多数……イヤ、気がつけば?
かなり遅いですが、あけましておめでとう。
今年も宜しくお願いします。
……インフルに気をつけてたら、ノロに罹った自分が居る。ハハ……笑えない……
『神社』。それは拠点の中でも最高峰と言っても過言ではない場所。数多くの有用な設備を持つ『妖怪』さん立ち入り禁止な空間。誰も居ないならすぐに己のモノにしろ、誰か居るなら力尽くでも奪い取れ、な拠点。
そんな『神社』に今居るのは、現時点での主である巫女さんな彼女と居候な陰陽師の孝明に……
「(キュッキュッ)」
「んしょっ、んしょっ」
「おーい、ちりとり持って来てくれ」
「はい、どうぞ」
「枝、集めてきたで」
「満載、大成果」
……本来、この場所に居ちゃいけない『妖怪』達が大勢いる。境内を自由に転がる『すねこすり』・廊下を雑巾掛けしている『倉ぼっこ』・水の入った桶を箱ぶ『覚』・竹箒を掃く『後追い小僧』・ちりとりを構える『袖引小僧』・森で集めた枝を背中に背負う『提灯小僧』・それを手伝ってきた『瓢箪小僧』。
明らかに人数比で人の方が負けている、どう考えてもおかしな状況。
「何か更に増えてるーーーーっ?!!!!」
そんな状況を、心の底からの叫びで代弁してくれたのは、久々登場の草太。足腰泣かせのクソ長い石段を登りきった直後に見た、予想外すぎる光景への至極真っ当な感想。
「「「「「「…………」」」」」」
「うっ……くっ!」
突然の来訪者に『倉ぼっこ』達の視線が一点に集中する。六対の眼に一瞬及び腰になる草太だが、負けじと睨み返す。
そんな一対六の眼力の争いが暫し続き、一際強く風が吹き抜け――
「(ギュッギュッ)」
「よいしょっ、よいしょっ」
「次は、あっちだな」
「了解です」
「ここに置いときゃええか」
「最適」
――みんな揃って作業を再開し――
「――何か言えよテメエ等ーーーーっ!!!!」
……草太が再び叫ぶ。
しかし、今度は『倉ぼっこ』達はその声に反応せず、黙々と作業を続けるのみ。完全に草太は蚊帳の外。
「ああもうっ?! アンタからも何か言えよっ!」
「……居候の身としては、口出せる立場じゃ無いんでな」
「使えねぇなっ?!」
形勢悪しと感じた草太が、草むしりなどやっている孝明に声を掛けるも返ってくるのは期待外れな言葉。八つ当たり気味に地団駄踏む草太に、孝明は痛む腰を軽く叩きつつボソリと呟く。
「そもそも、今の状況に何か問題が?」
「陰陽師のアンタが言って良い言葉じゃないよな?!」
「別に危害を加えてる訳じゃ無いからな」
「確かにそうだけど……限度ってものがあるだろ?!」
どちらかと言えば草太の言ってる事の方が正しい気がするが、孝明は華麗にスルーして社務所の方を指差し冷静に告げる。
「文句は彼女に言うべきだろ? 一応ここの主なんだから」
「うっ……わかったよ」
その指摘に一瞬尻込みする草太であるが、言い出しっぺである以上は後には引けず、社務所へと歩き出す。
目標は、この状況で一人のんびり縁側で茶を飲む巫女装束な彼女。
「――――…………」
勢い勇んで向かって行った草太であったが、近付くにつれ徐々に歩みが遅くなる。
別に恐れをなしたとかではない。彼女に声をかけるのが、非常に躊躇われてしまったからである。
「――――」
――境内に居る『妖気』達を見る彼女の眼が、何故か遠くを、此処ではない何処かを見ているその瞳の虚ろさに、どう声をかければ良いのかわからなくなってしまう。
「――何しに来たんだ?」
「?!……いや、その……」
固まっていた所に彼女からの言葉で漸く我に返る草太。さっきまで言おうとしていた事が全て頭の中から吹っ飛んでしまっていた為に二の句が継げず、正直に思っていた事を言ってしまう。
「何で、そんな眼をしてるんだよ?」
「ん?」
一瞬、何を言ってるのかわからぬ彼女であったが、すぐに思い至る事があったのか苦笑いで答える。
「イヤ……この立ち位置なら、あの人の事がわかる気がしたんだが……やっぱダメだ。オレとあの人じゃ違い過ぎるか……」
「?? 何がだよ?」
「何かだ」
そう言って茶を飲む彼女。その仕草だけでこの話題は終わりだと草太はわかってしまう。何だかんだでそれ位はわかる程には、彼女との付き合いはそこそこである。
「……で、あいつ等はどっからやって来て何でここに居座ってるんだよ?」
「イヤ、それに関しては何て言うか……成り行きと言うか、押し切られたと言うか、メンドくさくなったと言うか……スマン、オレにも良くわからないし」
「……何だそりゃ」
頭に手をやって考え込む彼女と、その言葉に多少呆れる草太。何かもうどうでも良くなってきてしまう。
「まあ、取り敢えずコレでも食え。考えたら負けだ」
そう言って差し出されたのは、彼女がさっきから食べていたツマミ。皿に盛り付けられた白身の刺身。身の輝き具合から新鮮な魚介とわかる美味そうな切り身。
草太は思わず沸いた唾を飲み込み、躊躇無く一切れ摘んで口に運ぶ。
「何だかな、ったく……美味いなコレ、何の刺身?」
「河豚。運が悪いと毒で死ぬ」
「ぶふぅーーーーっ?!!!! ゲホッ! ゲホッ! なんてモノを食わせんだアンターーーーっ!!!!」
彼女の言葉に、思いっ切り口の中のモノを吹き出す草太。対する彼女は良いリアクションだとばかりに親指をグッと上げて、しれっと告げる。
「冗談だ。本当は鰈だから安心しろ」
「……本当だろうな?」
「信じろ。現にオレも食ってるだろ?」
「……確かにそうだけど」
疑心暗鬼になるも、結局その美味さから食べるのを止めない草太。そのまま彼女の隣に腰を降ろすが、合わせる様に今度は彼女が立ち上がって社務所内に向かう。
「どこ行くんだよ?」
「昼飯だ。そろそろ鍋が煮える」
言われてみれば、美味そうな匂いが漂ってくる。彼女の背を追うように顔をそっちへと巡らせた草太は――
「――ぐほぅっ?!!」
「(トテテテ)」
「ま、待って、下さい」
「飯だ! 飯だ!」
「今回の献立はなんでしょうか?」
「この匂い……味噌仕立ての鍋と見るで!」
「期待大」
「同感だ」
……その匂いに釣られてやって来た、作業の手を止めた『倉ぼっこ』達に邪魔だとばかりに横に吹っ飛ばされる。
そして鍋を持ってきた彼女と共に、皆仲良く囲炉裏を囲んで鍋を突つき合う。我先にと具を取り合い、喧嘩になりそうな所で別の者が漁夫の利を狙い。仲良い者はお互いに分け合い、賑やかだがどこか穏やかな光景がそこにあった。
「…………」
廊下に倒れたままで草太はそんな食事風景を眺める。さっき自分が言っていた事が馬鹿らしくなるその賑やかさに、草太はもう溜め息を吐くしか出来なかったが、何となくらしいと言えばらしいこの現状に納得してしまう自分があった。
「――おーい。俺にもくれよ」
「……もう無ーぞ?」
「(ケプッ)」
「ご馳走、様でした」
「あ~、食った食った」
「食後のお茶が美味しいです」
「ホンマやな」
「堪能」
「ふぅ……」
「食うの速ぇよ!! おまえ等っ!!」
ご愛読有難うございました。
本日の解説はお休みです。




