表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
61/61

愚者……イヤ、あ~~

ギブミータイム。

アンド、カウントダウンスタート。

「――ったく、何でこんなメンドくせー事、しなきゃいけねーんだよ」


 気怠さ六割、イラつき三割、眠気一割、合わせてやる気ゼロ割な巫女が街道を行く。

 口を開ければ出るのは愚痴と溜め息しかない。それもその筈、全くもって不本意な事をやらされているのだから、仕方がない。


「あ〜〜、ウンと言うんじゃなかったぜ……っつっても、あの時は他に手、無かったし」


 思い起こすのはつい先日の一幕。孝明と『天狗』が揃って彼女に懇願してきた事。恥も外聞もかなぐり捨てて、最後には鼻血を流しても彼女の脚に縋り付いてきた漢二人の姿。

……何でたかが巫女一人の助力を得る為だけにそこまでするのか、非常に疑問に思わざるを得ないのだが、そこまで人手が足りないのであろう。多分、恐らく、メイビー。

 まあ結局、彼女はこうやって例の一件。『八岐大蛇』の卵に何かしらしようとしている不審人物の探索を手伝っている。手伝っているのだが……


「……そもそも、()()を探しゃいいんだよ」


……如何(いかん)せん、目途が立たない。一応探す範囲の地図を受け取ってはいるが、何処を・誰を探せば良いのか具体的にはわからない、故に手当たり次第の人海戦術を取るしかない。

 だから人手が必要なのはわかるが、巫女一人増えた程度で何が変わるのか? と彼女が思うのは仕方ない。


「全く……アイツ等の方はどうだか」


 ちなみに今回の捜索、『後追い小僧』達も参加している。要らんと言ったのだが、半ば強引に。目的は当然、その功績で『八岐大蛇』との戦いに参加させてもらう為であろう。


「……でも、犯人を見っけたら『八岐大蛇』の孵化が防がれるから、結局戦いに参加出来ねーんだけど、そこをわかってんのか? アイツ等」


 本末転倒と言えよう。しかし彼女は『後追い小僧』達に告げたりしない。どうせ見つけられるとは思っていないから。


「ハァ〜……ん? え〜と、こっちか?…………ちょい待った」


 そうこうしている内に、分かれ道に突き当たる。貰った地図によれば右であるが、いざ行こうとした瞬間、彼女の【妖気感知】に感あり。反対の左の先から妖気を感じる。

 それを感じて彼女は迷う事無く左の道を進む。既に地図は風と共に去った。躊躇う事も一切ない力強い一歩で、全速前進。


「例の一件と関わりが有るかもしれねーし、探査、探査だ」


……他人が聞いても、と言うか本人自身も説得力皆無だと自覚有る言葉を呟きながら、彼女は盛大に明後日の方向へと突き進むのであった。




――――Now・(進行)Going(中だぜ!)――――


「…………ヤベェ……当たりなのか外れなのか、判断ムズイ」


 【縮地】で道程を大幅に短縮し、いざ目的地である小山にたどり着いた彼女は、込み上げてくる吐き気と絶賛格闘中であった。

 原因は至極単純明快。辺りの妖気濃度が濃すぎる為である。以前にも一度味わった事が有るから多少は耐性が付いているが、ぶっちゃけ気休め程度でしかない。


「……つーかコレ、本当に以前と同じなんじゃねーのか?」


 水の中を歩いているかの様に感じるほど、肌に圧迫感を感じさせる濃密な妖気の中を歩きつつ彼女は呟いた。

 ここまでの妖気濃度なのに該当すべき『妖怪』の存在は感じられず、かと言って連中が死後に残す『妖核』も見受けられない。

 全くもって、前回と同じに見える。


「……また『鵺』が居るんじゃねーだろうな? 殺り合うのは良いけど、全うな身体で出てきて欲しいもんだ」


 思い出すのはカオスの権化と言える……としか言えないキメラ『妖怪』。どこかの馬鹿な神がサイコロでも振ったのか、存在自体が訳わからんモノ。

 彼女的にはハズレ要素がかなり高い分類に入る『妖怪』なので、出来る事ならもっとマシなのに遭いたいのが本音である。


「あ〜〜気分悪ぃ……引き返した方が…………ん?」


 いい加減、胃の機嫌と格闘するのが億劫になってきたので、ハズレと断じて退散しようと思い始めた彼女の【気配感知】が何かを捉える。

 微かにだが確かに感じる気配。だがここで問題なのは、感じるのが気配()()と言う事であろう。周辺の妖気が濃密過ぎる影響で、対象が『妖怪』なのか生物なのか判別出来ない。もっと近づけばわかるのであろうが、そんな悠長に対象が待っていてくれる保障は無い。


「なら――」


……ここで通常の思考を持つ者であれば、慎重かつ急いで行って確かめる、と言った手段を取るであろう。

 しかし、今ここに居るのは彼女である。そんな()()()()事をする筈がない。


「――コイツで――」


 腰帯に括り付けられた便利な収納小袋――『那由多の袋』から取りい出したるは、緑色に艶めく細長い武器。彼女お手製の竹槍。

 竹を斜めに斬っただけでなく、先端を鋭く削ってある使用者の事を考えた細かな心配りが彼女の(殺し)愛を感じさせる逸品。

 (おもむろ)に、右手に逆手に握ったソレを肩に担ぐ様に構え、右足を大きく後ろに引き――


「――逝っけぇぇぇっ!!」


――大きく振りかぶって【投擲】した。

 【気功】で上乗せられた膂力も相まって高く放たれたソレは弓なりの軌道を描き、一直線に対象へと目掛けて飛来していき――


「――ぁぁぁぁっ?!!」

「――ッチ! 外したか」


――何者かの悲鳴が高く響いた。

 その声色から恐らくは『妖怪』ではなく人間だと判断出来たのだが、彼女にして見ればそんな事よりも命中しなかった方が不満だったらしい。大きく舌打ちしている。


「で? こんな事をしている奴は、どんな酔狂なんだか」


 相も変わらず濃密な妖気の中を小走りに進む。一分とかからずに辿り着いたそこには地に刺さった竹槍と、その横で尻もちをついた一人の人物が居た。


「ヒイ〜、ハァ〜」


 荒い息を吐く一人の女性。着ている服は白衣・緋袴と彼女と同じであるが、その容姿はまるで違う。

 腰まで伸びた長い黒髪は手入れをせずに一体どれだけの時が経ったのか、艶一つないザンバラ髪。眼に見える肌も荒れが酷く、ひび割れ・かさついている。眼はギラついており、眼の下は隈が酷く、頬はこけており、どう考えても和風ホラーの登場人物がそこに居た。

 だが何よりも重要な点は、その右手に握られている様々な『妖核』と、傍らに転がっている『妖怪』吸引アイテム――『百鬼殺香』が、この件での現行犯だと物語っている。


「……あ゛〜〜〜〜?」


 だが何故か彼女の視線はそう言った物品よりも、その人物を捉えて離さない。その表情もどこか曖昧。自分でも答えが良くわからないのだが……()()()()()()()気がする。

 記憶の底を洗う彼女であったが、ふとその視線がある箇所を見据えた瞬間に一気に思い出した。相手のその()()()()()に。


「あ〜〜!思い出した! オマエ以前アッサリ返り討ちにしたあのネカマじゃねーかっ!!」


 思い出したのはこの世界に来て間もない頃、己の拠点である神社を横取りに来て、完膚無きまでにやられて逃げていった『式神』使いのネカマ。

 あれから姿を見ていない上に、アレコレ色々有りすぎた所為ですっかり忘れていたのだが、記憶の中にある姿と違い過ぎる有様に何があったのか非常に気になる。


「っ!」

「おっと?!」


 突然ネカマが突き刺さったままの竹槍を引っこ抜いて力任せに振るう。そんな大振り、当たる筈も無く彼女はかるくバックステップで避ける。

 しかしそれで充分。距離を開ける事に成功したネカマは、立ち上がって彼女を睨み付ける。


「また貴様かっ!!」

「ああ、またオレだ。それが何か?」


 此処で出会ったが百年目な相手との予想外な邂逅と、小指で耳をほじる完全マイペースな変わらぬ様子に、過去の事を思い出しネカマの怒りが沸騰しそうになるが寸での所で堪える。


「つーか、オマエ何してんだよ? ほかの所でもコレを使ってただろ? そんなに『妖核』集めて何する気だ?」


 傍らに転がったままの使用済みの『百鬼殺香』を指差して彼女が尋ねる。

 その事にネカマは内心でほくそ笑む。ネカマからすれば此処での要件は既に済んでいる。確かに眼の前のエセ巫女には恨みがあるが、今はまだその時ではない。だからどうやって逃げようかと考えていたネカマからすれば、彼女から話し掛けてきた事が幸い。別の事に気を向けられるから。


「……必要だったからだ」

「何に?」

()()にだ」

「何のだよ?」

「…………」

「? ??」


 意味不明な単語が出てきた事に彼女が首を傾げる。制御、制御と口の中で呟いている内に、彼女はふと眼の前のネカマが『式神』使いだと至る。

 しかしそれでも疑問は尽きない。ゲーム『九十九妖異譚』において、『式神』は基本忠実である。自分で制御出来ない『式神』はそもそも呼び出せない。

 ならば、()を制御するのか? しかも恐らくその為に大量の『妖核』を集めているのであろうから、その()()はかなりの大物である筈。しかしそんな大物、彼女には心当たりが――


「――あ」


――あった。それも現在進行形で。

 今、彼女がこうして神社の外に出ている理由の原因。『妖怪』達と陰陽寮の連中もあっちこっちで忙しそうにしている元凶が。


「……『八岐大蛇』か?」

「?!」

「当たりかよっ?! つーかオマエか?! アレ蘇らせようとしてるのは?!」


 ネカマの狼狽に、むしろ彼女の方が驚く。こうもアッサリ犯人が見つかった事と、巡り巡ってみれば、事の発端は自分じゃね? 何て事に気がついたからである。

 コレどう報告すりゃ良いんだ? などと低く呻く彼女を他所に、ネカマは一刻も早くこの場からの撤退を余儀なくされていた。

 どういった経緯かはわからぬが、自分のしようとしている事が知られている以上、計画を早めねばならない。一番良いのはこの場での彼女への口封じであろうが、かつての体験から敵わない事は知っているので断念せざるを得ない。

 何か知らないが考え込んでいる今がチャンス。懐に左手をゆっくり伸ばしていく。


「――って言うか、アレを制御なんて出来る訳ねーだろ?」


 彼女がポツリと零した言葉にネカマの動きが止まる。その声にはハッキリと馬鹿にしたモノが含まれており、ネカマの動きを止めるのに十分な威力を持っていた。


「イカロスじゃねーんだし……無理なものは無理だっつーの」

「……るんだよ」

「あ?」

「出来るんだよ! 詳しくは教えてやらないが、『妖怪』を使役出来るレアアイテムが有るんだよ!」

「はっ?…………イヤ、そんなのあってもムリだろ? 相手は神話級の化け物だぞ?」


 ネカマの言葉に彼女の疑問は更にデカくなっていく。そんなアイテムは聞いた事ないが、まあ有ってもおかしくはないであろう。

 しかし、たとえそんな物が有ったとしても、やはり不可能と思わざるを得ない。

 どう考えても、個人レベルの物で使役・制御出来る程、『八岐大蛇』は甘くない筈である。

 だが彼女を差し置いて、ネカマの言葉は続く。


「ステータスも上げた。『妖核』で極限的にまでアイテムも強化した。これなら()()()は出来るんだよっ!!」

(……駄目だこいつ、完全にゲーム脳から逸脱してない。FF世界でDQ世界のステータスを高らかに誇ってる感じだ。ここはデジタルの世界じゃねーってのに)


 根本的な所で勘違いしている大馬鹿者を前に、彼女は沈黙せざるを得ない。

 自分の価値観を疑わない人間は他人の価値観を受け入れない。それはその人物にとっては有り得ない事だから。

 それはこのネカマも例外ではなく、失敗の可能性を考えない。それは有り得ない事だから。そんな奴にどう言葉を掛ければ良いのか、答えが出ないしする気も無い。


「じゃあなっ!!」

「…………」


 そんな彼女の隙を突いてネカマは『転移符』を使いその場から消える。

 後に残された彼女は、ガシガシ頭を掻きながらアレコレどうしようかと考えた後に一枚の符を取り出す。


「まさかとは思うが……追うか。報告は、知らん」


 そうして、彼女もまた『転移符』を使い、その場から消えるのであった。

ご愛読有難うございました。。


本日の解説はお休みです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ