プロローグ
時は西暦2014年春の朝の場面から始まる。
とある一室において耳障りな音を鳴らしだした目覚まし時計を彼は頭まで毛布をかけた中からもぞもぞと手だけを出し、
叩く。
…叩く。
……叩く。
朝からもぐら叩きをしたい訳ではないし、その練習をしたい訳でもない。ただ単に命中しないのだ。
安眠を邪魔する輩に。
その間も耳障りで人の朝の感情を大きく揺さぶってくる輩は一向に静まろうとはしない。
「…あー」
彼はとうとう毛布からその半身をさらけ出し弱々しく声を絞り出しながらその輩を止めにかかった、まさにその時、部屋のドアが蹴り破られた。
「ん?」
「五月蠅ーい!さっさと目覚まし止め!」
声の主は彼の姉、桐谷千鶴であった。飲みという勤めから今まさに帰宅し睡眠を貪るつもりだったのであろう。その顔は酔いが残りつつも目は血走っている。
私の邪魔をしたら殺す、まさにそう言わんとする形相である。
「あー?今、止めようとしただろうがよ…つか朝から五月蠅いのは酔っ払いのあなたなんですけど。それに、思い切り穴も開けてくれちゃってさ…」
弟の桐谷誠也は眠り眼を右手でこすりながら姉に面倒くさそうに声をかけながら全ての元凶である時計の目覚ましを止めることに成功した。こちらも朝の残り僅かな時間を心地よく過ごすべく、つまり二度寝である。それを邪魔されて気が立っているが千鶴の怒り程でもない。親が稚児の悪戯を諭す程度である。
一触即発は避けられぬ骨肉の争いを朝の一番から行おうとでも言わんばかりの千鶴の怒気に対して、まだ十五歳の誠也はそれを受け流そうというか相手にするつもりがないらしい。今日からまた退屈な毎日が始まるのだ。場所は違えど、学校という監獄の始まりだ。それを考えるだけで気分は最悪だ。
「なー、姉貴。」
誠也はベッドの上であぐらをかきながら臨戦態勢の姉貴に向けて声を発した。その眼は何処か悲しげでいて憂いに満ちている。臨戦態勢の千鶴であったが、全てを察した。普段の姉貴に戻って返事をした。
「…なに?」
「出来損ないに生まれたかったよ」