朝食にて
受験中の気分転換に書きました。
基本的に不定期更新ですが、よろしくお願いします。
「起きなさい。まったく、いつまで寝てるつもり」
俺は聞きなれた声に呼ばれ、瞼を開ける。
寝起きで、まだ光に慣れていない俺の目に映ったのは、透き通るような蒼い髪をした少女だった。
「おはよう。ミリア」
唐突だが、俺―――萩谷 新はこの世界の人間じゃない。
三か月前に高校に行こうとしていたら、突然意識を失って、気が付いたらこの世界―――リスフィアに来ていた。
俗に言う剣と魔法の世界で、普通の高校生である俺が一人で生きていける訳もなく、しかも目覚めたのが運悪く森の中。あっという間に見たこともない怪物(後で知ったが魔物である)に囲まれて、絶体絶命!!という時に現れたのが、
「ええ、おはよう。居候のくせに家主より遅く目覚めるなんて、いい度胸ね」
目の前で嫌味を言っている美少女だ。
蒼い綺麗な髪をポニーテールにし、白いワンピースの上にエプロンをしたこの少女。名前をミリアという。
150㎝程度の身長で、一見か弱く見えるが、めちゃくちゃ強い。
なんせ、たった一人で俺を囲んでいた魔物たちを瞬殺したのだ。
偶然あの森(不帰の森と呼ばれているらしい。名前の由来はその名の通りだ)にギルドの依頼で訪れていたミリアは、魔物に囲まれ震えている俺を見つけ、気まぐれで助けたそうだ。
以来、彼女の家で世話になっている。この世界の常識(魔物やギルドについて)も彼女に教えてもらった。
何故、彼女が俺にそこまでしてくれるかは、後で話そう。
まあ、なにはともあれ、俺はこの世界で新しい自分―――シンとして生きていくことになった。
「朝ご飯が出来ているから、さっさとリビングに来なさい」
そう言い残して、ミリアは寝室から出て行った。
昨晩、夜遅くまで読書をしていたため、まだ少し眠い。
リスフィア生活歴三か月の俺にとって、情報収集は重要だ。何故か会話と文字の読み書きは問題なくできたし、一般常識はミリアが教えてくれたが、それはそれ。
ミリアだって何でも知っているわけじゃないし、何より俺自身、この世界に興味がある。
魔法があって、魔物がいるこの世界の歴史は、前の世界の小説のようで面白い。読み始めると止まらなくなってしまう。
そんなわけで、出来たらまだ少し眠りたいんだが・・・
グゥ~
睡眠欲と同時に、食欲もある。
なにより、俺が食卓に着かないとミリアが食事に箸を着けることはないだろう。
「・・・行くか」
俺はベッドから下りて、リビングに向かって歩き出した。
寝室から出て階段を下り、リビングに入るとテーブルの上で様々な料理が湯気を立てていた。
朝食にしては多い気がするが、ミリアは冒険者。体が資本なのだ。
見てみると、やっぱりミリアは律儀に俺を待っていた。
彼女の正面の席に座り、手を合わせる。
「「いただきます」」
二人でいただきますをして、食事を始める。
当然だが、この世界にいただきますの風習はない。
何も言わずに食べるか、長ったらしいお祈りをするかだ。
だが、日本人としていただきますは譲れない。
ミリアの場合は、別に強制したわけじゃないが、自然と一緒にするようになった。
「うん、いつも通り美味いぞ」
俺は、料理を食べたら感想を言うようにしている。
感謝と、賞賛の気持ちを込めて微笑みかける。
「あら、随分上から目線ね」
一見、冷たいようにしているミリアだが、口の端がピクピクしている。顔の緩みを抑えるのに必死なのだろう。
口から出る毒舌は照れ隠し。中身のデレデレ具合を知っている俺にとっては、可愛いものだ。
だが・・・
「まったく、貴方って私がいないと本当に駄目ね。私が働いて、私が家事をして、まるで貴方ペットね。そのくせ他の女に鼻の下を伸ばすんだから、本当にあなたって―――」
今日はよっぽど嬉しかったのか、照れ隠し(毒舌)が七割増しだ。
可愛いものとは言ったが、正直うるさい。
なので―――少しお仕置きをしよう。
「そうだな。何でもミリアに任せてちゃ申し訳ないし、明日から俺が家事をするよ」
俺がそういったとき、ご機嫌に口撃していたミリアの表情が凍った。
「な、何を言っているのかしら。リスフィアの食材にまだ慣れていない貴方に料理ができるの?下級水魔法を発動するのに五分も掛かる貴方に洗濯ができるの?」
動揺を隠して口を開くミリアだが、明らかに勢いがない。
ちなみに今、下級水魔法と言っていたが、この世界の魔法は階級と属性で分けられている。
属性は火、水、風、土の基本属性魔法。
幻術や身体強化などの、属性外魔法。
その他にも、光魔法や闇魔法。禁止とされている禁忌魔法や、今はほとんど使われていない古代魔法など、様々な種類がある。
階級も複数あり下級魔法、中級魔法、上級魔法が基本。
その他にも、一人の魔力量じゃ使用できない程強力な集団魔法などもある。
俺は少し変わった体質の所為で、生活魔法(子供でも使えるほど簡単な下級魔法。主に日常生活で使う)ですらも、発動に五分ほど掛かる。
科学レベルが前の世界に比べて大幅に低いこの世界では、生活魔法が暮らしの要だ。
つまりこの世界において、俺の生活能力は破滅的ということだが・・・
「確かに食材については詳しくないが、調味料の味はほとんど憶えたから心配ない。洗濯だって、なにも魔法でやる必要もないだろ?『魔法石』で水だけ出して手洗いすればいい」
やり方はいくらでもある。
ちなみに魔法石とは、特殊な石に魔法を込めたもので、魔力障害者(生まれつき魔法の使えない人)が使用したりする。
俺が言葉を重ねるごとに、ミリアが俯いていく。
「だから心配するな。前の世界じゃ一人暮らしだったから家事は得意だし、故郷の料理も懐かしいしな。餃子って料理があるんだが、これがまた美味くて―――」
「・・・・・・・・い・・」
ミリアがポツリと呟いた。
大体想像つくが、わざとらしく聞き返す。
「ん?なんて言ったんだ?よく聞こえなかった」
俺がそう言うと、ミリアは顔を上げた。
俺の目に飛び込んだミリアの表情は―――
「ご、ごめんなさい・・・」
泣いていた。
子供の用に目を赤くしながら、号泣していた。
「わ、私調子に乗っちゃって・・・シンの故郷の料理なら私が作るから!い、いいえ、作らせて!ほ、他にも何でもやるから。あ、あと、欲しいものがあったら言って!シンのためなら何でも手に入れるから!」
ミリアは泣きながら必死に縋り付いてくる。
さっきまでのクールな態度が嘘のようだ。
「だから・・・だから・・・」
ミリアは怯えた目で俺を見ながら、懇願してくる。
「お願い・・・捨てないで・・・」
俺は予想通りの反応が返ってきたことに満足しながら、ミリアとの出会いを思い出していた。
どうでしたか?
今作は息抜き用なので、早めの展開です。
あと、ヒロインは自分好みなので、少し癖があると思いますが、ご了承ください。