(12)
桐生世良はミライヴギアを外して、ゆっくりと上体を起こした。
窓の外に、日はすっかり落ちている。つけっぱなしにしたパソコンの画面だけが、薄暗い部屋の中で唯一の光源となっていた。世良はベッドの上からゆっくりと床に足を下ろして立ち上がる。
部屋の中は、この年頃の子供が使う割には物が少なく、きちんと整頓されていた。父も母も、頼めば割といろんなものを買ってはくれたのだが、結局のところ世良は、あまり物を欲しがらない子供であった。だいたい母親と同じゲームが遊べれば世良は満足していたし、漫画だのなんだのにしても、母親の趣味の方が圧倒的に広かったように思う。おかげで、世良のちっぽけな物欲は、不充足感に悩まされることがなかっただけなのかもしれない。
もう夜中の20時過ぎだ。さすがに少しお腹が減った。
世良は部屋を出て、階段を降りる。階下に人の気配はなかった。世理子はまだ帰っていないらしい。彼女がどこからゲームの中にログインしているのかは知らないが、ここ最近、外出が多い傾向にある理由は、世良にもようやくわかった。別に文句を言うつもりはない。世良の見る限り、世理子は専業主婦としての役割は、炊事も(下手だが)、掃除も(下手だが)、選択も(下手だが)、きちんと果たしていた。
どうせしばらくすれば世理子も帰ってくるだろう。世良は台所に向かい、冷凍庫からラップに包まれたご飯の塊を、いくつか取り出し電子レンジにいれた。と、そこで、部屋の電話が鳴る。
「………」
世良は顔を向け、面倒くさそうに頭を掻いてから、電話に向かい受話器を取った。
「もしもし」
『もしもし、あの、桐生さんのおうちですか?』
受話器の向こうから、利発そうな少女の声が響く。世良は抑揚の薄い平坦な声で、彼女の名前を呼んだ。
「石蕗さん」
『あっ、桐生……』
電話口の向こうで、少女は気まずそうに声を詰まらせる。
石蕗、明日葉だ。クラスメイトである。世良はさほど親しい間柄だとは思っていない。ただ、明日葉は割と分け隔てなく誰とも遊ぶし、誰にでも話しかける性格で、同じ学年でポケモンが流行った頃には、世良もちょっと彼女に指南をした経験がある。当時明日葉は、仲のいいクラスメイトの兄に自慢のパーティを容赦なく粉砕され、話を聞いた世良が同じパーティを使って彼女の雪辱を晴らしてやったという経緯も背景にはあった。
それ以来、ゲームのことになると明日葉は世良を頼ったが、明日葉自身は割とアウトドア系の趣味と性格を持つこともあって、そこまでたくさん、一緒に遊んだことがあるわけではない。その程度の仲だ。交友範囲の狭い世良からすれば、友人としてトップランカーであるものの、明日葉からすればそうではない。世良の認識ではそうである。
石蕗明日葉が、人間の魔獣使いフェリシアだという話は、未だにちょっと信じがたい。
彼女があの石蕗一朗の親戚だというのは、もっと信じ難かったが、ありふれた苗字ではないらしいので、そんなものかもしれない。小学生の狭い世界からみれば、その苗字がよくあるものかよくないものか、なかなか判別がつきにくい。
それは、ともかく。
電話口のむこうで、明日葉はしばらく黙ったままだった。何か言いたいことがあるから電話しただろうに、どう切り出せばいいのかわからない、そんな様子だ。
「あのさ石蕗さん、石蕗さんがゲームの中で探してるって言ってたの……」
『あ、うん。桐生だよ』
やはりそうなのか、と世良は思った。
『去年ぐらいから、ずっと探してたんだけど……なんか桐生、二学期から学校に来るようになったし……』
「そっか」
『あの、桐生』
「うん」
『ごめんね……?』
謝られた。気にしていたのかもしれない。
何が、というと、あれだ。勝負の最中に茶々を入れたことである。あれが敗北の原因であるのは間違いなかったが、正直、あそこで心を乱したのは自分の責任であると世良は感じていた。皇帝が、『だから君は未熟なんだ』と言った、まさにあの通りだ。
ゲーム内での態度がフカしであるという自覚はある。本性が変わっているとまでは思っていないが、現実での桐生世良はもっと口数が少なく気が弱い。ゲーム内トップランカーの実力が、あの強気な言動を支えていたのは確かなわけで、それを思うと世良も少し恥ずかしい。
そのことについてしっかり話しておこうと思ったとき、玄関の方で扉の開く音と閉まる音、そして『たっだいまー!』というやたら陽気な母親の声が聞こえてきた。世良は『おかえり』という代わりに、リビングから廊下に繋がる扉をあけ、片手をあげて挨拶とする。世良が電話中と気づいた世理子は、両手を合わせて軽く『ごめんね』のポーズを取った。その手には、近所のトンカツ屋の袋がぶら下がっている。世良の好きな店だった。
「そんなに気にしてないよ」
世良は、電話口のむこうに対してそう告げて、階段を上がっていく。
「いや、あの瞬間だけはすごい気にしたけど……」
『でも、その、それで桐生が負けちゃったから! ジコケンオはんぱなくって!』
「大丈夫。まだ負けてない」
慌てる明日葉に対して、世良の言葉は冷静なものである。
「いや、まぁ、負けたんだけど。でもまだ、負けてない」
『どういうこと……?』
「決着はついてない、ってこと。リベンジはするつもりだし、お母さんもたぶんそのつもりで待ってる。だからまだ、負けてない」
勝者が勝ちを、敗者が負けを、認めて初めて勝敗は決する。明日葉の茶々であの場の勝ち負けが決まったのは確かであって、それをみっともなく弁明するつもりは世良にはないが、それでも世良にはまだ負けていないと思う気持ちがあった。もちろん、このまま〝勝ち逃げ〟される可能性は常に付きまとう。
世良は、自分の母親が勝負に対してダーティなオトナであることを知っていた。ゲーマーは常にフェアプレイを心がけるべきという前提を説いた上で、彼女自身はけっこうフェアでない真似を働くことが多かった。が、今回に限り、〝勝ち逃げ〟を狙っているわけではないだろうと、世良は思う。具体的な根拠はない。血縁者としての勘のようなものだ。
『でも、おばさん、すっごい強いんでしょ?』
「強いね」
明日葉の声はどこか震えていた。
『あたし、桐生だってすごく強いのは知ってる。でもね、なんか、なんだろう。あたしが変なこと言ったせいで、桐生がまた自信失くしたりとか、ボロ負けしてまた自信失くしたりだとか、そういうの心配してるんだ。だから、その……』
「石蕗さん、」
『うん』
「石蕗さんの、親戚のお兄さん」
『へ?』
「あの人の話を聞かせて欲しい」
世良の言葉に、明日葉が困惑しているのがわかった。だが、世良としては最初から聞こうと思っていたことだ。自分の挑むべき相手のことを。それは決して、皇帝ワイアール・カイザーなどではない。もっとはるか高みにいて、本来ならば手の届くべき場所にはいない男のことだ。
明日葉は、少し戸惑いながらも、おずおずと彼女のハトコ、すなわち石蕗一朗の話を始めた。彼女がイチ兄ぃと呼ぶその青年が、どれほどに多芸で万能な才覚を見せているのか。容姿端麗、頭脳明晰、スポーツ万能にして、芸術分野でも数々のトップアーティストと肩を並べる手腕の持ち主。有り余るカネに加え、親戚筋の中でも明日葉にはとびきり優しく接してくれること。語る舌は徐々に勢いづいて熱がこもる。言葉の端々から滲む誇らしさに、世良は逐一相槌を打った。
話を聞けば聞くほどに、背中が遠ざかっていくことを感じる。
ひとしきりのハトコ自慢を終えた後に、明日葉はこう尋ねた。
『なんで、桐生がそんなこと聞くの?』
「ライバルなんだ」
そう答えるのには、ほんの少しだけ勇気を要した。
「次は勝つって決めたんだ。だから、」
それでも、世良はもう自分に嘘はつけない。それが例えフカしであったとしても、一度動き出した心の滑車を止めることなど、できはしない。
「だから、石蕗さん。約束するよ。相手が誰であっても、二度と、」
だからこそ、公約せねばならなかった。誰かに自分の決意表明を聞いてもらわねばならなかった。それに、クラスメイトの中でもちょっと親しい程度の、明日葉を選んでしまった件については、非常に申し訳なく思う。
それでも桐生世良は言った。胸を張ってこう言った。
「キングキリヒトは、負けない」
しばしの間、無言が続いた。言ってしまったな、と思う。もう後戻りなどできはしないのだ。清涼感が世良の胸中にはあった。
『……うん、わかった』
電話口の向こうで、明日葉の頷きも力強い。
「じゃあ、お母さんも帰ってきたし、そろそろ晩ご飯の時間だからさ」
『あ、うん。えっと、またナロファンで?』
「うん、じゃあね」
世良は通話を切って、小さくため息をついた。階段を下りると、壁に背中を預け、首で妙なうつむき加減の角度を作りながら、腕組みをする一人の中年女性(あえて言おう)の姿があった。
「言うなぁ、世良。『キングキリヒトは、もう負けない』かぁ……」
ニヤニヤ笑う母親に、世良は受話器をつっ返す。
「ご飯はもう解凍してあるけど」
「うん。矢場とんのヒレカツ買ってきた。あとエビフライとカキフライもねー」
世理子はリビングのテーブルを指して言った。負けられない勝負に〝カツ〟を買ってくる世理子の気持ちは非常に嬉しいが、問題はここでカツを食べるのは世良だけではないということか。どのみち、矢場とんの揚げ物は好きなので文句は言わない。
どこかウキウキした様子を見せる世理子と、世良はリビングに入る。茶碗に解凍したご飯の塊をごろんと入れ、冷蔵庫から昨日の残りのサラダや煮物を出す。この煮物というのが、世理子がよせばいいのに挑戦した料理で、たいそう不味かったのだが、それでも出した。父親が出張から帰ってくる前にさっさと処分してあげたいと思う。
カツやエビフライを、刻みキャベツと共にさらに並べれば、それなりに普通の夕食になった。
「お母さん、なんか嬉しそう」
仲良く『いただきます』を言ったあとに、世良はぼそりと呟いた。
「いやぁ、今ならなんか、範馬勇次郎の気持ちがわかるなぁって」
「なにそれ」
「読んでないならいいんだ……。お母さんの部屋に漫画も全巻あるのに……」
「趣味が濃そうなのは読んでない」
実は単語くらいは知っているのだが、下手に反応を見せるとやたら食いついてディープなトークを展開してくるので、これくらい淡白な反応を見せておくほうがよい。確かに、強くなった息子を叩きのめすのが生き甲斐であるかのような地上最強の生物は、今の世理子にちょっと通じるものがある。主に、大人気なさが。
「ねえ、お母さん」
箸を進めながら、世良はぼそりと尋ねる。
「ん?」
「勝てるかな」
「そうだねぇ」
卓上の『つけてみそかけてみそ』をカキフライにぶちまけながら、世理子は思案顔を作った。
「世良はもうオトナだから、世良の勝負は世良が決めるんだよ」
「まだ10歳なんだけど」
「もうすぐ11歳になるじゃない」
年齢がひとつ上がったくらいで、すぐにオトナになるとは思えないのだが。それでも、〝勝負〟について、〝師匠〟が語る言葉は重い。世良は黙り込み、その言葉の意味を反芻した。またしばらく無言が落ちた食卓に、テレビの音だけが響いてくる。アナウンサーは、国民的アニメのお父さん役の声優が交代したというニュースを、のんきに告げていた。
世良は、ふと気づいたように顔をあげて、テレビに顔を向けてから、半眼になって世理子を睨んだ。
「サマーウォーズじゃん。今のセリフ」
「おっ、世良もわかってきたねぇ。まぁ全力でぶつかってきたまえ。どっちが強いか、決着をつけようじゃない」
桐生世理子は、終始上機嫌であったという。
食事が終わると、世理子は再び家を出た。どこからゲームにログインしているのか尋ねたが、『社長さんが近所の空家を買い取ってそこに筐体置いてる』という言葉がどうも本当か嘘かわからず、しかしそれ以上の追及は避けた。
桐生世良もゲームにログインし、キングキリヒトとなる。騎士団のギルドハウスには既に大多数のプレイヤーが集結していて、キングは最後の一人だった。アイリス、ストロガノフ、エドワード、苫小牧、そしてキリヒト(リーダー)。彼らが雁首を揃えてキングを出迎える。
「待っていたぞ」
ストロガノフが重々しい声で言った。
「うん」
キングは軽めに頷く。
ところで、ギルドハウスには一人、彼がログアウトする以前にはいなかったプレイヤーが一人混ざっていた。カジュアルな忍装束に般若面をかぶった男は、双頭の白蛇のゆるふわ忍者軍団の一人である。一人だけ、こんなところにいるとはどうしたことだろう、と思い首をかしげると、ヨザクラがこほんと咳払いをし、こう言った。
「マツナガさんです」
「は?」
キングが思わず尋ね返すと、忍者は般若面を外す。そこには、あのマツナガと寸分たがわぬ嫌味ったらしいイケメンエルフの顔があった。
「どうも、マツナガ・サブアカウントです」
「そして私が真・ヨザクラです」
胸を張るヨザクラのテンションも明らかに先ほどまでのものとは違う。キングはおおよそを理解した。
ひょっとすると、双頭の白蛇の忍者部隊というのは、すべて般若面の下にマツナガの顔を隠しているのかもしれない。マツナガが複数の地点に同時に出現したという噂を、キングも聞いたことがある。眉唾だと思っていたのだが、真相は案外こんなものだったのだろう。
「とりあえずみんな、腹ごしらえは済んだわね?」
アイリスが尋ねると一同は頷き、円卓につく。作戦会議が始まった。
話し合われるのは今後の動向である。中でも、最初に争点となったのはやはりキングキリヒトの装備問題である。エドワードの話では、時間をかければ武器もアクセルコートも及第点のものが仕上げられるということだったが、そんな悠長なことはしていられないという話を、ヨザクラがする。
ヨザクラは、運営側が皇帝に警告を発するまで、残り3時間を切ったという話をした。皇帝がマツナガやキルシュヴァッサーを解放するか、あるいはアカウント停止処分を受けるかの二択を決めるまでの猶予は、さらにそこから2時間だ。どんなに遅くとも、5時間以内には決着をつけねばならない。
「さすがの皇帝も、警告を受ければ二人を開放するんじゃないか?」
というストロガノフの言葉には、マツナガがかぶりを振った。
「それじゃダメだよ。いいかい、ストロガノフ。二人が石像にされている状況で、キングが皇帝を倒さなければ意味がないんだ。この辺は意地みたいなもんだから、正直あまり意味はないんだけどさ。勝負の純粋性は、悪行にも善行にも外野が干渉しないことで保たれるんだよ」
マツナガが言うとブーメランも甚だしいが、その言葉にはキングも全面的に同意する。残り5時間ですべてを終わらせなければ意味がない。
「だがそれでは、キングの武器はともかく、アクセルコートを作るのに時間が足りない」
「それなんですが、」
渋い顔をするエドワードに対し、苫小牧は柔和な微笑みを浮かべていた。彼はアイテムインベントリから、一着のコート型装備を取り出して、円卓の上に置く。一同は目を丸くした。まさしく、アクセルコートである。
アクセルコートの入手経路の煩雑さは、今更語る必要もないだろう。大陸のほぼ北端にのみ生息するモンスター、アクセルゴートからの取得ドロップのみを素材とし、そのレアリティは極めて高い。根気さえいれば入手は決して難しくないが、逆に言えばどれだけプレイヤースキルやレベルが卓越していようと、手に入れるまでには一定の手順を踏む必要があるのだ。
その現物があるというのは、それだけでだいぶ話が変わってくる。
どこでこれを、という問いに対しても、苫小牧は笑顔で答えた。
「ココからです」
「ココさんから……?」
言われてみれば、去年の8月末ごろ、ゴリラのココがアクセルコートを欲しがり、その素材を採取しにいったという経緯が、ツワブキ・イチローにはあったように思う。そのへんの騒動には、当然エドワードやアイリス、そして真・ヨザクラも巻き込まれていたし、ココがアクセルコートを持っていたというのも知ってはいたのだが。
「彼女は、皇帝の〝悪〟を改める為に必要ならば、これをキングに渡すと言っていました」
「ちょっと待ってくれ、ゴリラが善悪の概念を理解したのか?」
「それがしたのです。奇しくも先日、と言っても去年の暮れほどですか。そのための席を設けまして。ともあれ、そのコートは彼女からの贈り物になります」
キングは、卓上のアクセルコートを手繰り寄せ、アイテムステータスを開いた。ほとんど耐久値が減少しておらず、新品も同様だ。同時にウィンドウがポップアップし、そこには『ココさんからあなたへの贈り物です。受け取りますか?』と書かれている。一瞬の躊躇の後、『はい』をタップした。
「使わせてもらう。ありがとう」
と、なると、あとは武器の問題だ。これに関して話を振ると、エドワードも頷いた。
「あと2時間ちょっとで最高の武器を用意する」
「じゃあ問題はその2時間、皇帝の動きをどう縛っておくかと、ウラギリヒト達の扱いね」
アイリスの言葉に、話題が次へとシフトする。
ウラギリヒト達を一方的に排斥することについては、キリヒト(リーダー)が強硬に反対した。彼はあくまでもキリヒトとして、ウラギリヒト達を善良なるキリヒトに戻したいと主張する。そんな悠長なことを言っている時間があるのかという疑問は置いておいても、それを却下しようという意思は誰にも見られなかった。
キリヒト(リーダー)がウラギリヒト達の説得と懐柔に自信を持っているならば、あとはその露払いだ。それに関しては騎士団が名乗りをあげた。皇帝を置いておくとすれば、そこにおける彼我の戦力差は圧倒的だ。騎士団が護衛に徹することで、キリヒト達は余裕を持ってウラギリヒトの説得にまわることができる。
となると、やはりネックになるのが、皇帝の足止め問題である。
ウラギリヒト達とダークキリヒトは現在、ヴァルヴュイッシュ遺跡群を根城にしている様子であった。いざともなれば皇帝の手足として悪行を働く所存なのだろう。彼らを再び寝返らせるには、遺跡群に踏み込む必要があったが、遺跡群には皇帝がいる。
「そこはまぁ、あたしがなんとかするわ」
と言ったのは、驚くべきことにアイリスであった。ストロガノフがおずおずと声をかける。
「だ、大丈夫か……?」
「まぁ、ダメだったら石像になったあたしを笑って許してね」
そう言いつつ、言葉の裏側には強い自信が見え隠れしていた。なんらかの作戦があるようには思える。
ところで、そのあたりになって、キングはようやく、誰もが忘れていたがようやく思い出しつつある話題に触れておくことにした。
「あのナイフの人、いなくない?」
「そうなのよね」
アイリスは自分の背後を振り向くが、そこにはヨザクラが立ち尽くすのみで、毒ナイフモヒカンことオトギリの姿が見当たらない。
「いったい何やってんのかしら……」