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不調……イヤ、ダメダメだし

……花粉が飛ぶ季節がやってまいりました。厳しい季節です。

バレンタイン? なにそれ? 美味しいの?

「…………んぅ」


 神社の社務所、その一室の布団の中で彼女は気怠い声を漏らしていた。既に日は高く昇っているのだが、彼女は惰眠を貪る様に横になっていた。


「…………あ〜」


 彼女がこうしているのは、実の所『倉ぼっこ』たち居候一同に懇願されたからであった。

 彼女としても今の自分が本調子ではない事は自覚しているので、大人しく従ってゴロゴロしていた。


「「「「「「…………」」」」」」


 そしてそんな彼女に心配そうな眼を影からコッソリと向ける居候一同。何があったのかわからないが、先の遠出から帰って来てから数日経つが、彼女の様子がおかしい。心ここに在らずと言った様子が続き、見ていて危なっかしい事も多い。放っておけば時間を忘れてボケっとしている・声を掛けてもすぐに反応しない・包丁を握れば指どころか手を斬る・鍋を吹きこぼす・ゴミの無い所を延々と箒で掃き続ける・風呂でのぼせる等々。


「いったい、何があったんだか」

「正直、皆目検討が尽きません」

「あんな姿を見んの、初めてやで」

「謎、不明」


 ボソボソと小声で相談しあう『後追い小僧』・『袖引小僧』・『提灯小僧』・『瓢箪小僧』の四人組。その表情は心配の一言に尽きる。流石に何時もと違い過ぎる彼女の様子に、原因は何なのか気になってしょうがない。

 ぶっちゃけ、彼女に尋ねれば何が原因はすぐにわかるだろう……彼女が素直に教えてくれるかは抜きにして。しかし、それ以上に彼女の雰囲気が声をかけるのを躊躇わせる。かと言ってこのままでは解決策が出ない堂々巡り。


「……ここは、猫の手でも借りるしかないか」

「「「同意」」」

「誰が猫だ、誰が」


 『後追い小僧』達の会話にしっかりとツッこむのは孝明。呼ばれて飛び出てジャジャジャジャーン、とはいかずに静かに登場。

 しかし『後追い小僧』達は孝明の言葉は華麗に無視して問いかける。


「で? 何で彼女はあんな風に? 前回あの人の後を追っていったアンタなら知ってるんだろ?」

(((むしろ、前回あの簀巻き状態からどうやって抜け出したのかが気になるけど)))

「ああ、それは――」


 なんとも微妙な表情をする皆を背に、『後追い小僧』が質問する。その問いに孝明は――


「――わからん!!」

「「「「…………」」」」


……自信を持って言うべきでない事を、自信満々に言い放った。そして視線の温度が急降下する『後追い小僧』達。

 そして瞬時に視線で会話を終えた彼等は孝明に対して――


「「――悪」」


――『袖引小僧』と『瓢箪小僧』が孝明のそれぞれの膝裏に蹴りを決め体勢を崩し――


「――即」


――『提灯小僧』がバレーのレシーブの様な体勢を取り――


「――斬!」


――『後追い小僧』がそれを踏み台に跳んで、空中一回転(かかと)落としを孝明の頭部に決めた。


「がべっ!!」


……そして孝明は見事に撃沈される。脚力には自信のある『後追い小僧』の蹴撃に意識を一発で刈り取られ、あえなく気絶。ついでに外へと放り出される。

 無駄な時間を費やしたと、自分の選択に自分でダメ出しした『後追い小僧』達は、深く溜め息を吐く。


「やはり……頼れるのは彼女しか居ない!」

「「「応」」」

「と言う訳で、心の奥まで見通す読心少女、『(さとり)』――」



 『後追い小僧』の声に導かれる様に、他の皆も揃って振り返る。その視線の先には『倉ぼっこ』と、その対の存在である『(さとり)』の姿が……無い。


「「「「……は、何処へっ?!!」」」」

「……(ペラッ)」


 皆の質問に一枚の紙を広げて見せる『倉ぼっこ』。その紙には拙い文字で一言。旅に出ます探さないで下さい、と。


((((……逃げたな))))


 察しが良すぎるのにも程があろうと皆の視線が遠くなる。そんな皆の事など気にせずに『倉ぼっこ』は、最近抱き枕となりつつある『すねこすり』を伴って立ち去る。


「あっ、ちょっと待った。そっちは彼女の事は気にならないのか?」

「…………(トテトテ)」


 『後追い小僧』が声を掛けるも、『倉ぼっこ』は無視して立ち去ってしまう。まるで、何かがわかっているかの様に。

 後に残された四人は揃って顔を見合わせて、頭を抱える。


「「「「…………う〜〜ん」」」」


 結局最初に戻ってしまった四人が、どうしようかと視線で会話する中、そこへ……


「……うるせーよ、オマエ等」

「退避!」

「「「応!」」」

「……何故逃げる?」


……何時の間にやらすぐ近くに居た彼女の声に反応して、即座に何処かへと逃げる『後追い小僧』達。あまりに見事な逃げっぷりに、彼女も呆れて追う気にならず黙って見逃す。

 何だかな〜、と縁側の方に来てみれば、外には放り出されたままの姿で絶賛気絶中の孝明が。


「……コイツ生け贄に捧げてオレの望むモノを召喚とか出来ねーかな」


 何があったかはわからないが、何があったのかわかってしまう矛盾的な思考の中、取り敢えず目障りな為に彼女は態々(わざわざ)外に出て孝明を蹴り起こす。


「ふぎゅうっ?!!」

「眼、覚めたんならさっさと起きろ」

「……もう少し優しくしてくれても「却下だ」…………」


 孝明の言葉を一刀両断して彼女はそのまま縁側に腰掛ける。寝ている間に凝り固まったのか、首をゴキゴキ回す女らしくない動作に却って彼女らしさを感じる孝明。どうやら一応は、らしさを取り戻しつつある様なのでちょっと安心。


「……具合はどうだ?」

「ん〜〜? 本調子には遠いけど、取り敢えずは大丈夫だ」

「なら良いが……いったい何があったんだ? 『(しん)』との戦いで」


 孝明が思い出すのは先日の事。彼女を追いかけて霧の中に立ち入った瞬間に殴り飛ばされて気絶。そして気がついた時には霧が晴れ、彼女も居らず、そして幾多の陥没痕が残った地面の惨状。いったい何でどうしたら()()なるのか本気で首を捻った程であった。


「あ? 別に……単に()()()の幻を見せられたってだけだよ」

「…………」


 やや不機嫌そうな彼女の口から出た言葉に孝明の表情が曇る。

 『あの人』――彼女との会話で度々出てくる彼女にとっての大切な人物。彼女に惚れてる孝明にとってはあまり会話に出てきて欲しくない存在。しかし、どんな人物なのか把握しきれてない孝明にしてみれば、その幻を見てみたかったとも思えるのだが……


(……なんで()()()なんだ?)


 幻とは言え一目見れたのならば、不機嫌になる理由が思いつかず孝明が疑問に思う中、彼女はアッサリその答えを忌々し気に告げる。


「ったくよ……全然似てねーっての」

「そっちか?!! っと言うか、そんなに違かったのか?!」

「ああ、ダメダメだ。髪はもうちょい手入れされてサラサラだし、肌に艶も足りてない。瞳は色合いが少し強すぎるし、鼻はもうちょい小ぶりだ。首を傾げる角度も小さいし、何よりも「待て待て待て待て待てぃーーーーっ!!!!」……何だよ?」


 矢継ぎ早に繰り出される言葉に、流石に孝明が待ったをかける。何と言うか、色々と驚きの表情で。


「細か過ぎだ!! しかも何でそんな細かい所の間違いに、はっきりとダメ出し出来る?!」

「バカかオマエは? 毎晩夢に見る人の事を見間違えるかっての」

「……そーですか」


 何かもう好きにして、と言わんばかりに疲れた孝明が投げやりに呟く。衝撃が多過ぎて疲れ……むしろ呆れに至ってしまっている。


「……で? それで『(しん)』は?」

「知ってるか? 粉々に砕くと書いて粉砕って読むんだ」

(…………ご愁傷様)


 何故か『(しん)』に深い同情心が沸いた孝明は、心の中で冥福を祈る。

 そんな孝明を他所に彼女は何処かへ行こうと腰を上げ、孝明は彼女に訪ねる。


「何処へ?」

「ん? もう一眠りさせてもらうさ。さっさと本調子に戻したいからな」


 そう言ってヒラヒラ手を振りながら立ち去る彼女。寝床へ戻る彼女の背を見送って、何処かで隠れて見ているであろう『後追い小僧』達に今の会話を伝えてやろうとした孝明であったが、その足が止まる。


(……あれ?)


 ふと孝明は気づいた。先の彼女の言葉に潜む違和感に。


()()()()()()? 俺が知る限り、何時も(うな)されてるのに?)


 何か噛み合わない彼女の言葉と実状に、孝明の頭の中が疑問で埋め尽くされる。


「……どういう事だ?」


――しかし、その疑問に答えは出せず、答えを知る彼女もとっくにその場から居なくなっていた。












「で? オマエ、何時までここに隠れてるんだよ?」

「本調子に、なるまで、です」

「……まあ良いけどよ」


 自分の寝床の押入れに隠れている『(さとり)』を、彼女は害もないので放っておく事に決めた。

ご愛読有難うございました。


本日の解説はお休みです。

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