喧嘩……イヤ、他所でやれ
モンハンやってる反動なのか、何かこういう話しの方を思いつくこの頃。
モノブロ亜種、走り回ってウゼェ!!
「だから! 僕の方が偉いんだ!!」
「違う! 僕の方だ!!」
とある真昼の森の中から聞こえてくる喧騒。二人の男の子が激しく言い争う声が、森の中に響く。
人が訪れるには少しばかり鬱蒼とし過ぎている場所だと言うのに、それに不釣り合いな子供の声が確かに聞こえる。聴く者など周囲の木々か虫ぐらいしか居ないが、そんな事気にも止めず徐々にヒートアップしていく両者。
「こいつ!!――」
「やんのか!!――」
遂に両者がお互いの着ている着物の胸ぐらを掴み、殴り合いに発展するかと言った所で――
「――喧しいっ!!」
「「――はうっ?!!」」
……両者の頭に揃って拳骨が落とされた。かなりの威力と言うか容赦の無さだったのか、両者共に蹲って頭を抱え暫く身動き出来なくなる。
たっぷり二、三分程痛みに耐えた両者が揃って顔を上げてみれば、そこには巫女姿の彼女が怒りの形相で仁王立ち……ただ何故か、ずぶ濡れの姿で。
髪からは雫が滴り落ちていて、白衣も濡れてその下のサラシが透けて見えている。胸の前で組まれた両腕はソレを隠すと言う訳ではなく、ただその形相と相まって威圧の効果を引き出している。
「「……ど、どちら様ですか?」」
揃って恐る恐る尋ねる両者。突然の乱入及び暴行に関して言いたい事は有るが、彼女の眼光が怖くて出来無い。ぶっちゃけ、下手な事を言ったらその瞬間また拳が飛んで来そうで。
「……別に、言い争うのは良い。貶し合おうが罵り合おうが構わない。ぶっちゃけ、掴み合おうが殴り合おうがオマエ等の勝手だ。けどよ――」
静かに淡々と語っているのが嵐の前の静けさにしか見えない。それが良くわかっているのか、両者の腰が徐々に引けていく。そして――
「――周囲をオマエ等の能力に巻き込むなっ!! 『日和坊』に『雨降小僧』!!」
「「御免なさ〜〜〜〜い!!!!」」
――爆発した彼女の怒りに両者――『日和坊』と『雨降小僧』が揃って綺麗な土下座をする。両者から逃げるという選択肢は瞬時に消えた。そんな事したらどんな目に遭うか想像すらしたくない程、彼女の怒りが恐ろしい。
「……取り敢えず、二人とも顔を上げろ」
「「はい」」
溜め息を吐きがてらの彼女の声に、やはり綺麗に揃って顔を上げる『日和坊』と『雨降小僧』。目の前には変わらず仁王立ちしている彼女。但し組んだ腕の指が苛立たしげにトントン音を立てている事から、まだ嵐は完全には去っていない。
未だ震えの収まらぬ身体を何とかしながら、『日和坊』と『雨降小僧』は彼女の一挙手一投足に気をつける。
「で? いったい何が原因で言い争ってたんだ? しかもご丁寧に能力まで使いやがって……お陰で、この辺り一帯晴れたり雨が降ったりの繰り返しで大迷惑だ! ゲリラ豪雨だってもうちょいマシだぜ!」
彼女の言葉に『日和坊』と『雨降小僧』は揃ってお互い隣に指を突きつけて言う。
「「コイツが悪いんです…………ああ゛?!」」
綺麗にハモった声と動作にお互いが顔を見合わせ――再び険悪な状態に逆戻りする。
「巫山戯るなよ! 雨を降らせるしか能の無い役立たずが!」
「お前こそ! 晴れさせるしか能の無い役立たずだろ!」
「晴れのどこが悪いんだよ! 植物達の成長には日光こそ必要なんだ!」
「違うね! 雨の潤いこそ必要なんだよ! 日が当たり過ぎたら萎びて枯れるだろ!」
「何だとコイツ!」
「やんのか!」
そして再びお互いの着ている着物の胸ぐらを掴み、殴り合いに発展するかと言った所で――
「――さっき、喧しいと言ったよな?」
「「――五月蝿い! 引っ込んで…………御免なさい。謝るからその手の包丁を仕舞ってください。ゆっくりとお願いします」」
――彼女の静止が掛かる。勢いのまま彼女に偉そうな事を言った『日和坊』と『雨降小僧』が、これみよがしにチラつかされた包丁の鈍い輝きに、再び揃って綺麗な土下座をする。
その土下座と謝罪を聞いて、彼女は包丁を仕舞う……が、眼光の強さは三割増しになっており、『日和坊』と『雨降小僧』の震えが先程よりも大きくなっている。
「……晴れには晴れの良い所が有るし、雨には雨の良い所が有るだろ? いい加減、競うなよ」
「「何言ってるんですか?!!」」
彼女の言い分に、『日和坊』と『雨降小僧』がガバッと顔を上げ叫ぶ。それには納得出来ん、と言うのが丸わかりな表情で。
「晴れの日は気分爽快になるでしょう?! 何をするにも最高の一日になるでしょう?! 雨の日なんて湿気で気が滅入るだけだよっ!!」
「雨の日はシットリ静かに過ごせるでしょう?! 穏やかな休息を取るには最高の一日なるでしょう?!! 晴れの日なんて暑さで気が滅入るだけだよっ!!」
「何だとこの野郎!!」
「やんのかコラ!!」
そして三度お互いの着ている着物の胸ぐらを掴み、殴り合いに発展するかと言った所で――
「――だから、喧しいと言ったよな?」
「「――五月蝿い!! 引っ込んで…………御免なさい。謝るからその両手の包丁と鉈を仕舞ってください。ゆっくりとお願いします」」
――彼女の静止が掛かる。勢いのまま彼女に偉そうな事を言った『日和坊』と『雨降小僧』が、シャリンシャリンと包丁と鉈の刃を擦って鳴らす彼女の仕草に再び揃ってコンマ何秒の早業で土下座をする。
その土下座と謝罪を聞いて、彼女は包丁と鉈をかなりの間を置いてから仕舞う……が、眼光の強さは七割増しになっており、『日和坊』と『雨降小僧』の震えが先程よりも大きくなっている。正直、気を失えたら良かったのにと両者は切に思っている。
「…………オマエ等、いい加減にしろよ」
「「はい。申し訳ありません」」
「……本当に申し訳なく思ってるなら、ちゃんと互いに謝罪しろ。それで終わりだ」
「「はい」」
彼女の言葉……と言うか迫力に押されて両者が顔を上げて向き合い頭を下げる。
「ごめん。僕が悪かった」
「ううん。僕の方こそ悪かった」
「雨だって良い所有るんだし」
「うん。晴れだって良い所有るんだし」
「例えばどんな?」
「そっちこそどんな?」
「…………」
「…………」
「……………………」
「……………………」
「「……オイ」」
長い事考え込む両者が、お互いのその様子に揃って不快感を示す。
「良い所が有るんじゃないのか?! さっき言った事は嘘かよっ!!」
「お前こそ!! 言えなかったじゃんか!!」
「五月蝿い!! 雨なんかに良い所が有る訳無いだろっ!!」
「晴れだって良い所なんか無いだろっ!!」
「何だとテメェ!!」
「やんのかコラァ!!」
そして懲りずにお互いの着ている着物の胸ぐらを掴み、殴り合いに発展するかと言った所で――
「――ガキ共……」
「「――五月蝿い!! 引っ込んで…………御免なさい!! 謝まります! 謝りますから、その大木槌を仕舞ってください!! お願いします!!」」
――彼女の低〜い声が響く。勢いのまま彼女に偉そうな事を言った『日和坊』と『雨降小僧』が、大きく振り上げられた大木槌の迫力に再び揃って額を地面に叩き付ける勢いで土下座をする。
その土下座と謝罪を聞いて、彼女は大木槌を仕舞う……事はせず、そのままの体勢でいる。眼からは光が消えており、『日和坊』と『雨降小僧』の震えは最高潮。逃げようにも腰が抜けた、蛇に睨まれた蛙状態で無理であった。
「……仏の顔も三度まで、って言うけどよ――」
「「は、はい」」
「――オレはそこまで甘かねぇーーーーっ!!!!」
「「ですよねぇーーーーっ!!!!」」
……直後に響く悲鳴と快音。余談ではあるが、この森の近くの村の住人は昼なのに流れ星を見たそうであった。二つ。
ご愛読有難うございました。
本日の解説。
――――『日和坊』――――
低級『妖怪』且つ『中立妖怪』。
食べ物をあげると周囲一帯を晴れにしてくれる。まあ、だから何? と言われると……
――――『雨降小僧』――――
低級『妖怪』且つ『中立妖怪』。
食べ物をあげると周囲一帯を雨にしてくれる。やっぱ、だから何? と言われると……