それでも私はやっていませんでした。
七話です。
短いです。
どうぞ・・・
俺達は目の前の女に剣を突き付けながら勝利を確信していた。
俺達三人は元々冒険者であり、俺自身もレベル20をほこる兵であると自負している。
そんな俺達が精々20歳ぐらいであろう娘に負けるはずがない。
しかも相手は丸腰なのだ。
俺達はこの後に訪れるであろう享楽の時を思い歓喜の笑みを浮かべていた。
そして、恐怖で凍り付いているであろう女の顔を覗き込み。
――――――俺は言葉を失った・・・。
その女は眉一つ動かさず、まるで人形の様な芸術的な美しさの顔を少しかしげながら、
心の深淵まで見透かすかの様な漆黒の瞳でこちらを覗き返していた。
―――ヤバイっ!こいつは何かが違う!
俺の元冒険者としての本能か、賊としての危機管理能力かは解らないが何かが警報を鳴らし、
子分二人に声をかけようとした瞬間・・・。
――――――フッ!
――――――ビュチュン!
目の前から女が消え、デブの居た辺りからなにやら気の抜けた音が聞こえてきた。
「おい、どうしt・・・」
俺は恐る恐るデブの方に目を向け問いかけようとし、あまりの光景に絶句してしまった。
デブのちょうど胸の辺りだろうか?そのあたりに蹴りを入れたままの体勢で止まっている女と、
蹴られたであろうデブが居た。
――――――――――下半身だけの・・・。
「・・・は?・・・へ?」
―――ブシュゥゥゥゥゥゥゥ!!!!! ――――――ベシャッ!
―――フッ!
―――ビシャッ!! ―――メキョ!
デブであった下半身から赤い何かが噴き上がり生暖かく俺を濡らしていく。
それと同時にデブの下半身は赤い水溜りに倒れ込んだ。
デブを吹き飛ばしたであろう女は赤い何か・・・『血』だ、血が噴出すと同時に又も視界から消えた。
「おい、ガリ気をつけr・・・・」
ガリ(ス○夫)の方に注意を呼びかけ様と振り向いたところガリの方もこっちを向いていたが・・・。
―――首が一回転していた。
「―――――ひぃ!!―――・・・おいおいおいおい!何なんだよぉ!!!!」
あまりの光景に俺は恐怖に囚われ恥も外聞もなく叫んだ。
「―――うるさいなぁ。賊なんてやってんだから負けることも織り込み済みでしょ?今更喚くなんてダサいよ・・・」
どこか静かで、美しく聞きほれてしまいそうな、しかし今の俺には恐怖しか与えない声が背後から聞こえた。
「・・・じゃ、サヨナラ」
―――ドチュ!!!
女の別れの声と共に響く不快な音。
恐る恐る視線を下げるとそこには・・・。
ゆっくりと引き抜かれていく女の手が、胸の中心を貫いていた。
確かに貫いている女の腕はどこか現実味が無く、俺は混乱する。
その理由は明らかだった。
女の手には人間一人を貫いているにもかかわらず、返り血の一滴もついていなかったのだ。
―――は?貫かれてる?この俺が?レベル20まで駆け上がり英雄候補生にまで選ばれた俺が!?
驚愕は理解へ、理解は痛みへと繋がっていく。
一瞬の想像を絶する痛みは声を出すことすら儘ならない。
あまりの出来事に混乱していた頭が急に活性化し、過去の情景が流れゆく様を見ている。
しかし、それも一瞬。次第に目の前が暗くなっていく。
自分でも助からないことが分かった俺は、女に顔を向けた。そこにはやはり・・・
―――美しく、芸術品の様な女の無表情があった。
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―――やっちまったなぁ。・・・コレが最強系主人公が最初に経験する『殺し』の罪悪感ってヤツか。結構来るものがあるなぁ・・・。だけど相手も覚悟を持ってやっている事だろうし仕方無いよな。
意外にも現代日本から来たはずのカーラだが『殺し』の罪悪感に苛まれてはいなかった。
「けどやっぱりチートだなこの身体」
最初はほんの少しビックリさせるために急に動いたのだが、SPD500はあまりにも早すぎた。
スピードを止めるために、デブの胸に軽く足を当てたのだが・・・
「まさかあんな事になるとは・・・」
後の二人も同じ様な感じだ。
ガリはスピードを止めようとし首を掴んだだけ、アニキと呼ばれた賊は軽く押しただけである。
「これ日常生活に支障出まくるんじゃないか?」
そんなことを呟きながらカーラは王都に向けて歩きだした。
この一時間後草原を抜け、無事王都にたどり着くカーラの姿があった。
お分かりいただけただろうか。
初戦闘です。
一応ですが、主人公が罪悪感に悩まされないのは裏の設定があります。
では次話もよろしくお願いします。
1/21 以外にも現代日本から→意外にも現代日本から に修正
ルミネルテ様 誤字報告ありがとうございました。