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初依頼……イヤ、待ちわびたぜ

やはり、戦闘描写が今後の課題……

「――うぅ……ん……」


 目が覚めた彼女は、何時もの如く痛む頭を軽く押さえつつ天井を見上げる。


(……寝る場所が変わっても、見える天井が変わっても、世界すら変わっても、ホント寝起きは変わらんねーな……何時も通り最悪な目覚めだ)


 軽くボヤきつつ、起きずに寝たままでいる。そのまま暫くしていると頭痛も治まり、気分も落ち着いてくる。

 今、彼女は社務所内で一番広い部屋――囲炉裏がある板張りの部屋に布団を敷いて寝ている。寝たままで顔を横に向ければ、障子一枚隔てた縁側から入ってくる日の明かりが透けて見える。

 雨戸全開の無用心な状態であるが、この神社は防犯設備(・・・・)は万全な為、戸締りが(おろそ)かでも安心して寝れる。彼女がこのまま二度寝をしても何の問題も無い。故に、彼女は欠伸を噛み殺し再び目を閉じ――


「――うわあああああぁーーーーっ!!!!」

「………………『待て』」


――た瞬間に境内に響いた叫び声に、彼女は一言呟くと物凄く不機嫌そうに頭をガシガシと掻きながら起き上がった。

 障子をやや乱暴に開け縁側に出て、裸足のまま草履を履き境内に出てみれば……


「ちょっ?! 助けてくれ〜〜!!」

「…………ハァ……」


……地面で必死に藻掻(もが)く者が居た。

 つい先日、彼女に折れた足を治してもらった子供がうつ伏せに倒されており、その背中を石で出来た犬――『狛犬』に両前足で踏み付けられている。大型犬サイズな上に石造り。重量も中々に有るので、子供は完全に身動き取れず地面でクロールを掻いていた。

 そして、それを見て深い溜め息一つ漏らす彼女。


「『戻れ』」


 彼女のその言葉に狛犬が子供の上から離れ、境内の奥に在る拝殿。その手前の石の台座の上に飛び乗り、風景と一体化する。

 そして開放された子供は、勢い良く立ち上がると彼女に食って掛かる。


「何なんだよ?! あれはっ!」

「何って、防犯設備だよ。この神社内に立ち入った奴を無差別に……不審人物を襲う様にしてあんだよ」

「今、無差別って言ったよな!」

「……いいじゃねーか。オレが気づいたお陰で助かったんだから」

「アンタの所為で殺されかけたんだろうがっ!」

「…………そうとも言うな」

「そうとしか言わねぇっつーの!!」


 ガー、と捲し立てる子供をハイハイと軽く流す彼女。真っ当に会話する気、ゼロである。子供は、そんな彼女の態度に頭に血が上り、更に強く糾弾しようと身を乗り出し……フリーズする。

 彼女は今、何時もの白衣・緋袴の巫女装束では無く長襦袢しか着ていない。しかも寝起きの為、やや着崩れているので胸元が開いている。

 この世界……と言うか時代にブラなんて無いしサラシも今は巻いていない為、胸元からは素肌が覗いている。しかも彼女との身長差から、身を乗り出した子供の視点がその開いた胸元に丁度当たる。


「――っ!」


 畑仕事や野良仕事で汚れていない綺麗な素肌を目にして、怒りで赤くなっていた顔が更に赤くなる。視線を逸らそうとするが外せない。乗り出した身を引く事も出来ずにいる子供に対して彼女は――


「……ガキが色気付いてんな〜」


――何の感慨も持たずにいた。

 開いた胸元を隠す事も戻す事もせずに、そのままで居る。恥じらいだとかを何も意識せずに。


「――ガキじゃ無い!! 俺は十三だっ!!」

「厨二真っ盛りか……二十歳のオレから見れば、十分ガキだろ。顔をンな赤くしてたら説得力無ぇぞ?」

「ガキガキ五月蝿い!! 俺には草太って名前がちゃんと有る!! って言うーか、何であんな物が襲って来るんだよ! この前ここに来た時は――イヤ、今まで一度もあんなのに襲われた事無かったぞ?!!」


 形勢不利と見たか、話題を強引に変える草太。彼女の方はそれを聞いてアッサリ答える。


「そりゃ、ここに住んで三日しか経ってないのに、お前んとこの村の男連中が夜這いやら何やらかけてくるから、いい加減ウザったくなったからに決まってるだろ?」

「…………何か、ごめんなさい」


 語られた事実に何か居た(たま)れなくなって頭を下げる草太……そう言えば最近、原因不明の青痣をこしらえてる男共を良く見かける事を思い出しながら……原因がわかった事に素直に喜べない。


「――で?」

「ん?」

「お前は何しに来たんだよ? こんな朝っぱらから」

「……もう昼過ぎてんだけど?」

「関係無ぇよ。オレが起きた時が朝だ」

(…………コイツ)


 あまりのワガママと言うかゴーイングマイウェイぶりに脱力する草太。しかし気を取り直して、ここに来た要件を告げる……少しばかり気の乗らない顔で。


「……村長のジイさんに言付け頼まれたんだよ」

「何て?」

「……何か、村の西の方の原っぱで化け物を見たって人が居るから、見に行って序でに退治してきて欲しいって……」


 言いながら、草太は彼女が絶対に断るか渋るかすると思っている。短い付き合いだが、何となく彼女の性格は把握した。基本、物臭な彼女がこんな面倒事、快諾してくれる訳が――


「――良いぜ」

「……へっ?」


 彼女の答えに一瞬時が止まる草太。自分の耳がちゃんと聞こえているかを確認してしまうが、それだけ彼女の返答……特に速さに驚いている。悩む間も無くすぐに返答したその速さに。

 何で? と怪訝に思った草太が彼女の顔を見て――更に信じられないモノを見た。


「――フフッ」

(…………笑ってる?)


 草太は彼女が笑っているのを見るのは、これが始めてであった。出会ってから何時もダルそうな顔しかしていなかった彼女が笑っている。正直、笑う事が出来たのか? と、ある意味失礼な事を思った草太は――フリーズしていた。

 彼女の笑顔を初めて見た事もそうだが……何よりも、その笑顔が獰猛(・・)であったから。昔見た飢えた野犬を思い出してしまう程に。


「〜〜♪」

「…………」


 踵を返して社務所に戻る彼女。鼻歌でもしそうな程に軽やかな足取りを、草太はただ呆然と見送り――


「…………あっ、また名前聞けなかった……」


――今更ながらに、そう呟いた。




――――Time(ちょっと)・Going(時間が飛ぶぜ!)――――


 時は夜。既に日も落ちて、下弦の月が雲一つ無い夜空に綺麗に輝く頃。地面の所々に雑草が生えた原っぱで一人、凛と立つ女性が居た。


「――うん。やっぱ、団子は餡子だな」


……訂正。呑気に団子何ぞ食ってる女性が居た。月明かり照らす中、白衣に緋袴等と完全装備でありながら……串を楊枝代わりに歯を掃除している。緊張感とか色々なモノが一切感じられない状態で……これも見方によっては自然体と言えるのであろうが。


「…………おっ?」


 そんな中、【妖気感知】に引っかかるモノを感じ視線をそちらに向ける。

 感じる気配は六つ。【暗視】によって徐々に近づいて来るソレ等をハッキリと見上げながら(・・・・・・)彼女は呟く。


「――『踊り首』か……」


――現れたのは空を飛ぶ生首。青白い死人の肌にざんばら髪。血走った眼でこちらを見つめ、黄色く変色した歯を見せながら不気味に笑いながら口々に喋りだす。


「獲物ダ! 獲物ダ!」

「待テヨ。コイツ巫女ダゼ!」

「俺達、退治シニ来タノカ?!」

「ヤバクネ?! ヤバクネ?!」

「構ワネェヨ? 喰オウゼ?!」

「ニクニクニクニクゥーーーーッ!!」


 思い思いに喋りだす『踊り首』達。一般人ならば、腰を抜かすか一目散に逃げるかする醜悪な妖怪を前に彼女は――


「――チェンジで」

「「「「「……ハァ?」」」」」

「ニクニクニクニクゥーーーーッ!!」


――もんのすご〜くヤる気の無い声で呟いた。それに困惑した声を上げる『踊り首』達……一体を除いて。

 彼女はすぐさま(きびす)を返し、頭を軽く振りながらその場を去ろうと歩き出す。


「何でこう、オレのリアルラック値は低いんだか……雑魚じゃなくて、もっと強い妖怪とエンカウントさせてくれよ……」


 ブツブツと呟きながら彼女が徐々にフェードアウトして行――


「「「「「――チョット待テヤ!! コラァーーーーッ!!」」」」」

「ニクニクニクニクゥーーーーッ!!」


――く前に『踊り首』達に遮られた。態々(わざわざ)揃って上空から降りて来て、目線を彼女と合わせて怒鳴る始末。

 彼女は、そんな『踊り首』達を前にして、さっきまで楊枝代わりにしていた串を口に咥えながら面倒そうに答える。


「……ンだよ?」

(ヤカマ)シイ!! (ヤカマ)シイ!!」

「何ナンダヨ、コイツ?!」

「ドコ行ク気ダ! オ前!」

「逃ゲンノカ?! 逃ゲンノカ?!」

「イイカラ、喰オウゼ?!」

「ニクニクニクニクゥーーーーッ!!」


 揃いも揃って喚く『踊り首』達を前に彼女は――ふと、考え込んだ。


「…………イヤ、オレのリアルラック値を考えると……なら、妥協して…………」

「オイ、オ前! オイ、オ前!」

「何考テンダ、コイツ?!」

「ドウスル気ダ! オ前!」

「無視スンナ! 無視スンナ!」

「モウイイカラ、喰オウゼ?!」

「ニクニクニクニクゥーーーーッ!!」


 何やらブツブツと呟く彼女。そんな彼女にギャンギャン喚く『踊り首』達。

 そして、彼女は顔を上げると――


「一つ聞きたいんだけどよ?……お前等、首から下が無いだろ? 食ったモノは何処に行くんだ?」

「「「「「……ハァァァ?」」」」」

「ニクニクニクニクゥーーーーッ!!」


――と、心底どうでも良い事を聞いてきた。『踊り首』達(一体を除く)が困惑しているのを見ながら、彼女は只々(ただただ)答えを待っている。


「……ソンナノ知ラネェヨ」


 皆して顔を見合わせた後、『踊り首』達の一体が代表して律儀に答える。その答えを聞いた彼女は、やや強い口調で更に突っ込む。


「ファイナルアンサー?」

「……ハッ? 何言ッテ「ファイナルアンサー?」イヤ、ダカラ「ファイナルアンサー?」……ダカラ「ファイナルアンサー?」…………ハイ」


 彼女の言ってる事が全くもってわからずも、淡々と返す言葉の押しに負けて意味がわからないまま頷く『踊り首』。それを聞いて彼女は――




「――残念!!」

「――ギィィィィヤァァァァーーーーッ!!!!」


――口に咥えていた串を手に取ると、『踊り首』目掛けて【投擲】した。自然な動作で踏み込んだ足から腰・肩・腕・手・指先まで見事に連動した各部位によって放たれた何の変哲も無い竹串は――見事に、『踊り首』の右目に半ばまで突き刺さった。明らかに脳まで届いている程深く刺さっている串を抜き取る事も出来ず、陸に上がった魚の如く空をのたうち回る。


(おっ、良いなコレ! 【投擲】スキルのお陰かっ?! どうやって投げると威力が出るのか身体がわかってる!!)


 投げた本人と言えば、自分の身体が自然に取った動きに笑みを浮かべた後、大きくバックステップして距離を取る。

 『踊り首』達の恨みの篭った視線を受けても、彼女は平然と話し出す。


「イヤ〜、悪ぃ悪ぃ。オマエ等が雑魚だって事に気を取られて、まだ色々と試してない事が有んの忘れてたぜ。幾らオマエ等程度(・・)でも、それぐらいは役に立つよな。つー訳で――」


 彼女のダルそうな目付きが変わる。鋭くギラついた肉食獣の目付きになり瞳の輝きも増す。それに合わせて口角も上がり、獰猛な笑みを浮かべて彼女は――


「――Shall We(踊ろうぜ?) Dance?」


――明確に宣戦布告した。


「――ガアァァァァーーーーッ!!!!」


 その不遜な態度に、先の一撃を食らった『踊り首』が目に串が刺さったまま突っ込んで行く。大きく口を開け、喉笛に喰いついてやろうと襲ってくる『踊り首』を前にして、彼女は両手を胸の高さに構えて――


「そ〜ら〜を自由に〜〜飛〜びた〜いな〜♪――」


――迎え撃つが如く、やや前傾姿勢になると同時に強く一歩踏み込み――


「――ハイ! かち上げアッパァ〜〜!!」

「――ブフォッ?!!」


――突き上げた右拳がカウンター気味に顎に突き刺さる。モロに食らった『踊り首』はグルングルン縦回転しながら空へ飛んで行き綺麗なお星様……とはならずに黒い霧となって文字通り霧散した。


「「「「…………」」」」

「ニクニクニクニクゥーーーーッ!!」


 およそ巫女さんらしからぬ行動に呆然とする『踊り首』達(やはり一体を除く)。今の今迄、白衣の長い(そで)の所為でわからなかった。彼女の両腕にしっかりと手甲(・・)が装備されている事に。


「お~~い。来ないのか?」

「「「「…………ハッ」」」」

「ニクニクニクニクゥーーーーッ!!」


 (ようや)く頭が再起動したのか、『踊り首』達(やっぱり一体を除く)が彼女を取り囲む。そして――


「「「「シャアァァァァッ!!」」」」

「ニクニクニクニクゥーーーーッ!!」


――彼女へと襲いかかる。前方・後方・左方・右方・上方から思い思いに飛来する。時には彼女の隙を突く様に時間差で、時には示し合わせて同時に、見事な連携でもって襲いかかる…………が。


「よっ、はっ、おっと危ねぇ、ほっ、おおっ、今のは惜しかったな、ほいっ、あらよっと、ふんっ」


 躱す。躱す。とにかく躱す。これでもかって躱す。蝶の様に舞うかの如く軽やかなステップで『踊り首』達の攻撃を躱しまくる。辺りには躱された『踊り首』達の風切り音と、彼女の地を蹴るステップ音が響く。余裕な表情の彼女に、『踊り首』達は更に躍起になって襲いかかるも結果は変わらない。ただいたずらに時間が過ぎるだけであった。

 彼女の見事なまでの回避行動。これは単純に身体のキレが良いと言うだけではない。【気配感知】で相手の位置がわかるからと、もう一つの理由からである。


(こうして、バトってみたからわかったんだけど――)

「ニクニクニクニクゥーーーーッ!!」


 真正面から突っ込んで来る『踊り首』に、彼女は足を止め迎え撃たんと身構える。そして(こぶし)の射程距離に入ろうかと言う所で――『踊り首』がフォークボールの様に下に落ちた(・・・・・)

 食欲だけの頭の悪い奴かと思っていたが、まさかこんなトリッキーな動きを見せるとは想像だに出来ず、彼女の予測を上回った『踊り首』は彼女の足に喰らいつ――


「――おっと」

「ニクゥ?!」


――く前に、そのざんばら髪を鷲掴みにされ、とっ捕まった。


(――動体視力(・・・・)が上がってる。この身体のキレに合わせたかの様に……イヤ、この身体を十全に扱える為に、か)


 相手の動きにすぐに反応出来た自分の身体に、改めて関心するのも束の間。彼女は捕まえた『踊り首』を見て……ニヤリと底意地の悪い笑みを浮かべた。

 そして、空いている右手の指で素早く縦横に空を切る事九回――『早九字護身法』をもって告げる。


「【陽気・念糸】」


 告げたと同時に右手の手のひらの中央から青白い糸が出て来た。イヤ、それは糸と言うよりも縄と言った方が良いかもしれない。何せ、小指程の太さがあるのだから。

 糸は後から後から際限無く出てきて他の『踊り首』が呆気に取られている中、捕まった『踊り首』にどんどん巻き付いていき、気がつけば雁字搦めにしていた。

 そして仕上げに糸を自分の右手にも巻きつけて終了。そのまま――


「――フンっ!!」


――西部劇のカウボーイの如く勢い良く頭上で振り回し――


「――超念糸……ヨーヨーっ!!」


――力任せにブン回し始めた。ヨーヨーと言うか、最早モーニングスターと化したソレを縦に横に斜めにと、やたらめったら振り回す。


「「「「ウワワアァァァァッ?!!」」」」

「〜〜〜〜ッ!! 〜〜〜〜ッ!!」

「そらそらそらそらぁっ!!」


 軌道がランダム過ぎて避けるのに必死な『踊り首』達と、口まで雁字搦めで喋れない武器扱いの『踊り首』。

……そして、そんな哀れな『踊り首』を喜々として振り回し続ける彼女。トコトン巫女さんらしからぬ戦い方をする彼女である。


「そこぉっ!!」

「ガウッ?!」


 と、隙を見せた一体を横殴りの一撃で吹っ飛ばす。更に彼女は一際大きくハンマー投げの様に振り回して――


「――ウラァッ!!」

「グブッ!!」

「〜〜!!」


――袈裟懸けに振り下ろし、自分が振り回していた『踊り首』諸共、地面に叩きつけた。地面にめり込む程の一撃を受けた両者は、揃って霧散して消え、後に残った念糸も間を置かずに消える。

 しかし、そこで彼女は止まらない。地面に叩きつけた瞬間には、次のアクションを起こしている。


「――シッ!!」

「ゴッ?!」


 【縮地】で一瞬に間合いを詰めた彼女は、丁度良い高さに浮いていた一体に渾身の右ストレートをぶち込む。鼻骨……イヤ、頭蓋骨が陥没しかねない一撃を食らった『踊り首』は弾丸の様に吹っ飛んで行き、途中で霧散する。


「……ワアァァァァッ!!」

「――?! 甘ぇ!!――――って?! あ〜〜っ!! しまった!」

「――ガッ?!」


 逃げ出そうとした一体に、腰の『那由多の袋』から取り出した包丁を投げる……が。投げた後で何故か思わず叫ぶ彼女。投げた包丁は見事に後頭部に命中して、相手は霧散する。

 しかし彼女は、あちゃ〜と片手で顔を覆う。


「……やっべ。ゲーム内と同じ感覚で、つい投げちまった……もうあれ、料理に使えねー」


 勿体無ー事したなー、としみじみ呟く彼女……以前、その包丁で人一人斬った事は彼女の中では無かった事になってるようである。

 そんな彼女を他所に最後に残った『踊り首』は――


「――ウガアァァァァッ!!!!」


――これ以上ない程の怒りの形相を浮かべ、彼女の周りを円を描く様に高速で移動し始めた。


「殺ス殺ス殺ス殺スーーーーッ!!!!」

「おっ? おおっ?」


 彼女の動体視力でも追いきれない程の猛スピード。姿が霞むどころか逆に残像が残り、軽い分身の術みたいになっている。

 何処から襲って来るのか全くわからない上に抜け出すことも難しい檻の中、彼女は――


「……『急々如律令』――【土気・壁】」

「ヘブウッ?!!」


――軽〜く指をチョイっと上げながら術を発動すると、瞬時に土中から大きさはドアサイズ且つ厚さが辞書サイズな土壁が出て来る。そして、その土壁に正面衝突する『踊り首』。

 綺麗にへばり付……めり込んだ『踊り首』に近づくと、彼女は土壁を強めに叩く。その衝撃で地面に剥がれ落ちる『踊り首』。鼻が良い感じに潰れた『踊り首』は、歯も何本か欠けた口を何とか動かして喋る。


「……ズリィゾ……テメェ……」

「六対一で襲って来たオマエ等が何言ってんだよ……じゃあな」


 そう言って彼女は大きく足を振り上げて、勢い良く振り下ろし『踊り首』を踏み潰す。足裏にイヤ〜な感触がするも、すぐに消えて地面の感触が戻ってくる。

 そして彼女は足を退けると地面から、ビー玉大の紫色の鈍い輝きの宝石の様な物――『妖核』を拾って腰の『那由多の袋』に入れる。


「…………やっぱ、コイツ等程度じゃ無理だよな……」


 辺りを見渡し、気配も妖気も無い事を確認した彼女は、そう呟く。先程までの態度が嘘の様な、気怠さ100%な態度で踵を返す。

……余談だがこの後。他の『妖核』を回収する際、自分が思いっ切り吹っ飛ばしたモノを探すのにかなり時間が掛かり、反省する彼女であった。




――――Now(お家)・Return(に帰るぜ!)ing――――


「――うむ。今日も良い朝じゃの……」


 自分の家の前で、雲一つ無い青空に爛々と輝く朝日を拝む村長。そんな村長が、う〜んと背伸びをしていると……


「お早う御座います新しい朝が来ました希望の朝です本日の始まりには最高の天気ですそんな最高な朝日を前にしてこんな事を頼むのは非常に心苦しいのですがどうか聞き届けて頂けないでしょうか?」

「突然現れた上に喉元に包丁突きつけんでくれっ?!! 言ってる事も丁寧なのに棒読みで怖いわっ!!」


……いきなり現れた彼女に挨拶……脅迫されていた。相変わらずダルそうな雰囲気だが、村長は背中に流れる冷や汗を止められない。この三日で彼女の性格はわかっている……ヤる時は躊躇(ためら)わないと。

 慎重に、彼女の気に触らない様に言葉を選んで村長は彼女に尋ねる。


「……それで、頼みと言うのは何なんじゃ?」

「妖怪退治の事だよ」

(……うむ。それ以外無いわな)


 こんな急に彼女が頼み……脅迫しに来る理由に心当たりが有り過ぎる村長。背中を流れる冷や汗が増す中、村長は先手必勝と先んじて言葉を放つ……本当は頭も下げたいが喉元の包丁の所為で出来なかったが。


「スマン!! 今後はお主に余計な「全部オレの所に持ってこい」……何じゃと?」


 常にダルそうな彼女が積極的な態度を示した事に思わず耳を疑う村長。彼女はそんな村長に再度シッカリと言う。


「だから、これから妖怪退治の話しがきたら、すぐにオレの所に持ってこい。タダで引き受けてやる(殺る)から」

「…………何でじゃ?」

「あん? 何がだよ?」

「何でそんなに積極的何じゃ?」

「別に、オマエ等からすれば良い事だろ? タダで退治してやるんだからな。それに――」

「?!!」

「――んじゃ。頼んだぜ〜」


 包丁を仕舞い、手をヒラヒラさせながら立ち去る彼女に村長は答えない。答えられない。何故ならば――彼女が浮かべた獰猛な笑みを見てしまったから。そも笑みを見た瞬間に、浮かんでいた疑問やら何やらは一切消し飛んだ。と言うか忘れるしかなかった。

――『関わりたくない』と本能レベルで察してしまったから。


「……敵に回さずに済むのならば、安いモノじゃの」


 朝っぱらから寿命を縮める羽目になった村長は、遠ざかる彼女の背を見つめながら呟いた。

ご愛読有難うございました。


本日の解説。


――――『狛犬』――――


拠点防衛の石像。

決められた命令を忠実に実行する。一組しかないので壊れたら換えが効かないので注意。


――――『踊り首』――――


低級『妖怪』。

空飛ぶ生首。基本集団で行動する。

弱いが空を飛ぶ為、対処法か一撃で倒せる方法を持ってないと中々倒せずにウザい。


――――【投擲】――――


物を投げるスキル。

ゲーム内では投擲用武器しか適用されなかったが、異世界では何でも適用されるので応用性が高くなっている。


――――【陽気・念糸】――――


【陰陽術】の一つ。

霊力で出来た糸を生み出す。ステータスとスキル習熟度で出来る糸の強度が変わる。

霊力の続く限り糸は無限に出せるが、切れた場合、身体に接してない部分は時間と共に消失する。


――――【土気・壁】――――


【陰陽術】の一つ。

地面から土壁を造る術。ステータスとスキルの習熟度で出来る土壁の大きさ・厚さが変わる。

シンプル故に結構応用が利く術。


――――『妖核』――――


妖怪達の核。

妖怪を倒すと手に入る素材アイテム。妖怪の強さに応じて極小・微小・小・中・大・特大と大きさが変化する。当然、強い妖怪程、大きくなる。

ソッチ方向のアイテムを作るのに必要な為、需要は高い。

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