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VRMMOをカネの力で無双する サブアカウント  作者: 鰤/牙
2015年お正月短編
47/50

ザ・キリヒツ/俺たちの正月はこれからだ!

特にオチが思いつきませんでした

「リーダー、正月そうそう捻挫したんだって?」


 キリヒトの言葉を受けて、キリヒト(リーダー)は仏頂面を作る。


「捻挫したのは大晦日だよ。正月じゃなくてさ」

「大して変わんないだろ」

「縁起の悪さがだいぶ違う」


 キリヒト(リーダー)こと山本よしすけは、2014年最後の瞬間、盛大に足をひねって足関節靭帯損傷、すなわち捻挫をやらかした。結果、年越しそばをすすりながら一人で湿布と包帯を施し、哀しい元旦を迎えることとなった。

 ザ・キリヒツの間では笑い話になっているわけだが、当然、キリヒト(リーダー)にとって愉快な話ではない。


「えぇっ、リーダー捻挫したの!?」


 そんな中、唯一笑わなずにいる人物がいた。一同の視線が、いっせいにそちらへと向く。


「アイナ!」

「アイナ」

「アイナ……」

「アイナっ」

「アイナ……!」

「アイナ?」


 6人のキリヒト達が次々にその名を呼び、最後にキリヒト(リーダー)が重々しくつぶやいた。


「アイナか……」


 涼やかな水色のロングヘアと、清潔感にあふれる白い衣装。慈愛を宿した瞳の少女こそが、ザ・キリヒツ永遠のヒロイン、アイナである。高速戦闘と治癒魔法に長けた彼女のスペックは、全員前衛というザ・キリヒツの穴を絶妙に……埋め切れてはいないのだが、まぁ、とりあえず少なからぬ癒しになっていた。


 ばたばたとギルドハウスに上り込んできたアイナは、そのまま椅子に座ったキリヒト(リーダー)のもとへ駆け寄り、その足をべたべたと触る。


「だ、大丈夫? リーダー、痛くない? ここ? それとも、ここ?」

「いや、捻挫したのはリアルの俺だから……」

「あっ、そ、そっか!」


 アイナは舌を出して頭を掻く。キリヒトの一人が『可愛いなぁ』とつぶやく。確かに可愛い。だが、アイナは、

 いや、やめておこう。アイナの正体がなんであろうと、大切なザ・キリヒツの一員であることには変わりがないのだ。既にそういう結論は出ているし、1年間ずっとそうやって過ごしてきた。


 アイナは相変わらずの可愛らしい動作で、小首をかしげる。


「リーダーって鹿児島住みだっけ?」

「種子島だけど」

「じゃあ私、明日遊びに行くね」

「えっ」


 唐突な申し出に、キリヒト(リーダー)は思わず聞き返してしまった。


「看病してあげるよ。お正月は緊急外来しかやってないでしょ? 言ってなかったっけ、私、看護師なの」


 そういえば、そんなことを言っていた気がする。アイナの申し出を聞き、キリヒトのひとり達が次々につぶやいた。


「そうか、白衣の天使か……」

「だが男だ」

「まぁ天使は男だよ」


 そう、アイナは男だ。いや、アイナは女だが、アイナのプレイヤーは、男だ。


 別に、男だからといって偏見は持たない。アイナは、ここに集うキリヒト達と同じく、レジェンド級ライトノベル〝ドラゴン・ファンタジー・オンライン〟のファンであり、ザ・キリヒツの大切な仲間なのだ。アイナは可愛く、そして男だ。特に問題はない。


 本土住みのアイナが、わざわざ九州の最南端、離島種子島まで看病しにきてくれるのも、ザ・キリヒツの仲間意識故だ。特に深い意味はない!


「飛行機今から取れるかなぁ。新幹線ならいけるかな……。とりあえず、すぐ行くから待っててね。患部はちゃんと冷やして、動かさないようにしておいて。ログイン中は安静にできるから大丈夫だと思うけど、ゲーム内で歩き回ると現実世界でも無理に動かしちゃいがちだって、苫小牧先生が言ってたから、なるべく歩かないようにしないとダメだよ?」

「お、おう」

「じゃあ私、すぐに準備するから!」


 アイナは矢継ぎ早にそう告げると、メニューウィンドウを開いてログアウトしてしまった。どうやら、本気らしい。


「良い子だな……」


 キリヒトの一人が腕を組んで、カッコつけながら言った。


「まったくな」


 アイナのログアウトを呆然と見送り、キリヒト(リーダー)も辛うじてそう呟く。


「よし、リーダー。俺たちもこれからリーダーの家へ向かうぜ」

「なに?」


 続けて、意気揚々と語るキリヒトに、キリヒト(リーダー)は視線を向けた。他のキリヒト達も、一斉に屈伸や腕立てなどを初めて、それぞれのやる気をアピールしはじめる。


「俺もいるぜ」

「おまえばっかりに良いカッコさせるかよ」

「キリヒトはお前だけじゃないんだぜ」

「コーホー」

「いや、それは良いんだが」


 キリヒト(リーダー)は頭を掻く。


「どうせおまえ達アイナに会いたいだけなんだろう」

『まぁな!!』


 キリヒト達は、一斉に親指を立てて、最高の笑顔を見せた。


 まぁ、良いか。正月早々、自宅でのオフ会ということになる。どうせゲーム内でも同じ面子で過ごすのだから、リアルを同じ面子で過ごすのも悪いものではない。捻挫した足を抱えて、独りで過ごすよりはよほどマシな気がした。


「じゃあ俺は1期2期のDVDを用意して待ってるよ」

「よし、じゃあオフ会は全員でマラソンだな」

「楽しみにしてるぜ!」


 次々とログアウトしていく九州のキリヒト達を見送ってから、キリヒト(リーダー)もログアウトする。


 そういえば、2015年は、ミライヴギア用の新作ゲームタイトルが何本か発売されることを思い出した。期待のガンシューティングゲームも発表されたとなれば、ザ・キリヒツも活動の場を広げなければならない、と、興奮気味に語り合った。

 今年も、ザ・キリヒツにとって良い年であることを祈りながら、キリヒト(リーダー)もログアウトのボタンを押した。

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