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要請……イヤ、マジ?

今年もよろしくお願い致します。

新年一発目にしては短いけど、代わりに『吾輩は~』も投稿してますのでご勘弁を。

「……知らなくても、どうでも良い天井だな……」


 目覚めて一番、眼に映った天井を見つめて彼女は何の感慨も無く呟いた。

 そのまま痛む頭に顔を顰めながら、布団から身を起こし気怠げに溜め息を吐く。


「……ホント、何が変わってもこの寝覚めだけは変わらねー……頭痛ぇ」


 痛みを追い払う様に軽く頭を振って彼女は起き上がる。

――今現在、彼女が居るのは件の貴族の離れである。結局あの後の話し合いの時に、彼女が今後の予定は特に無いし泊まる場所も決めてないと言う事を聞いて、この離れを暫く自由に使っても良いと言われたので彼女は取り敢えず厄介になっている。

……最も、迂闊に外に出歩けば高確率で迷子になる為、殆どここでのんびりしているが……


「あ〜〜、どうすっかな〜〜……」


 夜着から何時もの巫女装束に着替えた彼女は布団を畳むとドッカリ腰を降ろす。

 (くだん)の子供は順調に回復しているそうなので、彼女としては本当にやる事が無く、暇を持て余している。


「……どうせなら、()()でも造るか……」


 言うと彼女は、いそいそと作業の準備を進めるのであった。




   *   *   *


「ええい! 邪魔だ! 退かぬかっ!」

「だからっ! 勝手な真似は困ります! せめて(あるじ)様がお戻りになられるまでお待ち下さい!」


 所変わって屋敷の廊下で激しく言い争う二人。一方はこの屋敷に使える家人(けにん)で、先日彼女を案内した男性。もう一方は、見るからに仕立ての良い平安装束に身を包んだ貴族風な若い男。

 家人(けにん)の方が若い男を押し止めようとし、男はそれを強引に振り払って進もうとしている。状況としては男の方に軍配が上がる。やはり身分(ゆえ)にか、家人(けにん)の方が決定的に止められないでいる。

 そうして二人は、彼女の居る離れの方までやって来てしまう。


「ここか! おい! ここに居る者、すぐに――痛っ! 何をするかっ!」

「何度も言いますが! 勝手な真似はしないで下さい!」

「つっ! ええい! 離さぬか! どこを掴んでいる!」

「話しを聞いて下されば離します!」


 いざ離れに着いたは良いが、そこで押し問答……と言うか掴み合いに発展する二人。両者一歩も譲らずに争っていると――


「――騒々しいな……なんかあったのか?」


――彼女が離れから現れた……但し、その顔や手どころか着ている白衣・緋袴も真っ黒に汚れた姿で。


「「――お前の方こそ何があったぁぁぁぁぁーーーーっ!!!!」」


……そして、先程まで(いが)み合っていた筈の二人による見事にハモった叫び声が屋敷に響くのであった。




   *   *   *


「…………」


 そして少しばかりの時間が過ぎた後。場所は変わって、()()()()()のだだっ広い広間のど真ん中で、彼女は胡座をかいて座っていた。顔や手の汚れは綺麗に落とされ、巫女装束も着替えたので先のトンデモない姿から戻っている……最も、表情は何時ものダルそうプラスメンドくさそうだが……


(お〜お〜、完全アウェイだな)


 やや縦長の何十畳と言う広さの、明らかに大人数で集まる為の大広間。

 そしてその大広間には他に大勢の男達が、彼女を遠巻きに囲むように鎮座している。その表情・視線は決して友好的なものでは無い。憎々しいと言うか、苦虫を噛み潰した様な表情である。


(――おっ? やっと話しが進むみたいだな)


 彼女の視線の先。広間の一段上がった場所に、他の者達よりも年配かつ貫禄ある男性が現れる。

 その男性が腰を降ろすと同時、他の男達が揃って頭を下げ平伏するが……彼女は動じない。胡座をかいたままドッカリ座っている。平伏した皆の視線が射貫くほどに強くなるが、彼女の態度はやっぱり変わらない。

 その態度に、堪忍袋の緒が切れたとばかりに周囲の男達が立ち上がる――


「――控えろ」


――前に響いた、静かだが有無を言わさぬ力を持った声で動きを止めざるを得なかった。

 周囲の男達が渋々だが落ち着くのを確認すると、一段上がった場所に腰を降ろしている年配の男性が彼女に対して口を開く。


「先ずは、こちらの求めに応じて来てくれた事に感謝する」

「――せっかく招待したのだ。本来ならば貴様如きが訪れる事など出来ぬのだから光栄に思うが良い」

「……聞けば、数多くの『妖怪』を退治してきた見事な腕前とか」

「――どこで学んだかは知らぬが、その程度の力量で調子に乗るな」

「……我々が成し得なかった(くだん)の屋敷の問題も解決してくれたそうだな」

「――貴様が余計な事をした所為で我等の面目が丸潰れだ。どうしてくれる」

「…………さっきから、何を言っている?」

「あん? オマエ等の本当に言いたい事を意訳してやってるだけだぜ……『()()()』の皆様方」


 ワザと周囲の皆に聞こえるように言っていた彼女は、ニヤリと挑発的な笑みを浮かべる。


――『陰陽寮』。

 本来の『陰陽寮』は、陰陽師が所属し育成する場であるが、それ以外にも占い・天文・時・暦の編纂と多岐に渡る機関でもあった。

 吉凶を占う者が居れば天文を観測する者も居て、漏刻と言う水時計を使って時刻を管理する者も居れば鐘や太鼓を鳴らして時刻を知らせる者も居たりと、従来のイメージとはかなり違う機関である――()()ならば。

 ゲーム『九十九妖異譚』においては『陰陽寮』は、賛否が分かれる組織となる。プレイヤーは『京』でのイベントをある程度こなせば所属出来る様になるが、所属する事によるメリットとデメリットがデカい。

 メリットで言えば、まず所属した事自体が一種のステータスとなり、『京』の貴族や他の地の領主などに一目置かれる存在となれるので色々美味しいイベントが起こせる様になる。更に『陰陽寮』の施設を自由に使える上に、『呪符』などのアイテムを定期的に無料(タダ)で手に入れられる。加えて『陰陽寮』所属のNPCをサポートキャラとして戦闘に連れて行けると、恩恵は本当にデカい。

……しかしデメリットとして、『陰陽寮』に所属すると定期的に『妖核』を一定量納めなければならず、しかもノルマはかなりキツく上級プレイヤーでも厳しいものがあるので必然的に『妖怪』を退治する事に多くの時間を割かねばならなくなる。そしてノルマが達成出来なければ即座に『陰陽寮』から除名され二度と所属出来なくなる上に、『陰陽寮』所属のNPCが皆揃って敵対状態になる。『京』どころか別の場所で会っても場合によっては戦闘になる事もある。

 そんな訳で、ゲーム内で『陰陽寮』に所属するプレイヤーは殆ど居なかった……最も、マトモなプレイヤー自体少なかったが……


「――で? 態々(わざわざ)オレを呼んだのは何故なんだ? アンタ等が外部の人間を呼ぶなんて()()()()()事だぜ?」

「「「「「…………」」」」」


 彼女の言葉にその場に居る全ての陰陽師達の表情が変わる。忌々しいとでも言いたいばかりに。


(……呼びたくて呼んだんじゃ無いのは間違い無さそうだな……面倒な予感しかしないな〜)


 彼女が然りげ無く周囲の動向を確認している中、年配の男性が口を開く。


「単刀直入に言おう。近々、大物の『妖怪』を相手にする事になる。ソレの退治を手伝って欲しい」

「……………………はっ?」


 ポクポクポクチーン、と言った音が聞こえてきそうな(ほど)たっぷり時間を掛けて、漸く彼女が声を出す。

 彼女にしては珍しい、眼を見開いた心の底から驚いた顔をしつつ頭の中では今言われた事の()()()を考える。


(本当にどう言う事だ? 『陰陽寮』が在野の巫女風情(ふぜい)に協力を頼むなんて、親衛隊が一般兵に頼むのと良い勝負だぞ? 中か外かはわからないが、本当に何かが起こってるのか?)


 彼女が内心でアレコレ考えているのを他所に、再度年配の男性が尋ねてくる。


「どうであろうか?」

「その『妖怪』。強いのか?」

「……こちらの占星では、かなり強い『妖怪』であると出ている」

「…………良いぜ。手伝おう」


 しばしの逡巡の後に、彼女は頷く。それを聞いてホッとする年配の男性と、あからさまに舌打ちをする周囲の面々。しかし、彼女は気にしない。気にする意味が無い。


(強いのと戦えるならそれで良い。他の事はどうでもいいし……しかし、どうしてこう余計な事ばっかで、オレの望みはいつ叶うんだか……)


 彼女は一人、内心で重い溜め息を吐きながら、自分のリアルラック値の低さを呪っていた。

















「所で……お主の名は何と言うのだ?」

「あん? 寿限無寿限無五劫の擦り切れ海砂利水魚の水行末雲来末風来末食う寝る処に住む処「「「「「長いわっ!! と言うか、どう考えても偽名だろっ!!」」」」」……良いツッコミだな」

ご愛読有難うございました。


本日の解説はお休みです。

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