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執念……イヤ、もう何つーか

う~~む。執筆時間が思うように取れません。

しばらくは隔週ペースで維持しそうです。

「テメエ、この野郎!」


 朝も()よから境内で、木の棒片手に走り回る者、在りけり。その者の名を草太。

 対するは、広い境内の立地を活かして草太より逃げる茶色い毛玉。その『妖怪』の名を『すねこすり』。


「逃げんなコラァッ!!」


 追いかけど、追いかけど、草太は『すねこすり』を捕まえられず。木の棒、虚しく空を切るのみ。

 『すねこすり』、むしろ挑発するかの様に、草太の手が届くギリギリの距離を維持する。


「……上等だ! 俺のこの棒が光って「(やかま)しいっ!!」――あうっ?!! 熱いっ!!」


……そこで、不快指数が溜まった事で介入したのは、この神社の主な彼女であった。手に持っていた湯呑を容赦無く【投擲】し、湯呑は草太の頭に命中、次いで中身が身体に降りかかり熱さに身悶えた。


「朝っぱらから人ん家で騒ぐなっ! 静かに寝かせろ!!」

「……寝てても、何時も(うな)されてる癖に」

「何か言ったか?」

「すいませんでした!!」


 社務所の縁側に、彼女は夜着代わりの長襦袢で現れた。寝癖付きの髪に、胸元が着崩れで開いているあられもない姿であるが、本人は至って気にしていない。明らかに不機嫌かつ痛みを堪えている顔で、草太に怒鳴る。

 草太の方は、ちょっと顔を赤らめてそっぽを向きつつ、ボソリと呟く。しかし、彼女の地獄耳にはしかと聞こえていたのか、寝ている時でも肌身離さず身につけている『那由多の袋』から取り出した包丁を見た瞬間、綺麗な土下座を決めた。

 それを見て溜飲を下げた彼女は、縁側に荒々しく腰を下ろして胡座をかく……長襦袢でそんな姿をすれば、素足がかなり晒されるのだが、彼女は全く気にしていない。あ〜う〜、と唸って痛む頭を押さえているだけ。


(少しは意識しろよっ!!)


 そしてそんな彼女の態度に内心で叫ぶ草太。相変わらず男として意識されていない現状に歯噛みしつつも、それ故の役得にチラチラと彼女の素足に眼がいってしまう……最も、彼女には草太の視線は当然気づかれているが。気づかれて放置されている。


「……で? いったい何を騒いでんだよ?」

「……昨日の恨みを晴らそうとしただけだよ」


 そう言って草太は『すねこすり』を指差す。その言葉に昨日の一騒動を思い出す彼女だったが、ふとそこで違和感を感じる。


「……『倉ぼっこ』は、何処だ?」

「あれ? そう言えば、見てないな?」


 この神社の同居『妖怪』の『倉ぼっこ』の姿が見当たらない。最近では『すねこすり』と常に一緒なので、『すねこすり』単体だと違和感がすぐにわかる。

 彼女の問いかけに、草太も今更ながらに気がついて辺りを見回す。しかし何処にも『倉ぼっこ』は見当たらない。彼女の方も【妖気感知】で探ってみれば、そもそも境内どころか神社周辺に妖気が感じられない。


「何処行ったんだ? アイツ?」

「さあ?」


 二人揃って首を捻っていると、『すねこすり』が神社の入口にそびえる鳥居の方へと転がっていく。それを眼で追うと同時、彼女の【妖気感知】に石段の下から登ってくる妖気を感じた。ただし……


「……()()?」


 一つは恐らく『倉ぼっこ』であろう。では、もう一つは何者か? 一緒に居る事から、少なくとも『倉ぼっこ』の知り合いと言う事であろうが、皆目見当がつかない。

 石段を登ってくる小さな二つの足音を聞きながら待っていた彼女が眼にしたのは、着物姿の二人の子供『妖怪』。一人は『倉ぼっこ』。長い前髪で顔が覆われた表情不明な『妖怪』。そして、その背に隠れる様にもう一人の『妖怪』が居た。おかっぱ頭の、どこかオドオドとした様子の『妖怪』が。


(…………?)


 彼女の表情が訝しむものに変わる。ゲーム内知識で、大抵の『妖怪』は見覚え有るのだが、その『妖怪』には心当たりが全く無い。隠れキャラなんて居たのか? と彼女が考えている間に、草太から大声が上がる。


「誰だよっ?!!」


 至極真っ当かつ純粋な問いであったが……


「きゃああああぁぁぁぁぁっ?!! ごめんなさい! ごめんなさい! 謝りますから大きな声出さないで下さい!!」

「「…………」」


……予想外な反応がその『妖怪』から上がる。頭を抱えてその場にしゃがみこんで、涙目で悲鳴を上げて謝罪。『妖怪』らしさなど皆無な、ただの子供としか見えないか弱い態度。

 そして、そんな態度に固まる草太。この場合どうすれば良いのか全く見当もつかずに、ただ立ち尽くすのみ。彼女の方は頭を掻きながら静観の構え。

 そんな二人を他所に『倉ぼっこ』が動く。しゃがみこんで抱きしめて、あやす様に背をポンポンと軽く叩いて落ち着かせる。そしてその影で、長い前髪でわかり難いが草太に非難めいた視線を向ける。


「(ジ〜〜)」

「…………」

「(ジ〜〜〜〜)」

「……ごめんなさい」


 無言の圧力に屈した草太が素直に頭を下げる。そして『倉ぼっこ』は、もう一人の『妖怪』を(なだ)めて立たせて草太を大きく迂回してから、彼女の元へと連れてくる。


「(ジ〜〜)」

「……取り敢えず、敵意も害も無いことはわかったんだが……ソイツ誰?」

「(ジ〜〜〜〜)」

「…………イヤ、オレはあの人じゃねーから、視線から心を読む何て完全には無理だぞ? ここに居させて欲しいって事はわかるし、別に構わねーけどな……」

「……あの?」

「あん?」


 『倉ぼっこ』からの視線の訴えに、どうしたものかと頭を悩ませていた彼女に、件の『妖怪』の方からおずおずと声がかかる。そちらに視線を移せば、彼女の元から鋭い目つきに若干怯えながらも、自分を指さしながらボソボソと言う。


「私……『(さとり)』です」

(?!! 『(さとり)』?!……道理で見覚え無ーわけだ。有名な『妖怪』だけど、あのゲームには登場していないからな)


 『(さとり)』――誰しも一度は聞いたことのあろう心を読む『妖怪』。ゲーム『九十九妖異譚』では、まあどうやっても出せないであろう『妖怪』の、はじめての自分の知らぬ『妖怪』との出会いに、彼女は少し考える。


(…………もしかしたら、他にもこう言う『妖怪』が居るのかもな)


 未来に対する微かな期待感を今は置いといて、彼女は『(さとり)』の方に注視する。こうして出会うのは初めてだが……まんま『妖怪』らしくない様子に、一言どうしても言わざるを得ない。


「オマエ、本当に『(さとり)』なのか?」

「……はい」

「じゃあ、アイツが何を考えているのかわかる……イヤ、読めるのか?」


 彼女が指さす先には草太の姿。話についていけてない草太は何の事だかわからずに困惑顔だが、それに構わずに『(さとり)』は言われるがままに彼女の要求に答える。


「えっと……何だこいつ?……もう少し俺を男として見てくれ……もう少し胸元がはだけないか「うわあああああぁぁぁぁぁーーーーっ?!!!!」――っ?!!」


 『(さとり)』が告げている最中に突如草太より上がる大声。その声に怯えて『(さとり)』は再び『倉ぼっこ』の背に隠れてしまう。

 そんな中、彼女は『(さとり)』に向けてグッと親指を立てて一言。


「認めるぜ、確かにオマエは『(さとり)』だ」

「そんな事に人を使うなーーーーっ!!!!」


 色々と暴露された草太の正論だが、彼女には通じない。むしろ、更なる爆弾を投下する。


「イヤ、オマエがオレに対してどう思ってるかなんて、そんなのとっくにわかってるし」

「いやああああぁぁぁぁぁーーーーっ?!!!!」


 両手で抱えた頭をブンブン振りながら奇声を上げ錯乱する草太。心なしか『倉ぼっこ』からも同情的な視線を向けられている。

 自分でやっておきながら、うるせーなと座った眼を向ける彼女に、『(さとり)』から声がかかる。


「あの……」

「ん?」

「誰か、来ます」


 言われてみれば、彼女の【気配感知】に引っかかる一つの気配。視線で問えば、『倉ぼっこ』は無言で首を振る。どうやら心当たりは無いらしい。草太の方は……未だ復活の見込み無し。

 草太以外の村人がここを訪れるのは珍しいな、と考えていた彼女の視線の先。石段の最上段に――


「ハァ……ハァ……見つけたぞ」

「「「「…………」」」」


……現れたのは髪はボサボサ、眼の下には隈、着ている物はボロボロ、顔や手足は汚れ、だけど眼は異常にギラついている人物……『京』で別れて清々した筈だった陰陽師、孝明であった。

 不審過ぎる人物の突然の登場に、何時の間にか復活した草太・彼女の背に隠れる『倉ぼっこ』・その更に背に隠れる『(さとり)』。

 そして彼女の方はと言えば予想外な、しかし心のどこかでは何故か納得してしまう現状に、ただでさえ痛む頭が更に悪化したかの様に深い溜め息を吐く。


「……その執念は買うけどよ。何つーか……イヤ、それ否定したらオレも「……おおおおぉぉぉぉぉっ!!」――?!!」

「「「――?!!」」」


 突然の奇声……と言うか歓声。久しぶりの再会アンド、着崩れて胸元や素足が覗く彼女の長襦袢姿に、孝明の倫理と良心と理性の糸がブチ切れた模様。

 さながら幽鬼もしくは亡者じみた動きで、不気味ながらも正確に獲物を狙う狩人の如く彼女へと向かう。


「…………『急々如律令』――【土気・剛壁】」

「へぶしっ?!」


 急展開にどうしていいかわからない草太。変わらず呆気に取られて彼女の背から動けない『倉ぼっこ』。孝明が怖すぎて『倉ぼっこ』の背に隠れて怯える『(さとり)』。

 そんな三者を他所に、彼女は冷静に術を行使。地面からせり上がった石壁が、孝明の暴走を見事に止める。潰された虫の様に石壁にへばり付く孝明であったが――


「――甘いっ!!」


――そのまま石壁をよじ登り、むしろ足場として彼女へとルパンダイブを敢行する。

 もはや遮る物は何も無いと、我が道を塞ぐ物は何一つ存在しないと、己が最愛の相手へと一直線に特攻し――



「――甘ぇ」

「どぅぅぅぅわぁぁぁぁーーーーっ?!!!!」


……彼女自身が最大の障害物として立ちはだかった。既に振りかぶっていた大木槌を、【気功】で上乗せされた膂力で持った一本足打法で孝明の顔面に叩き込む。

 轟く快音と悲鳴。錐揉み回転で飛ぶ変質者。鼻血とよだれを撒き散らしながら数泊後、孝明は遠いお空の星へと消えた。


「……汚ぇ一等星だな」


 人を一人、空の彼方へ吹っ飛ばしておいても彼女の言葉は辛辣。毎度頼りになるこの大木槌を、後で洗浄しておこうと心に決めた彼女に、今まで半ば空気と化していた草太が尋ねる。


「……今のって?」

「害虫だ。それ以外の言葉が見当たらねぇ」

「…………」


 その言葉に何故かストンと納得してしまった草太は、それ以上何も尋ねる事は出来なかった。


「……ここも潮時かもしんねーな」


 そして彼女は、この神社からの再度の退去をかなり真剣に検討し始めるのであった。


「(ギュッ)」


 そして『倉ぼっこ』はそんな彼女の服の端をシッカリと掴むのであった。

ご愛読有難うございました。


本日の解説。


――――『(さとり)』――――


中級『妖怪』。

基本的には妙齢な女性の姿で現れる。ゲーム『九十九妖異譚』には存在しなかった、この異世界でのオリジナル『妖怪』。

他者の考えている事では無く、頭の中そのものを読み取る事が出来るので、現在の思考だけでなく過去の経験・記憶も読み取る。

肉体面では弱く、読み取ったモノを使って言葉巧みに精神的に追い詰める事が得意。ただし複数の思考を読み取るのは苦手なので、多人数相手だと弱い。

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