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金……イヤ、いらねーし

……『大逆転裁判』やってたら、執筆時間の九割を持って行かれていた不思議。

安定の面白さですね。あのシリーズ。

「ん〜〜、おにぎりには、やっぱ梅干だな」


 おにぎり片手に夕暮れの街道をダラダラ歩く巫女装束な彼女。梅干の種をプッと吐き出す行儀の悪さを指摘する者は居ない。実際に居ないのではなく、何故か街道を歩く他の旅人達が、彼女から距離を取ったりしている所為である。巫女装束に身を包みながらも巫女らしからぬ態度が、他者から見れば胡散臭く見えてしまうからである。


「しっかし、開放感〜」


 おにぎりを食べ終え指に付いた米粒を舐めて取った彼女は、歩きながらグッと背伸びをする。

 『京』を旅立ち数日。こんな長い時間を独りで過ごすのは久しぶりな為、気分はすこぶる良い。纏わりついてくる子供も居なければ、ウザったい馬鹿も居ない。野宿であるが実に快適な日々を過ごしている。


「これで凶悪な『妖怪』でも出てくりゃ、最高なんだけどなー……ていっ」


 言うだけならタダな言葉を呟きつつ――反射的に右手が唸る。【妖気感知】で感じていた背後から接近していたナニかが、自分の横を通り過ぎようした瞬間に掴み取る。

 アッサリ捕まえた右手に視線を向ければ、その手の中には薄ぼんやりと光る赤い光玉が収まっていた。


「……『金玉(かなだま)』じゃねーか。珍しいヤツを捕まえちまったな」


 右手の中で小刻みに揺れて何とか逃れようとしている『妖怪』を、握力で抑え込みながら彼女が少し眼を見開く。元々のゲーム内でも結構なレア存在に出会った事に、予想外な驚きを持っている。

 捕まえたのは良いが、正直どうしようかと首を捻っている彼女の耳に、酷く耳障りな声が聞こえてくる。首だけで後ろを振り返れば、何かを探す様に辺りをキョロキョロと見回しながら早足でこちらに近づいて来る三人組の男達の姿が見える。


「居たぞ! あそこだ!」


 と。男の一人が彼女を――正確には彼女の右手に捕まっているモノを指差して、駆け寄ってくる。彼女はと言えば、何となく予想出来た事なので別段慌てる事は無い。男達が近づき詰め寄ってくる事にも動じず、何時ものダルそうな雰囲気にも変わりない。


「おい! お前!」

「……至近距離で怒鳴るな。うるせーし」

「その右手の! そいつを渡せ!」

「これか?」

「そう、それだっ!」

「…………」


 リーダー格なのか、先頭の男が彼女の右手――未だ捕まえられたままの『金玉(かなだま)』を指差して、引き渡せと要求する。対する彼女は右手の『金玉(かなだま)』を見せた後、少し考えると――


「――ふんっ!!」

「「「あ〜〜〜〜っ?!!」」」


――思いっきり夕焼け空へと【投擲】した。

 男達の叫びをBGMに遥か彼方へとキラリと星となって消え……後にはカラスのカァカァと言った鳴き声が、静かに虚しく消える。


「……良しっ!」

「「「良しっ、じゃね〜〜〜〜っ!!」」」


 彼女のガッツポーズに男達のツッコミが鋭く(きらめ)く。当然それだけに収まらずに、男達は彼女に掴みかからんとばかりに詰め寄って喚く。


「何してくれてんだ、お前はっ!!」

「イヤ、なんつーか……命令されると反抗したくなるだろ?」

「ガキかてめぇはっ!!」

「四の五の言っても、もう『金玉(かなだま)』は居ねーんだし、諦めろ」

「「「出来るかぁっ!!」」」


 唾を飛び散らしながら叫ぶ男達であったが、ふと後ろの一人の男が何かに気づいた素振りを見せるとニヤリと笑う。


「そうだな? 確かに『金玉(かなだま)』は居ないんだから、代わりにお前の身体で――」


 言いながら彼女へと無遠慮に伸ばされた右腕が彼女の肩に触れ――


「――がああああぁっ?!!」


――る直前。その右腕を彼女に掴まれ、その直後にバキッと骨の折れる音が辺りに響いた。腕を抑えて地面を転げ回る男と、何の躊躇も無く腕を折った彼女にドン引きな残りの男二人。

 そして、骨を折っておきながらポカンとした表情な彼女が、右手をニギニギしながら呟く。


「……イヤイヤ、カルシウム足んなくね? アッサリ折れすぎだろ?…………イヤ、もしかして……オレの()()()()()()()()()()()のか?」


 何となく思いついた推論だが否定できる材料も無いし、本人的には妙な確信が有るので納得している彼女。ウンウンと頷いた後に、転げ回る男を指差し一言。


「で? 手下一号はもう動かねーけど、どうすんだ?」

「…………やろーっ!!」


 その言葉に同じ言葉で無く行動で返すのは、リーダー格とは別のもう一人の男。大きく振りかぶった右拳を彼女に目掛けて振るう。顔面一直線な剛拳に対して彼女は――軽く左手でパシッと払う。


「――あらっ?」


 横からの力で軌道を逸らされ、己の拳の勢いまま身体ごと流れていくのを止められずにたたらを踏む男。そして当然、彼女がそんな隙を見逃す筈もなく、右アッパーが無防備な鳩尾(みぞおち)に突き刺さる。


「――ぐほぉっ!」


 肺の中身と胃の中身、両方揃って吐き出し地に(うずくま)る男。何とか息を吸おうと喘ぐ男からアッサリ眼を離し、最後のリーダー格な男に告げる。


「後、オマエ一人だけど、まだヤんのか?」

「……決まってんだろ!」


 そう言って腰の後ろに手を回し、手にしたのは片手斧。威勢良く彼女にこれ見よがし突き付けて、堂々と胸を張って言う。


「今ならまだ許してやるぞっ! 大人しくしろっ!」

「……オレのセリフじゃね? それ……」

「喧しい!!」


 言葉と共に振るわれる片手斧。それをステップで回避する彼女。斧が空を切る音と地を蹴る音が中々の協和音を奏でる中、彼女はやや感嘆の表情を見せる。


「へえ。思ったより動きが良いなオマエ。扱い慣れてるな」

「減らず口はそこまでだぁっ!!」


 男はその場で独楽の様に一回転。身を屈めての、勢いに乗せた横薙ぎの一閃の狙いは彼女の膝。


「おっと?」


 対する彼女は後ろに飛んでやり過ごす。しかし、男はその彼女の取った行動に低く笑う。


「予想通り、そこだっ!!」


 勢いのまま更にもう一回転して、片手斧を彼女へ【投擲】する男。

 未だ宙に居る彼女に目掛けて、唸りを上げて迫る片手斧。脚が地から離れている今の状態では避ける事は出来無いと、狙い通りだと男がニヤリと笑い勝利を確信したのも束の間。


「――ていっ」

「……へっ?」


 腰の『那由多の袋』から取り出した包丁でアッサリ叩き落とす彼女。軽やかに地に降りる彼女とは対称に、男は驚愕の表情。どっからそんな物出した? と眼を見開く男に対して彼女の方は、だから何? とばかりに肩をすくめる。

 そして地面に落ちた片手斧を拾う彼女だが――拾った瞬間、片手斧が姿()()()()()。柄が太く長く伸びて、刃も一回りどころか三回りぐらい大きく肉厚も増し、片手斧から両手斧へと変わった。


「……『力試しの斧』か? これ? 随分と変わった物を持ってんな」


 巨大化した斧を染み染み見ながら彼女が呟く。重さも増したと言うのに軽々片手で持ち上げている彼女の膂力に、元の持ち主である男は知らずの内に後ずさっていた。


「……で? まだやんのか?」

「…………」


 先程と同じく彼女が再び問う。デカくなった斧で肩をトントンと叩きながら言っているので、ぶっちゃけ脅迫に近いのだが本人にはそんな気は毛頭ない。

 問われた男は百面相の如く短時間に表情を目まぐるしく変えて――


「――っ?!!」


――逃げた。完全に背を向けて全力による全速での、仲間二人を見事に見捨てて潔いまでの逃走。だがしかし――


「――はぶっ?!」


――コケた。絵になる構図で。そして隠れた仕事人……もとい『すねこすり』が静かに転がり去って行く。

 彼女の乾いた拍手が響く中、男は起き上がり再び逃げて行く。段々と小さくなっていく背中を見送って、彼女はポツリと呟く。


「……ま、別に良いか。コレ貰ったし――――痛っ?!」


 『力試しの斧』を腰の『那由多の袋』に仕舞った後に、踵を返した彼女の後頭部に何かが当たる。思わず頭に手をやると同時に地面で硬質な音がしたので、そちらを見れば一枚の銭が落ちていた。


「…………まさかと思うけど、コレ、『金玉(かなだま)』が?」


 銭を拾ってしげしげと眺めていた彼女は、次いで先程『金玉(かなだま)』を【投擲】した空の彼方を見て、困惑しながら呟いたのであった。

……今なお、地面で苦しむ二人の男を完全無視して。

ご愛読有難うございました。


本日の解説。


――――『金玉(かなだま)』――――


低級『妖怪』且つ『中立妖怪』。

赤く光る玉の様な『妖怪』。ゲーム内に於いてはかなりレアな存在で、出会うとお金が貰える……が、退治に成功すると膨大な額のお金を手に入れられる為、見つけるとプレイヤー達の眼の色が変わる。


――――『力試しの斧』――――


装備した者の筋力によって攻撃力が変わる武器。形状もそれに合わせて変わる。

しかし代わりに耐久値が低いと言った点が有り、下手に扱うとすぐ壊れる。

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