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質問……イヤ、言ってくれるな

気分転換に3DSの『リアル脱出ゲーム』をやってみました。

…………ッザケンナ!! もうちょいマシなヒント出しやがれっ!!!!

「申し訳ありませんでした」

「…………」


 天気は曇天。風はやや冷たし。そんな天気の元、神社の境内で地面に座って盛大に男らしくも情けない土下座を敢行するのは……先日、お空の星へと消えた孝明。

 そしてそんな孝明に縁側で、吹き抜ける風よりも更に冷たくゾクゾク来る視線を向ける巫女装束な彼女。


「過日は私めが、突然の来訪にも関わらず大変失礼な事を致しました。お怒りはごもっともでしょうが、私めに謝罪の機をお与えになられれば恥を忍んで参った次第に御座います」


 誠心誠意、真心を込めた謝罪を述べる孝明であるが……彼女の心は動かない。動かせない。前科が有り過ぎる。


「……取り敢えず、その変な敬語を止めろ。鳥肌が立ってしょうがねーから」

「わかり――わかった。と言う訳で許して貰えるか?」


 キラキラした瞳で訴えてくる孝明であったが、彼女相手には何の役にも立たない。むしろ、視線の温度が更に下がる結果を齎した。

 彼女は己の背後、社務所内の部屋に居る子供姿な『妖怪』――『(さとり)』に問いかける。


「…………どうだ? コイツが言ってるの、嘘か本音か?」

「……嘘、言って、ないです」


 『倉ぼっこ』からのおねだりに負けたと言う訳ではないが、何だかんだで結局ここに居着いている事が許されている『(さとり)』の言葉に、彼女は一つ頷く。

 それを見て、己の所業が許されたとホッとした孝明に――


「――『お座り』」

「ふぎゃあっ?!!」


……この神社のガーディアンたる『狛犬』がのしかかって来た。土下座スタイルのまま背中から押しつぶされ、身動きが取れないまま後頭部にも脚が置かれる。窮屈に折り曲げられたままの脚関節が悲鳴を上げ、顔が地面と濃厚な口付けを交わしているので呼吸すると砂が鼻と口に入る。

 それでも孝明は何とか顔を横にずらし、無理やり口を動かしてかなりくぐもった声を出して不満の声を上げる。


「何、するんだ、よ?!」

「んー、何つーか、ツケの精算?」

「何のっ?!」

「オレの不快指数に対しての」


 眼の前で潰されている男が居ると言うのに、実にあっけらかんと彼女は言う。石で出来ている『狛犬』はかなりの重量。それに押し潰されている孝明の苦痛は厳しいであろうに、彼女に取ってはどうでもいい事なので完全スルー。と言う訳で、普通に会話を続ける始末。


「つーか、どうやってここを突き止めたんだよ?」

「あの後、必死こいて、探し回って、それでも見つからなくて、おかしいと思って、『京』に戻って、オハナシしたら、本当の事を教えて貰って、追いかけて来た」

「……オマエの何が、そこまで駆り立てるんだか」

「愛!!」

「トラップカード発動。『伏せ』」

「ぐおおおおおっ?!!!!」


 彼女の命令で『狛犬』が更に孝明に伸し掛り、苦悶の声もより強くなる。


「……要らねーよ。そんな愛」


 その呟きに、『(さとり)』と共に部屋の中に居る『倉ぼっこ』が同意する様に深く頷くのであった。




――――Time・(ちょっと時)Going(間が飛ぶぜ!)――――


「…………」


 時は少し過ぎ去り昼時。何時ものごとく神社に来た草太は、何時もとは違う物を眼に留めて何とも言えない表情を浮かべていた。

 視線の先には木を骨組みにして布を張った物。現代日本ならばテント……と呼べなくもない物があった。好意的に見てどうにかテントと言う分類に括っても良いと辛うじて言える、酷い有様(ありさま)の物が。骨組み同士がアンバランスなのに何故か全体ではバランスの取れていると言う前衛芸術的な一種の奇跡がそこにあった。


「ん? 来てたのか?」

「……あれ、何なんだよ?」


 掃き掃除でもしていたのか、竹箒を片手に何時の間にやら現れた彼女に対して、半ば呆然とした様子で草太がテント(?)を指さしながら尋ねる。

 それに対して彼女は、ため息一つ吐いて端的に言う。


「居候の住処だ」

「……誰?」

「先日、吹っ飛ばしたアレだ」

「あ〜〜〜〜……あ?」


 その言葉で色々と察した草太……だがしかし、色々とわからない事も当然のごとく脳裏に浮かぶ。具体的にはあの男と彼女の関係性と、居候に至るまでの過程等々。


「誰なんだよ、あいつ?! 何でここに住んでんだよ?! 何で許してんだよ?! 何で吹っ飛ばされて無事なんだよ?! あいつとはどう言う関係なんだよ?! あと『(さとり)』は早く追い出せよっ!!」

「『京』で出会った陰陽師。住みたいって言ったから。許可出さない方がウザいから。オレが知るか。被害者と加害者。オマエが決める事じゃ無ーし」


 草太からの矢継ぎ早の質問に、これまた矢継ぎ早で返す彼女。何となく質問の内容を予想でもしていたのか、受け答えが淀み無い上に端的かつ断定。

 何を言っても何も動じない彼女に釈然としないものを感じるも、ここは彼女の領域。決定権はあちらに有るし、下手なことを言えばまた出禁を食らうので、草太はそれ以上は彼女に言えないので……矛先を変えた。


「なら俺が追い出してやる!!」

「……頑張れよー。期待しないし待ちもしないから」


 うおおおおっ、と言った咆哮と共にテント(仮)へと突進していく草太と、適当に手を振って掃き掃除に戻る彼女――


「ぬあっ?! このガキっ?! 何て事しやがる! 苦心して造り上げた我が城をっ!!」

「どこが城だ! どこがっ! 風が吹いたらあっさり飛ばされそうな代物(しろもの)な癖に!! だいたい、陰陽師だか何だか知らないけど、ここから出て行けっ!!」

「何でお前に言われなきゃならない!! 彼女から許可取ってるんだっ!! 故に、ここに住むのは当然の事!!」

「ふざけるなっ!! あの人が許しても俺が許さない!!」

「それこそふざけるなっ!! お前の許可など要らん!!」

「何だと、こいつ!!」

「やるかコラッ!!」


――そしてテント(仮)に横っ飛びの蹴りをかましつつ中に居た孝明に咆える草太と、無残に壊れたテント(仮)の惨状に嘆きつつ、突然の闖入者に負けじと咆える孝明。そのまま取っ組み合いへと発展していく。

……そんな喧しい両者の元に『狛犬』が突っ込んでいくまで、あと一分三十四秒。




――――Time・(またちょ)Going・(っと時間が)Again(飛ぶぜ!)――――


「…………」

「…………」


 そして日は沈み夜刻。電球なんて物は当然存在しない為に、行灯(あんどん)の薄明かりが仄かに輝く社務所内で、静かに音も立てず気配を殺して歩みを進める者達が居た――草太と孝明である。

 板張りの床が軋む音すら立てない静かな歩行術。己の呼吸音すら抑える隠密動作。昼には派手に言い争っていた両者が、どういう理由か今は共に手を取り合う戦友となって目標へ向かって着実に一歩を進めていた。

 目指すは現在絶賛入浴中の彼女が居る風呂場……では無く、別の所。正直に言えば、両者ともそちらへと向かいたいが、【気配感知】持ちの彼女相手では結果はわかりきっている。お空の星が二つ増える事になる。


「「…………」」


 目標まで後少し。しかし手と気は抜かない。ここでの微かな失敗が全てを終わらせてしまう。それがわかっているからこその徹底ぶり。

 そして遂に二人は目的地の(ふすま)に手をかけて、思いっきり開いて中へと飛び込む。そこには――


「――きゃあああああああぁぁぁぁぁぁっ?!! ごめんなさい!! ごめんなさい!!」


……『(さとり)』がポツンと一人で居た。

 友人たる『倉ぼっこ』は彼女と一緒に入浴中なので、先に入った『(さとり)』は寝室で大人しく待っていた所に突然の闖入者。思わず枕を抱きしめ部屋の隅っこに逃げて訳もわからぬままに謝罪する『(さとり)』。


「いやいや! 落ち着けって、俺達だから!」

「そうだ! 君に危害を加えるつもりは無いから!」


 錯乱に近い状態の『(さとり)』を必死に宥める二人。ちなみに、心を読める『(さとり)』が何故にこの二人の接近に気がつかなかったのかと言えば……無心のままに行動していたからである。後日、それを聞いた彼女は「……そのまま悟り開いて、煩悩とか全部失くなっちまえばいいのに」と呟いたと言う。


「……何の、用、ですか?」


 どうにか宥めるのに成功した二人であったが、『(さとり)』の警戒心は未だレッドメーターを指している。まあ、基本的に対人恐怖症なところのある上に、自分の読心能力の網を潜り抜けて突然現れたのだから仕方無いっちゃ仕方無い。

 そんな怯える『(さとり)』を前に、二人は揃って――


「「――お願いします!!」」

「……え?」


――綺麗に土下座した。

 予想外な行動に眼を白黒させる『(さとり)』を他所に、二人はここに来た()()を告げる。


「「彼女の事を教えて下さい」」

「――っ?!!」


 その言葉に思わず息を呑む『(さとり)』。その反応を聞き、やはり知っているのかと確信した二人は顔を上げて更に詰め寄る。


「やっぱり知ってるんだな! 教えてくれ、頼む!!」

「彼女の事は、未だに名前すら知らないんだ! 普通に聞いてもはぐらかされるだけだし、知ってるなら教えてくれ!!」

「……あぅ」


 激しい剣幕に一層みを縮こませる『(さとり)』。確かに彼女の事は、知りたくなくても自分の能力の所為で勝手に知ってしまうから、名前も過去も知っている――彼女の願いも。正直、理解出来無い部分が多かったが、それでも教えようと思えば教えられる。

……だけど、こんなものを教えても、理解してもらえるだろうか? 『(さとり)』はそう思わずにはいられない。親しい『倉ぼっこ』にですら、言えないでいるのだから。

 この場をどうすれば良いのか? と悩む『(さとり)』と、お願いだ! の一辺倒な二人。そこに――


「――そういうのは、普通本人に聞くのがスジってもんじゃねーの?」

「「…………」」


――小さく、それでも耳に入る声がした。

 背後から聞こえた声に、一瞬時が止まる二人。背筋に奔る悪寒・手に沸く汗・口の中に分泌される嫌な味の唾・五月蝿いほどに音を立てる心の臓。それら全てを一身に受けて、ギギギと擬音がしそうな挙動でゆっくりと後ろに振り向く両者。

 そこに居るのは風呂に入っている筈の人物。巫女装束ではなく夜着を纏い、髪が濡れている事が確かに風呂に入っていた事を物語っているが、何故に今ここに居るのかが不明。


「「……何で?」」

「あんだけデカイ悲鳴上げりゃ、風呂場にまで響くっつーの」


 バキボキ指を鳴らす彼女と、それを見て何とか説得しようとする二人。しかし、彼女はそんな暇を与えずに二人の首根っこを引っ掴んで歩き出し――


「現行犯だから、即有罪」

「「――だあああああっ?!!!!」」


――外へと放り出された。手も脚も出さずの純粋な【投擲】なので、彼女を知る者からすれば優しい部類に入るであろう。


「……ま、聞きに来ても答えてやるかは別問題だけどな」


 手をパンパンッと払ってから戸を閉めて、外部からの完全なシャットアウトを確認すると部屋へ戻る彼女。そこには『倉ぼっこ』に抱きついて怖かった、と零す『(さとり)』と、宥めてあやす『倉ぼっこ』が居た。こうして見ると、仲の良い姉妹にしか見えないのだから不思議なものである。


「寝るか?」

「……はい」

「(コクコク)」


 そうしてそれぞれの布団に入ると、速やかに寝息を立てる三者であった。

……外からバカの声が聞こえた気がしたが、聞く者は既に居ない。




――――Time・(またちょ)Going・(っと時間が)Again(飛ぶぜ!)――――


「……そろそろ、次に行くか?」


 明けて翌日。妙に早く目覚めてしまった彼女は、昨日の続きの掃き掃除をしつつ今後の事を考えていた。本来ならば、人手の足りぬ陰陽師の代わりにあっちこっちの『妖怪』を退治するのが目的なのだから、一箇所に留まる理由は無い。


「……ん?」


 ふと感じる妖気に振り返れば、そこには『(さとり)』の姿が。何の用かと尋ねるよりも速く、『(さとり)』が口を開く。


「……どうして」

「あん?」

「どうしても、その願い、叶えたい、ですか?」

「? あ〜〜……」


 『(さとり)』の言葉に全てを察する彼女。何とも言えない微妙な表情を浮かべて、頭を掻く。


「読んだのか……」

「……はい、ごめんなさい、です」

「ま、仕方無いだろ。オマエの能力的に――ただ、何も言うなよ」


 静かだがはっきりとした断定の口調。何も受け付けない完全な拒絶。


「言っても無駄、止めても無駄、アイツらに告げ口するのも止めておけ。その場合、オマエを退治する事になる。これでも結構オマエの事は気に入ってんだし、そんな選択肢は選ばせんなよ?」

「……何で? そんな、願いを?」

「これでも色々と考えたんぜ? でもその結果がこの願いだ……結局、これ以外オレは選べなかった。だから、しゃーねーだろ?」

「でも、()()()は?」

「あ〜〜〜〜……確かに、あの人だったら間違い無く怒るだろうな。正座で一時間って所か……でも、結局は許してくれると思うんだよ。しょうがないな、って。だから――」


 そう言う彼女の表情は――


「――理解してもらうつもりは無ーよ。ただ、見逃してくれ。オレがオレの願いを叶えるのをな」

「…………」


――何も言えない程に、清々しいものであった。

ご愛読有難うございました。


本日の解説はお休みです。

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