序幕
ヒーローに憧れていた。とても、とても強く。
ヒーローになりたかった。子供の頃になりきるようなヒーローじゃなくって、もっと優しいヒーロー。
強いて言うなら、あれだ、ボランティア活動などの慈善団体みたいな感じのあれ。世のため人のため、見返りを求めずにやるってやつ。
すっげぇやりたかった。今でもやりたい。みんなの役に立ちたい。
でも、反面俺はみんなの役に立つ前に、みんなの前に立つことが怖かった。社会に出て、慈善活動をすることが怖いのではなく、人前に自分の顔を晒すのが嫌だった。
自慢にはならないけど、俺の顔は恐らく世界が認める不細工だ。まるで、神様が福笑いをしながら作ったような顔。そもそも左右のバランスが取れてないのはどういうことなのか。
散々俺はこれのせいでイジメられてきた。いや、当たり前よな。だって、こんな恰好の的ねぇよ。
だから、俺は中卒。しかも不登校だったし。とにかく俺は自分の醜悪なそれを社会に晒すのが嫌だった。
親だけが分かってくれた。自分の苦しみ。でも、それのおかげで俺は親に甘えた。いずれ、醜悪なのは顔だけではなく、身体までもが醜悪なそれになってしまった。
露山 紗太郎という俺は、完全なるヒキニートと化した。
俺は、現実からひたすらに逃げた。逃げて逃げて逃げ続けて。自分の求めるヒーロー像と真逆の道を走り続けた。
だからかもしれない。
俺がそのサイトに目をつけたのは。
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「『毒りんご』…?」
随分と不気味な名前だな、と思った。巨大掲示板サイトで、たまたま目にして、そのままノリで来てしまったわけだが…このサイト、かなり不気味である。
おどろおどろしいフォントで書かれた毒りんごの文字の踊る下には腐敗した林檎の絵。その下には『毒りんごを食べる』と書かれたリンク。
ただ、それだけだった。他に何かあるのかとスクロールしてみるが、一向に他の文字すらも見つかる気配はなかった。
「んー…」
話によれば、この『毒りんごを食べる』をクリックすると、『生きる』『死ぬ』のどちらかがランダムで出てくるそうだ。『生きる』の場合、花火が打ち上がるFLASHが出てくる。『死ぬ』の場合は、画面中が血まみれになって、サイトのトップに戻るだけ。ただそれだけのサイトらしい。また、他の例も出ているらしいが、未だにそれがどのようなものなのかは判明していない。だからこそ、俺は興味を持った。
そして、俺はなんの気もなしに、そのリンクをクリックした。
「おめでとうございます…?」
そして、俺はそれを引き当てた。白い背景に明朝体のおめでとうございます。どう考えても嬉しい、というよりかは不気味な感じであった。
「まぁ、いいか。」
なんか特別な答えが出たところで、なんとなく嬉しくはなかった。拍子抜けしたような、そんな感じ。むしろそんなことに運を使ってしまったことに嘆かわしさすらも感じる。
時計を見れば、もう午前4時だ。俺は時間には正しい人間だからな。そろそろ休息を取るとしよう。
毒りんごは…どうでもいいや。
【転送開始】