恋なのであろうか
ある日、自分は1人の女性に目を奪われた。もちろん、物理的にではなく、目がその女性に向き続けたという事だ。
自分は生きてきた17年で1度も恋などというものをした事はなかった。それは、単に女性に興味がなく、そんな事をすれば、何かを失うと思ったからだ。
そんな自分が、何故か通りすがりの女性に目を奪われた。果たして、これは本当に恋なのであろうか。
翌日、自分は学校に登校し、親友と呼べる茶羅衣谷を屋上に呼び出し、聞いてみた。
「昨日、自分は通りすがりの女性に目を奪われたんだが、これは恋なのであろうか?」
「何言ってんだよ。それは、一目惚れっーんだよ!ちなみに、どんな女性なんだ?おい?」
茶羅衣谷は、自分が一目惚れ相手に対し、グイグイと聞いてきた。普通、こんなに聞くものであろうか。これが普通なのであろうか?
「そうだな。近しい人で例えるなら、自分達のクラスを教えていらっしゃる化学の柔潤女史が1番似てらっしゃる。そう。目の前にいる……」
そこで、自分は言葉を止めた。何故なら、目の前にその化学の柔潤女史がいるからだ。
「2人とも、そんな所でどうしたの?」
「いえ。別に何も……」
「硬谷固男の一目惚れの相手の話をしてるんす。笑えますよ〜。コイツの一目惚れの相手って柔先生にめちゃくちゃ似てるらしいんですよ〜。」
「へぇ〜。そうなの。それはあまり嬉しくないな〜。私に似てるのに、私に興味がないだなんて。」
「柔潤女史。ふざけないでください。自分は困っているのです。便乗は良くないと思います。」
「あいっかわらずの硬さだな〜、おい。」
仕方がないではないか。これは昔からなのだから。
だが、疑問はきちんと解決すべきだろう。なので、柔潤女史に投げかけてみようと思う。
「柔潤女史。昨日の夕刻、もしや、隣町の2丁目の大きな歩道橋の近くにいなかっただろうか?」
「う〜ん。正確には何時頃かな?」
「17時頃だと思われます。」
「17時頃ね。どうだったかな。ちょっと記憶が曖昧だから、分かんないや。」
「左様ですか。ありがとうございます。」
まさかとは、思うが、本当にこの、柔潤女史だったのであろうか。
「おいおい、まさか昨日のお前の一目惚れ相手って……」
「「いや、それはない。(絶対違う!)」」
「2人とも息ぴったりなのが気になるな〜。」
「ホントになんでもないの!」
そう言って、柔潤女史は屋上から走り去って行った。
だが、自分は気付いていた。あの時の一目惚れの相手が柔潤女史だった事が。
柔潤女史が気付いているか分からないが、多分気付かれているだろう。
こうして、自分と柔潤女史の複雑な関係は始まったのだった。