プロローグ 比嘉燈夜という男
生まれながらに、人間は『物真似』という行動が得意だ。
赤ん坊でも目の前の大人達の動きを真似ることはできるし、そもそも言葉だって最初は周りの真似事だ。「子供は親の背中を見て育つ」なんて言葉にも、見方を変えれば『真似事』であるという要素が隠れているような気もする。
もちろん、例に漏れずこの彼――“比嘉 燈夜”にも、それは言えることであった。
ただし、彼の場合は少し常人離れした方向に進んでしまったのだ。端的に言うと、真似の度が過ぎたの一点に尽きる。
周囲の人間の長所を『真似』し、自分の物として完全に昇華させることが彼にはできたのだ。
物真似ではなく会得。その違いだけでも、彼が周囲から疎まれるには十分すぎる物だった。それ自体が悪いという訳ではないが、周りは自分の努力を他人に掠め取られることに嫌悪感を抱いたのだ。
高校に入学してから半年が経つ頃には、彼の居場所は無くなっていた――いや、自分から遠ざけたという言葉が正しいだろう。自身にも周りにも利がない場所にいる必要も無いと、そう考えたのだ。
そのまま高校を中退してから約二年、十七歳になっても少年は自室に閉じこもり続けた。
変わり続ける日々に嫌気が差して、何も変わることのないであろう道へと逃げたのだから、元の道に戻ろうとは誰も思わないだろう。
だが、変わらないなどという選択肢は元より存在しなかった。
少年の意図とは全く別の所で、変化は彼を受け入れていた。
目が覚めると――そこには青空が広がっていた。
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