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挑戦状……イヤ、これ……

お盆休み……でもそんなの関係無ぇ! でもそんなの関係無ぇ! ハイ、仕事!

……と言う訳で、コイツ等の活躍は先送り。

「ふわ〜〜〜ぁ……」


 本来ならば南天に高く輝く太陽が望めるのだが、空を覆う雲の所為で曇天一色な真昼時。はしたなくも豪快に大きく口を開けて大欠伸をかます巫女装束な彼女が居た。

 一晩世話になった今は無人な寺を背に、軽く身体の各部を伸ばして未だ残る眠気を解消した彼女は、腰の『那由多の袋』から地図を取り出し方角や道筋を確認すると歩き出す。


「んじゃ、次のポイントに行ってみるか」




――――Now・(ダラダラ)Walking(行こうぜ!)――――


「…………」


 そして約一時間後。彼女は脚を止めていた。理由は道のど真ん中に突き刺さっていた一枚の粗末な立て札。明らかに手作りかつ粗末なソレを見て、彼女はウンウン唸っていた。

 悩む理由は単純。そこに書かれた文字が達筆……と言うか下手過ぎて、読み難いのであった。これが完全に読めないのであれば、無視してさっさと先を急ぐにおであったが……中途半端に読めてしまうので、仕方無く解読しているのであった。


「……挑戦状……で、良いんだよな?」


 全体の四割程しか解読出来なかった彼女であったが、今度こそ・勝負とかの言葉から見るに間違ってはいないと思えた。そして何よりも、『後追い』と『袖引』の単語を解読出来た事が確信させた。


「懲りない奴等……つーか、何で立て札なんて使ってんだよ? 直接言いに来りゃいいのに?……それ以前に――」


 前回、出会い頭に激しくブン回した事実を棚上げにして彼女は呟く。そしてゆっくりと握り締められた右拳が、更なる力を加えられ少しずつ震えていき――


「――もっとマシな字で書けっ!! 肝心な所がわからねーだろがっ!!」


――怒りと共に解き放たれ立て札を打ち抜いた。一瞬で解体され破片が辺りに散乱するものの、彼女の気は晴れない。

 件の立て札からは、何時・何処で・どのようにと言った部分が全く読み取れなかったので、彼女としても愚痴の一つも言いたい。しかし、その愚痴に答えるモノはこの場に居ない。


「……多分、この先で待ち構えてる……筈だろうな」


 フ〜と息を吐き自分を落ち着けてから彼女は歩き出す。言いたい事も全て、本人達に出逢えば叶うのだからと納得させて脚を進める彼女だったが……五分後、再び脚は止まる。


「……………………」


 今度、彼女の眼前に立ちはだかるのは分かれ道。綺麗に右と左で二つに分かれた道。

 彼女は無言で地図を取り出し確認すると、何の逡巡も見せずに()の道を歩いていくのであった。




――――Time・(ちょっと時)Going(間が飛ぶぜ!)――――


「…………来ないな」

「…………はい」

「…………こりゃもう、間違い無いんとちゃうか?」


 曇天ゆえに美しい夕焼けを拝めぬ日暮れ時。仲良く顔を揃えて、しかしその表情はイライラが抑えられない三人組が居た。『後追い小僧』『袖引小僧』『提灯小僧』の『妖怪』である。


「ちゃんと、立て札に書いたんか? ()の道にて待ち受けるって」

「当たり前だ! ちゃんと書いといたぞ!」

「なのに、何で来ないんですかね……」


 彼等は知らない。『後追い小僧』の書いた内容は問題無いが、文字()()()()に問題が有った事を。


「…………もう十分だ」

「はっ?」

「なん?」

「もう十分だと言ったんだっ!」


 突然の『後追い小僧』の激昂に『袖引小僧』『提灯小僧』の両名が落ち着かせようとするが、『後追い小僧』の怒りは収まらない。


「仲間を揃え準備も万端で挑戦状まで作ったってのに! 無視してすっぽかすとは舐めてんのかっ!!」

「実際、舐められてもしゃーないと思うんやけど……」

「同感です……」

「行くぞ! 二人とも!」

「「……どこへ?」」

「あの女のとこだっ! 一言言わなきゃ気がすまない!!」

「いや、ちょい待て!」

「そうです! ちょっと待って下さい!」


 そう言って憤懣やる方ない『後追い小僧』が足取り荒く走り出す。慌てて二人が後に続き止めようとするが、『後追い小僧』は聞く耳を持たない。

 怒りのままに彼女が進んだであろう道へと疾走した『後追い小僧』は、もはや後ろの二人も彼女と出会ったらどうなるかも……一言言ったらどうなるかも忘れて長距離疾走を続ける先に――


「空を! 自由に! 飛びたいな! ハイ! かち上げ! アッパー!」

「「「……………………」」」


……何か無双してる巫女が居た。

 小さな林の中で、次々と木の上から落ちてくる生首――『釣瓶落とし』をカウンター気味に次から次へと拳で打ち上げる彼女の姿があった。

 その態度は憂さ晴らし、その表情は殺す笑み。良い子は真似しちゃダメな大人の見本がそこにあった。


「……どうすんや」

「……どうするんです」

「オラッ! 打ち上げ距離更新だ!!」

「……後ろに向かって前進だ」

「……一言言いたい事が有って来たんじゃないんですか?」

「これで! 50コンボ!!」

「……ごめん、無理」

「……せやな」

「……では、気づかれる前に撤収しましょう」

「オラアッ!!」

「「賛成」」


……そうして彼女の知らぬ所で一つの野望を掲げていた者達は、先送りにするのであった。

ご愛読有難うございました。


本日の解説。


――――『釣瓶落とし』――――


低級『妖怪』。

木の上から急に落ちてくる生首……なのだが実は本体は木の方で、木自体をどうにかしない限り半永久的に湧いて出る。

その特性状、経験値稼ぎ・スキル熟練度稼ぎ・憂さ晴らしに使われる『妖怪』。

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