか?」


 思わせぶりな態度を取りジルヴェスターを挑発するシャルに美琴はこの二人は何をしているのかと呆れる。それでなくても、シャルは会う人、会う人に喧嘩を売るのだ。いや、この城に好戦的な人が多いだけか。どちらにしろ、本当にやめていただきたいと思いながら二人を止めようと口を開く。


「ちょっと!」


 制止の声を掛けようとしたときジルヴェスターとシャルの間に人影が現れ、美琴は驚のあまり悲鳴を上げそうになる。しかし、それが、見知った人だとわかるとまたこの人かと冷静を取り戻した。


「二人とも落ち着かんか。騒がしい。こやつの正体なぞどうでも良い。わしはこやつが気に入ったからの。誰が何と言おうとわしの部下にすると決めた。良いの?ジルヴェスター」


「今度はてめぇか。変態じじい」


 この調子だとまたどこからか盗み聞ぎしていたに違いないと美琴は周囲を見渡すが残念ながら門で見た蝶みたいなのはどこにも見当たらない。変態と言われたラディスは体を震わせる。まぁ、変態と言われれば怒りたくもなるだろう。


「変態とは何じゃ! 褒めとるつもりか?」


「誰がいつ褒めた!?」


 照れると頬を赤らめるラディスにジルヴェスターは立ち上がり怒鳴る。ラディスは違うのかと本気で言っている当たり本当に褒め言葉と受け取ったのだろう。

シャルはシャルでラディスによる妨害で熱が冷めたのか残りの紅茶を飲み始めた。


「まぁ、良い。それよりもじゃ。こやつはわしが責任もって預かるからの」


 グッと襟元を持ち上げられたシャルは飲んでいた紅茶を吹き出す。そんなシャルに目もくれずジルヴェスターは正気かとラディスを睨む。


「本気か? 誰ともわからない奴をこの城に置く気か?」


「何を言う。それをお前さんが言うのかの?」


 それは美琴のことかそれともまた別の人物のことか、それは判断できない。しかし、ジルヴェスターはラディスの言葉に舌打ちすると、ドカッと音を立て椅子に座り腕を組む。


「好きにしろ」


「いや、当の本人が置いてきぼりなんですけど!? 俺の意思も聞いてもらっていい!?」


 勝手に進む話にさすがのシャルも大声を出す。しかし、ラディスはお構いなしに魔法を発動させ始める。


「却下じゃ! それよりも、お前さんのせいで実験が止まっとる。さっさと来い」


「いや、これ強制っ!!」


 最後まで言い切る前にラディスはシャルを連れてどこかへ行ってしまった。まるで、嵐が去ったかのような静けさに美琴はポカンとする。


「はぁ。何か一気に疲れたな」


 座っていた椅子に深くもたれ掛かりため息をつくジルヴェスターに美琴は申し訳ない気持ちになる。


「なんか、ごめん」


「ミコトのせいじゃないだろう。一応聞くが、シャルってやつのことお前はどこまで知ってるんだ?」


 どこまでという言葉に美琴は考える。記憶がない今、シャルと街で出会ってからの期間は短い。しかも、その間にシャルの話をしたかというと皆無に等しい。だから、美琴が知っていることは一つしかなかった。


「名前だけかな!」


「お前、向こうの世界で知らない人について行くなって教わらなかったのか?」


 自信満々に答えた美琴に呆れた顔をするジルヴェスター。だが、あの状態で正しい判断ができるかと言われたら無理と答えるしかないだろう。出会ったのが、シャルで本当に良かったと美琴は心の底から思った。


「まぁ、あいつのことは後で良い。他の問題は山のようにあるみたいだしな」


 美琴を上から下まで見るジルヴェスターに、あぁ、確かに自分は問題だらけだなと納得する。ジルヴェスターもまさか美琴が幼児化してメイド姿で現れるとは思っても見なかっただろう。


「いや、もう、本当にごめん」


「謝ることじゃねぇだろ。まぁ、初め子供の姿のミコトを見たときは正直目を疑ったがな」


 その割にはあまり驚いた様子もなく落下してる美琴を見ていた気がする。まぁ、ジルヴェスターのことだ、顔に出していなかっただけなのだろうが。ジルヴェスターは椅子から立ち上がると、美琴の隣に移動する。


「まぁ、色々あるだろうが、こっちの世界での生活は安心しろ。まぁ、メイド見習いはしてもらうようにはなるだろうが」


 本当はさせたくないんだがというジルに別に良いのにと美琴は思う。何もせずのほほんと暮らすのも性に合わない。自分でも損な性格だと思う。そんな美琴に、ジルヴェスターはそう言えばと口を開く。


「一つ確認していいか?」


「確認?」


「俺がこっちに帰ってから、ミコトの世界では何日経った?」


 神妙な顔で何を聞いてくるかと思いきや、そんなことかと美琴は即答する。


「えっ、一年だけど」


「一年か……」


 顎に手を当てて何か考えるジルヴェスター。もしかして約束の日のことでも気にしてくれているのだろうかと考える。しかし、ジルヴェスターの口からは全く違う答えが返って来た。


「ミコト、よく聞け。こっちの世界では、俺が帰ってから180日しか経ってない」


イレーネが美琴のことを異世界人と何故知ったのかという内容はやってきのたは異世界人!の番外編、イレーネは見た http://ncode.syosetu.com/n4649dp/1/ にて掲載しております。やってきました異世界人!の内容が少し含まれておりますが、お暇でしたらどうぞ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ