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出だし……イヤ、いい加減なぁ

この場を借りて一言。

感想欄で、かな~り察しの良い人が居たので、ネタバレ警報発令の為、削除させて頂きました。

ご本人様には何も返信せず、いきなりの削除で申し訳ありませんでした。

……何となくでも察したアナタは凄い。

「…………」


 『京』を離れて四時間と三十七分と四十四秒。歩数にして一万二千百四十七歩。そこで彼女は足を止めていた。

 街道には別に問題無し。空は満天の星空。心身良好。五体満足。足取り良し。

 順調以外の何物でもない旅路の途中、夜ゆえに行き交う人々が途切れ独りになったタイミングにソレは現れた。


「漸く見つけ「【陽気・念糸】からの超念糸簀巻きそして超念糸ヨーヨー『妖怪』バージョン」――へっ?……にょわおぉぉぉぉーーーーっ?!!!!」


 しかし彼女は、ノンタイムで右手の指で素早く縦横に空を切る事九回――『早九字護身法』の後に出した、青白い念糸で頭から足首に至るまでグルグル巻きにし、更に【気功】で上乗せされた膂力で持ってカウボーイの如くソレを振り回す。

……一見、何処にでも居る子供の様でいて、その実『妖怪』な『後追い小僧』を……

 これで出会うのも四度目となるので、彼女としても容赦がない。罪悪感とか悲鳴とか胸を穿っちゃいそうな全てを無視して、溶けてバターに成っちゃうんじゃね? と思っちゃうぐらい力の限りブンブン振り回す……一度も地面に接触していないのは、彼女に残った最後の慈悲であろう。


「――ふんっ!!」

「ああぁぁぁぁぁ――――ぁぁぁぁあああああっ!!」


 最後に、一際大きく()()に向けて放り投げる。ドップラー効果よろしく悲鳴が空に消え、暫しの猶予を経て地に向けて戻って来る。

 隕石の様に。糸の切れた凧の様に。飛○石を持った少女の様に空から落ちてくる『後追い小僧』を――


「「うわわわわ――はぐうっ?!!」」


――必死で墜落予想地点まで走って受け止める()()の『妖怪』。最も、受け止めきれずに折り重なる様に倒れてしまっているが、そこは体格ゆえに仕方が無いであろう。


「痛たた……はっ?! 大丈夫ですか?!!」

「しっかりするんや?! 傷は浅いでっ!! 眼を覚ますんやっ!!」

「…………って? 痛ぇよ?!! 人の顔をそんなパンパン叩くなっ!!」


 落ちてきた『後追い小僧』の身を心配するのは、やや理知的な感じがする同じく子供の姿をした『妖怪』――『袖引小僧』。

 馬乗りになって『後追い小僧』の頬を叩き続けるのは、以前は居なかったが何時の間にやら仲間入りしたのか関西弁を喋る、折り畳んだ提灯を腰に差したやっぱり子供の姿をした『妖怪』――『提灯小僧』。

 そして叩かれた頬の痛みに逆ギレして掴みかかる『後追い小僧』。そのまま三者揃って取っ組み合いの喧嘩へと発展するのであった。

……彼女が既にその場から立ち去っている事にも気がつかずに。




――――Now・(移動中)Going(なう。だぜ!)――――


「……ふぅ」


 狭い日本そんなに急いで何処に行く? と言った言葉に同調するかの様にゆったりと街道を歩く彼女。たった今飲み干した竹筒を軽く放って一息吐く彼女の頭の中には、先程の出来事は綺麗サッパリ無い。

 今の彼女の心を表すが如く澄み渡った星空の下、足取りも軽く歩き続ける中――


「「「――ぇぇぇぇっ!!」」」

「…………」


……何かが聞こえた気がした。

 しかし彼女は止まらない。振り向かない。意識を向けない。ただ黙々と歩き続ける……一瞬、こめかみが痙攣しただけで。


「「「――てぇぇぇぇぇーーーーっ!!!!」」」

「…………」


 先程よりもハッキリ聞こえる声。次いで響いてくる足音。(つい)でに【気配感知】及び【妖気感知】で感じる、接近する存在。

 しかし、やはり彼女は決して慌てる事もなく――


「「「――待ーー「ふんっ!」――って、えぇぇぇぇ?!!」」」


――冷静に、慈悲無く、容赦無く、包丁を振り抜いた。

 振り向き様に振るわれた包丁の横薙ぎの一閃を、奇跡的なタイミングでマト○ックス的な仰け反りつつスライディングで躱す三者。彼女の両脇を滑り抜け、ズザザザと音と砂埃を立てて止まる。

 そうして起き上がった三者は……着ている物がややボロボロであった。今のスライディングの所為()()では無い事は明白。それは三者の顔が物語っている。


「何なんだよっ?!! 出会い頭にいきなり振り回して!! 『妖怪』を何だと思ってるんだよっ!!」


 地団駄踏んで真っ赤な顔で喚く『後追い小僧』は、両頬が真っ赤に腫れている上に鼻血を流血。


「いくら何でもやり過ぎだと思うのですが、(だい)の大人が子供相手に大人気(おとなげ)の無い……」


 疲れたと言うか呆れた声で彼女を責める『袖引小僧』は、顔や腕に引っ掻き傷な上に口から血が滲んでいる。


「ホンマ、話しに聞いてた以上に酷い奴っちゃなー……」


 溜め息を吐きながらヤレヤレと首を振る『提灯小僧』は、左頬にクッキリ拳の(あと)が付いている上に右目の箇所に青痣。


「…………ハァ」


 そしてそんな三者を前に重く深い溜め息を吐く彼女。寝癖混じりの頭を乱暴にガシガシ掻きながら、本当に心の底から面倒くさそうに喋る。


「ホント懲りないなオマエ等……て言うか、また一人増えてるし。いい加減、数に頼るのはどうかと思うぞ?」

「頼れる仲間も居ない癖に偉そうに言うな!」

「……確かに、数の暴力は偉大だけどよ。裏返せば個人の力量が大した事無い、って言ってるのと同じだぜ?」

「個人で戦うしか出来無い(はぐ)れ者が偉そうに言わないで下さい」

「…………烏合の衆、って言葉を知ってるか? (ちり)も積もれば山には成らねーよ。いくら積もったって塵は塵だ。簡単に吹き飛ばされちまうぜ?」

「集まれるだけの友達が()らへん寂しいモンが偉そうに言うなや」

「………………だから「「「ぼっちの癖に」」」…………」


 そこで彼女の言葉が止まる。俯き前髪が眼に掛かり、やや表情がわかり難くなる。

 蟋蟀(こおろぎ)や鈴虫の鳴き声が響く中、痛いくらいの沈黙が暫し続き、調子に乗って思うがままに言った事を今更ながら後悔する『後追い小僧』達の背に嫌な汗が流れ始め――


「――いいだろう。一晩かけて血反吐を吐き尽くせば、少しはマシになるよな?」

「「「へっ?」」」


――急に顔を上げた彼女が実にイイ笑顔を浮かべた事に三者が呆気に取られ――


「「「――にょわおおおぉぉぉぉーーーーっ!!!!」」」


……その数秒後。悲鳴と疾走音が夜の闇に木霊(こだま)した。

 『後追い小僧』が後を追われると言う何とも奇妙な光景が繰り広げられる中、後を追っているのは巫女装束な彼女ではあるが……何時ぞや『のっぺらぼう』を驚かした『般若の面』を被り、両手に持った包丁をシャリンシャリンと刃と刃を擦って鳴らしながら追いかける姿は、ぶっちゃけ怖い。夢に出るを通り越してトラウマレベル物である。『後追い小僧』達が『妖怪』でなく人間であったならば、小便を漏らしていたであろう。


「だから、止めようって言ったんですよーーーーっ!!!!」

「人の話し聞けやボケーーーーっ!!!!」

「今更言うなーーーーっ!!!!」


 必死で逃げながらも言い争う三者。それだけを見れば余裕が有ると言えるのだが、顔を見れば大間違いと気がつく。

 全身の筋肉を総動員して、気力を振り絞り、恐怖を押し殺し、体力の限りを迎えても只々逃げ続けるその姿は……痛々しい。限界を超えた疾走に呼吸もままならず、くたびれた犬の様に舌を出して(あえ)ぎながらも脚を止められない状況は、一種の刑罰じみている。


「だいたい――だあぁぁぁーーっ?!!」

「「っ?!!」」


 更に言葉を重ねようとした『後追い小僧』であったが、その言葉は途中で寸断される。背筋に走った悪寒に促されるままに、より強く地面を蹴る。そして一拍遅れで煌く白刃。刹那でも遅れていたらその背中を袈裟斬りにされていたであろう。

 『袖引小僧』と『提灯小僧』が慌てて振り返ってみれば、そこには先程よりも距離を詰めた般若状態の彼女が。


「つべこべ言わずに走るんやーーーーっ!!」

「何処までですかーーーーっ?!!」

「知らんわーーっ!! 後ろに聞けーーっ!!」

「無理言わないで下さいーーーーっ!!」

「って言うかお前等ーーっ!! 俺を置いてかないで――ぎええぇぇぇぇーーっ?!!」

「っ?!!――スマン! あんたの尊い犠牲は無駄にせんでっ!!」

「ええ! 私達の友情は永遠に不滅ですっ!!」

「現在進行形で無くなっていってるだろうがーーーーっ!!!!」


 僅かに遅れている所為で、彼女の斬撃を引き受ける位置になってしまっている『後追い小僧』と、そんな『後追い小僧』に眼も呉れず、より一層脚を速めて安全圏に避難し見捨てる『袖引小僧』と『提灯小僧』。

――このマンチェイスは、どちらかの体力が……と言うよりも彼女の気が済むまで繰り広げられるのであった。























「……生きてるか?」

「……一応」

「……何なんや、アレは?」

「……次こそは必ず「出会い頭に斬られる光景しか思い浮かびません」…………誇りに掛けて「本気で掛けられんのか? こんだけやられて、もう一回挑めんのか?」……………………わかった」

「「おお?!」」

「もっと仲間を集めよう」

「……犠牲者の間違いやろ?」

「若しくは道連れですね」

「…………」

ご愛読有難うございました。


本日の解説。


――――『提灯小僧』――――


低級『妖怪』。

暗い夜道に提灯を持って現れ、追い越すだけの『妖怪』。

追い越しても追い越しても再び現れるので、上手くあしらうと夜道の明かり替わりになる。

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