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集団……イヤ、もうちょいな

……『ポポロ牧場』……和むわ~……

「――っ!!」

「おっとぉっ?!――ついでだ!!」


 振るわれた(なた)をバックステップで躱した彼女は、そのまま身を捻って背後に近寄って来ていたモノに裏拳を叩き込む。

 横っ面に喰らったソレは横倒しに倒れるが……彼女はソレの腰帯を両手で掴むと【気功】の膂力で持ち上げて――


「――人間、ロケット!!」


――グルッと一回転した後に思いっきり【投擲】した。

 一回転の最中には先程の鉈を振るったソレを、頭から飛んでいった先では其処に居たソレ二体を巻き込み盛大に吹き飛ばす。

 それを見て軽く口の橋を歪めた彼女は、しかしてその場から飛び退り己に目掛けて投げられた石を避ける。お返しとばかりに腰の『那由多の袋』から取り出した竹串を【投擲】。微かな風切り音を立ててソレの肩に突き刺さる。


「うおっとぉっ?!――オマエもついでだ!!」


 何時の間にか背後に回っていたソレが力任せに斧を振るう。当たれば上半身が真っ二つになりかねない唐竹割りの一撃を、横っ跳びで躱しつつ手近な木を足場に三角飛びの要領で再び跳んで、延髄蹴りを叩き込む。

 悲鳴も呻き声も無く地に倒れるソレを一顧だにせず、【縮地】で距離を詰めて最後のソレを右アッパーで宙に舞わせる。


「ふぅ……って、まだ終わった訳じゃねーけどな」


 蹴って殴って投げ飛ばしてと、ヤりたい放題ヤったのを溜め息一つで済ませた彼女は、月明かり乏しい夜の林の中を見回す。

 視界には、ゆっくりとだが着実に起き上がり再びこちらへと向かって来る()()の姿が。鉈を持った者・裏拳プラス投げ飛ばされた者・それに巻き込まれた者二人・竹串が肩に刺さった者・延髄蹴りを喰らった者・右アッパーで宙に舞った者。

 身なりも体格も得物もそれぞれ違うが、一つの目的の為に揃って行動する七人組の『妖怪』――『七人ミサキ』が彼女を囲む様に陣取る。


「妖気に釣られて寄り道してみりゃ、そこそこなヤツ等が居るし。パッと見……木こりっぽいのが二人、農民っぽいのが三人、そして……野盗っぽいのが二人……て、とこか」


 ザッと周囲を見渡し彼女が呟く。そして指の骨をバキボキ鳴らしながら、ニヤリと笑う。


「つい先日に烏合の衆とか言ったけど……オマエ等はどうかな? 『京』で少しばかりのんびりとし過ぎてたみたいなんでな、リハビリ代わりにShall() We() Dance?(うぜ?)


 両手を胸元まで上げて構える彼女と、七人同時に襲い掛かる『七人ミサキ』。後方に陣取っている鉈持ちと斧持ち以外は木棒を持っているだけなので、その二人への注意を他よりも少しだけ上にした彼女は、真正面から来た一人に先ず右ストレートを叩き込む。

 綺麗に鼻を潰された上に背中から倒れたソイツから即座に眼を離し、続いて横から木棒を振るってきた相手に【縮地】で自ら身を詰めてショルダータックル。たたらを踏んでよろめいた所に左フックをブチ込み、独楽(こま)の様にグルっと回ってから倒れる。

 そこで彼女は止まらない。取り出した竹串を牽制に斧持ちと鉈持ちに【投擲】し、別の一人に足払いを掛け転ばせる。そしてその足首を掴み――


「――人間……スマッシュ!!」


――振り回した。腰を入れて。渾身の力を込めて。フルスイングで。容赦も常識も無しに。

 射程内に居た哀れな二人を薙ぎ払った後にアッサリとリリース。飛んでいった先の木に当たり、身体がくの字に折れ曲がった後にズルズルと地面に落ちる。


「っ?!」


 一息吐こうとする間も無く、鉈持ちと斧持ちが揃って得物を振るう。斧持ちの大振りな一撃を補佐する様に鉈持ちが細かく攻める連携に、思わず彼女も感嘆する。


「おおっ?! ちょっと退散!」


 後ろへ大きく下がり距離を取る。後退した彼女に対し『七人ミサキ』は追わず、倒された仲間達が起き上がるのを待って体勢を整える。


「ったく、ちと厄介だよなコイツ等……()()()()()だから、七人分のヒットポイントをゼロにして初めて全員消えるからな……」


 頭を掻きながら呟く彼女の顔は、至極ダルそう。一人分をゼロにしても一人消える訳ではないので、最後まで七人全員を相手にしなければならない……のだが、彼女は先程とは一転、ニヤリと黒い笑みを浮かべる。


「ま、その分、長くヤり合えるけどな」


 その言葉が引き金となったのか、再び『七人ミサキ』が襲いかかって来る。但し、今度は先陣の三人は武器を捨て素手で掴み掛ってくる。


「人数差とタフさを利用しての戦法か……理に適ってるじゃねーか」


 取り敢えず一人目は右アッパー。二人目は左フックで沈黙させる事に成功するが、三人目には腰にしがみつかれる。

 強いと言っても女性の身体では、男性の体格と体重差で負ける。しがみつき離れない重りの対処に割く時間を与える間も無く、後続の二人が木棒を大上段から振るう。

 身動き取れない彼女は両手で――


「――隠し技! 肉の○ーテン!」


 しがみついているソイツの両肩を【節外(ふしはず)し】で脱臼させて、首根っこを引っ掴んで()にした。盾にされた哀れなソイツは、抵抗する間も防御する間も無く頭に木棒二本を喰らう。


「――アンド! 肉シールドバッシュ!」


 更に盾代わりのソイツを押し付ける様に、木棒を振るった相手にぶち当てる。もんどり打って共に倒れる三人の身体を、ついでとばかりに思いっきり踏み付けてその場を脱する彼女。

 しかしてその進行方向先には、再び斧持ちが大きく斧を振り上げて待ち構えていた。袈裟斬りの豪撃に、防ぐのは無理と判断した彼女は【縮地】で地を蹴ってソイツの頭上を飛び越える……その際、頭頂部に手を付き置き土産を残して。

 残した物は『呪符』。斧が地面に突き刺さる音、彼女が地に降りる音に続いて、ソイツの頭部が燃え上がる音が響く。


「ま、気休めにしかならねーか」


 地面を転がって火を消すのを見つつ彼女は呟く。そうこうしている内に他の『七人ミサキ』も集まって来て、火が消えた斧持ちも加わって再び陣取り、先程同様に突っ込んで来るのを見て……彼女は盛大な溜め息を吐いた。


「さっきと変わんねー……知能無ーのか? オマエ等」


 呆れながらも身体はしっかりと的確に動かす。横を通り抜け様に肘をこめかみに打ち込む・低い体勢で突っ込んできたモノをハンマーナックルで地面に叩き落とす・大木槌で吹っ飛ばす・再び人間スマッシュで纏めて吹っ飛ばす。

 軽く巫女無双に暴れまわった後に一息吐く彼女であったが、視線の先には変わらず起き上がる『七人ミサキ』。もう十分に把握した彼女は――


「……もういーや、ヤる」


――言葉を終えた瞬間、目つきが変わる。ダルそうだった雰囲気も、獲物(標的)を狙う肉食獣(暗殺者)へと変わり、相手の出方を待たずに自ら前に出る。


「――一つ」


 先ずは一人目。彼女の急接近に、致命的な遅れで掴みかかろうとしたソイツの首に手を伸ばし――ゴキッ、と音がした。


「――二つ」


 続いて左手側の一人に【縮地】で距離を詰める。両手で顔を掴み思いっきり捻る――未だかつて有り得ない方向に顔が向く。


「――三つ」


 腰の『那由多の袋』から取り出した包丁を、奥よりに居る斧持ちへ【投擲】。意表を突かれたのか防御も間に合わず――吸い込まれる様に眉間に刺さる。


「――四つ」


 三歩踏み込み、そこに居たソイツの顔を鷲掴みにして、【縮地】の勢いで後頭部を木に叩きつける。ズンッ、とした重い音が響き、枝どころか木全体が揺れ――後頭部が陥没する。


「――五つ」


 更に踏み込み、木棒を振るわせるよりも速くソイツに顎への右アッパー・鳩尾(みぞおち)への左掌底のコンボを、鳩尾(みぞおち)に『呪符』を貼り付けるオマケ付きで喰らわせる。後ろに飛ばされる途中で――全身が燃え上がる。


「――六つ」


 そして火達磨になったソイツが飛んでいった先にもう一人居て――巻き添え喰って炎に包まれる。


「――そして七つ」


 最後に残った鉈持ち斬撃を軽くあしらい、文字通り肉薄する程に密着。右腕はソイツの首に巻きつく様にホールドし、左腕はソイツの右腕を引きつつ腰を捻って投げる――首投げ。

 そして地面に倒したタイミングで右腕に更に力を込める――ゴキッ、と音がする。


「……ふぅ」


 七人全員を容赦無くヤったのを溜め息一つで済ませた彼女は、月明かり乏しい夜の林の中を身体に付いた汚れを払いながら見回す。

 そこにはもう()も居ない。ただ怪しく光る七つの『妖核』が点在しているだけの、静かな夜の林が広がっている。


「……やっぱ烏合の衆か……つまんねー奴等」


 失望混じりの息を吐いた彼女は、『妖核』を回収すると林を抜けて再び旅路へと戻るのであった。

ご愛読有難うございました。


本日の解説。


――――『七人ミサキ』――――


中級『妖怪』。

七人の死者で構成された『妖怪』。構成はその都度まちまちで、農民・木こり・野盗など色々。

常に七人組でヒットポイントも重責かつ共有されているので、一人だけ倒す事は出来無い。七人分のヒットポイントをゼロにすると、纏めて消える。

ゲーム内では、複数で当たるか『結界』で何人か足止めさせるかして倒すのが定番。ソロで当たるのは熟練したプレイヤーでないと、タコ殴りに遭う。

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