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用意……イヤ、待ち遠しいな

実は既にラストの構想は有るけど、文章にするのに凄い四苦八苦している花粉塗れの今日この頃。

「帰って来たのは良いけど……コレ、どうリアクションすりゃ良いんだ?」


 バカ長い石段を登り、朱色の鳥居をくぐって己の拠点たる神社に帰ってきた巫女装束な彼女は……想定の範囲外な光景に溜め息を吐いていた。

 風景及び施設には至って変わった所は無い。同居人……と言うか居候達の面々も変化は無い。増減した訳ではない。違うのは――


「一閃!」

「二薙ぎ!」

「三打!」

「四突!」

「「「「――っしゃあぁぁぁぁぁぁっ!!!!」」」」

「…………」


……なんか『後追い小僧』達が強くなっていた。

 粗末な造りの案山子モドキに対して木刀片手に縦一列に一直線に突っ込んで行き、すれ違い様にそれぞれが最初に脚、次に腕、続けて頭、最後に胸と連撃を加えて速やかに離脱する。

 見事な連携なのだが……何故か誰かが踏み台にされる気がするのを感じつつ、彼女はどう声を掛けたものかと思案していると『後追い小僧』達に気がつかれれてしまい――


「む? 目標発見!」

「総員構え!」

「突撃やっ!」

「見敵、必殺!」

「…………」


……なんか敵認定された。

 素早く隊列を組み一直線に駆ける『後追い小僧』達。積み重ねた練習に裏打ちされた自信に満ちた威勢を武器に、臆する事無く突っ込んで行く。

 得るのは勝利。掴むのは栄光。夢見るは理想。未来日記に記された事柄を過去にする為に、小さな英雄達は未だ構えすら取らぬ棒立ちの彼女目掛けて挑み――


「『急々如律令』――【土気・剛壁】」

「「「「――へぶっ?!!」」」」


……現実は無情であった。彼女の術で造られた石壁に反応出来ずに為す術も無く激突。アッサリ終了。

 勝利の女神はソッポ向き、栄光は地に落ち、理想を抱いて衝突死。小さな英雄達は卵のまま孵らずに終わり、後に残るのは無残な敗北者。

 結局なにがしたかったのかと首を捻る彼女は、その答えの一端を知るであろう人物に声を掛ける。


「……で? 何をさせたかったんだよ?」

「稽古をつけてくれと言ったから色々と教えてみた。後悔はしていない」


 彼女の言葉に無駄に胸を張って答えるのは陰陽師の孝明。愛に生きて哀に死す、他の人からすれば迷惑な事この上ない猪突猛進男。


「……ま、良いか」


 正直どうでも良いと判断した彼女は早々に考えるのを打ち切り、『後追い小僧』達を置いて社務所に向けて歩き出す。視線でついて来いと孝明に促し、孝明の方は珍しい彼女の仕草に若干戸惑いながらも、大人しく後に続いて社務所に入る。




――――Time・(ちょっと時)Going(間が飛ぶぜ!)――――


「――と、言う訳だ」

「…………マジでか」

「嘘言ってどうする」

「ファイナルアンサー?」

「殴るぞ?」

「御免なさい」


 数分後。社務所内の一室で彼女から告げられた言葉、その内容に思わず孝明が若干の現実逃避をするも、やると言えば本気でやる彼女の一言に現実を認めざるを得なかった。

 しかし腐っても馬鹿でもそこは陰陽師。気を取り直せばそこは戦士な顔つきに早変わり。真剣に彼女から告げられた事を検討し始める。


「しかし『八岐大蛇』とは、また大物が出てきたな」

「そーか? むしろこの世界なら何時か出てきそうな気がするけどよ」

「そう言われればそうなんだが……『八岐大蛇』なんて『九十九妖異譚』に出てきていたか?」

「いや、オレは知らねーぞ。ネット上でもそんな情報は無かったな」

「だよな? ならば――この世界のオリジナルと言う事か?」


 それはつまり、この両者――元プレイヤーが持つゲーム内知識が、全く通用しない相手であると言う事。

 しかもその相手がただの『妖怪』どころか、日本神話に登場する怪物……怪獣である。そんなモノと戦わねばならぬかもしれぬと言われれば、孝明も勝つ算段がつかない。


「……その卵が孵らぬ可能性の方が、現時点では高いのだろう? 『天狗』達が奔走しているのだから」

「イヤ、それはどーかな」

「どう言う事だ?」

「オレ達がこの世界に要る理由だよ」

「?!! まさか……」

「そう考えりゃ、納得がいく」


 孝明は否定したくとも否定しきれない。否定できる材料が無い。故に、孝明としては最悪を想定して動くしかない。


「……とにかく、俺は一度陰陽寮に戻る。その件を報告に」

「ああ」

「……アンタはどうする」

「準備する」

「…………だと思ったよ」


 戦う事を前提に……確定にしている彼女の言動に苦笑いすら起きない孝明。そして善は急げとばかりに出立の為に腰を上げるが、少しの間だけ止まる。

 眼の前に居る彼女とは、そこそこの付き合いであるが故に言っても無駄だと言う事はわかっているが、それでも一言だけ口から漏れる。


「……それでも俺は、起こらないで欲しいと願うぞ」

「そうか」


 色々なモノが篭った孝明の言葉を、なんの感慨も受けずに流す彼女。孝明の方も予想していたが故に軽い諦観だけですぐに外へ出て行ってしまう。

 そして後に残された彼女はと言うと――


「さてと――」


――腰の『那由多の袋』から色々な物を取り出して一つ一つ吟味し始める。


「こうして見ると……色々有ったって事か」


 居並ぶ物々は多岐に渡る。

 愛用の包丁・手甲・大木槌に、お手製の『呪符』――ノーマルサイズ数十枚と、超特大サイズ一枚。

『炮烙玉』に『不動玉』。

 今までに倒した『妖怪』達の『妖核』――サイズ色々。

 マッチポンプな薬師から分捕ったドーピング薬。

 盗賊紛いから分捕った『力試しの斧』。

 自分の持っているのとは別に、何時ぞやヤっちゃった快楽殺人鬼から手に入れた『那由多の袋』。

 鎧武者からの戦利品である黒刀。等々。


「個人としては中々の物なんだろうけど……やっぱ、『八岐大蛇』相手じゃ無謀としか言い様がないよな。かと言って、戦わないって選択肢は無ーけどな」


 一つ一つを手に取って確認しつつ、更に彼女は色々な道具類も取り出すと作業を始める。

……ただし、その作業中の彼女は、一言で言って怖い。


(これまで、良い所まで行っても後一歩でダメな奴ばっかだったからな。この世界に失望してたけど……居るじゃねーか、もっとオレ向きな奴が)


……『呪符』作成の為に墨に『妖核』を溶かし混ぜながら、妖しく笑う。


(『八岐大蛇』なら申し分無い。絶対に叶う筈だ。ああ、待ち遠しいな)


……『炮烙玉』の火薬作成の為に、すりこ木でゴリゴリと材料をすり混ぜながら、子供がトラウマになる笑顔で黙々と手を動かす。


「くふふ♪ ふふふふふ♪」


……漏れ出る笑い声を堪え切れずに、喜々とした笑顔で黒刀を研ぐ。


「「「「「「…………」」」」」」


……それをドン引きで遠巻きに見つめる居候達。どう好意的に見ても危ない人な様子に、掛けられる声が思いつかない。と言うか、今すぐ逃げ出したい。


「……どうする?」

「どうするもこうするも……どうしましょう?」

「放置でええんちゃう?」

「同意」

「…………」

「取りあえず、お夕飯の時間までは、そっとしておきましょう」

「「「「賛成」」」」


 気絶から復活したが気絶したままの方が良かったと染み染み考えてしまう『後追い小僧』達と、どうしようかと無言で悩む『倉ぼっこ』。そこに掛かる『(さとり)』の言葉に、現状はそうするしかないかと結論付けて皆その場を去って行く。

……なお、夕飯時になっても彼女の笑い声は治まらず、『すねこすり』が身を持って体当たりするまで彼女の意識はコッチに戻って来ないのであった。

ご愛読有難うございました。


本日の解説はお休みです。

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