王都を目指しました。
六話目です。
どうぞ
広大な草原を一人歩く女性がいた。
褐色の肌、腰まで流れる白い長髪、輝く美貌、素晴らしいプロポーション、その全てが神が配置したのではないかと思われるほど絶妙のバランスで173cmという世界に納められている。
そんな女がたった一人で歩くにはこの世界は平和になりきれてはいなかった。
―――自分をねらう6つの目があることにも気づかず、カーラ・グライスは歩き続けていた。
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―――面倒だなぁ~。結構遠そうだぞ?王都まで・・・。
俺は内心愚痴たっぷりに一枚の紙を見ながら歩いていた。
王都から少し西に行った所にある『マルタイの草原』にいるはずなんだが未だに草原を抜けることが出来ない。
最高神と別れた後からまっすぐ東に歩いているのだがかれこれ2時間は経つ。
すでに太陽は真上を少し過ぎたあたりだ。
―――しかし持っていた紙が消えるとは神文明はやはりすごいな。
そうである。歩き出して少ししてから紙は溶けるように消えてしまったのである。―――今手元にある一枚の紙を残して。
果たして残った一枚は地図?であった。
見えるのは自分の目視がきく範囲のみで後は白紙。
自分の行ったことがある範囲しか表示されないなんともゲームなどでよく見かける手法の地図である。
唯一方角が分かるのは救いだったが・・・。
―――まぁこれもウシンの配慮ってヤツだろう。――――――それにしても、あの三人さっきからこそこそ何やってるんだ?二十分ぐらい同じ方向に歩いているから目的地は王都だと思うけど・・・。
カーラは気づいていた。
まぁ見晴らしの良い草原でこそこそ隠密行動が取れるはずもないが・・・。
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「アニキどうしやすか?」
「あんな良い女めったにいないんだナ」
「そうだな、別に生娘が求められてるわけでもないし、
俺達で楽しんでから貴族様に売りつけに行くか」
アニキと呼ばれた男はそういうと、汗や泥で汚れた顔を醜く歪ませた。
彼らは所謂賊である。
平和なこの世界にもバカ貴族は多数存在し、その権力をフル活用して女を力ずくで奪っていくなんてことを平気でやってのけるのだ。
そのバカ貴族から依頼を請け、多額の賃金と引き換えに女を連れてくるのが彼ら賊の仕事である。
彼らは元冒険者だった者達だ。
依頼に失敗し信頼を失ない、ギルドから除名処分を受けた所謂冒険者くずれ。
信頼を失った冒険者でもその身体能力は一般人を軽く超えるので、真っ当に生きようとすれば就職先など沢山存在するのだが・・・。
彼らは、あまり苦労せず多額の金をもらえる賊という仕事の魅力にはまってしまっていた。
女一人連れて行くだけで、平民が五年は余裕で遊んで暮らせる金が手に入るのだ・・・。まじめに働く気などなくなるだろう。
なので冒険者家業に失敗した者達が賊になるケースは意外と多い。
賊の中でもランク分けがあり、彼らは中々の高ランクの賊である。
貴族によっては幼女趣味であったり、生娘しか受け付けないなど変態趣味丸出しのやつらもいるが、
彼らはとりわけ美しければOKという貴族の依頼ばかりを引き受けていた。
目的はもちろん―――自分達も楽しむためである。
自分達も楽しめるのだから依頼にも力が入るのは当たり前だった。
今回もお得意様の貴族から依頼を受け、広大で王都守護の騎士隊からも逃げやすく、魔物も少ないマルタイの草原で獲物を探していたのである。
そんな彼らが草原を一人歩く美女、カーラに目をつけない筈がない。
彼らは逸る気持ちを抑え、カーラの前に飛び出した。
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「こんなところでどうしたんだい?お嬢さん?」
男共がニヤニヤいやらしい笑みを浮かべながら話しかけてきた。
―――いや、お前ら結構前から見てたよな?あれか賊ってヤツか?―――ウシンの野郎~!平和な世界って言ってたじゃねーか!!第一異世界人が賊ってどこが平和な世界だよ!!!
「おいおいおい、アニキが問いかけてんだ何とか言ったらどうなんだい?」
「そうなんだナ。何とか言ったらどうなんだナ」
俺がウシンに対して愚痴をこぼしていると、いかにも○ネ夫といったガリ男とおにぎりが大好きそうなデブが話しだした。
「今、王都に向かっているんですが道はこっちであってますかね?」
とりあえず問いかけてみた。
「ああ、あってるぜ」
やっぱりニヤニヤした表情で男がつぶやいた。
「そうですか。ありがとうございます。――――――それでは。」
特に用事もないし、あまり付き合いたい人種ではないので、
男達の横をすり抜けようとした。
しかし・・・。
――――――ガッ!!
「おいおい、まてよ。ただで通ろうってのか?」
「そうだぜ、通行料出せよ通行料!」
「だナ」
急に肩を摑まれ強制的に男共の方を向かせられた。
―――やっぱり無理か・・・。でも金は持ってないしな。金貨一枚で足りるのかな?
幸い実物としてウシンに貰っていた金貨がある。
金貨の価値は未だ分かっていないので不安だが何とかなるか?と半ば祈るような気持ちで問いかけた。
「―――・・・あ~金貨一枚しかないですけど足りますかね?」
「足りるわけねーだろ!アニキは最低でも金貨三枚は必要だとおっしゃているぞ」
「だナ」
ダメだった・・・。
―――面度くさいなぁ~。ぶっ飛ばしてやろうか?――――――いやダメだ・・・。今の俺はか弱い乙女なんだ。とりあえず何となく言ってきそうな事は分かるが・・・。
「三枚!?そんなに持ってない!?」
驚いたような声で言ってみた。中々名演技だと思う。主演女優賞はいただきだ♪
悲しいかな【悪魔の微笑み】のせいでクスリとも笑うことが出来ないが。
てか微妙な表情の変化しかさせられなくなっている気がする・・・。
コレもスキルの副作用か?
「へっへっへっ、じゃあしかたねーな。―――カラダで払ってもらおうか」
コレまでで最大級にいやらしい笑顔で男は、
テンプレで想像の域を超えない、ありきたりで何のひねりもない、小者臭がプンプン臭うセリフを吐き捨てた。
―――ここまで想像通りのセリフだと逆に哀れみを覚えるな・・・。まぁ払う気もないし。
「―――・・・え?いやですよそんなこと。というか小者臭いですよ発言が。そこまで小者臭いと逆に哀れになりますね・・・。大物の発言を学んできたらどうですか?」
とりあえず言ってみました。
すると目の前の男達の顔が見る見る真っ赤になっていき・・・。
「てめぇ優しく言ってやりゃ図に乗りやがって!!!犯してヒィヒィ言わせてやるからな!!!」
そう叫ぶと男は腰に差していた剣を抜き放った。
―――ウシンよ、はじめてであった異世界人がいきなり敵になりました。全然平和じゃねーよこの世界!
異世界初の戦闘はどうやら魔物ではなく対賊になりそうです。
お分かりいただけただろうか。
軽く挑発してみました。
次話初戦闘か?
1/18 修正 美少女→美女 meecom様ご指摘ありがとうございました。
1/21 修正 面度だなぁ~→面倒だなぁ~ ルミネルテ様ありがとうございました。