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VRMMOをカネの力で無双する サブアカウント  作者: 鰤/牙
キリヒト/フェアリィ・ダンス
32/50

(11)

「どこから話そうかな」


 三人で食卓を囲むようになってから、もう半年近い。ローズマリーが『味』を理解するようになり、やがては『食感』を理解するようになり、料理をふるまう桜子の腕にも力が入ったが、そう言えば彼女が一朗の手料理を『食べる』のは初めてだ。〝ローズマリーの舌〟が咀嚼に移る様子を、桜子は興味深げに眺めていたが、思っていたより特別な反応は引き出せなかった。


 さて、そうなると一朗の話である。桜子としては、こちらの方にも聞きたいことは山ほどあるのだ。


「一朗さま、〝クラシックギア〟とか〝フェアリィ・システム〟とかって、なんなんですか?」

『ポニー・エンタテイメント社がアミューズメント施設用に開発中の業務用ゲームハードです。フェアリィ・システムはそのアシストプログラムになります』


 その問いに答えたのはローズマリーの方である。桜子は、びっくりして天井を見上げた。


「ローズマリーも知っていたんですか?」

『いえ、先ほどイチローのパソコンに侵入し資料を閲覧しました』


 それは果たしていいのだろうか、と思い一朗に視線をやるが、彼は特に気にした様子もなく、サワラを箸で器用にバラしていた。まぁ、いかに相手が超有能な人工プログラムであるとは言え、重要機密に対してはそう簡単に突破されるようなプロテクトを施す男でもないので、元からバレても構わない、といったところか。

 しかし、ポニー社がそんなものを開発しているとは、桜子も知らなかった。一朗がこの会社の最高経営責任者に就任して以降、彼はカスタマーの一人である桜子に対しては業務上の秘密を漏らさないよう留意している節があったし、当然と言えば当然ではあるのだが。余談だが、一朗はやはり桜子に詳しい要件を話さずふらっと2、3日の出張に出かけることも多くなって、それはそれで結構寂しい思いもあったものである。


「いつごろからあった企画なんですか?」

「去年の秋。桜子さんの昔話を聞いて、一時期ゲームセンターに通いつめた時期があったじゃない。あの頃かな。僕が作りたいと言って、専用のセクションを作って、まぁ費用は僕のポケットマネーだったんだけど」


 一企業の経営責任者になったところで、やっていることはまったく変わっていないように思う。


「雛形ができた時点で、テストプレイヤーが必要になったんだよね。ただ、その時点ではフェアリィ・システムの方ができていなかったから、完全にマニュアルで動かせる人が欲しかったんだけど、社内には僕を除いてそこまで器用な人がいなかった。僕は元から、これを皇帝に動かしてもらおうと思っていたから、彼女を探した。世理子さんもナロファンには興味を持っていたみたいで、話にはすぐ応じてくれた」


 実子である世良キングが、VRMMOに熱中していたことは、桐生世理子にとって喜ばしいことでもあり、また同時に少し寂しいことでもあったのだという。世理子も仮想世界の中で親子一緒に楽しみたいという気持ちがあったに違いない。が、彼女はドライブ技術にまったく適応できない人種であった。ミライヴギアを装着しドライブを試みても、脳波と量子波動の致命的なズレから激しいバーチャル酔いを引き起こす有様である。結局のところ、世理子は自分の為に買ったミライヴギアは倉庫の奥底にしまいこまざるを得なかった。

 その悔しさを推し量ることは、桜子にはできない。一朗の淡々とした語り口がなおさら推量を妨げた。ただ彼が語るのは、桐生世理子がそうした事実を経て、およそ1年以上の間、仮想現実内で戦いにくれる実子を見守ってきたという話、加えて、いつしか世理子が、世良のことを明確に〝一人のゲーマー〟として認識するようになったという話だ。


 そして、とうとうその日が訪れる。


 桐生世理子は、一朗のコンタクトを受けた後、自前のアーケードスティックを持って東京へやってきた。


「で、動かせたんですか?」

「動かせたよ。見ての通りだ」


 一朗はなんでもないことのように言って、味噌汁をすする。


「皇帝は、ロボットのコクピットみたいって言ってましたね」

「そうだね。初めて見たときもそんなことを言っていたよ。基本の動作はレバーとボタンでやるんだけど、当然それだと限界があるから、動作モードを切り替えるための専用レバーやマウスがあって、それにもボタンがいくつもついている。飲み込みは早かったよ」


 完全なマニュアル操作で、人間型のアバターを動かすのがどれほど大変なものであるのか、桜子には漠然としか理解できない。だが少なくとも、皇帝本人にとっては、それは仮想世界にアクセスする唯一無二の手段であり、またおそらく、意識をドライブさせる以上に〝馴染む〟手段であったことだろう。


「世理子さんがテストプレイを引き受けるにあたって、僕に要求してきたことはふたつ。あくまでも一人のプレイヤーとしてナロファンをプレイさせることと、そのプレイ方針には原則として口を出さないこと。僕はあくまでも運営としての立場から、公正な視点で彼女の動向を見守ることになった」

「はー……」


 桜子は気の抜けたような声で相槌を打つ。白菜のお新香に箸を伸ばし、ぽりぽりとかじった。


「で、僕から要求したことはふたつ。ゲームのプレイ経過はきちんと報告することと、フェアリィ・システムを一度は起動してテストをすること」


 そう、そこだ。桜子の疑問はもうひとつあった。その、フェアリィ・システムというのはなんなのだろうか。

 完全マニュアル操作から半分オートに、という単純な話ならばわかる。それにより、皇帝の操作効率は大幅に改善され、針を縫うような極めて精緻な攻撃を可能にしていた。マニュアル操作だけでも怪物じみた動きを見せる皇帝であるからして、フェアリィ・システムを起動させた時の総合的な戦闘能力は、恐るべきものがあった。


「あれは、ほら。ローズマリーが最初に起こした事件の時、彼女が僕のアバターを動かしていたbotがあったじゃない。ピッツバーグの研究所の」


 一朗の言葉を受けて、〝ローズマリーの舌〟がピクリと動きを止めた。


「あー、そんなこともありましたねー……」

『ありましたね』

「あったよね。懐かしいね。あれを使った」


 あれだってもう半年近く前のことになるのか。桜子はどうにも実感が沸かない。


「サーバーと回線に負担がかからないように、サーバー側の方でもbotの量子信号に応じた返答用のプログラムを用意してあって、それも含めてのフェアリィ・システムだ。そのあたりの設定をしたのは僕じゃないんだけど、まぁ、妖精が手伝ってくれるイメージらしいよ」

「どっちかというと、ゼロシステムとか、アリスシステムとか、そのへんですよね?」

「〝そのへん〟がよくわからないから、答えようがないかなぁ」


 結局のところ、話を聞いても、なんだか凄そうなシステムということしかわからなかった。ふわふわした理解しか、桜子にはできない。もっとも、理解したところで、それが皇帝攻略の糸口につながるとも思えなかったのだが。

 どちらかといえば、VRゲームに殴り込みをかけんとする皇帝の妄執の方が、桜子にとってはリアルに感じられた。きっと桐生世理子も、結婚や出産を経てアーケードゲーマーとして一線を退いた以降も、ゲーセンには通っていただろうし、オンラインゲームにだって手を出していたはずだ。世良のことにしても、自分の子供にゲームを教え、一緒に遊ぶのは、女性ゲーマーにとって史上に喜びであったに違いない。


 その世良が、自らの手を離れ、自らの手の届かぬゲーム世界へ行ってしまったのだ。成長は喜ばしくもあり、同時に、寂しくもあったのだろう。やがて世良は引きこもりからも脱却したし、独り立ちした背中を眺めるにつけ、世理子の中に母親としての愛情とは別の、すなわち、ゲーマーとしてのおとなげない対抗心が芽生え始めたのだとしても、桜子にはおおいに理解できる話であった。


「………」

「そう言えば、桜子さんには話しておこうと思うけど、」


 一朗は空になった茶碗を、テーブルの上にそっと置く。


「ゲーム内で特定のユーザーの行動を縛り付け、制限させるのは一種のマナー違反にあたる。VRゲームだからなおさらだよね。今回、皇帝がバジリスクを使ってキルシュヴァッサー卿とマツナガを石化させ、今後長時間放置することになるのであれば、運営からも警告がいく可能性がある」


 当然の話ではあった。桜子とマツナガは、ある程度は理解と同意をした上で石化されたのだとも言えるが、プレイヤー倫理上あまりまかり通っていい話でもない。皇帝が、そこを理解していないとも思えない。


「世理子さんが、見境なくプレイヤーを石化させていくとは思えないし、なんだかんだ言って内輪で楽しんでいる範疇だとは思うんだけど、運営としては外部から公正に判断しなければならない。いわゆる麻痺ハメなんかよりも、状況としては悪質だしね」


 一朗はさらに、過去《石化光線》持ちのモンスターをテイムして、同様の〝嫌がらせ〟を働いた事例が三件ほどあると話した。二件は警告を受けて石化を解除させたが、一件は従わなかった為最終的にアカウント停止の措置を取ったらしい。


「と、いうわけなので、キルシュヴァッサー卿やマツナガからのGMコールがなかったとしても、通例に従い3時間後には警告を発し、こちらに従う様子が見られなければ、その2時間後に世理子さんのアカウントを停止させる」

「でも一朗さま、もし、皇帝のアカウントが停止するようなことがあったら……」

「うん、まぁ、〝勝ち逃げ〟だね。キングは二度と皇帝には勝てない。皇帝は、あるいはそれも承知の上なのかもしれないし、逆にこちらが警告を送ったら、あっさりと二人を開放してくれるかもしれない」


 一朗の口調はのんびりとしたものだった。


「ただ、どのみちキングが正しい意味で皇帝にリベンジを果たすのならば、猶予はあと3時間しかない。それ以降は、運営の介入が入るから、勝負の純粋性は損なわれるわけだね」


 彼の言葉は残酷だ。一朗自身、キングキリヒトとの勝負を〝勝ち逃げ〟した人間である。彼も決して、そうしたかったわけではないだろうに、ルールを通す上では自分自身も突き放すのが石蕗一朗だった。当然、キングキリヒトに対しても同様の態度を取る。

 運営という立場に立っている以上、一朗は決して贔屓や肩入れをしない。キングキリヒトが勝つには、真正面から皇帝に挑むより他はないのだ。それも、残り3時間という短い間で。


 手伝うのは自分たちである。


「なんだか、どきどきしてきました」


 桜子は茶碗の上にこんもりと盛られた白米を、一気に喉へと掻き込んでいく。一朗はその様子をどこか満足げに眺めながら、こう言った。


「そんなに食欲があるなら大丈夫だよ」


 桜子は、ちょっと気まずそうに空のお茶碗を置いた。





-------------------info:マツナガさんが入室しました----------------------


ジュウシマツ>負け犬がきたか

ケロマツ>けろー

アカマツ>散々だったな

コノシマツ>見てたよ

マツタケ>おかえりまっちゃん

マツナガ>ただいま

マツナガ>晩飯買いにいってた

アカマツ>またマックか

マツナガ>ピザハットだけど

アカマツ>太るぞ

マツナガ>今更だな

ジュウシマツ>そんなことどうでもいい

ジュウシマツ>弁明をしろ弁明を

マツナガ>弁明と言ってもなぁ

マツナガ>みんなが見てたのが全部だよ

マツナガ>いや、今も見てるか

マツタケ>カラマツとイチマツが遺跡群に張ってる

アカマツ>キルシュ卿とリーダーの石像があるだけだな

アカマツ>皇帝もご飯食べにログアウトしたよ

マツナガ>ふーん

ケロマツ>皇帝ってリーダーの知り合いでしょ?

マツナガ>そうだよ

マツナガ>タケさんも含めてな

アカマツ>その皇帝の子供がキングっていうのもなー

ジュウシマツ>リーダーのストーカー疑惑

マツナガ>それは

マツナガ>マジでヘコんでるので

マツナガ>やめなさい

マツナガ>ピザうめぇ

アカマツ>リーダーが現実逃避を初めてしまった

ケロマツ>けろー

ジュウシマツ>それでどうすんの?

マツナガ>なにが?

ジュウシマツ>これからだよ

マツタケ>皇帝倒すんだろ?

マツナガ>キングがね

アカマツ>なんかあんの?

アカマツ>方法とか

マツナガ>皇帝の戦い方には欠点があって

マツナガ>まあそれにキングが気づいてるか次第だと思うんだけど

マツナガ>先に装備とか揃えるの手伝うのが先かなー

ジュウシマツ>今のキングは丸裸だからな

ジュウシマツ>裸のキング……

アカマツ>危険なアトモスフィアが漂うな

マツナガ>やめなさい

マツタケ>そう言えばアレはどうしたんだ

マツナガ>アレ?

マツタケ>事前に用意しといたzip

マツナガ>アイリスにあげたよ

マツタケ>あれ渡したのか……

ケロマツ>あれってなーに?

マツナガ>とても危険なものだ

マツナガ>アイリスならば使いこなせるだろう

ジュウシマツ>ロクでもないもんなんだな

マツナガ>まぁね

アカマツ>腹ごしらえが済んだらどうする?

マツナガ>再ログインしていろいろ動こう

マツナガ>キングと皇帝の戦いにできることはあまりないけど

マツナガ>ダークキリヒトの話もあるしね

マツタケ>決戦は近いな

マツナガ>そういうことだ

マツナガ>緊張したらまた腹が減ってきた

アカマツ>大丈夫か?

マツナガ>2枚頼んだから平気

アカマツ>それ平気じゃないよ





 杜若あいりがミライヴギアを外すと、そこは見慣れた自分の部屋ではなかった。豪勢な間取りに見たこともない調度品が、そこかしこに配置された、芙蓉邸の空き部屋である。来客の宿泊などに使う部屋だと聞いていたが、最近はもっぱら、遊びに来たあいりがナロファンにログインするための部屋と化していた。

 あいりの真横で寝転がっていたもうひとりも目を覚まし、大きく伸びをする。


「おはよう、ユーリ」

「おはよう、アイ」


 杜若あいり、茅ヶ崎由莉奈、そして芙蓉めぐみの、年の差が離れた友人関係もかれこれ半年近くになる。人の縁とは実に奇妙なものであった。


「なんだか大変なことになっちゃったね」

「そうねー。まぁ、あたしやユーリは割と蚊帳の外だったけどね」

「刺される心配がなかったから、むしろ蚊帳の内側だったのかもしれない」


 実に恐ろしいリアル暴露大会であった。あいりとてネットリテラシーにそこまで精通している自信はなかったが、学校の友人にゲーム内で〝邪神〟と呼ばれていることがバレたら、それはきっと相当気まずいに違いない。

 ともあれ夕食の時間だ。あいりと由莉奈が部屋を出ると、使用人の方々が恭しくお辞儀をしてくれた。高級ホテルに泊まっているようで、これはなかなか慣れない。芙蓉邸の食事は非常に豪華なものではあるのだが、お邪魔するたびにご馳走になるのは、これまた非常に恐縮なので、最近では芙蓉の部屋にコンビニパンなどを持ち寄って食べることも増えた。おかげさまで角紅商事のご令嬢は、最近ようやく庶民の味を理解しつつある。

 ただ、あまり放っておくと芙蓉パパこと芙蓉瑛惠氏が、愛猫を抱えたまま非常に寂しそうな顔をするので、デザートはご一緒させていただいたりもする。


「あいりさん! ご無事でしたのね!」


 芙蓉の部屋に入るなり、彼女はいきなりあいりに抱きついた。


「うん、まぁ、ぶっちゃけゲーム内でどんだけ痛めつけられても現実では傷ひとつつかないけどね?」


 芙蓉めぐみ渾身のサバ折りを食らっても、あいりの表情は涼しいものである。

 さて、これで何度目かになるかわからない、年の差のある女子会が開かれた。和気あいあいとした空気の中、当然、話はゲームの中のものへとシフトしていく。


「じゃあ、キングはリベンジする気なんだ」


 少し安心したように、由莉奈は言う。


「うん、けっこう平気な感じ」

「よかった。心って、一度折れると大変だからね」


 見てきたような含みがある口ぶりであった。

 キングキリヒトは皇帝へのリベンジを誓っており、また他のメンバーもそれに対しては非常に協力的である。ザ・キリヒツもウラギリヒト達に対しては非常に強い意欲を燃やしていて、騎士団は今回の一件に限り、サポートに動いてくれそうな気配があった。

 ただ、ゲーム内のトップギルド、トッププレイヤーが協力し合う状況であるにも関わらず、皇帝ワイアール・カイザーを必ずしも倒せると言い切れない不安は、常に付きまとっていた。


「まー、結局そこは、キングが戦うしかないところだから、あたし達がどうこう言っても仕方ないのよね」


 菓子パンをかじりながら、あいりが言い、そのまま彼女ははたと気づいたように膝を叩いた。


「どうしましたの?」

「そうだ、芙蓉さん。パソコン貸して?」

「構いませんけど……」


 あいりは一旦部屋を出たかと思うと、そのまま自分のミライヴギアを持って帰ってきた。ミライヴギアから小型のメモリーディスクを取り出して、芙蓉のデスクに腰掛ける。


「何か入ってますの?」

「マツナガさんからもらったzipファイル、移しといたの」


 ミライヴギアは、単なるVRドライブ用のゲームハードではない。インターネット接続もできるし、専用のアプリケーションもいくつか存在する。新しいメディアの一種と捉える向きもあるし、スマートフォンやパソコンなどとも同一形式のファイルを使用できる。ゲーム内で動画ファイルや画像ファイルのやり取りだってできるのだ。

 あいりの場合、ミライヴギアに解凍ツールをインストールしていないので、一旦ログアウトしてから、今回のようにパソコンで読み込まなければならないのだが。


「マツナガさんから?」

「いったい何かしら……?」

「皇帝の弱点かなんかだといいんだけどねー……」


 趣味のいいデザインのデスクトップが表示され、綺麗に整理されたアイコンの並びが芙蓉の性格と、ビジネス面での有能さを浮かび上がらせる。あいりが操作に迷っていると、彼女は後ろからそっとマウスを取って、外付けハードの中身を開いてくれた。中にある『dfogdbk』と書かれたzipファイルが、マツナガから手渡されたものだ。

 プロパティを見てみると、意外と容量が大きい。あいりは開いていいか芙蓉に尋ね、芙蓉が頷いたので、彼女は遠慮なくそのアイコンダブルクリックした。


 ずらり、と、


 ファイルが開かれて、中にアイコンが表示された。青い丸を中心に、赤と緑と黄色のラインで囲まれているアイコンに、あいりは見覚えがない。


「html……? 予想外なファイルですわね」

「芙蓉さん、グーグルクローム使ってるんですね」


 どうやら後ろの二人はわかっているらしい。


「あいりさん、その、index.htmlってファイルを開いてくださる?」

「これ? ほいっと」


 あいりがカチリと開くと、〝それ〟は開かれた。黒い背景に赤い文字、そして明朝体のフォントで綴られる文字。それを見たとき、芙蓉も、あいりも、ユーリも、これが果たして皇帝の秘密に繋がるものであるのか、とうてい理解はできなかった。それを知るには、彼女たちはあまりにも、インターネット文化の奥深さを知らなすぎたのである。

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