表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
チートだけど宿屋はじめました。  作者: nyonnyon
第六章:宿激闘編
53/61

女神なんて言わせない!! その4

続きです。

どうぞ。

「今日も一日がんばりましょう」と、従業員が増えてからお決まりになりつつある、朝の挨拶を済ませ、宿泊客の朝食もひと段落つき始め、そろそろ掃除でも、と思った矢先にそれはやってきた。


 最近、宿の拡張により、見直され、少し大きい道と言っていいほどであった宿屋の前の道が整備――裏通りほど薄暗くないことで、調査されにくく、はびこっていた、宿の周りにあった犯罪組織のアジトを王都健全化の名のもとに、カイルとカーラにより壊滅させたことで、空き家が増えたので取り壊しは楽であった――されていき、大通り一歩手前ぐらいの大きさまで広がった宿前の道。

 その道、いっぱいいっぱいになるんじゃないかと思えるほどの巨大な、見るからにまぶしい、きらきらてかてかしている派手派手しい馬車と、「ちょっと体格のいい人が乗れば車軸が折れんじゃね?」と、思わず言ってしまいたくなるほどのボロ馬車が、二台連れ立ってやってきたのである。


 どこかで見たことのある、シンボルマークと、見覚えのあるレリーフを掲げたその馬車は、多数の野次馬を引き連れて、宿屋前の道に停車した。


『何事か!?』と、従業員全員が店の外に出たとき、派手派手な馬車から、これまた派手派手な衣装の男が降りてきた。

 派手馬車から降りてきた派手男は、そのままボロ馬車へと進み、ボロ馬車の扉をもったいぶった動きで開いていく。

 まるで、舞台演劇。 観客に見せつけるかのように開かれていく扉。

 完全に扉が開き切ったのを見計らったタイミングで、派手男は一歩後ろに下がり、恭しく頭を垂れた。


 その瞬間、野次馬たちのざわめきが、少し活気を帯び始めた街に広がっていく。

 そう、みんな気が付いたのである。 馬車の人物がだれであるかを。


 説法に訪れ、よく見かける教会のトップである大神官が頭を垂れなければいけない人物を。



 緊張感が高まってゆく。 当り前であろう、普段は見ることのできない教会のもう一つのトップが今、目の前に現れようというのだ。

 宿の前に出てきた四人の女性たちにも緊張の色が見える。

 開いた馬車の扉から、スッと出てくる一人の女性。 そう、【女神の巫女】『パメラ』である。

 彼女の動きは、一つ一つの動作が精練され、よく鍛えられた、優雅さを醸し出している。 元々はただの市井の人間であったパメラにこれほど精練された動きを行わせられるようになるとは、教会が誇るしつけ担当はよほどのやり手であろう。


『ぜひ、うちの店にそのしつけ担当の人間をかしてもらえないだろうか?』などと、どうでもいいことを考えながら、馬車から降り、こちらを少し戸惑った様子で眺めるパメラを見、パメラの横に恭しく頭を垂れたまま、控えきれないその巨体で一生懸命に控えている男を見、いきなり現れたパメラに驚く従業員たちと街の人々の反応を見て、カーラは今となっては懐かしい、現代日本で読んでいた物語の一場面を思い出し、ため息とともにつぶやいた。


「はぁ、なんだか、よくある展開がきたみたいね……。 すごく今更感があるのだけれど……」と。



◇◆◇◆◇



 馬車から降りたパメラは困惑していた。


 【女神の宿】などという、とてつもない不敬な名称を自身の宿に名づけ、悪徳の限りをつくし、財を蓄えている経営者がいると聞き、勢い勇んで王都までやってきた。 宿の外観はお世辞にも新しいとは言えず、どう考えても人が押し寄せるような宿には見えなかった。

「やはりこれは、【女神の宿】などと誇称することにより、集客を狙ったのだ」と、いう風にしか見えず、パメラは一層気合を入れて、宿へ向かう。

 しかし、問題の宿に到着して最初に出てきたのは、見目麗しい4人の女性であった。

 自身も、どことなく女神に似た風貌だといわれ、美しい側にはいるパメラ、自身の容姿が整っていることはわかっていたし、ことさら謙遜するつもりもないパメラであったが、彼女をもってしても美しいと認めざるを得ない見目麗しい女性たち。

 どう見ても悪徳の限りを尽くすような者たちには見えず、少しばかり、パメラの中の正義が揺らぐ。


 馬車を降りたまではいいが、そこからどうすることもできず、戸惑っていると、4人の女性の中で、最も容姿の整っている女性が一歩前に出て、

 「いらっしゃいませ。 こちらは、『竜帝の宿木』です。 申し訳ありません。 お泊りですと、ご予約をいただかなければいけないのですが……」

 そう告げた。

 あくまで、客に対するそれであり、こちらを敬うような態度の一片たりともとってはいないが、目の前の女性がとても良い人物なのだと、なぜかパメラには思えた。


 パメラの中にあった正義の炎が少しずつ鎮火していき、どうしていいかわからないといった様子で、大神官をちらりと見る。 大神官は、パメラがまだ一介の村娘であったころから何かと世話を焼いてくれており、パメラが女神の巫女となった今でも、最大限に信頼を寄せている男である。

 その大神官を、『話と違うではないか』といった感情を乗せて見つめるパメラ。 そんな彼女の視線を受けても大神官は揺らぐことなくそこにいた。

 パメラの視線に気が付いているはずの大神官は、まったく気が付かないといった様子で、恭しく頭を下げたままである。


 十分たっぷりと時間を使い、自身への視線が集まったころを見計らって、大神官はゆっくりと動き始める。 そう、戸惑いの視線を向けるパメラに一つうなずきを返し、近寄り、耳元に何かをささやく。


 大神官が何かをささやくたびに、みるみる表情が険しくなっていくパメラ。

 彼女の中の正義の炎が再燃した瞬間であった。


 バッと顔を上げ、鋭くカーラを睨むパメラ。 カーラにとってみればいきなりのことで何が何だかわからなかったが、いつまでも宿前の通りを占拠されていても宿に来るお客様たちに迷惑だろうと思い、相手の出方を待つことにしてみた。


「ここが、【女神の宿】という不敬な名称で運営されていることは調べがついている!! 恐れ多くも女神様の名を騙るだけには飽き足らず、それで莫大な利益を上げているそうだな!! 清貧を重んじる教会の巫女として、貴様たちを許すわけにはいかない!! そこになおれ!!」

 一息に口上を述べるパメラ。

 当然のことながら、カーラには何のことかさっぱりで、従業員も野次馬も、皆、困惑顔である。


 そこで、こんな展開になったらまずこちらの言は聞いてもらえないだろうと考えながらも、カーラは一応、反論を試みた。


「なんのことだかわかりかねます。 そもそも、ここは『竜帝の宿木』だと先ほども申し上げました。 女神の宿などと誇称した覚えはありませんし、そもそも、莫大な利益を上げるような商売をしておりません」


 まったくもって妥当な返答と言えるだろう。

 そして、カーラの言葉も本当である。 宿としては安すぎる料金設定。 従業員たちも『どうやって経営を続けているんだ?』と首をひねりたくなるほどのぎりぎり、何なら、提供している料理の食材のほうが高価で、つり合いが取れていない、所謂、赤字経営といっても過言ではないのだから。

 そんなこんなで、パメラの言葉は、宿の料金を知っている従業員をはじめ、野次馬に来ていた町民たちも皆が頭に疑問符を浮かべることとなったのだ。

 カーラの妥当すぎる反論の言葉、その言葉を聞いても、パメラの中の正義の炎は一ミリたりとも揺らぐことはなかった。


「ほう。 この期に及んでまだしらを切るというのか……」


 パメラの声はトーンが一段下がり、強烈な神気に包まれていた。

 並みの魔物なら言葉の圧力のみで消し飛ばしてしまえるレベルである。

 現に、野次馬の中には、神気に中てられて気絶するものもでた。 真正面から神気を浴びたわけでもないのにである。 どれほど強烈な気が込められているかは察していただけるだろう。


 まあ、まったくもって何がこの期に及んだのか、パメラの言葉はよくわからないが……。


 まったく意味が分からない怒りの矛先を向けられて、さすがにカーラも少々気分がよくない。 すぐさまブッ飛ばしてやろうかと物騒なことを考えてしまったが、思い直し、今一度、ちゃんと話し合わなければと、気持ちを切り替える。


 しかし、カーラが何かを言うよりも早く、パメラは動いた。


 すっと手を挙げ、カーラに向け、


「もうよい。 今日は極悪と認定されたこの宿に【神罰】を与えに来たのだ」


 そう、言い放ったのだ。

更新が安定せず申し訳ありません。


誤字脱字等ありましたら、お教えいただければと思います。


ではまた次話で。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ