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回帰……イヤ、まあいいか

夏風邪引いてた……

ただでさえ少ない執筆時間を失った事に反省。

「んーー……」


 既に日も落ちたとある街道をダラダラと気のない様子で歩く巫女。彼女的にはもはや当たり前な、寝癖の残る髪を弄びつつ歩いている彼女は先程からウンウン唸っていた。

……最も、唸る理由を彼女自身が見当が付かないので、何と言うか思考の悪循環に陥っていた。


「……なんつーか、痒い所に手が届かないみたいな感じなんだよな……何がさっきから引っ掛かってるんだ? オレは……」


 何かヒントでも有ればすぐに正解にたどり着ける、なんとももどかしい感じが付き纏う。どうしたもんかと彼女は気分転換に、腰の『那由多の袋』から地図を取り出すとこの先の道筋を確認する。


「……暫く行くと村があるのか。しかも『神社』付きか……………………ん? 『神社』?」


 その単語を呟いた瞬間。彼女の頭の中で何かがストンと落ち、思わず手をポンッと打った。




――――Now・(ダラダラ)Walking(行こうぜ!)――――


「やっぱし、道理で()()()()道だと思ったぜ」


 小一時間、街道を突っ走ってたどり着いたその光景に、彼女は先程から感じていたモノの答がわかった。

 見えるのは川を挟む形で粗末な木造の家と畑が並ぶ小さな村と、その村に隣接する山の中腹に見える『神社』……この世界に来て初めて訪れた村で、拠点にしていた『神社』であった。


「……丁度いいな。また暫く使わせてもらうか」


 そう呟いて、彼女は『神社』に向けて歩き出した。




――――Time・(ちょっと時)Going(間が飛ぶぜ!)――――


「……はぁ」


 翌日の昼頃、溜め息を吐きつつ『神社』への長い石段を登る一人の子供が居た。

 草太という名のその子の足取りは重い。石段の長さと言う物理的なモノの所為ではなく、精神的なモノの所為である。毎日の様に訪れ、毎日の様に現実に打ちひしがれる。わかってはいるが、一抹の希望に縋り止められない。

 どうせ今日も何時もと変わらぬ現実が待っていると石段を登りきった草太は――


「――――あっ」


――何時もと違った現実に直面した。

 視線の先には一人の女性の後ろ姿。巫女装束を身に纏い、箒で境内を掃くその姿――かつて見たその後ろ姿。


「…………」


 間違い無い。他人の空似では無い。同じ服装の別人では有り得ない。あの寝癖の付いた髪とやる気の無い気怠い動作が、当人だとわかりやす過ぎる程に物語っている。


「――っ!!」


 余りにも突然居なくなったのに、余りにも平然と再び現れた事に、草太の胸の中で怒りの炎が灯る。そこに若干と言うには多い嬉しさも含まれている事には無視して、文句の一言も言おうと鳥居をくぐり一直線に駆け出し――



「へっ?――うわあぁぁぁぁぁ〜〜〜〜っ?!!」


……『神社』のガーディアンたる『狛犬』からの突進攻撃をカウンターに食らって吹き飛ばされた。

 鳥の様に、羽の様に、子供が遊ぶお手玉の様に宙を舞う中、草太の眼と悲鳴を聞いて振り向いた彼女の目が交差する。草太からのアイコンタクトをしっかりと受け取った彼女は、伸ばされた草太の手に(こた)える様に自分の手を伸ばし――


「『急々如律令』――【陽気・纏】」


――術を行使する。草太の身体が青白く薄い防護膜で覆われるのを確認した彼女は……用は済んだとばかりに背を向ける。


「えっ?――がうっ?! ふぎゃっ?!! おうっ?! だだだだだっ?!! どぅわっ?!!」


……そして聞こえる悲鳴と、ナニかが転げ落ちて行く音。

 ほんの十秒に満たない短い時間の後に訪れる静寂。箒が掃く音しか聞こえない『神社』に見合った静謐な空間の中、己の袴をクイッと引く感触に彼女が視線を落とせば、異常に長い前髪で顔が隠れた着物を着た女の子の『妖怪』――『倉ぼっこ』が居た。

 以前出逢ったこの『妖怪』が何故にここに居るかと言えば、彼女がこの『神社』を離れて『結界』の効力が消え去った後に、住み着いていた様である……倉が無いのに。ちなみに、『結界』は現在は起動していない。彼女のメンドイの一言と、『倉ぼっこ』のしがみつき攻撃によって。『狛犬』の攻撃対象からも外されている。


「…………」


 無言で石段の方を指差す『倉ぼっこ』。何を言いたいのか察した彼女は、どうでもよさ気に言う。


「別に死にはしねーよ。一応、術もかけといたんだし……骨が一本ぐらい、イったかもしれねーけど」


 慈悲無き言葉をアッサリと言う彼女に対して、『倉ぼっこ』は未だ指差した体勢のままで彼女の事をジッと見ている。


「? 助けに行けってか?」

「(フルフル)」

「?…………あっ、もしかして知り合いなのか? って言いたいのか?」

「(コクコク)」


 彼女の問いに首を縦に振る『倉ぼっこ』。顔は見えぬが、雰囲気から言い当てた事に嬉しそうな感じが伝わってくる。

 一方、彼女の方はと言えば、軽く頭を掻きつつ悩まし気な表情を見せていた。


(う〜〜む、仕草や雰囲気から言いたい事を読み取るのがムズイ……ノータイムで読み取ってた、あの人の凄さが今わかった)


 過去の事を思い返す彼女であったが、すぐに『倉ぼっこ』からの視線に気づいて気を取り直す様に言う。


「別に……以前ここに住んでた事があって、そん時にあれこれ構ってきてたってだけだ」

「…………」


 彼女が物凄く端的に説明し『倉ぼっこ』もそれで納得したのか彼女から視線を外し、彼女も掃き掃除に戻った瞬間――


「――何しやがんだアンタはーーーーっ!!!!」


――何時の間にやら復活していた草太が、石段を登りきった所で叫んでいた。鳥居から内側に入らないのは、『狛犬』にまた吹き飛ばされない様にする為の自衛策であろう。

 目立った外傷も無い五体満足な姿に、どうやら先の術は思っていたよりも高威力でかかっていたらしい。


「(何だかんだで術の威力の上がってんだな)うるせーな。侵入者が居たから追い払った……どこも間違っちゃいないだろうが」

「大間違いだっ! こっちは危うく死ぬとこだったんだぞ?!!」

「一応、死なない様にしたし、現に生きてるから結果としては問題無いだろ?」

「過程に大いに問題有りだっ!!」

「ったく……所でよ」

「何だよっ!」

「……オマエの名前、何つったっけ?」

「忘れんなーーーーっ!!!!」


 一際高い絶叫を上げる草太であったが、彼女の方は一切罪の意識を感じさせない平然とした表情。序でに『倉ぼっこ』は彼女の後ろに避難中。


「ふざけんなっ! アンタの頭の中はどうなってんだよ! 人の名前をそう簡単に忘れるなっ!!」

「イヤ、忘れたんじゃなくて、最初から覚えてねーんだけど……」

「なお悪いじゃねーかよっ!! 人を何だと――」


 酷いとしか言えない彼女の一言に、怒髪天に登っちゃう草太。詰め寄りたくても『狛犬』の所為で詰め寄れない状況に、思わず苛立ちをぶつける様に地団駄踏む草太であったが――


「――あっ?」

「あっ」


――足の裏から感じた()()()()感触に声が漏れる草太と、その柔らかいモノの姿に声が漏れる彼女。

 だが問題はソレでは無い。ソレを踏んだ事で脚を滑らせバランスを崩した草太の身体がゆっくりと後ろに傾いていく。


「えっ?! ちょっ?! 待――うわあぁぁぁっ!! はぐっ! ぶみょっ! ふぐぐぐぐ! ぶぶっ!!」

「「…………」」


……再び先程の焼き直しの様に石段を転げ落ちていった草太。それを黙って見送る彼女と『倉ぼっこ』……そして残る、事の元凶たる『すねこすり』。


「……匠の世界だな、オマエの所業は」

「(モフモフ)」


 染み染み呟く彼女の視線の先では、転がってきた『すねこすり』を受け止め抱きしめご満悦な『倉ぼっこ』。

……草太の話題は出ない、気にしない皆の衆であった。

ご愛読有難うございました。


本日の解説はお休みです。

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