女神なんて言わせない!! その3
【女神の巫女】、『パメラ』を乗せた馬車を後方から追いかける形で、【大神官】、『ブッチャー・ブデオ』が乗る馬車も街道を進んでいた。
その馬車は、簡単に説明すると、『派手ででかい』。
とても清貧を重んじる教会の大神官が乗るとは思えない大きさと派手派手しさである。
馬が六頭立てで引く、人が8人ぐらい余裕で乗れてしまいそうなほどの巨体であり、随所に金、銀、その他、宝石類がちりばめられ、さらには、『七色に光る石』と呼ばれる、角度によって見える色の違う不思議な鉱石を砕いたものを塗布してあるので、太陽光を反射し、目が痛くなるほどキラッキラしているのである。
申し訳程度に、教会のシンボルマークと、女神のレリーフだけは確認できるが、それがなければ、『どこの成金野郎だ、こんな馬車を作るのは?』と思わずツッコんでしまいたくなるような装いであった。
ごとごとと大きな音を立てながら街道を走るその馬車は圧巻の一言で、周囲に無駄な威圧感のみを放ちながら駆け抜けていく。
女神の巫女である、パメラが乗る馬車が、街道を行く際、ほんの小さな石に躓いただけで、ガタガタと大きく揺れるのに対し、大神官の乗る馬車は、投げれば十分凶器になりえるほどの石に乗り上げてもビクともしない。 車内のテーブルに置かれた、最高級のワインが、一切こぼれることなく同じ場所に存在することから、この馬車がどれだけ安定しているかがうかがい知れるというものであろう。
それもそのはず。 大神官が乗る馬車には、車内をいかに快適にできるかの工夫がなされ、現在、世界で発見されている最先端の技術が惜しげもなく使われているのである。 その中には、なんとあの、名工『ララ・カイグース』作の最新技術も含まれているのだから、どれほどの金をつぎ込んで作られたのか見当すらつかない。
そんな馬車の車内。 一目で高級とわかる、毛並の整ったやわらかそうなソファに腰かける一人の男。 清貧を重んじる教会の大神官という立場にあるその男は、とても清貧という言葉が当てはまらない様な外見をしていた。
まさに、”肉”というほか言葉が思いつかない。 どれだけ有名な賢者であっても、世界中のありとあらゆる言語を話せる能力者であっても、彼を表す言葉を発したら確実に、”肉”と言うだろう。
もう、肉にしか見えない。 むしろ肉のほうがこの男に似せに言っているのではないかと思い始めるほど肉であった。
この、『どう見ても肉!!』という容姿を持った男。 彼こそが世界最大にして唯一の宗教『クラン教』の実質トップ、【大神官】の地位に就く、『ブッチャー・ブデオ』である。
なぜか全裸でソファに腰かけるブッチャー。 お腹の肉はもはや膝の先まであふれ、さながらナイアガラの滝のように流れ落ちている。 威厳などまるでない、だらしのない肉体を惜しげもなくさらすブッチャー。 彼の乗る馬車の内部は、異様な熱気が渦巻き、何とも言えない獣くささを放っていた。
そんなブッチャーの足元。 そこには二人の女性が、これまた裸でひざまづき、ブッチャーを見上げていた。
(クックックッ、もうすぐだ。 もうすぐお前をこいつらと同じように……)
いやらしい視線を、どことなく誰かに似た雰囲気をもつ二人の女性に向けるブデオ。 その思考は、これから先の未来のことに飛んでいく。
ひとしきりブッチャーが脳内飛行を楽しんだ後、妄想にてため込んだあふれる思いをぶつけるために、二人の女性にゆっくりと手を伸ばす。
ブッチャーから伸びてくる手を見つめても特に感情を移さない無表情の二人の女性。
その瞳は、どこか焦点の合わないうつろなものであった。
◇◆◇◆◇
王都は、相も変わらず平和であった。
四日の休みローテーションが回ってきたカーラは、王都の市場にやってきていた。
本日は、最近まったくできていなかった調味料探しなどを再開させようと思ったからである。
さすがにウシンが作った世界だけはあり、地球上で食べられるものはすべからく存在する。
異世界特有の食材なども存在するが、地球産と同じ野菜などがあるのは、カーラにとって親しみやすいものであった。
しかし、すべての食材がすぐに見つかったわけではない。 栽培が盛んではない野菜は、手に入りにくいし、高い。 その上、食料として認知されていない食材も多くある。 ライスに至っては、家畜の餌であったほどである。
また、ややこしい見た目のものも多数存在し、レモンとそっくりな形の植物を食べたら(もちろん皮をむいて、実だけだ)、味はマグロだったなんてこともある。 あふれ出る果汁などの食感は、完全にレモンのそれであるくせに、味はマグロ。 口腔内に広がるマグロ汁。 地面にたたきつけて存在を消滅させてやろうかと思ったほどであった。
そんなこんなで、情報求め市場にやってきたカーラ。 仲の良い市場の商人連中と軽く会話をしながら、市場の中を散策する。
が、今回ははずれで、特にめぼしい食材を見つけることはできなかった。
ちょっと落胆しつつも、何点かの食材を買い、宿へ戻ろうとするカーラの前に、何とも形容しがたい光景が広がっていた。
◇◆◇◆◇
---とある市場の通り。
「おうおうおうおう、嬢ちゃん、人にぶつかっておいて、黙っていこうなんて虫が良すぎるんじゃねえかい?」
そういって、女性の腕をつかむ一人の男。
つかまれた女性は、いきなりのことに驚き、悲鳴を上げる。
「いやー、やめて、放して。 だれか、だれかたすけて……」
必死に助けを求めるその女性。
その光景を見ながら、カーラはため息をついた。
はぁ、何をやっているのかしら……。
カーラのため息にはあきれにも似た感情がありありと浮かんでいる。
一歩踏み出し、その愚行を止めようとした矢先、
「まてぇい!! そこの貴様!! か弱き乙女に手を挙げるとは、どういう了見か!!」
どこからともなく、そんな言葉が聞こえてきた。
「だ、誰でい!!」
あわてる男。
その男の目の前に、『とう!』と一声上げて、一人の男性が飛び込んできた。
その男を見た瞬間、カーラはため息を深くした。
◇◆◇◆◇
そこからはあれよあれよという間の出来事であった。
飛び込んできた男によって楽しみを奪われた、女をつかんでいた男は逆上。 飛び込んできた男に躍り掛かるも、飛び込んできた男は素早く身をかわし、撃退。 捨て台詞を吐き捨て逃げていく暴漢。 飛び込んできた男は、襲われていた女性に振り返り、『もう大丈夫』と一言。 襲われていた女性も『助けてくださりありがとうございました』と一礼し、少し早足で帰って行った。 家族でも待たせているのだろう。
と、いう、一連の流れを見た後に、カーラは飛び込んできた男に声をかけた。
「それで? これはいったいどういうことかしら?
……カイル?」
「おお、カーラではないか。 いや、なに。 少し視察で市場を訪れてみれば、なにやら暴漢に襲われる女性がいるではないか。 助けなければ王の名折れだろう?」
「ええ、そうね。 暴漢(城の兵士)に襲われる女性(城のメイド)を助けるのはなかなかいい話ではあったわ。 棒読みの大根役者でなければもう少し見応えはあったでしょうね」
ゴゴゴッ!! っとカーラから放たれる威圧感。
さすがの国王もこれにはタジタジである。
「え、いや、あれ? おかしいな。 たしか、こうすれば、
『キャー、カイルステキー』、
『ふ、当たり前じゃないか、国民を守るのは王である俺の務めさ。 でもな、俺が本当に守りたいのはお前だけだよ』、
『ウレシー、カイル、ダイテー』ってなるはずなのに!?」
その言葉を発した瞬間、周りに満ちる威圧感は何倍も重くなった。
「ふふふ、そんな茶番のために、お城の皆さんにまでご迷惑をおかけしたというのね……、カイル、わかっているわね」
「う、うぴゃぁぁぁぁぁぁ!!!!」
いつもお昼に王城から出かけるカイル王。
この日から、一週間ほど、王城から出かける姿を見たものはいなかった……。
王都は今日も平和であった。
カイル……。 おばかさんすぎる……。
誤字脱字は、お許しください。
ご指摘あれば直します。
では、次話で。
快適にできるかの苦悩→快適にできるかの工夫に修正
きつねこ様ご指摘ありがとうございます。
 




