女神なんて言わせない!! その2
気が付けばチー宿も50話を突破しておりました。
ありがとうございます。
聖都『クラン・ド・ミャコヒージリ』は今から数百年前まで、小さな町であった。
特に有名な特産物などもなく、世界的に有名な偉人を排出したわけでもない、どこにでもある長閑な村よりは少し発展した町だった。
そんな田舎とまではいかない町が”聖都”などと呼ばれるようになったのにはわけがある。 あるとき、町の教会で働く一人の娘の前に、唯一神『クラン』が降臨し、加護を与えたのだ。 クラン神が何を思い、何を基に小さな町のただの少女に加護を与えたのかは、一切の研究がなされていないのでわからないが、この出来事が、どこにでもある小さな町が聖都と呼ばれるようになる始まりである。
世界中の人々、約九割の人間が信仰するクラン教。 しかも、小さいとは言え、正式に司祭の派遣されていた教会での出来事であったので、その少女は女神の巫女として、一気にクラン教のトップとなった。
最初は、時の大神官などがいぶかしみ、異端審問なども行われたと記録に残っているが、異端審問の最中にクラン神が降臨し、『我が加護を与えし巫女を異端呼ばわりとは、さぞかし格上の神の加護があるのでしょうね』などと直接頭に響く声にて言われれば、誰もその少女を異端呼ばわりすることなどできなくなったと記されている。
巫女の役目は様々あるが、一番の役目はクラン神との交信だろう。
少女に加護が与えられた教会にクラン神が降臨するのは四年に一度、年の始まりの日である。 降臨したクラン神に巫女は、各地で起こる災害や政変などの様々な情報を報告する。 その報告が終了すると同時に、巫女には人には有り余る巨大な加護の力が与えられる。
巨大な加護の力が巫女に与えられることには諸説あるが、一番の理由としては世界に無用な争いを起こさせないためではないかと言われている。
宗教と言うものは、どうしても軋轢を生んでしまう。
神を信じるものと、神を悪用するものが生まれるのは、神の加護などが目に見えないからである。
クラン神は加護をめぐる人同士の争いを嫌い、目に見える加護を巫女を通して世界に与えることで、世界の平穏を保っているのではないかと考えられている。
巫女とはクラン神の代役であり、唯一、クラン神と言葉を交わせる存在なのだ。
そんな巫女であるが、別段、人というくくりから外れることはない。
生まれ、生き、そして死ぬ。 巫女だから一生を処女でいなければならないということもない。 巫女の中には、結婚、出産まで経験していた妙齢の女性が選ばれたという記録まで残っている。
巫女がその天寿をまっとうする際、次代の巫女を選出する【選定の儀】が執り行われ、巫女に選ばれたものにだけ、先代の巫女から、巫女としての知識が受け継がれる。 新たな巫女に知識が受け継がれると同時に、先代の巫女はクラン神の元へと旅立つのだ。
もし、【選定の儀】より先に、巫女が事故死などをしたらどうするのかと思われる方もいるかもしれないが、クラン神からの加護の力のおかげか、巫女は”寿命以外で死ぬことはない”ので安心してほしい。
この、【選定の儀】が執り行われるのも、少女に加護が与えられた教会である。
神の降臨と巫女の選定の儀が行われる教会として、”聖教会”と誇称されることになった町の教会。 町そのものも聖地と呼ばれるようになり、世界各地のクラン教信者が殺到し、急速にその規模を拡大、ついには都市となったのである。
しかし、この都市は決して、必要以上に巨大になることはない。
人が増えたことにより、聖地が穢れると考えた教会幹部たちが巫女に直訴。 巫女を通じ、クラン神よりお告げとして、一定以上の人間が住めないようになっている。
そういった経緯をたどり、誕生したのが、ここ、聖都『クラン・ド・ミャコヒージリ』である。
クラン神が降臨する聖地として各国に知られている聖都だが、その場所も神の奇跡と呼ばれる位置にある。
それは、三大国の中心。 三大国、『オークラン王国』、『エルクラン帝国』、『ミルクラン王国』のそれぞれの首都から直線距離にしてちょうど同じ距離に存在するのである。
偶然か、必然か、それもすべてクラン神のお導きとされ、今日まで続く、神の奇跡の一つとして語られている。
そんな、聖都『クラン・ド・ミャコヒージリ』を出発する二台の馬車の姿があった。
◇◆◇◆◇
二台の馬車は周りに数名の騎士による護衛をつけながら、街道を南西に進んでいく。
先を行く馬車には、今代の【女神の巫女】こと、『パメラ・シュラインメイデン』とお付の侍女が数名、後方からついていく馬車には、【大神官】こと『ブッチャー・ブデオ』がその他数名と乗っていた。
世界最大の宗教、クラン教のツートップ(教のトップは巫女であるが、表立って行動しないので、実質のトップは大神官とも言われている)である二人がこうして馬車で聖都を出発したのにはわけがある。
最近、オークラン王国の王都『クランクラン』において、『女神の宿』などと誇称する宿屋が現れ、その絶大な宣伝効果から莫大な富を築いているというのだ。
その報告を受けた女神の巫女、パメラは激怒した。
清貧を重んじる教会の最高責任者として、これまでも質素に生活を続けてきたパメラにとって見れば、神の名を騙り、財を築く行為は到底許されるものではなかった。
こういった、神の名を騙る事件が今までなかったとは言わないが、そのすべてが、発覚し、各代の巫女により【神罰】の名のもとに屠られてきたのである。
特に今回の件は大きく、大神官の話によれば、『どう見てもさびれた宿なのに、女神の宿と誇称することで莫大な富を築いている』とのことである。
あの、いつもニコニコと優しく、怒ったところなど見たこともなかった大神官が、誰にでも気さくで、皆からの支持を受け、若くして大神官の座に上り詰めたあの男が、いつも民衆のことを一番に考え、常に世の中をよりよく導こうと心を砕いているあの大神官が、あまりの怒りに、顔を伏せ、声を震わせるほどの出来事である。 まさに、今代最大の悪党であることは間違いなかった。
確かに、簡単に【神罰】を行うことは神の名を騙る行為と同等に褒められたことではない。 しかし、今回は話の規模が違う。 今までの数人を巻き込んだだけの出来事とは違い、調査すれば世界各地で影響を与えるほどに大きな問題だということがわかったのである。
自ら、【神罰】の発動を宣言したことは、パメラにとってみれば当たり前のことであった。
(神を騙る愚か者に、必ず、【神罰】を!!)
移動するたびにガタゴトと揺れ、お世辞にも座り心地のいいとは言えない質素な馬車の中、固く決意を結ぶパメラの瞳は正義に燃えていた。
こんなところで新しい重要なポジションっぽい場所や地名が出てきてしまいました。
もっと早く登場しないといけないだろ……聖都。(笑)
なんだか説明くさい話になってしまいました。
ほんとはもう少し長くする予定だったのですが、きりがいいのでぶった切ってます。
では、また次話で。




