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些事……イヤ、後は知らん

先に謝っておきます。今回は短いです。

理由は単純……モンハンです。物欲センサーが最大の敵です。

「ハァ〜……」


 道を歩く彼女は溜め息を吐くのを止められなかった。

 例の薬師騒動の後。彼女はすぐに街を発つ予定だったのだが、それに待ったを掛けたのが庄左衛門達、街の一同であった。人の良い者と偽りその実、被害者を量産して治療費を巻き上げていた薬師の正体を白日(はくじつ)に晒してくれた事へのお礼もさる事ながら、この辺りには妖怪を退治出来る者が居ない事ので、この街に留まって欲しいと考えたからであった。

 しかし、彼女はそれを承諾しなかった。元より旅の途中である事もそうだが、今の彼女への感謝は所詮()()()に過ぎないと考えているからである。

 確かに件の薬師はマッチポンプを行っていたが、それが全てでは無い。別の理由で傷ついた者も居れば病人も居て、その人達も治療していた。陰陽術では傷を治せても、()()()()事は出来無い……故に、今後病人が現れても治療出来る者が居ないと言う事である。そうなれば街の皆も、薬師が居なくなった事に対する考え方が変わる――『あんな悪人でも居れば役に立っていた』、と。

 そして何時か、『殺さずとも良かったのでは?』と言う疑問から『償い方は他にもあった!』『生きて罪を償わせるべきだった!』と言う糾弾に変わるだろう。彼女自身が手を下した訳ではないが、目の前で殺される薬師を見殺しにしたのだから同じであろう。

――そんな訳で、彼女はさっさと立ち去りたいのだが……庄左衛門達の必死の懇願に負けて(と言うか辟易して)、条件付きで街に残ったのであった。妖怪退治に関する事は率先して彼女の元に持ってくる事と、もし不快な目に遭ったら好きに街を出て行って良いと。

……そして、早速とある依頼が舞い込んだのだが……




――――Now・(目的地に)Going(向かってるぜ!)――――


「ふん。貴様がそうか。さっさと我が家に住み着いた妖怪を退治しろ」

(…………オマエから退治してぇ……)


 出会い頭の一言に、無意識に握る手の力が強くなる彼女。庄左衛門の個人的な頼みでやって来た、とある村の名主の屋敷。現れたのは頬も腹も弛んだ傲慢ちきな男。反射的に殴らなかった自分を褒めてやりたい、と彼女は思った。


「ほれ、早くしろ。終わったら言いに来い」

「…………」


 言うだけ言って家に引っ込む名主。彼女を家に上げる事もしない玄関口での短いやり取り。短い時間であったにも拘わらず、彼女の不快指数メーターは既に七割強も上がっている。


「――チッ!」


 とにかく早く終わらせる事だけを考えて、彼女は名主の屋敷の敷地内を歩き出す。

 目的の場所は【妖気感知】でわかっている。グルッと無駄にデカい屋敷の周りを回って裏手側に移動してみれば、そこにあるのは大きな倉。


「――フンッ!」


 倉の入口に掛かっていた鍵を()()手荒な方法でこじ開ける彼女。中を覗き込めば積まれた米俵が幾つか。しかし彼女はそんな物、眼中に入らずに暗がりに目を向けて言う。


「……居んだろ? 出て来いよ」


 小さくも確信を持った声を掛けてから数秒後。微かな物音と共に()()が姿を現す。

――着物を着た小さな子供。但し髪が異常に長い上に、前髪が顔を隠してしまっているので……テレビから出て来るアレにソックリである。その姿を見た彼女は頭をガシガシしながら唸る。


「あ〜〜〜〜、何だっけ?……フルボッコ……じゃなくて………………ああっ! そうだ。『倉ぼっこ』だ!」


 漸く思い出せた妖怪の名前に手をポンと打つ彼女。チョットばかしマイナー故に思い出すのに時間が掛かった彼女であったが、相手は中立妖怪な上に弱い。退治する必要性を見出せない彼女は、その場にしゃがみ込んで『倉ぼっこ』に話し掛ける。


「あ〜〜、先ず言っとくが。別にオマエを退治する気は無ーから、逃げねーでくれよ」

「……(コクコク)」

「けどな。この家の主はオマエに出て行って貰いたいんだとよ」

「…………」

「つー訳で悪いけど、どっか別の家の倉に移ってくれねーか? このままここに居るよかマシだと思うぞ。この家のヤツ……オマエをお邪魔虫としてしか見てないからな」

「…………(コク)」

「そーか。行く宛は有るのか?」

「(コク)」

「なら、これは餞別だ。オマエにやるよ」

「?!!(コクコク!!)」


 彼女の提案に同意してくれた『倉ぼっこ』に、腰の『那由多の袋』から取り出した多数の饅頭を風呂敷詰めにして渡す。長い髪で顔が隠れていて表情がわからないが、『倉ぼっこ』が物凄い勢いで首を上下する事から喜んでいる事がわかる。


「(ペコリ)」


 そして風呂敷を背中に背負うと『倉ぼっこ』はトテトテと走って行き、やがてその姿も消える。


「……居場所が無くなったのに行く宛が有るのは……羨ましいな」


 その背中を見送り踵を返した彼女は……


「終わったのか。コレを持ってさっさと失せろ」

「…………」


……報告した名主にマジで切れる五秒前になっていた。

 投げ捨てられた幾つかの銭が身体に当たる。地面に散らばるソレ等を一顧だにせず、震える身体を抑えるので精一杯な彼女の前でピシャンと玄関が閉まる。


(…………)


 無言で立ち尽くしていた彼女は、屈んで地面からあるモノを拾う――銭ではなく()()()を。


「……まさかな〜。スキルスロットの穴埋めに入れてたコレが役に立つ時が来るなんてな――」


 言いつつ髪の毛を『那由多の袋』から取り出した『藁人形』の胴体部分に入れると、彼女は指先を噛み切り流した血で『藁人形』に文字を描く。


「――この……【呪術】スキルを、なっ!!」


 そして『藁人形』を軽く宙に放ると――恨みの篭もった強烈なアッパーをブチ込む。そして……


「ぶぼろおぉぉぉぉぉぉーーーーっ?!!!!」


……屋敷内から轟く叫びと悲鳴。それ等全てを軽くスルーして彼女はその場を立ち去る……落ちてきた『藁人形』を思い切り踏んづけて。


「『倉ぼっこ』が居なくなったら、その家は衰退するんだけどな……オレは要件を果たしただけだからな。後の事は知らねーぞ」

ご愛読有難うございました。


本日の解説。


――――『倉ぼっこ』――――


『中立妖怪』。

『座敷童子』の同類でコッチは家でなく倉に住み着くので、持っている拠点に倉がないと現れない。

住み着いた場合、定期的に食べ物をあげないと居なくなるが、住み着いている間レアアイテムの入手確率が跳ね上がる。

……唯一の難点は見た目が怖い事。テレビから出てきそうな容姿の為、『のっぺらぼう』よりも驚かせたプレイヤー数が多い。


――――【呪術】――――


対象にバッドステータスを与える事が主なスキル。

専用の道具も必要だし主に対人用なスキルである為、ゲーム内ではマイナーな部類に入る。大抵のプレイヤーがスキルスロットの穴埋め程度に入れている。


――――『藁人形』――――


【呪術】の道具。

対象の髪の毛を入れて攻撃すればダメージを与える事が出来る。シンプルな物なので有効範囲も百メートル程。

一々、夜中に釘を打たなくても大丈夫。

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