私の週一王子様。
社会現象が巻き起こり、話題になりっぱなしのすごい映画が時々あるけれど。
タイミング良く映画館に行けるかと言ったら、そんなことない。
まさに今、そんな状況。
レンタルDVD屋さんに行っても良いのだけれど、返しに行くのが面倒だったりする。
昔は借りて返してって律儀にやっていたけど、返却期限までに見きれなかった時の罪悪感に私は負けたの。
一度それをやってしまってから、もう何年も行っていない。
けれどもその話題の映画が見たいがために、私はレンタルDVD屋さんに足を運ぶことにした。
お目当てのDVDと、気になった数枚を手にレジへ行く。
「あれ?カードの登録、できてないみたいですね」
「最後に借りたの、結構前で……引っ越してくる前の違う店舗だったからかな……」
なんだか恥ずかしくなって、私はそんな言い訳をしてみる。
「無料でできるので、これ書いてください」
アルバイトらしきその男の店員は、私より少し年下だろうか。
「あ、書けました?」
「はい……」
「登録できましたので、これでいつでもご利用できますね!
えーっと、こちらレンタル1週間になります」
なんだかカワイイ店員さんだ、と私は思いながら、DVDの入った袋を受け取る。
帰宅後は真っ先に返却日をカレンダーに書き込んだ。その瞬間、1週間で見れる枚数を数え、計画して借りれば良いのだと気付く。
そして私は今までDVD鑑賞に全くといって良いほど興味がなかったはずなのに、なぜか気になる作品が次々と現れ、それらを借りて観ることに楽しみを覚えていくことになる。
「あ、こんにちは!」
ネットで検索したオススメ映画のメモを頼りにDVDの棚を見ていた私は、急に声をかけられビクリとする。
「驚かせてしまってすみません……」
「この前のレジの……?」
「そうです!今の時間は返却されたDVDの戻し作業中です」
「そうなんですねー……」
私はなんて愛嬌があるんだろう、としばらく彼を見ていた。
「あ、何か探してるんですか?」
「大丈夫ですよ、自分で探しますから……お仕事続けてください」
「お客様のお探しのものを見つけるのも、大事なお仕事なんですよ」
そう言って彼は、私が探していたDVDをパパッと見つけてきてくれました。
「さすがですね」
「困ったときは声かけてください。結構色々観てるし、オススメとかもできると思うので」
その時ふと名札が目に入り、彼の名前が“池谷”ということを知った。
「イケヤさん?」
「あ、イケタニです……タニガワさん、でしたよね?」
「え?あ、谷川です。なぜ私の名前を……?」
「カードを登録するときに、名前書いてもらったじゃないですか。
イケタニ、タニガワってしりとりできるなーって思って覚えてたんです」
池谷さんはそう言って笑う。
「そのしりとり、漢字でしか成立しないじゃない」
私も思わず笑った。
それから週に一度、私と池谷さんはレンタル屋で顔を会わせるようになり、その度に他愛ない話を少しずつするようになる。
池谷さんは私の3つ下で、家はレンタル屋とも私の家とも近いらしく、そこで一人暮らしを始めると同時に、ここでアルバイトを始めたらしい。
いつしか、週一回の会話でほんの少し彼を知れる事が、DVDを借りることと同じくらいの楽しみになっていた。
ある日、借りたうちのSFファンタジーと分類される一枚を観ていたのだが、終わりの数十分という一番良いところで動かなくなった。
「これ、終わりの一番良いところで止まっちゃって……」
「本当ですか、在庫があればそれと交換でお貸しできるのですが……。
ちょっと待ってください。調べてみますね」
池谷さんはそう言ってお店のパソコンを使って調べてくれました。
「これ、うちに一点しかないみたいで……代わりに今日の一枚を無料で貸し出し、ということで宜しいでしょうか……」
「ええ……それで大丈夫です」
「すみません……」
すごく悲しそうな顔をしていたので、
「池谷さんは悪くないですよ。また1週間後に、」
と私は言ってお店を出ました。
「あの、谷川さん!」
「はい?」
「実はさっきのDVD、自分買ったので持ってるんです。あと少しで今日は勤務も終わるので、待っていてもらえませんか?」
あとを追ってきて、呼び止めてくれた事に驚いた上に、なんだかすごいことを言われている……。
その状況に私は戸惑いつつも、うなずきました。
DVDの続きだけでなく、レンタル屋の外での彼の事が、確実に気になっていたからです。
私はそのまま隣にあるカフェへ入り、待つことにしました。
「お待たせしました!」
息を切らしてやって来た池谷さん。
連れられてきたのは、レンタル屋さんの裏。私の家とは本当に程近いところでした。
「SFファンタジーなんて観るんですね。というか私の好きそうなDVDがいっぱい……!」
私は彼のDVD棚を見て驚きました。
「自分、実は小説家志望で……。こういった映画を観て勉強してるんですよね」
「そうなんだ……」
「だから谷川さんが借りてる映画のタイトル見てて、自分と話があいそうだなって思ってたんですよね」
池谷さんはそう言いながら、ちょっぴり恥ずかしそうにしていた。
だから私も、
「週一で池谷さんと話せるの、すごく楽しみにしてました」
と、そう素直に言うことにする。
「……週一じゃなく、会ってくれませんか」
私は彼のそんな告白を受けました。
「ええ、もちろん」
と。
「ねえ、ちなみになんだけど……。
“週一王子”ってどう?小説のネタになりそうじゃない?」
彼は3つ年下で、レンタル屋のアルバイト。
おとぎ話の王子様とはかけ離れているかもしれないけれど、彼は間違いなく、
私の週一王子様だった。