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散策……イヤ、ホント懲りないな?

パソコンの不具合で投稿が一日遅れました。

待ってた人はスイマセンでした。

「……はぁ〜」


 『京』より少しばかり離れた真昼の街道にて、一人溜息を吐く巫女が居た。

 何故に、何時もの居候中の屋敷では無く、こんな場所に彼女が居るのかと言えば、彼女的にウザい者達の所為である。最近どうにも孝明と菊王丸がウザいと言うか、妙にこっちの事を聞いてくる。本人達的には然りげ無くを装っているのであろうが、彼女から見ればバレバレである。

 彼女は別に鈍感な訳ではない。二人が自分に好意を寄せている事は察している……しかし、彼女からすればウザいの一言に尽きてしまう。色恋沙汰に興味が無いとか言う以前に、()()()()()()()()()()と彼女は考えているから。誰かに好かれるのも、どうでもいい。誰かを好きになる事も、どうでもいいを通り越して()()()()()

 そんなこんなで彼女は、いい加減鬱陶(うっとう)しくなってきたので、書置き残してちょいと『京』の外でもブラつこうと来てみれば……


「漸く見つけたぞ!」

「……懲りねーな、オマエ」


……絡まれていた。一見、何処にでも居る子供の様でいて、その実『妖怪』な『後追い小僧』に。

 これで出会うのも三度目となるので、彼女としてももはや呆れを通り越して頭痛すらしそうになっていた。何かもう瞬殺してもいい気がしてきた彼女であったが、かろうじて自制心が働き腰の『那由多の袋』から色々な菓子を取り出して見せる。


「ほれ、好きなのやるから大人しく帰れ。饅頭か? それとも団子か?」

「う〜〜〜ん……って、そんな物で買収されるか?! 勝負しに来たんだ! 勝負しに!」


 一瞬、釣られかけた『後追い小僧』であったが、寸での所で誘惑に勝ち本来の目的を思い出す。彼女の方は、釣られなかった事に舌打ちして菓子を仕舞うが、ダルそう且つ面倒くさそうな雰囲気を隠そうともしない。


「つーか、前回から何か進歩してんのかよ? 視た感じ何も変わってない気がするけど……」

「ふふふふふ――」


 彼女の問いに、不敵な笑みで答える『後追い小僧』。何の余裕の表れなのかわからないが、相当な自信を持っている。

 そんな『後追い小僧』は、芝居掛かったゆっくりとした動作で右手を徐々に上にあげていき、頭の上で指をパチンと鳴らして高らかに一言。 


「頼れる助っ人! 『袖引小僧』だ!」

「ただいま、御紹介にあやかりました。『袖引小僧』です」

「…………」


 街道の脇に存在している林の木の影から、新たな子供の姿をした『妖怪』がひょっこり現れた。『後追い小僧』に比べると、理知的な感じがするその『妖怪』――『袖引小僧』はテクテク歩いてくると『後追い小僧』の横に並び、一礼する。

 そんな『袖引小僧』と、ドヤ顔がウザい『後追い小僧』を前に、彼女はちょっとばかし遠い眼をして言う。


「……オマエ、確か『後追い小僧』の誇りにかけて、とか言ってなかったか? 手助けを借りるのはどうよ?」

「誇りよりも実利を取ることにした!」

「……前言撤回したのか――けど、その考えは嫌いじゃねーな」


 『後追い小僧』の言葉に一瞬呆れるも、すぐにフッとした笑みを浮かべる彼女。軽く足首などを回して準備をし、『後追い小僧』に告げる。


「良いぜ、相手してやるよ。但し、手加減抜きでだ――憑いて来れるのか?」

「上等!」


 彼女の言葉に威勢の良い声で返す『後追い小僧』。何時でも来いと、すでに追いかける準備は万端。『袖引小僧』も同様に、支援の用意が出来ている。

 そんな両者を見やってから彼女は振り返り、【縮地】の連続移動でその場から走り去る――()()()()


「「……えっ?」」


 二人思わず呆けてしまう。彼女の予想外の行動に、思考が一時停止――しかし、すぐに気を取り直して『後追い小僧』は後を追う。蓄えた妖力を足裏から放出し、地面を蹴る時に更なる加速を上乗せする、妖力ブースト走法にて林の中へと向かう。


「――イヤ、ちょっと待ってください?!!」


……遅れた『袖引小僧』を置いて。




――――Now・(疾走)Running(中だぜ!)――――


「ほっ! とっ! はっ! ふっ!」


 林の中に、タタタタと地を蹴る連続音が響く。小さく細かく鋭い【縮地】ステップの多用で、見事に天然の障害物を回避して走り続ける彼女。無造作に立つ木々も足元を取られる木の根も、ものともせずに駆け続けた彼女は、ある程度来た所で一息吐く。

 そして振り返れば――


「――のわっ?! 痛っ!……くそっ! ていやっ! この! ぶぎゃっ?!!……こ、この程度で――はうわっ?!!」


……木々に()()がぶつかる衝突音と、『後追い小僧』の怒号と悲鳴が聞こえてきた。


(……やっぱ、こうなってやんの)


 ポリポリと頭を掻きながら内心で呟く彼女。予想通りな現状に、呆れる気も起きない。

 以前出逢った時に妖力ブースト走法を見て、素直に凄いとは思った。しかし同時に、惜しいとも思ってしまった。何故ならば、『後追い小僧』が()()で満足してしまっていたからである。


(そこは終着点じゃ無くて、通過点だろうが……もっと応用を利かせる事が出来りゃ、こんな林の中も駆けられるのによ……)


 一歩一歩の力加減をもっと細かい制度で行えれば多彩なステップに繋げられるのに、それが出来無い結果が今の衝突音に現れている。


「…………」


 静かに待つ彼女の耳に段々と衝突音が近づいて来るが……間隔は長く、大きさは小さくなってくる。

 もうコツを掴んだのか? と彼女が一瞬疑問に思うが……すぐに違ったとわかる。姿を現した『後追い小僧』の惨状を見て。


「お、追いふいた……ぞ」

「…………」


……ハッキリ言って、ボロボロの一歩……イヤ、二歩手前であった。

 着ている着物は汚れている上に擦れた跡がチラホラ。剥き出しの手足には青痣と擦過傷が多数。そして顔面には青痣と擦過傷に鼻血がダラダラ。


「……『妖怪』も鼻血が出るんだな」


 至極どうでもいい事を呟いた彼女の前で『後追い小僧』がブッ倒れる。何がオマエをここまで駆り立てんだ、と心の中で唸っていた彼女だが、そんな所に遅れて『袖引小僧』が現れる。


「は〜、は〜、速過ぎますよ……二人共――って?! 大丈夫ですかっ?!!」


 息を切らして現れた『袖引小僧』だが、ブッ倒れている『後追い小僧』を見るや、すぐに駆け寄って容態を確かめる。

 取り敢えずは無事なのを確認した『袖引小僧』が、顔を上げた瞬間――


「憑いて来いよ」

「えっ?――ええええぇぇぇぇぇ?!!」


――右手をガッシリ掴まれて、とても良い笑顔で一言。『袖引小僧』が疑問に思う暇も与えずに、【縮地】連続ダッシュを開始。そしてその身体を引っ張られていく『袖引小僧』。

……辺りには、恐怖の悲鳴が響き渡った。


「ぎええええぇぇぇぇっ!!!!」


 身体を引っ張られ、足の裏が地に付く暇を与えない猛スピード。息吐く暇も与えず右へ左へ揺さぶられつつ流れる視界。木にぶつかりそうになる寸での所で当たらず、かと思えばすぐに次の木が、と言う恐怖に口から出る叫びを止められない。

 スリル満点・シートベルトもセーフティーバーも無い、ソニックパニック巫女(みこ)ースター。その始まりも唐突ならば、終わりも唐突であった。、


「……うぅ……」

「……やり過ぎたか?」


 林の中を一周してきた後。完全に眼を回した『袖引小僧』が、平衡感覚なんてものを忘れたかの様にグデンと『後追い小僧』の隣にブッ倒れる。

 それを見て、ほんの少しだけ後悔する彼女。しかし、次の瞬間にはアッサリ背を向けて一言。


「次はもうちょいマシになってから来い」

「「…………」」


……しかし、その言葉に答える体力も気力も妖力も意識も無い両名であった。

ご愛読有難うございました。


本日の解説。


――――『袖引小僧』――――


低級『妖怪』。

道行くプレイヤーの袖をクイと引き、振り向くと姿を消す。それだけの無害な『妖怪』。

気を抜いている時にやられるプレイヤーが多いので、驚きの度合いは大きい。こっそり袖を引いて「俺じゃない。『袖引小僧』がやったんだ」と、からかうプレイヤーは多いので、ゲーム内では定番ネタと化している。

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