エルフとドワーフと四王と
日常パートを書くぞー!!
では、短いですがどうぞ
「な、なんだこれは……」
「……」
一人の男が宿屋の前で目を大きく見開きながらつぶやく。
身長が低く、しかし筋肉質な体に、濃いひげを蓄えたその姿は、どこからどう見ても、日本の創作小説などによく登場するドワーフそのものである。
彼の隣で、無言で宿を見つめる女性もまた、驚きに包まれていた。
こちらは、背が高く、美しい顔立ちをしており、耳が長く、輝く金髪から飛び出している。まさに「エルフとはこうだ」と言わんばかりの女性であった。
彼らが驚き、腰を抜かしそうになっているのには理由がある。
そう、目の前の宿屋、『竜帝の宿木』を見たからだ。
◇◆◇◆◇
大きく目を見開き、宿を眺める二人。
この二人、実は夫婦である。
ドワーフ族とエルフ族は信仰する精霊の違いや、外見の違い、暮らす環境の違いなどで、互いに相いれることはないというのが一般的な解釈であり、彼らの故郷、ミルクラン王国にあるそれぞれの里でも、必要最低限の交流しか行っていないし、それ自体は普通のことなのだが、この二人には通用しなかった。
ドワーフの彼『ワドフ・カイディン』はドワーフの里一番の鍛冶士であり、里で一番精霊の声を聴くことができる優秀な採掘作業者であった。また、里にいる若いドワーフの中では一番のイケメンであった。
エルフの彼女『ルフェ・エルフィンドルフ』も由緒正しいエルフィンドルフ家の出身で、歴代最高の魔術士であり、付与魔法という現在では廃れ、エルフィンドルフ家でしか継承されていない魔法の使い手として注目されていた。また、里でも有数の美女であった。
だが、彼らには、共通の欠点とも呼べるものが存在したのだ。
それが、『同族の異性に魅力を感じない……』と、いうこと。
どちらも最高の技術を持ち、同族から見れば魅力にあふれた容姿をしているので、求婚や見合いの申し込みが殺到していたが、欠点を持つ二人にはどうしても受け入れられず、彼らはそれぞれが里を出ることで事態の収束を図った。
また、ミルクラン王国内にいては、連れ戻そうとするものが現れ、落ち着いて暮らせないと考え、比較的近場であった隣国の『オークラン王国』に行ったのである。
なんの打ち合わせもしていないが、お互いが示し合わせたかのように、同じ村に到着。そして、同じ村で生活を始めたのである。
それほど大きくもない村であったため、互いに最高の技術を持つものとして顔を合わせることなどすぐにあり、二人は互いに一目惚れし、そのまま流れと勢いで結婚。
相性が良かったのか、結婚してからずいぶん経つが、今までに数度のケンカだけで、夫婦仲は非常に良好なのであった。現に、今でもラブラブで、隙あらば異空間『二人の世界《ラブ・ワールド》』に突入するので、周りの人からほほえましくみられている。
エルフ、ドワーフという人間よりも長命な種族であった彼らは、20年余りの時をかけ、オークラン王国にその人ありといわれる鍛冶工房を作りあげる。「オークラン王国で武器、防具といえばワドフのところへ」といわれるほどだといえばどれだけすごいのかわかるだろう。
近年、新しい鍛冶屋集団が現れ、素晴らしい出来の武器、防具を売り始めたが、それでもワドフの武具は人気を二分にするほどであった。
そんな彼らがなぜオークラン王国王都『クランクラン』にある宿、『竜帝の宿木』に来ているのかというと、最近、王都で流行り始めた様々な技術を見に来たからである。
武器や防具に特殊な効果を付与することで、様々な能力を発揮するという、コンセプトで作られた武器防具の数々は、王国にその人ありとうたわれた二人の耳にも飛び込んできた。と、いうより、最初に作り上げたのが彼らだろうとあたりを付けた冒険者たちが殺到したのだ。
しかし、ワドフたちには寝耳に水な話である。
それこそ、従来の付与魔法なんかでは到底なしえない効果を発揮する武器、防具である。
王都から離れて暮らしていた彼らにとっては、ふってわいたような話であり、荒唐無稽といっても過言ではないほどに現実離れした話だったのだ。
いきなりやってきて、『作ってほしい』と頼まれて、「そんなものは知らない、というよりそんなものできるのか?」と言えば、落胆したように帰っていく冒険者が続出。はっきりといえば、いきなりそんな話を持ってこられても……と、彼らでなくても思ってしまうだろう。
だが、彼らは、前向きに『ならば直接現物を確かめ、作れるものなら作ってやろう』と、数日をかけ、王都散策の計画を立てたのである。
現物さえ見ることができれば、最高の技術をもつ二人で瞬時に解析し、より良いものを作ることだって可能だと考えたのである。
まぁ、数日をかけて王都を回る計画なのは、結婚してから今まで働きづめであった彼らの、ちょっとした新婚旅行も兼ねているからなのだ。
当初の予定通り、王都についた彼らは、手始めに宿屋探しを開始、王都の事情に明るくないため、周りの人間に宿屋の話を聞いてみると、誰もがある宿の名前を告げる。
どの人間も、最高、素晴らしい、一度泊まるべきと、打ち合わせでもしていたかのように同じ言葉を発するので、それならばその宿に泊まってみようということになったのである。
しかし、困ったことに、数ある宿屋の中でも唯一、ギルドと連携していない宿らしく、直接赴かないと泊まれるかどうかは不明と言われ、仕方がなく空き部屋がないかの確認に来たのだ。予約制の宿らしいが、素泊まりの客のために数部屋、空き部屋を確保してくれているようだが、その部屋も人気が高いので、だいたいいつもすぐに部屋が埋まってしまうらしい。
人気が高いなら不自由なく泊まれるだろうとのことで、完全に噂の宿に泊まる気満々で宿に向かったのだった。
場所は、道行く人、誰に聞いてもわかるぐらいに有名であったので、迷うことなくたどり着いたのだが……。
宿を目にして最初に飛び出したのが、先ほどの言葉であった。
◇◆◇◆◇
ワドフは驚愕していた。
宿を求めてたどり着いた、王都で最も有名な宿『竜帝の宿木』。その威容を見たからである。
鍛冶士という職に就き、ドワーフという種族の特性を持って、様々な魔道具などにも触れてきたワドフだからこそわかる。いや、ドワーフやエルフなど、亜人と呼ばれる種族たちの中でも最も精霊に近く、魔力などに敏感なものならすぐに気が付いただろう。
正気に返ったワドフは隣に立つ妻を見る。
妻のルフェもエルフという種族なので、きっと宿の威容に気が付いているはずである。
ちらりとみれば、驚愕で目を見開いた妻の横顔。ワドフは、『やはり妻も驚いていたか……』と言葉に出さず思う。
だが、『しかし、驚いた顔も美しい。さすがルフェ。僕のかわいい天使。昨日作ってくれた夕食もおいしかったし、何より一緒に食べる夕食のおいしさと来たら、この世で最も幸せな時間だよ、ああ、ルフェ。僕のルフェ……』などと、関係ない思考に支配されていくのであった。
次に正気に戻ったのは、妻のエルフ、ルフェである。
彼女もまた、高名な付与魔導士という職と、エルフという種族の特性を持って、宿の持つ魔力に圧倒されていた。
彼女もまた、声をあげて驚いた夫の顔を見る。そこには、こちらに視線を送りながらニヨニヨするワドフの姿があった。
そんなだらしのない夫の顔をみた彼女。同族のエルフ男性が同じような顔をして自分を眺めていたときは、ものすごい剣幕で怒り、磨き上げられた技術でコテンパンに叩きのめし、男勝りなエルフとして見られていた彼女であるが、夫のニヨニヨ顔を見た彼女の反応は『ああ、ワドフ。笑顔も素敵よぉ』と、夫の行動に関してはとても寛大……いや、盲目なのである。
彼女はそのまま、ワドフと同じように、関係ない思考へと突き進んでいくのであった。
この二人、実に似たもの夫婦である。
そんな二人のやり取りは、宿前に立ち止まる二人を注意しようと出てきた宿の女将によって、強制的に『二人の世界《ラブ・ワールド》』が解かれるまで続いたのである。
ファンタジーなら出さなきゃいけないと勝手に考えている二大種族に出てきていただきました。
いやー王道ファンタジーっぽくなってきましたね。
よきかなよきかな。
それでは次話で。




