1話①
俺が次に目を覚ましたとき、そこはいつものシミがついた天井ではなかった。
まず、俺は布団の中にいない。外が見えるのは正面、つまりは天井のみ。横は機械的なよくわからない管やケーブルが張り巡らされている、狭い空間。形状からするに、直感でカプセル状のなにかに入れられていると気づいた。首から下は動かせないし、見ることもできない。頭は辛うじて横に振ることができるくらいの狭いカプセル。まぁ、太ってるからかもしれないけど。
しかし、それ故か、扉も見つからないし、どうやって出るかも検討つかない。そもそも、一体この状況、どうしたというのだろうか。
ガラス越しに一部見えるのは、このカプセルの中に張り巡らされているような管やケーブル、大きなテレビモニター。よく見えないが監視カメラっぽいそれも見られる。ふむ。
少し整理してみたが、頭の中で処理が追いつかない。状況を把握したところで、カプセルが開く気配すらもしないし、それ以前に、どうして俺は今自宅にいないのかという説明もつかない。うーむむむ。どうしたものか。そもそも、なぜ俺はここまで冷静に物事を捉えることができているのか?それすらも解決することができない。一体、この一晩の間に、俺の身になにがあったのだろうか。そもそも、一晩なのだろうか。
考えを巡らせ続けていると、唐突にカプセルの扉が開いた。拍子抜けしたものの、この好奇を逃すわけにはいくまい、急いで出るとしよう。
やはり、予想通りと言うべきなのか、俺が入っていたのはカプセル状の人が1人入れるか入れないかくらいのシロモノ。よくそこに収まることができたなと自分の脂肪の柔軟性に感心する。
改めて、周囲を見渡す。テレビのモニター。監視カメラ。ケーブル。なにやら光るモノ。たくさんの四角い白い箱。おそらくあの箱には精密機械系統が入っているのだろう。ふむ。こうして見渡してみると、なんとなく近未来的な雰囲気がする。アニメの世界、ゲームの世界。そのようなモノに近い。
だからなのであろうか、そこにあったそれはとても異質な感じがした。
それは、ひとつの鏡。大きな大きな鏡。俺は、なんとなくその唯一この空間で日常的なそれの前に立っていた。
「な…?」
そこにうつったのは、福笑いメタボリックではなかった。むしろ、それと一番かけ離れていた。
少しキツめのオーシャンブルーの瞳のつり目、色素の薄まったブロンドに近い少しぼさっとしたロングヘアは腰より少しあるくらいだ。粗末な白いシャツ、ジーパン。気だるそうな表情をした美少女。そこで今更気付く。体が軽い。
思わず驚いて尻餅をつくと、鏡の向こうの美少女も尻餅をついた。
あらためて、足元を見つめるように下を向くと、脂肪の全くない、断崖絶壁の体があった。腹を触ってみると、とても細く、少し筋肉質。どういうことだ。動揺を隠せない。俺は、メタボリック福笑いなんだぞ。いつから、女になっちまったんだ?
ペタペタと顔を、身体を触り続けていると、突然、頭の中に声が響く感覚に見舞われた。
「あー。あー。テス。テス。露山紗太郎さん。聞こえてますか?」
おっさんの声と、女の声が混ざったような、なんとも言えない声。そんな声が俺の脳内を支配していた。
処理が追いつかず、キョロキョロと周りを見渡すと先ほどの声が笑った。
「失礼。自己紹介をさせてください。」
「………」
「私は山田です。とりあえず、今の状況が知りたいのであれば、30分ほど私に付き合って指示に従ってください。」