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再遭遇……イヤ、決着をつけよう

モンハンクロスで、久々の渓流フィールドで『ユク○の木』を採り忘れたのは私だけではない筈だ!

……執筆時間はちゃんと確保している。お陰で睡眠時間か狩りの時間が削られる……ハァ。

「……ハァ」


 日も暮れ始め、風が肌寒く感じ始める刻限。暇潰しの掃き掃除も終わってしまった彼女は、境内の一角を見て深い溜め息を吐いた。

 視線の先には、丸一日経ったにも関わらず、未だ絶賛落ち込み中の孝明が(うずくま)っていた。食事を取らない・水も飲まないどころか見る度に全く微動だにしていない状態に、実はもう死んでいるのかと本気で思いたくなってくる。


「……燃えないゴミの日って無ーよな、この世界」


 物理的処分も検討し始めた彼女であるが、孝明がこうなった原因の一端を担っていると言えなくもないので、若干の猶予を与えておるのが現状である。

……まあ、彼女に罪が有るのかと言えば、別に無いと言うのが正しいのであるが、ぶっちゃけ下手に手を出すとどう悪化するのか読めないので放っといているとも言える。

 なお昨日、同じ様に凹んでいた草太に関しては、文字通り尻を蹴っ飛ばして強引に退散をお願いしているので、ここには居ない。現在は家で凹んでいて、両親から強烈な喝を入れられている最中である。


「(クイクイッ)」

「……ん?」


 袖を引かれる感触に顔を向ければ、すぐ傍に居候『妖怪』な『倉ぼっこ』が居る。掃いて集めた落ち葉の処分を手伝っていたのが、どうやら終わったので報告に来たらしい。離れた所には、もう一体の居候『妖怪』の『(さとり)』が箒とちりとりを片付けているのが見える。


「有難よ、先に戻っててくれ」

「(コクコク)」


 『倉ぼっこ』は彼女の言葉に頷くと、足元に居た毛玉――『すねこすり』を抱え上げると社務所の方に歩いて行く。それを見送ると彼女は持っていた竹箒を肩に担ぎ――。


「――ふん!」

「――ぬらばっ?!」


――やり投げの様に『投擲』した。錐揉み回転して飛んだ竹箒は蹲っていた孝明の背骨に正確に突き刺さる。孝明は突然の衝撃に悲鳴を上げ、背を仰け反らせた後に倒れる。


「凹むなら他所でやれ。いい加減、見ていて飯が不味くなる」

「……が……はぁ……」


 流石に我慢の限界が来たのか、彼女から容赦ない一撃と言葉が下されるが、孝明は答えない……答えられない。肺の中身を強制排出させる一撃の所為で、声どころか呼吸も覚束(おぼつか)ずに地面で悶えている。


「(タッ、タッ、トッ)」

「はいっ、えいっ、とうっ」

「……フッ」


 そんな孝明の事など全く気にせずに、手伝いを終えた『倉ぼっこ』と『(さとり)』は蹴鞠で遊んでいる。行っているのは『妖怪』であるが、そんな事全く関係無いその微笑ましい光景に彼女も軽く笑う。


「…………」


――そんな『倉ぼっこ』と『(さとり)』に触発されたのか、ふとした思いつきか、単なる気紛れか、彼女自身にもこれと言った理由が有る訳ではないが……何となく、彼女は久方ぶりに身体にある動きを取らせていた。


(……【神楽】か)


 悶絶から何とか立ち直った孝明が、地面に横たわったまま彼女の動きを眼で追う。巫女特有スキルの【神楽】。決められた順序と決められたポーズさえ守れば自由に振り付けられる、独創性がモノを言える支援スキル。

 初めて見る彼女の舞いに、孝明の眼が自然と惹きつけられる……が。


(……何だ? この舞い、何処かで見た事がある様な……?)


 初めて見る筈なのに、何故か孝明は彼女の舞いに既視感を覚える。彼女の取る一挙動を見ると、何かが思い出せそうで思い出せず、なんとも歯痒い想いだけが積もる。

 時間にすれば数分だが、見ていた者達からすればそれ以上に体感できた時間も終わりを告げる。彼女は【神楽】を終え一息吐き、、孝明・『倉ぼっこ』・『(さとり)』は自然と拍手を送る。


「お見事」

「別に、褒められる程のものじゃねーし」

「十分、誇っても良いと思うが……ところで、今の舞いって――?!」

「?!――『倉ぼっこ』、『(さとり)』! 中に入ってろ!!」


 会話の途中で変わる空気。【妖気感知】に反応する、突然現れた濃厚な妖気。瞬時に臨戦態勢に入った彼女は『倉ぼっこ』と『(さとり)』に避難を促し、言われた両名はビクッと身体を震わせた後に素直に社務所内へと退避する。

 それを横目に確認した彼女は手馴れた早業で手甲を装着。遅れて孝明も自分なりに準備を整える。


「ここって『拠点』だろ? 『結界』は、張られていないのか?」

「『倉ぼっこ』達が居る時点で察しろ」

「……何が来ると思う?」

()()で察しろ」


 彼女の返答に首を傾げる孝明。地面に落ちるのは斜陽からの赤光、空を見上げれば綺麗な夕焼け雲。

 未だ『妖怪』が活発化する夜ではないのに、時刻が何だと言うのかと疑問に思う孝明の視線の先で、妖気が凝縮し実像を成す。


「……あれは……まさか」

「見るのは初めてか? 居るんだよ、コイツもこの世界に、な」


 現れたのは何時ぞや(まみ)えた一人の鎧武者。全身に纏う赤黒い甲冑が鈍く光り、頭部を覆う兜には鬼を模した鋭い二本の角がそびえ、面頬で覆われた顔から覗くのは紅く輝く瞳。

 VRMMOゲーム『九十九妖異譚』において、数多のネカマ達を泣かせてきたネカマキラー――『逢魔が時の鎧武者』が、静かにこちらを見据えていた。


「遭いたかったぜ。前回のケリ、今度こそつけさせてもらうぜ」


 未だ首にうっすら残る傷痕をなぞりながら彼女は不敵に笑う。本来ならば速攻で殴りに向かうのだが、流石に一度相手をしただけに彼我の力量差を把握しているので慎重にならざるを得ない。


(ぶっちゃけ、力も技量も耐久度もアッチが上。勝ってるのは速度くらいなんだよな。これでもアイツ相手じゃ何の頼りにもならねーし)


 取り出したるは鉈。切れ味よりも頑強性を考えての得物であるが、向こうが鞘から抜いた威圧感バリバリの黒刀相手では数段見劣りするのは否めない。そもそも前回の戦いでは剣技では劣っていたのだし、それ以降に上達した覚えも無い……つまり負けが確定してる。


(まあ、それでも打つ手は有る――)


 それでも退く事を考えぬ彼女が一歩踏み出す……よりも速く――


「おりゃあぁぁぁぁっ!!」

「……?!」


……空気を読まずに孝明が一人で突っ込んでいった。

 声も掛けず、前触れもなく、意思疎通もせずに単騎で日本刀片手に突進していく孝明の背中をポカンと見送る彼女。今の今まで存在そのものを忘れていただけに、完全に彼女は固まってしまった。


「ふっ! はっ! はぁっ! はぁう! とぅりゃあっ!!」


 彼女を他所に孝明は攻める。攻め立てる。怒涛の勢いである。

 以前、仕合った時よりも数段キレの良い動きで刀を振るう。どうやら『京』で別れてから彼女を探し当てる迄に、無駄な時間を過ごさず鍛錬もこなしていた事が良くわかる上達振りである……が。


「はぁっ! ていやっ!……はあ……はあ」


 鎧武者には届かない。必死に剣を振るう孝明と、どこか余裕を持って受ける鎧武者。(はた)から見てもお互いの技量の差が丸わかりな構図に、当人である孝明はイヤでもそれがわかってしまう。

 血が滲むほどに歯を食いしばり、塚を握る手により一層の力が篭る。今のでダメなら、よりもっと強く鋭く速く多くと刀を振るう。

 しかし――


「ーーーー」

「?! 〜〜〜っ?!!」


――受け。それを嘲笑うかの様に、鎧武者はアッサリ孝明の刀を己の黒刀で受け止める。孝明は一瞬だけ驚愕するも、そのまま全身に力を込めて鍔迫り合いに移行する。

 文字通り、(しのぎ)を削る力と力のせめぎ合いに、意地でも負けるかと孝明が押し返そうとして――


「ーーーー」

「?!!」


――崩し。鎧武者があえて力を抜き後ろに下がる事で、孝明は思わず己の込めた力と勢いの所為で前に身体が投げ出される。

 大きく踏み出した右脚のお陰で何とか転倒()()は防ぐ事は出来たが――


「ーーーー!」

「なっ?!!」


――跳ね上げ。孝明が体勢を崩したその隙を突いて、鎧武者は孝明の刀を己の黒刀で絡めて、手の内から奪う。

 己の得物が遥か頭上へ飛んでいく現状に、孝明の思考が驚愕に染まる。だがそれは悪手――


「ーーーー!」

「ぶふぅっ?!!」


――鞘打ち。ガラ空きの脇腹に、黒刀を握る右手とは別に左手に握られた無骨だが頑丈な鞘による横薙ぎの一閃。

 肺の中身と胃の中身が同時に込み上げてくる感触の中、孝明の瞳は鎧武者が振り上げた黒刀から逸らす事が出来無い。避けようにも脚にキているので、怯えた小鹿の様に震わせる事しか出来ず、己の死刑執行を止められない。

 世界がスローモーションになる中、脳裏に人生の走馬灯……と言うか、彼女にボコられる己の映像ばかり浮かび、アレッ? 俺って結構かわいそうな子? などと馬鹿な事を考えている内にも黒刀が振り下ろされ――


「――おうっ?!」


――間一髪。首筋を引っ掴まれて後ろに引っ張られ、そのお陰で黒刀は孝明の鼻先を僅かにかすめただけで空を切る。

 突然の出来事に呆ける孝明であったが、次の瞬間には歓喜が広がる。今、自分を助けてくれたのは後ろに居た存在。そして、自分の後ろに居るのは一人だけ。つまり、彼女が自分を(すんで)のところで助けてくれたのだと。

……だが世の中そんなに甘くない。彼女はそんな優しくある筈がない。


「余計なマネすんじゃねーよ! 時間制限が有るのに無駄な時間使うなっ!!」

「あぐぅっ?!! ぐおぉぉぉぉぉ……」


 引っ張られたのではなく邪魔者扱いで後ろに放り投げられた孝明は、運が悪かったのか彼女が狙ったのかはわからないが、境内に複数存在する『石灯篭』に背中から直撃した。

 先の脇腹の痛みにプラスされた痛みに気を失う事も出来ず、殺虫剤に殺られた虫の如くピクピク地面で悶絶する。


「こっからが本番って事で良いな? 前回とは違って、キッチリ決着(ケリ)を付けよーぜ」

「ーーーー」


 そして対峙する両者。彼女は首筋に(うっす)ら残る傷痕を指でなぞり、鎧武者は座興は終わりとばかりに黒刀を怪しく光らせ構える。


「ーーーーッ!」

「ふっ! っ! はっ!」


 そして始まる協奏曲。奏者は二人。黒刀と鉈の噛み合う金属音と、風を切る音に息遣いの音が混ざり合う。リズムもテンポも自由。カーテンコールは、どちらかがくたばる時。演奏時間未定のコンサートが開催される。


「ちいっ?! 糞がっ!」

「ーーーーッッ!!」


 戦況は彼女が不利……しかしこれは、前回の戦いでもわかっている通りの()()()。真っ向勝負では勝ち目の無い事は。

 だからこそ、彼女はその時を待って耐える。己の命をチップに賭ける、その時を。既にスロットは回っている。後はどのタイミングでボタンを押すか、見極めるだけ。


「ーーーー!」

「っ?!」


――髪が数本、宙に舞う。しかし、まだ――


「ーーーー!」

「っとおっ!」


――太ももをかすめる。まだ早い――


「ーーーー!」

「痛っ!」


――二の腕を浅く斬られる。ここでもない――


「ーーーー!」

「ぬあぁっ?!!」


――胸元への斬撃を皮一枚で避ける。まだ――


「ーーーー!!」

「くっ?!!」


――鉈が手元から失われる。もう少し――


「ーーーー!!」

「っ?!」


――鎧武者が大上段に構える。今――


「『襲え』っ!!」

「ーーーー?!」


――彼女の声に答え、あるモノが動き出す。


「――弱者の常套戦術。奇襲だっ!!」


 『狛犬』――この神社のガーディアンたる存在が一直線に鎧武者へ目掛けて駆ける。今まで置物と化していたが故に鎧武者も気づかずにいたので、背後からの完全な不意打ち。飛び上がり、その石の爪で、牙で、不当に立ち入った狼藉者を問答無用で排除しようと重量and威圧感半端ない勢いで鎧武者へと襲いかかる……だがしかし――


「ーーーーッ!!」


――斬った。縦一文字の唐竹割りに、頭から真っ二つに斬られた。不意打ちであったにも拘らず、鎧武者に対して文字通りに手も足も出せず、地面に落ちてただの石塊(いしくれ)へと化す『狛犬』……だが。役割は果たした。

 そう、鎧武者に手を()()()()


「おおおおっ!!」


 その()()()隙を狙っての右ストレート。軌道は鎧武者の顔面への一直線。足腰の捻りだけでなく肩から腕まで捻ってのコークスクリューブロー。通常よりも貫通力増しのKOパンチ。


「ーーーー」


……だが、鎧武者は避ける素振りも見せない。鎧武者は前回の戦いで既に身をもって知っている。彼女の拳の一撃が、己にとっては大した一撃では無い事を。

 確かに【気功】で膂力も底上げされているが、それでもそもそもの女性としての彼我の力量差と、己の身に纏う鎧の頑強さを知っている。故に、少しはクルだろうが耐えられぬモノでは無いと、自信を持って言える。

 わざと食らってその後に反撃すればそれで終わりと、後の先を狙って彼女の拳を受け入れる鎧武者の眼前。その命中直前で()()()()()()()


「ーーーー?!」


 意外。それは拳ではない。ピンと伸ばされた人差し指――一本貫手(ぬきて)。そしてそれの本当の狙いは顔と言う()ではなく()。面頬から覗くその紅い瞳。

 ヤバイと思う暇すら与えられずに、指は正確に目標へと突き刺さる。


「ーーーーァァァァァッ!!!!」


 指先に形容し難い感触が広がるのと、声と言うよりも音にしか聞こえない鎧武者の絶叫、その両方を無視して彼女は()()()()()()()()()()に動く。


(このまま畳み掛ける!!)


 続いて動くのは左腕。鎧武者の右肩、その鎧に覆われていない腋の下に滑り込ませて、関節を外す――【節外(ふしはず)し】。


(効いてくれたかっ!)


 ガコッと言う感触が手のひらに伝わると同時、鎧武者の右腕がダラリと垂れ下がる。正直、これが通じるかは賭けであったが、()()である以上関節も存在していた様である。


「う、らあぁぁぁぁぁっ!!!!」


 差し込んだ左腕はそのままに、(かかと)で鎧武者の足首を刈って力ませに捻り倒す。如何に重量が有れど、重心を崩せば例え相撲取りでも転ばせる事が出来る。

 故に行ったのが非力な女性でも、鎧武者と言えども呆気なく地に転がる羽目になる。


「ーーーーッ?!!」


 地に倒された鎧武者はすぐに起き上がろうとする。倒されたダメージは無いに等しい。自慢の鎧のお陰である。

……しかし、容易には起き上がれない。自慢の鎧の重さの所為である。左腕は黒刀を握ったまま、戦闘中で手放せないので身体を起こすのには使いづらい。右腕に至っては肩から動かせないので、完全に論外。


「ーーーー?」


 せめて仰向けからうつ伏せになろうと、必死に身体を捻る鎧武者のすぐ近くで聞こえる三つの音。何だ、と首だけでソレを見やれば導火線の伸びた三つの球体。

 破壊力抜群・取り扱い及び湿気に注意・火気厳禁の『焙烙玉』。今ならお得な三点セット。


「『急々如律令』――【火気・業】」

「ーーーーッッッッッッ!!!!」


 何時の間にか遠く離れた彼女からの【陰陽術】。立つ火柱は鎧武者もろとも『焙烙玉』を飲み込み――爆発させた。。


「……『急々如律令』――【陽気・快癒】。やり過ぎたか? 何かここまで上手くいくとは思ってなかったんだが……」


 伏せていた身体を起こし、身体の傷を癒しつつ彼女は呟いた。視線の先では未だ砂煙が舞い、爆発の中心部がどうなっているのかは視えない。予め立てておいた通りに事が進んだのは良いが、進みすぎで却って不安になってきてしまう彼女であった……なお、孝明が爆発に少しだけ巻き込まれて吹っ飛ばされていた事はスルーされている。

 それでも流石に、『焙烙玉』三つの至近距離からの爆破ではひとたまりもないであろう。現に【妖気感知】で感じる妖気は極々弱いモノ。吹けば消える風前の灯レベル。

 止めを刺すかと近寄ろうとした彼女が、一歩踏み出そうとした瞬間――砂煙の中から何かが飛んで来た。


「はっ?――うおっ?!」


 鎧武者には【投擲】出来る物など持っていない筈だと言う知識と、飛んで来たモノの正体に驚いて、彼女は避けられずに咄嗟に腕を十字に組んで受ける。

 飛んで来たのは()()。先程自分が関節を外した鎧武者の右腕()()()()が、一直線に飛んで来た。腕だけにも拘らず重いその飛来物を受けた彼女に、更なるモノが襲う。


「ーーーーォォォォォォォォォッ!!!!」

「っ?!!」


 砂煙の中から咆哮と共に鎧武者が出て来る。その姿は見るも無残。右腕は無く、全身の鎧は至る所が(ひび)入り欠け落ち、兜の角は根元から折れている。

 それでも唯一無事な己が愛刀を握り、一太刀(ひとたち)入れようと疾駆するその速度は、今までに見た事の無い程に速い。


(ヤベッ?! 間に合わない!!)


 気がつけば既に相手の間合いの中。既に振り下ろされている黒刀。先のロケットパンチの所為で、逃げるタイミングを逸している。手甲つけてる程度じゃ両腕を捨てても斬撃を止められない。

 世界がスローモーションになる中、脳裏に人生の走馬灯がよぎる間にも振り下ろされる黒刀――













『生  !』







「――っ!!」


――を迎え撃つ。それはもはや無我夢中とすら言えない行動。彼女自身、後になってこの時を振り返れば、何でこうしたのか首をひねる始末な暴挙。

 振り下ろされる黒刀を、蚊を叩く様に両手で挟んで受ける――真剣白羽取り。しかもその上で気合と共に手首を捻り、刀身を半ばからへし折る。

 パキン、と行動の割には軽すぎる音が響く中、彼女は折った刀身を素手でも構わずに握り締めて、再び鎧武者の紅い瞳へと突き刺す。


「ーーーーッ?!!」

「――ああぁぁぁぁっ!!!!」


 鎧武者が一歩後ろによろめくのに合わせて、彼女も踏み込み拳を振るう。突き出された拳は瞳に刺さったままの刀身を更に奥へと押し込み、反対側から兜を貫いて突き出た。


「…………っ?! ぜ〜は〜、ぜ〜は〜」


 後ろに下がり距離を取った所で、知らずの内に止めていた呼吸を再開する。荒い息を吐きつつも視線を外さぬ彼女の眼の前で、未だ立ち尽くし動かぬ鎧武者。

 そのまま一秒、二秒と痛いほどの静寂の中を時間が過ぎ去り――、


「――うおっ?!!」


――何の前触れも無く、鎧武者が内側から弾け飛んだ。

 周囲に弾け飛んだ、鎧武者の身に纏う鎧の破片をやり過ごす為に思わず地に伏せる彼女であったが、その心配は杞憂であった。弾け飛んだ破片その物も、すぐに黒い霧と化して霧散し、鎧武者の姿は完全に掻き消えた。

 後には大小様々の大きさの『妖核』が大量に辺りに散らばり、鎧武者が居た所には、先程折った筈の黒刀が元の姿で地面に突き刺さっていた。


「…………」


 彼女は動かない……と言うか、固まっている。『九十九妖異譚』の知識において、こんなのは知らない。あの鎧武者を倒したらこんな物が手に入るなんて、ネット上にも上がっていなかった。


「……もしかして、()()決着(ケリ)を付けちまった?」

「……多分、恐らく、メイビー」


 呟いた言葉に返すのは、何とか自分で傷を癒し立ち直っていた孝明。彼にしても、あの鎧武者は倒しても倒しても復活する存在だと知っていたので、今の結果に眼を白黒させている。


「……何でだ?」 

「……もしかして、あの鎧武者自身の刀で倒すって言うのが、本当の倒す為の条件だったとか?」


 孝明自身も半信半疑かつ当てずっぽうな推量だが、どこか説得力が有る推量に彼女も納得してしまう。納得してしまい……


「……え? って事は、もうアイツ二度と現れないって事か?」

「……はい」

「……やっちまった、マジかよ……」


……項垂れた。倒した喜びでなく、二度と戦えぬ失望の方が(まさ)っている姿に、孝明が何とも言えない表情を見せる。


「(ギュッ)」

「おっと?!」


 そんな彼女に抱きついてきたのは、今まで避難していた『倉ぼっこ』。彼女が無事に生きていてくれた事に安心して頬ずりまでしてくる、そんな『倉ぼっこ』の仕草に、先程までの殺伐とした空気が霧散し彼女は溜め息を吐く。


「……仕方無ーか……チャンスはまだ有るだろうし……多分、きっと、メイビー…………つーか、まただし……我が事ながら、ホントどうにか出来無いものか」


 引っ付いている『倉ぼっこ』をそのままに、彼女は社務所へと向かう。ブツブツと何かを深刻に呟きながらの近寄りがたい雰囲気なれど、そんな彼女に孝明は声を恐る恐る掛ける。


「……この大量の『妖核』はどうするんだ?」

「……ん? 後だ、後。取り敢えず着替えてくる」

「あの黒刀はどうするんだ?」

「欲しけりゃやるぞ?」

「……呪われてそうだから、遠慮しておく」











「……突然、神社から聞こえた爆発音について、村長が聞いてこいって」

「『妖怪』があらわれた。強敵だった。討伐した。以上だ。わかったなら帰れ」

「俺の扱い酷くね?!」


……草太の嘆きは彼女には響かない。

ご愛読有難うございました。


本日の解説はお休みです。

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