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助力……イヤ、メンドくせーし

……おかしいなぁ。

GWなのに、ちっとも休んだ気がしないぞ?

 雲に覆われ、月も星も輝きが見えぬ漆黒の夜空。街灯と言う文明の利器など存在せぬこの世界で月が見えぬと言う事は、比喩でもなんでもなく夜は一寸先も見えぬ闇と化す。

 草木も眠る丑三つ時。それは人の時間帯では無く、別のモノの時間帯。それを示すかの様に、活動するモノが居た。


「――――」


 漆黒の空を、夜風に吹かれるままに飛ぶ存在。ここは己が領域だと言わんばかりに大きく翼を広げ、その威風を誇るかの様に悠然と進む。

 明かりなど無くとも迷わず進むその存在は、程なくしてその視界に収めた場所を確認した後に、敷地内へと余計な音を一切立てずに軽やかに着地する。

 周囲を見回し、こんな夜更けなら当たり前ではあるが誰も居ない境内を見た後にその存在――『天狗』は誰か居るであろう社務所へと脚を進める……


「「「「敵襲ぅーーーーっ!!」」」」

「――?!!」


……前に襲撃される。

 突如境内に轟く掛け声と共に現れる四つの影。その影達は縦一列の隊列を崩さずに、文字通り一直線に『天狗』へと迫り来る。

 完全に不意を突かれた形の『天狗』は一瞬時が止まる。その間隙を突くように接近する四つの影――近頃流行りの『後追い小僧』達は、既に己の間合いに『天狗』を捉えている。そして四身一体、渾身の連撃が光ってうなる。


「「「「てぃやぁーーーーっ!!」」」」

「なんのっ!!」


 だが『天狗』も然る者。伊達に上級『妖怪』をやっていないし、伊達に長生きしていないし、伊達に修羅場を潜っていない。


「狙いが甘い!」

「何っ?!」


 『後追い小僧』の唐竹割りを半身になって躱す。意表を突いたのに余りにもアッサリ躱された事に一瞬呆然とした『後追い小僧』の、その隙を突いて『天狗』は横っ面を叩いて倒す。


「太刀筋が素直過ぎるっ!」

「何ですとっ?!」


 続けて『袖引小僧』の袈裟斬りを、フェイントを交えた左右への小刻みなステップで華麗に躱す。予想以上な機敏な動きに眼を剥いた『袖引小僧』の、無防備な脚を払って『天狗』は転ばす。


「踏み込みが遅いっ」

「ワイを踏み台にしおったぁーーーーっ?!!」


 更には『提灯小僧』の身を低くしての膝を狙った脚払いな斬撃を、『天狗』は飛び上がり躱しつつその肩を踏みつけて回避。踏みつけると言うよりも叩きつける様な蹴撃に、『提灯小僧』は前のめりに倒れる。


「握りが弱いっ!」

「っ?! 不覚!」


 最後に『瓢箪小僧』の宙に居る『天狗』への刺突。誰からの入れ知恵なのか、なんちゃってな牙突を『天狗』へと突き出すが、『天狗』は持っている羽扇子で木刀の横っ腹を叩いて弾き飛ばす。ついでに振るった羽扇子の起こした風で、『瓢箪小僧』を吹き転がす。

――終わってみれば圧勝。隙を突いて挑んだ四者は呆気なくあしらわれ、襲われた『天狗』は傷一つなく、むしろ返り討ちにされた方も無傷と言った事実が互いに力量の差を物語っている。

 そうして『天狗』は華麗に着地――


「まだまだ青い――のぅわっ?!!」


……と言う訳にはいかなかった。

 気配も妖力も感じさせずに突如現れた、空気を読んで期待に応えてくれる真ん丸な毛玉。通称地雷『妖怪』な可愛い曲者――『すねこすり』を踏んだ事によって脚を滑らせて見事にすっ転んで後頭部を強打した。


「…………」

「「「「…………」」」」


 そして静かになる空間。夜風が吹き抜ける音に釣られる様に、『すねこすり』が社務所の方に転がって消える。

 後に残された『天狗』は、未だに後頭部を押さえて地面で悶絶中。

 そして『後追い小僧』達はと言えば、木刀片手に『天狗』を取り囲んで――




――――……Now・(フルボッ)Doing(コ中だぜ……)――――


「……上級『妖怪』である『天狗』がこうも見事にやられるとは……リ○クの眼でも見通せなかっただろうな、コレ」

「言わぬが花……と言う言葉を知っておるか?」

「知ってるけど知らん」


 開けて翌朝。社務所の一室で膝を突き合わせて話し合う彼女と『天狗』の姿があった。

 朝早くに起きた『倉ぼっこ』が、死体(仮)な『天狗』を見つけ彼女に報告。そして彼女から気付けと言う名のボディーブローを貰った『天狗』は目覚め、事情を説明。現在に至る。

……ただし『天狗』の姿はボロボロのままである。着ている服もそうだが眼に見える肌も痣が多く、自慢の長い鼻も微妙に曲がっている気がする。


「つーか、ボロボロになるならオレの知らない所でやってくれ」

「……彼奴等の所為なのだが?」

「居候共がやってる事なんて知るか。そこまで面倒見てられねーし」


 視線の端に映る『後追い小僧』達は、部屋の隅で絶賛撃沈中。『天狗』を倒した事によるドヤ顔が、あまりにもウザかったので一発ずつ拳骨を落としておいた為である。間違っても、『天狗』に対してどうこうした所為では無い。


「……久々に来てみれば、何をやってるんだか」

「ん? 何だ? また来たのか?」

「……そして変わらずの態度、か」


 襖を開けて入って来たのは陰陽師の孝明。報告の為に陰陽寮に戻っていた筈の彼が再び姿を現した事に、彼女は鬱陶しそうな態度を隠さない。

 そしてそんな彼女の態度に、呆れつつも何故か納得してしまう孝明。愛は要らない、しかしせめて普通に受け入れる位の態度は取って欲しいと、心の中で切に願う孝明であった。

 だが今はそんな事おくびにも出さず、眼の前で……何故かボロボロな『天狗』に微妙な視線を向ける。まあ、上級『妖怪』である筈なのに、こうもボロボロな姿であれば、色々と思っても仕方あるまい。


「こ奴は?」

「陰陽師だ。先の一件は伝えてある」

「おお! そうであったか!」


 『天狗』の問いに簡潔に答える彼女。その答えを聞いて、『天狗』の表情が変わる。胡乱気から歓喜へ。


「陰陽寮には伝達済みだ。完全に話しを鵜呑みにした訳ではないが、もしも本当に事が起こった場合に備えて動いている事は確約しよう」

「かたじけない」


 孝明の言葉に一分の隙も無い見事な礼を見せる『天狗』。そして視線を交わす両者。何か知らんが漢の友情が芽生えるシチュエーション。

 ただし……


「……で? オマエ等、何しに来たんだよ?」


……彼女からして見れば、ウザい他所でやれ! の一言に尽きる。

 空気をぶち壊された両者は気を取り直すように軽く咳払い。そして視線で促された『天狗』の方から、今回の来訪の要件を彼女に告げる。


(くだん)の事で、助力を頼めぬかと思って来たのだ」

「あ?  助力って何の?」

「『八岐大蛇』の卵に手を出した馬鹿者、そ奴を見つける為の助力だ」

「ん? そっちもか?」

「? お主もか?」

「どう言うこった」

「陰陽寮としても、少しでも人手が欲しいんだ。だから、例の卵に手を出した奴って言うのを探す手助けを頼みに来たんだ」


 何とも数奇な事に、両者の頼みは一致。ならば話は早いと彼女へと顔を向ける両者。

 期待に満ちた二対の瞳に迫られた彼女は簡潔に一言。


「イヤ」

「「…………」」


 その言葉に揃って崩れ落ちる両者。ただ、どちらかと言えば孝明にしてみれば予想の範疇。彼女がこう答える事は。

 そこそこ長い付き合い故に彼女の心理や行動理念はわかってる。わかりたくは無かったけどわかってしまう。

――このエセ巫女は、むしろ『八岐大蛇』との闘いを望んでいる事に。


「何故ゆえに?」

「つまんねーから」

「…………」


 『天狗』がその言葉で更に轟沈。小破・中破を通り越してのいきなりの大破。言葉の砲弾は、かくも容易く上級『妖怪』を沈めるものであった。


「……良し、わかった」


 (おもむろ)に立ち上がる孝明。正直、『天狗』よりかはわかっているつもりである。彼女の説得方法を。


「俺と勝負しろ。俺が勝ったら手を貸してくれ」

「――え〜」


 効果はイマイチだ。彼女は孝明の言葉に面倒くさそうな表情を浮かべる。彼女の中では弱い分類にされている事実に若干挫けそうになるが、何とか踏み止まる。


「ならば、(それがし)も混ぜて頂こう」


 その話しに『天狗』も乗っかる。承諾さえ得られれば手段など何でも良いと開き直ったのか、彼女の言葉での説得を諦めたのかはわからないが、わかっている事は今ここに血気盛んな両者が居る事。


「オマエ等さぁ……人ん家に勝手にやって来て勝手な事を言ってる自覚あんのか? ああもう、メンドくせーや。かかって来い」

「「応!!」」


 こっちも言葉での説得を諦めたのか、彼女が投げやりに答えて手招きする。

 それに応え、孝明・『天狗』が戦闘態勢。孝明は、以前の俺とは思うなよ! と自信満々な態度を崩さず、『天狗』は上級『妖怪』としての誇りを持って、一人間風情に負けるかとその力を解放する。




――――Now・(戦闘)Dueling(中だぜ!)――――


「マダマダだな」

「「…………」」


 そして戦闘と言うには遥かに短い時間の後、畳に崩れ落ちる両者の姿があった。終わってみれば呆気なく、両者共にワンパンで沈んでいた。自信とか誇りとか、色々なモノが木っ端微塵な結末であった。

 事を成した彼女はさっさと踵を返し朝食の支度に向かい、今まで部屋の隅で大人しくしていた『後追い小僧』達も連れ立って出ていく。

 そして静寂。遠くからは賑やかな声が聞こえるのが却って、この場の寂寥感を増す結果になっている。


「……大丈夫か?」

「……無論……と言いたいが、脚にキていて起き上がれぬ。お主はどうだ?」

「気を抜くと胃の中身をぶち撒けそう。ぶっちゃけ息をするのもつらい」

「そうか……」

「……どうする?」

「どうするもこうするもあるまい。こうなれば最後の手を使うしかなかろう?」

「あれか……仕方ない、か」

「うむ」







……この後。食事中の席に乱入し涙を流しつつ土下座して彼女に懇願する漢二人の姿があった。

 彼女がいくら殴ろうが蹴ろうが投げようが絞めようが落とそうが極めようが諦めずに縋り続け、遂には彼女も根負けして首を縦に振ったのであった。


「執念は凄いけど……ああはなりたくないな」

「何があそこまで駆り立てるのでしょうか」

「わからんわ」

「理解、不能」

「(コクコク)」

「怖かった、です」


……そしてそれを客観的に見ていた一同は、ドン引きであったのは言うまでもない。

ご愛読有難うございました。


本日の解説はお休みです。

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