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群れ……イヤ、多くね?

戦闘シーンを書くと、いつも描写が難しく感じる今日この頃。

「――――ここか?」


 辺りを見回し彼女は呟いた。話に聞いた次なる獲物……妖怪が居るであろう森へと、無駄に長い道程を歩いて漸くたどり着いた所である。

 時刻は夕暮れ。遠く彼方に見える太陽は既に僅かにしか見えず、後二十分も経たずに完全に沈み夜が訪れるであろう。

 彼女の姿は何時もの白衣・緋袴に加え手甲装備の万全状態。雰囲気的にも、待ちわびたと言うか、さっさと出て来いやと言った感じ……遠足前日のワクワクしてる子供……と言うには物騒過ぎるか。とにかく、何時もはダルそうな、そして今はギラついたその眼が彼女の心を物語っている。


「妖気も中々に濃い(・・)。これは期待出来そうだな」


 【妖気感知】で感じる周辺の妖気は良い感じな濃度。数値で言えば四十から五十と言った所か。大物……とはいかなくても、それなりに手強い妖怪が居るのは間違い無い。それは、周辺に広がる光景が証拠である。


「何より、森って聞いて来たんだけどな……木が一本(・・・・)も無い(・・・)ってのは、どういう事なんだろうな〜?」


 辺りのすっかり見通しの良い平原を見回しながら、嬉しそうにニヤニヤ笑いながら言う彼女。

 そう、彼女が今居るこの場所には木が一本も見当たらない。かと言って彼女が場所を間違えたと言う事でも無い。それは、辺りの地面に残された無数の掘り返された跡から窺える。その跡は一つ二つじゃ済まないどころか、軽く三桁を超える。

 もしこれが、木が生えていた跡だとしたら――森一つを消滅出来る存在が居る事になる。


「やっべ! テンション上がる!」


 両の拳を胸の前でガンガン突き合わす彼女。そんな彼女を照らす夕日が徐々に弱くなり……夕日が完全に沈んだ。空の色が黒へと変わり星がより見えてくる中、彼女の【気配感知】に引っ掛かるモノが現れる。


(来た!!…………何だ? 一つじゃ無い?)


 掛かった気配は一つでは無く複数。それは良い。半ば予想の範疇だから。しかし問題は――


(――十……二十……三十…………お~~い。どこまで増える?)


――際限無く増え続ける気配の多さである。その多さに呆れている間にも気配は増え続け、三桁に入った時点で彼女は数えるのが馬鹿らしくなり止めた。


(…………来たか……)


 視線の先、月明かりに照らされた平原を覆い尽くすかの様にソレは現れた。一つ一つは体長二十センチ程の大きさ。しかし、膨大な数によって軍隊……イヤ群体となった焦げ茶色の毛に覆われた矮躯(わいく)。日が沈んだ夜に在っても異様に輝く赤い瞳。そして異常に伸びた長い前歯――


「……『旧鼠』、か……」


――『旧鼠』達が彼女の眼前に敷き詰められていた。


(……確かにコイツ等は基本群れで現れるけどよ……この数は異常だぜ? 幾らここが現実世界でも…………まあ、ここに在った森が無い理由はわかったけどな。コイツ等に喰われたのか……森一つ丸ごと)


 油断無く対峙しながら彼女は思考する。ぶっちゃけ『旧鼠』は雑魚妖怪で、群れで行動する上に知能でなく本能で行動する。通常なら幾らでも方法は有る。そう通常ならば……


「……数の暴力ってか……民主主義万歳。でもどっちかってーとオレは――」


 通訳と同時に【縮地】でバックステップ。大きく間合いを広げ腰の『那由多の袋』から取り出した竹串を三本、其々の指の間に挟み――


「――資本主義の方が性に合ってるけどなっ!!」


――纏めて思いっ切り【投擲】した。


「「「「「キュイイイイイィーーーーッ!!!!」」」」」」

「さあ!――Shall(派手)We() Dance(踊ろうぜ!) Grandly!」


 風切り音の後に肉を貫く音。次いで上がる耳をつんざく声、声、声。それを合図に一斉に『旧鼠』達が襲いかかる。大河の奔流の如く攻め寄せる『旧鼠』達を前にして彼女は――


「はっ! とっ! おらっ! 竹串なら幾らでも有るぞ!! 伊達にゲーム時代から団子食いまくってた訳じゃ無ーんだ!!」


――とにかく逃げ回っては竹串を投げ続けていた。

 投げては逃げる、投げては逃げるを繰り返しつつ、数が数なので取り囲まれない様に逃げ回る。幸い、広さは申し分無いので逃げる場所には事欠かない。

 【投擲】に関しては、狙いは付ける必要は無い。視界を埋め尽くす程の大群なので、投げれば取り敢えずどれかに当たる。しかも当たったのが致命傷でなくてもトドメを刺す必要も無い。何故ならば――


(……まあ、後始末の手が省けるのは良いんだけどな。見ていて気分良いモンじゃ無いよな……)


――傷ついて動きの鈍った『旧鼠』を、他の『旧鼠』達が(むさぼ)り喰うからであった。本能で行動する故に、食欲に関して素直に行動する様である。なお、その光景を見て彼女は、暫く肉は食いたくないな~、と決めた。


「つっても、数多過ぎだ――っと?! 危ねっ?!」


 飛び掛ってきた何匹かを、払い落とす様に裏拳で纏めて吹っ飛ばす。そして再び追いかけっこが再会。最も鬼の数が尋常では無いが。


(は~~。わかっちゃいるんだけどな~。チマチマ殺らずに纏めて広範囲で殺れば良いって事はよっ!!)

「『急々如律令』――【火気・業】!!」

 

 逃げながらも術を発動。『旧鼠』達の群れの先頭の一部が火柱に包まれる……が、包まれたのはごく一部。他の『旧鼠』達は変わらずに追いかけてきた。


「……やっぱりか~。どうしたもんか……」


 その事実を目の当たりにして彼女は軽く小首を傾げる。

 彼女の【火気】の陰陽術には広範囲の術も有る。しかし、今のを見た後ではやる気が起きない。如何(いかん)せん、術の範囲よりも向こうの群れの大きさの方が広すぎる。そこをどうにかしなければ、全滅は難しい。下手すれば向こうの数とこっちの霊力の消耗戦になりかねない。

 仮に勝っても、この世界ではゲームの様に死体がすぐに消える訳では無い。以前『踊り首』とヤりあったときの様にタイムラグが存在する。焼死の場合、そのタイムラグはどれだけの長さなのかはわからない。最悪、燃え盛る『旧鼠』達に集られて無理心中……と言う事も。

 それ以外に、取って置きも有るには有るが自分も巻き込まれるので使うのは躊躇(ためら)われる。


「どうすっかな〜〜――ってぇ?!」


 逃げ回る彼女の正面に回り込む『旧鼠』達。それを、その数を見て彼女は一旦立ち止ざるを得なかった。そしてそれを機に他の『旧鼠』達も集まって、完全に取り囲まれてしまう。取り囲んだ『旧鼠』達の、その宵闇に光る無感情な赤い眼。一斉に襲われれば骨まで喰い尽くされるこの状況で彼女は――


「上等っ!! 『急々如律令』――【火気・遮】!! アンド『急々如律令』――【陽気・纏】!!」


――告げると同時、先ずは彼女の背後に炎の壁が出来上がり、『旧鼠』達が思わず距離を取る。次いで彼女の身体が青白い薄い光りで覆われる。


(これで背後は気にせずにすむ――来やがれっ!)


 取り出した包丁(以前『踊り首』をぶっ刺した物)を右手に逆手で持ち、両手を胸の前で構える彼女。それに呼応するかの様に飛び掛ってくる『旧鼠』達を、避けれるモノは最小限の動きで避けて、包丁で斬ると言うよりもブッ叩く様に薙ぎ払い、拳や手刀で打ち払い、足裏に感じるイヤな感触を無視して踏み潰す――自分の限られたテリトリーを守りながらの乱舞。彼女の居るその場所だけは、台風の目の様に『旧鼠』達はその侵入を阻まれる。

……だが、多勢に無勢。どんなに頑張っても白衣・緋袴に喰いつく『旧鼠』達は現れる――しかし、そんな『旧鼠』達は彼女の身体を覆う青白い光に弾かれる。


(【纏】と【遮】のお陰で何とかなってるが、これじゃジリ貧だな。【纏】も【遮】もその内切れるし、何より体力が持たねぇ……)


 内心でどうするか考え続ける彼女は――前方で大量の『旧鼠』達が集まるのを見て、口の端がヒクついた。先程までの規模では無い、何十――イヤ、百を超える『旧鼠』達が一塊(ひとかたまり)になり、文字通り生きた津波となって襲いかかってくる。


「やるなっ! だが、甘い! 【縮地】ジャンプ!!」


 逃げ場の無い彼女は、そのまま宙へと跳んだ。【縮地】で後押しされたその身体は普段よりも速く、そして高く跳び、津波となった『旧鼠』達を跳び越える。現代日本なら間違い無くオリンピック候補になったであろう見事なジャンプを披露した彼女……しかし、それは自殺行為とも言える愚行。跳べば後は落ちるだけ、地に落ちれば待ち構えるのは数百の軍勢。ソレを下に見ながら彼女は告げる――


「『急々如律令』――【土気・壁】!」


――土中から現れる土壁。『旧鼠』達を掻き分けるかの如く出て来たその土壁を足場代わりに、彼女は再び跳ぶ。


「『急々如律令』!――『急々如律令』!――もういっちょ『急々如律令』!」


 次から次へと現れる土壁を飛び石伝いに跳ぶ彼女。『旧鼠』達も負けじと土壁を登ってくるが、彼女の方が一手速く捕らえきれない。


「――っしゃあ!!」


 数個の土壁を足場に、何とか『旧鼠』達の包囲網を脱した彼女。後ろを振り返れば、自分を追って来る『旧鼠』達の赤く光る眼、眼、眼。何処ぞの腐海の主を思い出させる光景。


(――仕方無ぇ! コイツ等なんかに使うのは勿体無ぇが、背に腹は変えられねぇ!!)


 少しの諦めの後、覚悟を決めた彼女は腰の『那由多の袋』から取り出したソレを両手で引っ掴み――


「レアアイテムなんだ! じっくり味わえよっ!! 喰らえ――」


――遠心力を利用したアンダースローで高く放り投げられた、一抱えもある大きさのソレは――










「――『松阪牛』!!」


……ドサッという音と共に『旧鼠』達の群れの中に落ち、本当に本当〜に文字通り(・・・・)喰らった。今迄彼女を追い掛けていたのも忘れて、全ての『旧鼠』が我先にと本能に準じて(むさぼ)りついている。

 『松阪牛』を中心にどんどん大きくなっていく焦げ茶色の肉塊から距離を取り、奴等の意識の外へと逃れた暫しの猶予に、額の汗を拭いながら息を整える彼女。正直、(あと)数十秒もすれば肉は食い尽くされるだろう。あっと言う間に減っていっているのが、『松阪牛』自体が見えなくてもわかる。肉球が段々と内側に縮んでいるのだから。


「ま、そんだけ有れば十分だけどな。『結界』――起動!」


 包丁を仕舞う代わりに『那由多の袋』から鉄杭を取り出すと自分の周りに打ち込む。そして告げると同時に彼女を囲う様に、鉄杭を基点とした歪な円を描く光壁が出来上がる。


「最後の晩餐なんだ。やっぱ肉は生よりも――」


 彼女は両手を胸の前で組み――


「――ステーキだよな! 臨・兵・闘・者・皆・陣・裂・在・前――【火気・燎原】!」


――『切紙九字護身法』で発動した術が、『松阪牛』とそれに集っていた『旧鼠』達を周辺諸共(もろとも)火の海にした。


「焼き加減はお好みで、ってな」


 炎に焼かれ苦しみのたうち回る『旧鼠』達。全力で走り回るモノ、地面を転がり回るモノと居るが、その全ての共通点は何時れ力尽きて動きが止まると言う事。何匹かの『旧鼠』は道連れだとばかりに彼女に襲いかかって来るが、『結界』に阻まれその御自慢の長い前歯は届かない。

 辺りに漂う肉の焦げるイヤ〜な匂いに鼻を押さえながら、彼女は辺りに燃え盛る炎の中のある一点を凝視し続ける――【妖気感知】が強く感じる一点を。


「…………」


 視線の先、炎の中で蠢くモノが居る。そして、肉の焼ける音・『旧鼠』達の悲鳴に埋もれる様にして微かに聞こえる肉を咀嚼(そしゃく)する音。


(――――やっぱり居やがったな――)


 術の時間が切れ激しかった炎が一瞬にして消える。後には焼け焦げた地面と、焼け死んだ『旧鼠』達の大量の『妖核』――そして一匹の妖怪が残った。『旧鼠』達よりも遥かに大きい大型犬サイズの身体を黒い毛で覆われている個体――


「――『鉄鼠』」


――この群体……軍隊の指揮官が戦意に満ちた眼で彼女を睨み付けていた。


(どうりで、あんだけの数が集まってた筈だ。コイツが居たんだからな)


 自分への強い眼光をその身で心地良く受け止めながら、彼女は思考する。『鉄鼠』の基本的な強さは正直それ程では無い。しかし『鉄鼠』は同族に擬態(・・・・・)し、同族を指揮(・・・・・)し、そして同族を喰ら(・・・・・)い己の活力(・・・・・)にする。今、目の前に居る『鉄鼠』が先程まで炎に巻かれていたのに、体毛の所々が少し焦げてる程度なのは、あの炎の中、配下の『旧鼠』を喰らって傷を回復させたのであろう。あの状況下でどれだけの『旧鼠』を喰らえたのかはわからないが、基本ステータスがかなり底上げされていると見て良いだろう。


「第二ラウンド開始ってか――Shall(もいっ) We(ちょ) Dance(踊ろうぜ?) Again?」


 宣言と同時、『那由多の袋』から取り出した竹串を両手のそれぞれの指の間に持ち【投擲】する。空を切り飛来する六本の獲物。それを前にして『鉄鼠』は――そのまま突進して来た。


「――っと? 牽制にもならねえか……」


 放った竹串は『鉄鼠』に一本も刺さらずに弾かれる。それを見届けると彼女は、自分の直感の赴くままに後ろに跳んだ。安全な『結界』の中に居たというのに。

 そして『鉄鼠』が『結界』に接触し――パリンと言うと共に光壁が砕け散る。光壁の欠片が宙に飛散する中、『鉄鼠』は勢いを落とさずに彼女目掛けて突き進む。


「……小規模とは言え『結界』をアッサリ破壊しやがって――良いな」


 ニヤリと笑って身構える彼女。『鉄鼠』が勢いのまま飛びかかるのに合わせて――彼女は身を引いた。右足を軸に、左足を身体ごと引いて半身になり『鉄鼠』の体当たりを躱す。目の前を右から左へと通り過ぎて行く『鉄鼠』の、そのガラ空きの横っ腹に躱しつつ拳をブチ込む。


「――っ?! 固ぇっ!」


 拳に伝わる感触――肉質に思わず声が出る。分厚いタイヤを殴ったかの様なギュッと詰まった感触。躱しながらの腰の入っていない一撃とは言え、打った拳が逆に弾き返される。


「ゲーム内で殺りあった時とは明らかに違ぇ。コイツ……いったい何匹の『旧鼠』を喰いやがった?」


 何の支障も無く着地した『鉄鼠』を見ながら、彼女は相手の手強さを上方修正する。


「……打撃は効き目薄か。なら――――っで?!」


 と、『鉄鼠』を注視しながら次の手を考えていた彼女が、一歩足を踏み出した瞬間――すっ転んだ。思いっ切り足を滑らせ派手に腰を地面に打ち付ける。いったい何故? と言う疑問は無い。答えはわかりきっている。原因は周囲に散らばっている死んだ『旧鼠』達の大量の『妖核』、ビー玉サイズのそれを踏んづけた事。


(しくじった…………何て、悠長な事言ってる場合かっ?!)


 地面に寝転びながら打ち付けた腰を(さす)る彼女。しかし、こんな絶好のチャンスを逃す『鉄鼠』では無い。地面に倒れている彼女の喉笛に目掛けて飛び掛って来るのを――


「――舐めるなぁーーっ!!」


――寝転んだ姿勢のままで右足を振り上げる。『鉄鼠』の柔らかい腹部に当たった右足に力を込めて巴投げの要領で投げ飛ばす。飛ばされた『鉄鼠』は背中から落ちるも、何のダメージも無く起き上がる。

 その隙に彼女も起き上がり身構える。


(下手に動けねぇな、これじゃ……)


 周囲に散らばっている『妖核』の量と範囲に舌打ちが漏れる彼女。辺り一面にあるソレを踏まない自信は無い……つまり、この場を下手に動けない。

 それに対して『鉄鼠』は、多少踏んづけてもすぐに体勢を立て直す事が出来る。二本足と四本足の差がここに出ている。


「『急々如律令』――【火気・業】!」


 ならば、と術を使うも効果は芳しくない。『鉄鼠』の速い動きに術がシッカリと当てられない。精々(せいぜい)かすり傷レベルである。


(広範囲の術でいくか……イヤ、今のコイツ相手じゃ決定打にならねぇか。そもそも、印を組んでの術じゃねぇと、あまり意味無ぇな。かと言って、今やったらその隙を突かれるだろうな)


 頭を掻きながら、どうすっかな〜? と言った表情を見せる彼女。そんな彼女に『鉄鼠』は真正面から突っ込んで来る。策も駆け引きも何も無い純粋な本能的行動。シンプルだが、現状では有効な攻撃を前に彼女は――真上(・・)に跳んだ。


「再び【縮地】ジャンプ!」


 数メートルの距離を跳び上がった彼女……しかし、それで何かが変わる事は無い。上がったら落ちるだけの一時凌ぎに過ぎない逃避。『鉄鼠』も彼女が突然取った不可解な行動に思わず足を止めた。


「それを待ってたぜ! 『急々如律令』――【土気・壁】!」


 告げて、土壁が『鉄鼠』の真下(・・)から勢い良く突き出てくる。くの字の状態で腹を押し上げられた『鉄鼠』が宙に放り上げられる。『鉄鼠』は何とかしようとジタバタと四肢を動かすも、空中で藻掻いているだけで何も変えられない。


「『急々如律令』――【陽気・念糸】!」


 そんな『鉄鼠』に彼女の念糸が絡み付き、思いっ切り引き寄せられる。そして彼女は逆手に持った包丁を両手でギュッと握り締めて、大きく頭の上に振りかぶり――


「――フンッ!!」


――引き寄せた『鉄鼠』の頭部に、叩き付ける様にブッ刺した。返り血が白衣と頬を濡らすが彼女は気にも止めない。そのまま自由落下して、地面に落ちた衝撃で更に深く包丁をねじ込む。

 ビクンッ、と一際大きい痙攣を起こし『鉄鼠』の動きが止まる。そして――黒い霧となって文字通り霧散した。後にはガチャポンサイズの大きめな『妖核』と、一枚の毛皮が残された。


「……まあまあだったけど、やっぱこの程度じゃな……」


 頬に付いた返り血を拭いながら呟く彼女の声には、明らかな失望が含まれていた。


「でも、少し羨ましいな。オマエ等、本能に忠実って事は余計な事を考えずに済むって事だろ…………まあ、何にしても……」


 そして彼女は辺りを見回して―― 


「……回収すんの、面倒臭っ」


――ボヤきながらも、大量の『妖核』を地面から拾い始めた。

ご愛読有難うございました。


本日の解説。


――――『旧鼠』――――


低級『妖怪』。

体長二十センチ程の大きさで基本的に十から二十ぐらいの群れで行動する。知能は低く、本能で動き行動を読みやすいので、罠を仕掛けやすい。


――――『鉄鼠』――――


『旧鼠』の上位妖怪。

基本的には『旧鼠』とあまり変わらない、体毛の色が違うぐらいである。しかし、【擬態】【同族支配】【同族喰い】のスキルを持ち、『旧鼠』の群れを支配し、擬態で姿を隠し、『旧鼠』を喰う事でステータスを上げる事が出来る。場合によっては中級・上級妖怪に手が届く事も有り得る。

ゲーム内では、滅多に出会えないがかと言ってレアアイテムを落とす訳でも無いのでレアモンスターと呼べるかプレイヤー達の間で意見が分かれる妖怪である。


――――【火気・遮】――――


【陰陽術】の一つ

指定した場所に炎の壁を生み出す。ステータスとスキルの習熟度で出来る炎壁の大きさ・威力が変わる。

土壁とは違い、攻性防壁な術。無理矢理突破する事も可能だが、当然その代償もデカい。


――――【陽気・纏】――――


【陰陽術】の一つ。

自分の身体に防護膜を張る術。防護膜自体は一定時間経過するか、一定量のダメージを受けると消え、ステータスとスキルの習熟度で防護膜の防御力・持続時間が変わる。

前衛・後衛どちらでも需要のある使い勝手の良い術だが……全身が淡く光るのでプレイヤーの厨二心をくすぐる術でもある。


――――『松阪牛』――――


極レア食材アイテム。

作者も食べた事が無いので説明出来無い……チクショウ。


――――【火気・燎原】――――


【陰陽術】の一つ。【火気】系の中級術。

指定した範囲に一面、炎を生み出し殲滅を目的にした術。炎自体の威力も高く雑魚を纏めて倒すのに適しているが、術の威力が大幅に固定されている為、どんなにステータスを上げても与えるダメージ量に変化が無い。

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