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初めての敵……イヤ、雑魚だし

三連投。今回はここ迄。

主人公がアッサリ人を殺す場面があるのでご注意を。

「――長閑(のどか)だな……」


 舗装などされていない道を、時折落ちている石ころを蹴飛ばしながらダラダラと歩く彼女。この世界で目覚めてから十数分後。今、彼女は林を抜けて右には山の斜面。左には広い草原を視界に捉えながら進んでいる。

 天気は快晴。見事なまでに青い空と白い雲のコラボ。適度に吹く風は、草原に咲き乱れる多種多様な花々の香りを届け、その草原では蝶やバッタに野鳥等が生き生きと動き回っている。現代社会ではよっぽどの地方か田舎へ行かねば味わえぬ見事な自然の光景も――


「――つまんねーな……」


……彼女にはな〜んも(もたら)さなかった。ハァ〜と溜め息を吐きながら歩き続ける彼女。彼女のやる気無さ度、プラス五十パーセントと言った所である。

 この世界がVRMMOゲーム『九十九妖異譚』に酷似した世界という事は、先の『すねこすり』の登場と与えられた知識等でわかっている。しかしそうなると、この世界は妖怪相手の殺し合いが発生する危険な世界。故に、まず彼女は自分の中にある戦闘技術を確認したい。したいのだが……


「考えてみれば仕方が無いか……今は昼間(・・)なんだし……」


……そう、妖怪達が動き出すのは夜中である。先の『すねこすり』の様な例外も居るには居るが基本は夜である。つまり、試そうにも試せる相手がいないのである。


「……どうすっかな〜……遭難した時は自分の持ち物を確認する事が重要。なら、異世界に連れて来られた時は、自分の出来る事を確認するのが重要だと思うんだけどな。オレはしがない中級プレイヤーに過ぎないし……と言うか、今のオレって、まんま、迷子みたいなものだよな」


 ダラダラ歩きながら呟く彼女。腰帯に括り付けてある小袋から金平糖を取り出すと、口に含みカリカリと齧る。


「ん〜〜……誰の所為でこの世界に来させられたかはわからないけど、この『那由多の袋』がちゃんとあるって所は親切だよな」


 腰帯に括り付けてある小袋をポンポンと叩きながら呟く彼女。ここはゲーム内では無いのでメニュー画面もアイテムリストも存在しない。となれば当然、荷物は自分の手で持ち歩かなければならない。しかし、この小袋のお陰でその必要は無い。

――『那由多の袋』――アイテムを無限に所持出来るこの小袋のお陰で。最も、この異世界では仕様が変わって四〇元ポケットみたいになっているが、便利である事には変わりない。しかも、手を突っ込んだ時に頭に浮かぶ中身の一覧から、どうやら自分がゲーム内で所持していたアイテムがそっくりそのまま入っているようだ。


「実際に戦って確認してみたいんだけどな……色々と」


 言って彼女はシャドーボクシングの様に軽く手足を振るってみる――身体のキレは良い。地球に居た時の様ではなく、ゲーム内でプレイしている時と同じ様に動ける。イヤ、動かせる。根本的な身体能力がゲーム内でのアバターのステータスと同じになっていると推測するべきか。

……だかしかし、彼女は元中級プレイヤー。何処ぞの廃人プレイヤーの如くカンストしている訳では無い。故に、水の上や空を駆けるなんて真似、出来はしない。


(この貰った知識や経験…………ゲーム内のオレのスキルの習熟度に関係してんじゃねぇか? オレがゲーム内でよく使ってたスキルに関するモノが多いし……)


 何となくだが確信する彼女。今ここに居る自分は、あのゲームのアバターを元にして造られたのだと。そう考えた方がシックリくると。


「ま、いいさ。とにかく今は戦える相手が居ないし……代わりに他の確認するか……」


 そう呟いて彼女は、この世界について確認する事にした。


(取り敢えず、今オレが居るのはオレがやっていたゲーム『九十九妖異譚』……に酷似した世界…………の筈)


 やや自信無さ気に内心で呟く彼女。何せ今の所、出逢ったのが『すねこすり』だけで他に何の検証もしていないのでは、流石に自信を持って言い切る事は出来なかった。


(多分間違ってはいないだろうけどな。あのゲームだと時代設定は平安時代だったんだが……実際は、かなり曖昧だったんだよな。この世界、その辺はどうなってんだか?)


 平安時代に無かった物が普通に有ったりしたからな〜、とアレコレ思い出していく彼女。ゲーム内ならばゲームだからの一言で納得出来るが、この世界ではその辺りのチグハグさはどうなっているのか? ついでに言えば妖怪も、平安時代以降のモノが普通に出て来たり、東北や四国・九州などその地域に縁の妖怪が他の地域に出て来たりとフリーダムだったが、その辺りもどうなのだろうか?

 う〜んと考えていた彼女だが一つ目の答えはアッサリ見つかった。さっき自分が『那由多の袋』に手を突っ込んだ時に頭に浮かんだ中身の一覧――そこに並ぶこの時代では有り得ない物の一覧に……と言うか今、口にしている金平糖が正にそうであった。


(……ゲーム内と変わってないって事か。ならゲーム内の知識もそのまま使えそうだな)


 二個目の金平糖を口に入れながら、取り敢えずそう結論づける彼女。もし違う所が有ったならばその都度(つど)確認していけば良いかと、今の所は確認する術も無いのでそう決めた。


「しっかし、この世界に来させられた理由……と言うか目的は何なんだろうな?」


 頭の後ろで手を組みながらダラダラと歩きつつ、思考に耽る彼女。しかし、キッカリ十秒後――


「――やめた」


……アッサリ放棄した。綺麗サッパリ。後腐れ無く。え? 何それ? 美味しいの? レベルで。


「何の思惑が有るのかは知らないが、オレはオレの望みの為に自由にやらせて貰うさ」


 と、どこかに居るであろうこの件の元凶に、聞こえているかは定かではないがハッキリと宣言した。




――――Now・(ダラダラ)Walking(行こうぜ!)――――


――それからも歩き続ける彼女。見える景色の変化に大差無く、すれ違う人とも全く出会わず、生欠伸(なまあくび)を噛み殺していたその時――


「――お?」


――感じたモノに思わず声が出た。ソレが何なのか考えようとした所で、この世界に来た時に与えられた知識と経験がソレの事を教えてくれた。


(お〜〜。【気配感知】か……ゲーム内じゃ視界の端にあるマップ画面に光るアイコンで相手を表示するのに、この現実の世界だと本当に相手の気配がわかるのか……何か、スッゲェ〜)


 内心でやや興奮している間も、その気配はこっちに近づいて来ている。どうやら、自分の進行方向右手にある山の斜面、その上側からこっちに降りて来ようとしている様だ。


(さて、出るのはアタリか? それともハズレか?)


 そうこうしている内にズザザッ、という音と共に斜面を滑り降りて来る。現れたのは――


「――よう姉ちゃん。女の一人旅は危険だぜ?」


――30代後半の短い髪はボサボサ・無精髭だらけ・ロクに風呂どころか身体を洗っていない垢塗れの肌・着ている毛皮もロクに洗っていないのかシミだらけ・体臭キツイ・そして手に持っている大振りの(なた)は所々刃こぼれしていて、赤黒い頑固な汚れがこびり付いている……まんま、山賊って感じの男だった。


「………………ハァ〜〜……」


 現れた男を見て、彼女はあからさまに落胆(・・)した。溜め息を吐きながら前方の山賊を見やる。

 『九十九妖異譚』は基本的には妖怪が敵キャラのゲームだった。しかし、例外も存在する。それが今目の前に居る、山賊等といった人間の敵キャラである。


(ゲーム内じゃエンカウント率低いから、すっかり忘れてたぜ……)


 頭をポリポリと掻いた後、その手でシッシッと払う仕草をしながら彼女は告げる。


「チェンジで」

「はっ? 何だって?」

「あ〜〜、そうか。横文字通じる訳無いよな……出て来るならもっと強そうな奴か、大人数で出て来いよ。お前程度じゃ試せない(・・・・)だろ?」

「…………あぁ?」

「ったく、期待して損したぜ。じゃあな、オッサン」


 言って山賊の横をスルリと抜けて歩いて行く彼女。あまりにも想定外な態度に山賊が数秒フリーズするが、すぐに再起動を果たし彼女の前に再び回り込む。


「――って、待てやコラァ!!」

「……何だよ?」


 ウザってーなー、と言うのが丸わかりな態度で言う彼女。山賊は持っている鉈を、これ見よがしにチラつかせて言う。


「持ってる物全部置いてけや――後、ちょいとその身体で楽しませてくれれば、命だけは助けてやるぜ?」

「命だけは……か」


 下卑た目でニヤニヤ笑いながら言ってくる山賊に、彼女は再度落胆の溜め息を吐いた後、腰の『那由多の袋』に手を突っ込むと自分がゲーム内で最も愛用していた武器(・・)を取り出す。

 明らかに袋よりも大きな物が出てきた事にも驚いたが、何よりも彼女が手にしている武器を見て山賊は目を見開いて尋ねる。


「……オイ」

「? 何だよ?」

「何だよ、じゃねーよ! お前の持ってる物、それって――」


 彼女が手にした武器。ソレは刃渡り20センチ程の、やや丸みを帯びた三角形の形状をした片刃の刃物。鈍色に光るソレは――









「――包丁(・・)じゃねーか!!」


……であった。一般的には出刃包丁と呼ばれるソレを、彼女は器用に片手でジャグリングしながらどうでも良さ気に言う。


「これが一番扱い慣れてる刃物なんだよ」

「巫山戯てんのか?! そんな――はっ?……えっ?……なっ?」


 言葉は最後まで言えなかった。最初の驚きの声は、目の前に居た筈の彼女の姿が消えた事に対して。次の驚きの声は、自分の首に感じた強い熱さに対して。

――そして最期の驚きの声は、自分の首から流れる大量の血液に対して。

 斬られた?! と実感した時には既に遅し。どうやって?! と考える間も与えられず、身体から急速に失われていく血に意識が朦朧として地面に崩れ落ちる。

 身体から徐々に力と熱が抜けていく中、彼女の声だけはハッキリと耳に届いた。


「ミスは三つ――」


 包丁に付いた血を払った後に袋に仕舞い、ゆっくりとその場を立ち去りながら彼女は振り向く事無く淡々と告げる。


「――一つ目は、こんなのでも立派な武器なのに警戒しなかった事。二つ目は、オレが無防備な背中を見せた時、オレに襲いかからなかった事だ。オレを好き勝手したかったのなら、先ず行動不能に追い込まないとな。そして三つ目、これが致命的――オレを女だからって最初から侮ってた事」


――講義するかの如く告げられた言葉は山賊には届かない。もう既に死んでいるから。


「結局【縮地】しか試せなかったし……だからチェンジって言っただろ? 弱過ぎなんだよオッサン」


――敵を倒した高揚感なんて無い。アッサリ過ぎて他に色々試せなかったから。


「オレを恨むなよ? 弱いくせに絡んできたのはソッチなんだからな? 自業自得だ、自業自得」


――ゲーム内では無く現実に人を殺したというのに彼女は何も感じない。罪悪感なんて感じてないから。


「次はもっとマシな奴が出て来ると良いんだけどな……オレのリアルラック値、低いしな……」


――冷酷な訳でも無慈悲な訳でも無い。彼女にとってそんな事、別にどうでもいい事だから。


「――ま、何時かは出逢えると良いな。オレの望みを叶えてくれる奴に」


 密かな期待感と共に立ち去る彼女。後には物言わぬ骸が一つ、ただ残された。




――――Now・(ブラブラ)Going(行こうぜ!)――――


――それから歩くこと数十分後。大きな木を見つけた彼女はこの世界で目覚めてすぐの様に、枝の上に飛び乗って昼寝の準備に取り掛かった。


「本格的にヤり合えるのは夜になってからだろうし……今の内に寝溜めしとくか」


 そう言って、やはりアッサリと眠りに就いた彼女であった。

ご愛読有難うございました。


本日の解説。


――――『那由多の袋』――――


レアアイテム。

ゲーム内に於いては、所持しているとアイテム所持容量の無限化・重量制限の無効化がされて、事実上幾らでもアイテムを持てるようになる。

異世界では、まんま四〇元ポケットになっている為、破れたら辺り一面に中身がぶちまけられる事になるので注意。、


――――【縮地】――――


体術系スキル。

一歩で瞬時に移動出来るスキル。ステータスの敏捷値とスキルの熟練度によって最大移動距離が決まる。

ゲーム内に於いては一定回数連続使用するとクールタイムが必要であったが、異世界では使用する度に肉体に負荷が掛かる為に休息が必要になる。

慣れない内は、とにかく周囲の何かにぶつかる為、敵キャラに体当たりするのも珍しくない。


――――『包丁』――――


言わずと知れた、一家に一本は有る調理器具。

攻撃力・耐久度・切れ味が設定されている為、ゲーム内では武器カテゴリーに収まっている……のだが、スタッフが何を思ったか高い数値で設定した為、そんじょそこらの刀・短刀よりも強いので、知る人ぞ知る隠し武器になってしまっている。


――――【気配感知】――――


索敵系スキル。

周辺の気配を感じ取る。熟練度によって範囲が決まる。

ゲーム内ではマップにアイコン表示であったが、実際に気配を感じ取れる様になっている。

あくまで感じ取れるのは気配のみであって、それ以外は感じ取れない。

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